046(町田家の不都合な真実)
ーー俺は、町田に試練を与えたつもりが、侵入者をあっさり倒してしまった。ちょっとやり過ぎだけど。何かバリカンのアホを思い出す。犯人の男は警察に捕まった。もう2度と物を掴めない身体になっちゃった。大麻常習者。おそらく、少年院行きだろうな。
放課後。西園寺が昇降口で待ってた。優秀なドライバーだ。
「また世話になるよ、西園寺」
「その前に着いてきて下さい」
何だ? 普段、冷静な西園寺が焦ってるように見える。
「何事だ?」
「早く、町田君が」
町田が怪我したのかな。回復魔法を使えるマキが羨ましい。回復魔法は王家の証ってクララが言ってたな。マキの奴、マウ大でカツアゲしてないといいけど。俺は西園寺に促されるまま、校舎の北側へと行く。
町田は、へばって座り込んでる。まさか。俺は校舎の壁を見ると鉄の衝突球が当たったようなデカイ穴が。周りはバリバリにヒビが入ってる。
「キャプテン・ジャパン、石破天驚流の第一段階はクリアですか?」
「マジかよ、スゲーよ、お前。俺ですら1週間以上はかかったはず」
「ありがとうございます。右手がいてえー。いやー疲れた」
1日や2日でこれをマスターするとは。もしや、分家の血縁者か? 宗家の者はだいたい頭に入ってる。考えられるのは始祖から分派していった分家。可能性はある。確認はしとかないとな。
「町田、お前の先祖に武士は居たか?」
「分かりませ~ん。ひいじいさんは海軍で世界大戦に行ってました」
「お前のひいじいさんに会わせてくれないか」
「良いですけど。市の総合病院に居ます」
「ボケてないよな?」
「頭はしっかりしてます、ボケてないですよ、100歳くらいなのに。ただ……」
「ただ何だ?」
「緑内障で目が殆ど見えないんです」
「コミュニケーションが取れればそれでいい、行くぞ」
「まさか、今からですか?」
「早い方がいい、お前の右手の治療も兼ねて。西園寺、セダンの用意を」
「畏まりました~」
俺は町田を立たせる。西園寺はセダンを俺達の近くに横付けした。俺達は後部座席に乗り込む。
「西園寺、急いで頼む」
「市の総合病院ですね? シートベルトはオーケー、西園寺行きま~す」
西園寺はセダンを発進させた。総合病院はここから5、6分ってとこだ。
「町田、ひいじいさんはどこ出身だ?」
「確か川中島です。何県ですかね?」
ビンゴ!
「長野県長野市だ。俺のじいちゃんもひいじいちゃんも川中島周辺で産まれた」
「キャプテン・ジャパンって祖父や曽祖父をちゃん付けなんですね」
「そこはスルーしろ」
「プッ、クスクス」
「西園寺、笑うんじゃない」
「すみませんでした~、つい~」
「語尾で誤魔化すな。まあ、よろしい」
今年度、まだ始まったばかりだけど、下級生とちゃんとコミュニケーションが取れてるな。笑い合ってる俺達。二年生は期待はずれだったが、一年坊は期待出来そうだ。
「町田、右拳の骨はイカれてるか?」
「多分、大丈夫です。ヒビも入ってないと思います」
「ひとまず安心だな。町田のひいじいさんのファースネームはなんて言うんだ?」
「虎に尻尾の尾と書いて、虎尾と言います。会ったら神対応してくれると思いますよ」
「神対応? 有名人なの?」
「戦前からギターの練習してたみたいで、戦後の昭和時代にタイガーテールっていうロックバンドのボーカルをやってました」
「知らないな。売れてたの?」
「レコードはミリオンセラー、一歩前が2、3作。今は悪い目で地下アイドルに楽曲提供を続けてます」
最近、有名人がサイン描いたり、写真撮ったりしただけで何でもかんでも神対応だもんな。おっ! 川柳が一句浮かんだ。
「今、川柳が出来た」
「「どうぞ」」
「神対応、応じただけの、有名人。瀬名レイ心の川柳、どうだ?」
「「う~ん…………」」
「一年坊じゃ川柳を嗜む歳でもないか」
「川柳が出来れば石破天驚流もマスターするのに近づきますか?」
「全く関係ない、ただの暇潰しだ」
俺達を乗せたセダンが総合病院の駐車場に着く。ここは天草が入院してた所と同じだ。
「西園寺はここで待機」
「了解です~」
「行くぞ、町田。まずは、ひいじいさんに会わせてくれ」
「はい、4階の403号室です」
俺と町田は403号室に入る。1人部屋だ。4階は全て個室かな。白髪の老人がベッドに座って窓を眺めてた。傍らにはアコースティックギター。病院で鳴らせるのかな?
