045(勘違いしてる刺客)
次の日の朝。俺は三年生の二日目だ。定位置、自宅マンションから近くの交差点の角に、西園寺が運転するセダンが停まっていた。俺はセダンに乗り込む。
「おはよー、今日も頼むよ」
「おはようございます、キャプテン・ジャパン。朝は冷えますねえ~」
俺は後部座席に座り、シートベルトをする。西園寺はそれをルームミラーで確認すると、セダンを発進させた。
「早速だが、一年坊の教育状況はどうだ?」
「薬物に手を出してる人はいません、ここはオーケーですね。戦闘力に関しては、二年生を上回る勢いです。それと闇バイトや詐欺に関わってる者も今のところ確認されませんでした。あ、1人入学前に葉っぱをやってるのが居て横浜陰茎学園に入学出来ない事になりました~」
一年坊の身辺調査は第3勢力のリサーチ力で洗う。報告は西園寺の役割だ。
「良い感じだ。町田って奴はどうだ?」
「町田君は、キャプテン・ジャパンに言われた通り、校舎の壁を殴ってました」
拳で岩を砕けと言ったんだけどな。校舎の壁もコンクリートだから似たようなものか。西園寺も町田が土下座してまで石破天驚流の伝授を懇願するのを見聞きしてたか。
「無理をしなきゃいいけど」
「本当に拳を傷めず岩を砕く事なんて出来るんですか?」
「慣れればね、西園寺も特訓するか?」
「僕は戦闘向きではないので、遠慮しときます~」
「適材適所、賢明な判断だ」
「着くまでに世間話でも」
「話して」
「最近、横浜市のシーサイドに一大カジノ構造が、市議によって検討されてるのをご存知ですか?」
「知らない。パチ屋みたいな、ほぼ勝てないギャンブルよりはマシだろうな」
「バリカン君のお父さんが推進の旗振り役でして」
「へー、バリカンの親って横浜市義なんだ」
「知らなかったんですか? 今年で4期か5期目ですよ~」
「子供の出来が悪すぎるな」
「フフフ。でもバリカン君って勉強出来るんですよ~」
「頭が悪そうなのに」
「第1勢力の補佐じゃ、マウ大の内申点に響かないですからね~。軽く勉強したって言ってました~」
「キャプテン・ジャパン経験は、マウントトレナイ大学の内申点に影響するよな?」
「勿論ですよ。1期努めるだけでも凄い事なのに、レイ先輩みたいにキャプテン・ジャパンを3代なんて、一芸入学も楽勝ですね~」
「じゃあ、勉強しなくても入学出来るのか」
「多少はした方が」
「だよな、ハハハ」
「話を元に戻しても」
「どうぞ」
「バリカン君のお父さんは与党なんですが、野党から厳しい追及を受けてるそうです。これ以上、ギャンブル依存症を増やすつもりかって」
「ギャンブル依存症の原因はパチンコだ。それに野党は暇人の集まりだもんな、与党は責任感を持たないといけないけど、野党は与党の足を引っ張り、ネガティブキャンペーンしてりゃ票が貰えると勘違いしてやがる。国民に見透かされてるんだ」
「キャプテン・ジャパンって意外と社会の事を知ってますね」
「今年の11月5日で有権者だ、選挙には行かないと」
「そうだったんですね~、11月5日がお誕生日でしたか~」
「この日はな、有名人の誕生日も歴史的出来事もない。何もない日だ」
「キャプテン・ジャパンの誕生日というだけで、歴史的出来事ですよ~」
「世辞でも嬉しいよ」
「おっと、また話が脱線しましたね。カジノホテル数軒は既に着工済みです~」
話を脱線させてるの俺だよな。気を遣わせてすまん、西園寺。
「見切り発進? 横浜市議会で承認されないとダメでしょ、条例とか大丈夫なの?」
「バリカン君のお父さんは古参議員ですからね。地盤、鞄、看板がありますから根回しも楽勝に出来るんでしょうね~」
「カジノが完成したら行ってみよ」
「公営ギャンブルは二十歳からですよ~」
「パチンコは18歳からと聞いたぞ」
「パチンコはグレーですからね~」
「そうなんだ」
俺と西園寺は世間話をしながら横浜陰茎学園の校庭に着いた。停める定位置は元サッカー部部室の近く。
俺は教室に行く前に、校庭のトラックを見ると、三年生の一部が100メートル走ダッシュを繰り返してた。マジで石破天驚流を覚えるつもりか。奥義、亜型奥義、秘奥義は一子相伝だから教える事は出来ないけど。手っ取り早く強くなるなら、柔道とキックボクシングを覚えればいいんだけどな。そういや柔道部は学園でも微かに生き残ってる。部活というより同好会だけど。
俺は昼休みの前に秘匿性アプリで、三年生の全員と二年生の上層部とそれに準ずる者に一斉コメントを出す。
【強くなりたいなら、柔道同好会に入れ。それとキックボクシングを基礎から習え。一旦、100メートル走は休め。以上】
これでオーバーワークは防げるな。第1第2勢力に故障者が出たら大変だ。柔道は授業でもあるし、ここは大丈夫だろう。キックボクシングは基礎から叩き込むしかない。易々と石破天驚流を教えるつもりはない。昨日は勢いで言っちゃっただけだ。誤魔化しが利くシチュエーションでもなかったし。
俺は昼飯を食った後、教室でボーッとしていた。特にやる事がない。校庭に誰か入って来た。門を乗り越えて。遅刻か。まあ、珍しい事じゃないけど。ソイツは校庭のど真ん中で立ち尽くしている。何やってんだ?
