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絶望から救った彼女たちに甘やかされても、Nレアギフトじゃ異世界そんなに甘くない!  作者: 水華奈
本編

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3話_転生したらスライムに「分からせ」られた件


 転生してから、早くも三年が経った。

 この世界の言葉は、前世の五年以上かけた学校の英語学習と異なり、すんなりと脳に染み込んできた。

 その言語を使わないと生活できない環境に身を置くことが大事だと、今更ながら身をもって知った。


 また、未知の言語を理解したことで、俺は両親やこの村の状況を詳しく知ることができた。

 

 父親はガルド。俺を抱き上げる彼の腕は、いつも乾燥した薪のような硬い質感をしていて、農作業の過酷さを物語っていた。

 母親はミーナ。彼女の少し荒れた指先からは常にパン生地と、乾いた干し草が混ざったような生活の香りがした。その無骨な手のひらとは裏腹に、彼女は村の中でも際立つほどの美貌の持ち主だった。


 二人とも外に遊びに出かける俺にかける言葉は決まって「村の外に出ないこと。夕暮れまでには帰ってくること」だった。

 危険といえば森に迷い込むことくらいしかないほど、この辺境の村は平和そのものだったのだ。


 一方で、俺は「手のかからない息子」を演じながら、その裏で着々と準備を進めていた。

 来るべき外の世界の脅威に備え、赤ん坊の時から『濾過(ろか)』の検証と、地道な基礎体力の向上に全てを捧げてきた。


 ちなみに、『濾過(ろか)』の検証はとうの昔に済ませてある。

 賢明な方ならすでにお気づきかもしれないが、例えば、相手に触れて『濾過(ろか)』を使い、血液から酸素を取り除けばどうなるか。そう、このN(ノーマル)レアのハズレギフトは、現代の知識と組み合わせることで異世界最強の暗殺者へと至るのだ……。





 そう考えていた時期が俺にもありました。


 現実は非情である。

 捕まえた(ディナー)の体を掴み、体内の血液や水分を抜くイメージで試してみたが、期待を裏切るように一切発動しなかった。


 どうやら、『濾過(ろか)』するそのものに直接触れていなければ干渉できないという物理的な制約があるらしい。

 (ディナー)の羽や皮膚に触れているだけでは、何もできなかった。


 背後から敵の肩にポンと触れ、ニヤリと笑う間に全身の血液を抜き去ってミイラ化させたり、血液中の鉄分をなくして、ボスを酸素欠乏症に追い込むような、そんな『異世界最強の即死チート』なんて都合のいい代物ではなかった。

 俺の願いを無慈悲に粉砕する、N(ノーマル)レアの残酷な仕様に涙が止まらない。



 結局、俺は木の棒を振り回したり、走ったりして基礎体力を底上げする。そんなことしかできなかった。

 だが、どれほど焦りを抱こうと、すぐにこちらも残酷な現実が立ちはだかることになった。


 ひ弱で未発達な三歳児に、トレーニングをどれだけ積んだところで、どう足掻いても生物学的な絶対の壁を越えることはできない。

 俺は早々に、限界を感じていた。



 ある日の夕食、俺は父ガルドに聞いてみる。



「村の外の森には何がいるの?」


「村の外の森か?スライムだな。大人なら余裕で倒せるが、子供くらいならペロリと食べてしまうんだ、だから村の外に行ってはいけないぞ」


「お父さんの言う通りよ。もし言いつけを破って森に入ったら……おやつ抜きじゃ済まないからね? 絶対に約束よ?」



 母ミーナも、少し厳しい顔でしっかりと念を押してくる。



「怖いよ……分かった、村の外には行かない!」



 俺は、口ではそう怯えてみせながら、内心では鼻で笑っていた。

 RPGでお馴染みのあのスライムだ。木の棒でペチペチ叩けば経験値になるだけのレベリング用ゆるキャラモンスター。

 スライムなど俺の敵ではないわ!


 翌日、誰にもばれないよう慎重に村を抜け出し、森を探索してみることにした。

 

 普通の森だなあ。そう思っていた矢先。

 茂みが揺れ、青いゼリー状の魔物が現れる。

 

 そう、スライムだ。野生のスライムがあらわれた。

 初めて見る異世界の魔物に興奮していた俺は、さっそく、持っていた木の棒を思い切りスライムに叩きつけた。


 だが、渾身の力を込めた一撃は、ゴムボールを叩いたかのような鈍い反発を生んだ。

 ネバネバしたゼリー状の表面は木の棒を容易く受け止め、ポヨン、と馬鹿にしたような音とともに俺の腕ごと弾き返してきた。物理的な打撃が、完全に吸収されている。


 それどころか、反撃とばかりにスライムがビチャッと飛びかかってきた。



「うわっ!?」



 大したスピードではなかったが、三歳の軽い体はあっさりと押し倒されてしまう。

 ドスンと尻餅をつき、スライムの冷たい粘液がのしかかってきた。

 

 まるで冷え切った泥の塊に全身を覆われるような、生物としての根源的な恐怖。

 顔を覆われれば確実に呼吸を奪われるという窒息の予感が、俺の脳をパニックに陥れた。


 俺は半狂乱で手足をバタつかせてスライムを何とか引きはがし、命からがら森から逃げ出した。

 泥と涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらの、無様すぎる敗走だった。


 ……最弱の魔物にすら手も足も出ない。

 自分がスライムに蹂躙される哀れな村人になるとは夢にも思わなかった。

 まさかあいつ、チート能力持ちだったんじゃないだろうな?


 スライムにすら勝てない俺がどうやって生きていく……。

 俺は薄暗い自室の隅で膝を抱え、絶望した。あまりの無力さに、絶望した。




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どうぞよろしくお願いします。

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