↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王を倒した翌日、勇者の俺が世界から指名手配された ~裏切った王国を追われたので、魔王の娘と戦争を終わらせます~  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/60

第五十八話 人間と魔族が初めて同じ学校を作った

国境の学校が開いた日、教室の窓は全部開け放たれていた。

人間の子供と魔族の子供が、同じ机に座っている。

最初の授業は、文字の読み方だった。

「王国の字で『橋』と書くと、こうなります」

教師が黒板に書く。

魔族の子供が手を挙げた。

「うちの言葉では、二つの岸をつなぐって意味の字です」

「では、両方書いてみましょう」

子供たちは競うように板へ文字を書いた。

その様子を見ていたグレンが、俺へ呟いた。

「俺たちが子供のころには、考えられなかったな」

「ああ」

「俺は人間の字を、敵の命令書を読むために覚えた」

「俺は魔族の言葉を、敵の叫びを理解するために覚えた」

二人で苦笑した。

教室の後ろには、ユアンと母親が座っていた。

母親は再会してから、村の診療所で働いている。

ユアンはまだ、ときどき閉じた扉を怖がる。

だから教室の扉は、いつでも開けられるようにしてあった。

「学校、楽しいか」

俺が尋ねると、ユアンは頷いた。

「うん。でも算数は難しい」

「俺も苦手だ」

「勇者様でも?」

「勇者だからって、何でもできるわけじゃない」

ユアンは笑った。

リリスは校庭で、子供たちと花を植えていた。

人間の子が土を掘り、魔族の子が水を運ぶ。

一人の少年がリリスに尋ねた。

「魔王って、悪い人なの?」

彼女の手が止まった。

周囲の大人たちも黙った。

「私の父は、魔王と呼ばれていました」

リリスはゆっくり答えた。

「優しいところもありました。でも、戦争で人を傷つけたこともあります」

「じゃあ、悪い人?」

学校の開校式には、反対する人も来ていた。

「子供を魔族と同じ教室に入れるなんて」

老人が腕を組んで言った。

校長は頭を下げた。

「心配なことを聞かせてください」

「言葉も違う。けんかになったらどうする」

「言葉の授業を増やします。けんかになったら、大人が話を聞きます」

「それで済まなかったら?」

「保護者と相談します。学校だけで決めません」

老人は黙った。

その隣で魔族の母親が言った。

「私も怖いです。息子が石を投げられないかと」

老人は驚いた顔をした。

「そっちも怖いのか」

「はい」

二人は互いを見た。

すぐに仲良くなったわけではない。

だが、同じように子供を心配していることは分かったらしい。

授業の終わりに、教師が宿題を出した。

『家で使っている言葉を一つ、家族に教えてもらうこと』。

翌朝、教室にはさまざまな言葉が集まった。

『いただきます』に似た言葉もあれば、雨を呼ぶための古い言葉もあった。

ユアンは母親に教わった子守歌の一節を書いてきた。

「これ、怖い夢を見たときに歌ってくれるんだ」

教師は頷いた。

「では、意味も書いておきましょう」

俺は教室の外で、その様子を見た。

子供たちが覚えるのは、敵を倒すための言葉だけではない。

誰かを安心させるための言葉もある。

それが、俺には何より嬉しかった。

「一つの言葉だけでは決められないと思います。何をしたのか、どうしてそうしたのか、両方を知ってほしいです」

少年は考えた。

「じゃあ、勇者は?」

俺は少し驚いた。

「勇者も同じだ」

俺は答えた。

「助けた人もいる。傷つけた人もいる。名前だけで正しいとは決められない」

子供たちはしばらく黙ったあと、また花を植え始めた。

その日の午後、学校の名前を決める会議が開かれた。

大人たちは『和平記念学校』や『共同学舎』を提案した。

だが、子供たちが選んだのは『川辺の学校』だった。

「どうして?」と教師。

「川が近いから!」

あまりに簡単な理由で、皆が笑った。

リリスも笑った。

開校から一か月後、学校で小さなけんかが起きた。

人間の少年が魔族の子の角をからかい、相手が怒って机を倒したのだ。

教師は二人を校庭へ連れ出した。

「何があったか、順番に話して」

「角が変だって言われた」

「だって、触ってみたかっただけだ」

「触っていいか聞いてない!」

教師は頷いた。

「まず、勝手に触らない。次に、怒っても机を倒さない。二人とも、どうすればよかったか考えよう」

少年は俯いた。

「先に聞けばよかった」

魔族の子も小さく言った。

「怒ったって言えばよかった」

すぐに仲直りはしなかった。

学校の壁には、戦争で失った家族を悼む小さな棚が作られた。

仲良くすることを急がせないためだ。

子供たちはそこに花を置き、それから授業へ戻った。

それでも翌日、二人は同じ机で字の練習をしていた。

グレンがその話を聞き、首を傾げた。

「戦争なら、勝ったほうが正しいと言われた」

「学校では、勝ち負けを決めないこともある」とスーシャ。

「難しいな」

「だから学ぶんです」

俺は笑った。

子供たちが大人より先に、別の方法を覚えていく。

その姿は、どんな勲章よりも誇らしかった。

俺はその横顔を見た。

魔王の娘が人間の村で笑うことを、以前は奇跡だと思った。

今は、少しずつ普通のことになり始めている。

それが嬉しかった。

帰り道、スーシャが学校の門に新しい掲示板を取り付けた。

『意見が違うときは、相手の話を最後まで聞くこと』

グレンが首を傾げた。

「簡単そうで難しいな」

「だから練習するんです」とスーシャ。

俺たちは頷いた。

学校の帰り道、ユアンが俺へ手を振った。

「勇者様、明日も来る?」

「釘打ちの仕事が終わったらな」

「じゃあ、僕も手伝う!」

「まず宿題を終わらせろ」

ユアンは顔をしかめた。

「大人って、すぐそう言う」

俺は笑った。

子供が宿題を嫌がる。

そんな普通の会話ができるようになるまで、長い時間がかかった。

明日も同じ会話ができることを、俺は願った。

学校には、戦争で親を失った子もいた。

ある日、その子が授業の途中で泣き出した。

「魔族と仲良くしろって言われても、できない」

教師は授業を止めた。

「今すぐ仲良くならなくてもいいよ」

「でも、みんな一緒に勉強してる」

「同じ教室にいることと、悲しい気持ちが消えることは違うからね」

子供は俯いた。

隣の魔族の少女も、黙っていた。

しばらくして彼女は言った。

「私も、お父さんが帰ってこない」

二人は互いを見た。

握手もしなかった。

ただ、その日は同じ机で静かに本を読んだ。

俺は廊下でその話を聞いた。

和平とは、無理に笑わせることではない。

悲しいままでも、同じ場所で生きられるようにすることだと思った。

翌週、二人は同じ花壇の水やり当番になった。

言葉は少なかった。

それでも、花は少しずつ育っていった。

勇者を呼ぶよりも、時間のかかる方法だ。

でも、その時間をかける価値があると思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。