「おーい! 瀬名レイとかいう奴出てこい!」
手にはキラリと光る物が。包丁か。やっぱ、キャプテン・ジャパンは目を付けられるな。
ーー俺は、横浜陰茎学園に入学出来なかった者。名前は遠山。おそらく、瀬名レイって奴が調子に乗って俺を落としたんだろう。横浜陰茎学園の暴走族のリーダーだって聞いた。留年しちまったろ! 許さねえ! この学園は暴走族に支配されてる。俺が浄化しないと! 兄は出来が良いから東京犠牲者学園に入れた。兄に遺伝子の良いとこ全部持って行かれた。だから俺はこんなクソミソ学園に滑り止めなしに入願書を提出し、小学生でも解ける試験を受け。それでも入学出来なかった。全部、瀬名レイのせいだ! 俺が浄化しないと! 俺には分かってる。兄が通っている東京犠牲者学園の元用心棒から聞いた。瀬名レイは攻撃の直前に〝アイム・ナンバーワン〟と叫ぶそうだ。その隙を見て包丁で腹をグサッだ。ナメるなよ? 俺は強いぞ。一騎討ちだ。出てこい瀬名レイ。元用心棒の人は瀬名レイに酷い髪型されたそうだ。その仇も討ってやる。
1人、昇降口から男が出て来た。瀬名レイはビビらず来たか。見上げた根性だ、褒めてやる。男が歩いて近付いてくる。何!? 右手の拳から血を流してる。へー、負けた時の言い訳か。案外楽勝だな。
「おいお前、瀬名レイだよな?」
「さあ? 死にたくなければ帰ってその包丁で人参、ジャガイモ、玉ねぎを切って鍋に入れで煮込んで、火を止めてからルウを入れろ、肉はお好みで」
「はぁ? ナメてんのか、てめえ! ぶっ殺す」
俺は包丁の柄を両手で強く握り、瀬名レイに突進する。死んだな、アハハ。
バキン! ズドン! 爪先で包丁を蹴り上げて、瀬名レイの左拳がボディーに入った。肋骨が痛い。折れたのか? ドサッと尻餅を突いちまった。
「お前、何でアイム・ナンバーワンって言って隙を見せないんだよ!」
「なんの事? 俺の名前は、町田ゼルダ。キャプテン・ジャパンの弟子の弟子だ」
ストン。蹴り上げられた包丁が町田とかいう奴の後ろに落ちた。包丁は1本しかない。この戦闘のプロが雑魚に負けるとは。町田が包丁の方へ行く。まずい、痛くて動けない。
町田が包丁を拾って戻って来た。
「こ、殺さないで! 大麻ならいくらでもあげるから!」
「ありがとう」
「ホント? 見逃してくれる? リキッドもあるよ」
「こんなアブねえ刃物は持ってちゃダメだよな」
「はい! 勿論です!」
グサッ! グサッ!
「いてーー! 指が! 親指がーー!」
町田の野郎、俺の両手の親指を切り落としやがった! そして包丁で千切れた親指を2本串刺しして、ポーンと植え込みに投げやがった。
「警告はしたはずだ。じゃあね、俺も忙しいんで」
「待ってくれよー! 痛くて動けないんだよー! 早く縫合しないと指が腐っちゃうよー!」
「悪いな~、この学園はクスリ厳禁なんで」
「ウワーー!」