「じいさん! じいさん! ゼルダだよ! ゼ・ル・ダ!」
「聞こえとるわ、バカもん」
「補聴器、着けてたんだね、ゴメン。じいさんに面会人だよ」
「今、アイドルに卸す歌詞の選定中だ、バカもん」
「暇そうに見えたけどな」
「会いたいというのは男か。今は女子アイドルの曲を作曲中だ、バカもん」
あ、そうか。目が悪いって言ってたな。
虎尾のじいさんが分厚い眼鏡を掛けて、こっちを見た。
「会いたいというのは外人さんか」
「俺の名前は瀬名レイ、石破天驚流秘奥義を会得する修行の身」
「せ、石破天驚流だと!?」
このリアクション、石破天驚流を知ってるな?
「命だけは! 命だけは!」
命乞いか。
「俺はアンタを殺しに来た訳じゃない」
「本当か? じゃ何しに」
「察するに、じいさん一族は石破天驚流の分家の血縁者ってところだろ?」
「い、いや…………」
「違うのか?」
「言いにくいんだが、ゼルダはワシの孫夫婦の実子ではない。おそらく、ゼルダは石破天驚流の分家の子だろう。そんな話を聞いた事がある」
町田は平然としてる。鋼メンタルか?
「アンタのひ孫は宗家を超える石破天驚流の才能がある。安心しろ、殺しはしない」
「すまんかった、ゼルダ! 本当にすまんかった!」
「俺は別に」
「虎尾のじいさん、昔はブイブイ言わせてたんだろ? サイン描いてくれ。それでこの事には目を瞑る」
「何枚でも描く!」
「目が悪いんだろ? 一枚でいい」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
虎尾のじいさんは棚から筆ペンとサイン色紙を取り出して、シャッとサインを描いた。慣れてる。
「はい、どうぞ」
「へー、流石昭和の男、達筆だな。日付と俺の名前も入ってる。ナイスだ、じいさん」
「ははー」
「じゃあな、じいさん。ゼルダ、家庭の話は家に帰ってからな、それより怪我の治療だ」
「はい。じいさん、またね」
「あ、ああ。また」
俺達は1階に行き、ナースカウンターで整形外科の窓口の場所を聞く。意外と近かった。
「車を待たせとくか?」
「キャプテン・ジャパン。俺、もう大丈夫です。先にお帰り下さい。怪我をちゃんと治してから、また修行します。家までは電車で帰れるんで」
町田の覚悟を感じた。いきなり血が繋がってないと言われても気丈に振る舞ってる。
「じゃあな」
「待って下さい」
「何?」
「何でじいさんは、あんなに怯えていたのでしょう?」
「言いにくいが、おそらく誘拐、もしくはわざと取り違え子にしたか。犯罪絡みなんだろうよ」
「なんのために?」
「多分、町田が石破天驚流の分家の子だからだろう。欲しかったんだ、最強殺人拳の子孫が。だいたいそんな感じ」
「なるほど。呼び止めてすみません」
「別にいいさ」
俺は出口に向かいながら片手を振る。もう片手にはタイガーテールのボーカルのサイン。ネットオークションで1万円くらいにはなってよ。いや、少し寝かせるかな。
俺は、西園寺が運転するセダンで自宅マンションに帰った。エメラダみたいな刺客は居なかった。2日連続、1日2回の刺客は勘弁だ。疲れる。




