第66話 ヌルハッちゃんの野望
西暦1586年春、李成梁が突然、朝鮮懲罰の陸海大軍を起こしていた。
遼東の明国軍6万が黄海から、海西女真2万と建州マンジュ1万の大軍が北部から侵略、李王朝はなすすべも無く滅ぼされた。
明軍とイェへ軍は、略奪に略奪を重ね、李王朝のすべてを奪い、戦利品に満足して帰還していった。
略奪に加担せず、戦後処理を請け負ったヌルハチ軍は、朝鮮人民を慰撫、悪いのは明の李成梁と李王朝とし、ホンジや王寧を通じて伝授された様々なノウハウを提供して民衆を困窮から救った。
李成梁に多額な賄賂を贈りつつも、再開した朝貢貿易の権益は残りすべてを民衆のために使った。
あざとかろうが、その政治が朝鮮人民の心に届かないわけは無く、建州マンジュ族に足りなかった民衆力が補完されることになった。
明に頼らずとも、北方交易で得られる財力で馬市や市場を拡大し富を増やし、アイヌ民国との交易で武器・火薬を蓄え、兵を鍛えて他部族の攻略に備えた。
朝鮮から奪った財力でフルンの盟主となったイェへ部首長のナリンブルが、女真を統一すべくヌルハチに帰順を求めるも無視し対立。
それに怒ったナリンブルは、海西女真4部で建州を攻めた。
待ち構えていたヌルハチは余裕で撃退、追撃して大勝した。
ナリンブルは、さらに海西女真4部と野人女真5部の9部連合軍を結成、3万の大軍を繰り出し、3方面からヌルハチを攻撃した(グレの戦い)。
「ふふふ、寡兵で大軍を征してこそ、織田殿と同じく勇躍できるというものだ」
「頼もしいぞ、ヌルハチ」
「伯父上、頼みましたぞ!」
「おう、まかせい!」
「精鋭達よ、怯むでないぞ!おお~~オケハザマ~~~」
「「「「「「「「おお~~オケハザマ~~~」」」」」」」」
ヌルハチはわずか100騎を引き連れ、連合軍に正面からの奇襲。
選びに選んだ悍馬を乗りこなし、雄叫びを上げ迫る騎兵に、連合軍はあっけにとられて見つめるばかりだ。
「ば、ばかものども、あんな寡兵に何ができるか」
「槍を構えい、こら!こら!」
「「「「「は、は!」」」」」
我に返った連合軍の兵士達は、下知にしたがい槍を構えた。
「我こそは、マンジュ国のヌルハチじゃ、かかってこいや~~」
「我こそは、ケイジじゃ、かかってこいや~」
「あのな~そない張り切ったらあかんがな~」
深入りするその前に、五右衛門の合図で奇襲騎兵は退却していく。
「なにをしてるか、追え!追え!!逃げた敵を追え~~~~」
「「「「「「「「おおおおおお~~~~~」」」」」」」」
追いつきそうで追いつけない巧みな駆け引きで、釣られた連合軍が誘い込まれたのは、スクスフ河北岸のグレ山の山影だ。
待ち伏せていたアタイ率いるヌルハチ軍精鋭が包囲し、連合軍は散々に討ち破られ大敗したのだった。
「我らが勝利じゃ、勝ちどきをあげい!」
「「「「「「「「えい、えい、おおおおおお~~~~~」」」」」」」」
海西女真と建州マンジュの勢力が逆転、諸部族はヌルハチを女真族の長と認めるようになり、残るは海西女真のイェヘだけとなった。
西暦1588年正月。
ヌルハチは本拠地ヘトゥアラでハンの地位に即き、国名を『マンジュ・ハン国』、元号を天命とした。
弱腰になった明は、ヌルハチに竜虎将軍の官職を授けて懐柔しようとしたが、逆に「七大恨」と呼ばれる檄文で李成梁の無道を弾劾され、宣戦布告された。
なお、富を独占していた李成梁は、明政府の上層から疎まれ、汚職を理由に更迭されている。
ヌルハチはイェへ周辺の諸城を攻撃し、撫順城、清河城を陥落させ、東州、馬根丹など数百箇所を陥落させた。
一方、明は6万の大軍を派遣、イェヘ部の兵と共にヌルハチの居城であるへトゥアラに侵攻、撫順近くのサルフにおいて激突した。
軍勢はヌルハチ軍の数倍にもかかわらず、功を焦る明の将軍達の連携が杜撰だったのに対し、武器弾薬が豊富で武装の優れるヌルハチ軍が各個撃破し圧勝した。
その後、宿敵のイェへを統合して全マンジュ族の統一に成功しても、ヌルハチは軍を緩めなかった。
瀋陽・遼陽城を攻め落とし、地の利の良い遼陽に遷都を決行、寧遠城、山海関を攻め落とし、そこでいったん矛を収めたのであった。
山海関は、華北と東北の境界で万里の長城における要衝であり、明からの反攻を撃退しうる拠点、これで明政府は有効な手を打てなくなるはずだ。
ヌルハチは、目をつぶっていた国内の諸問題を解決する時間を得、以後、残存反攻勢力を潰し、内政に力を入れて国力を上げ、後継者育成、内紛の種潰しをして、揺るぎない国家を築いていくのだった。
後に経緯をきいた貴丸は叫んだ。
「桶狭間じゃなくて島津の釣り野伏せりだろうが!」




