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魔王を倒した翌日、勇者の俺が世界から指名手配された ~裏切った王国を追われたので、魔王の娘と戦争を終わらせます~  作者: レモンティー


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第四話 魔族の子供に石を投げられた勇者、剣ではなく手を差し伸べる

城下町の路地には、かつて市場だった広場があった。

天幕の骨組みだけが残り、屋台の跡には灰が積もっている。

そこへ一人の老婆が来て、折れた椅子を俺の前に置いた。

「直せるかい」

「やってみる」

「勇者が椅子を直すなんて、笑える話だね」

「自分でもそう思う」

老婆は笑わなかった。

椅子は戦死した息子が作ったものだという。

座面の裏には不器用な文字で母の名が彫られていた。

俺は刃を入れる場所を変えた。

新しい板で全部作り直せば早いが、それでは息子の手が触れた木まで消えてしまう。

「そこは残しておくよ」

老婆は初めて顔を上げた。

「……分かるのかい」

「大事なものなんだろ」

「そうさ。魔王を倒した勇者が、こんなことを分かるなんてね」

俺は何も答えず、釘を打った。

何度も曲がり、抜いてはやり直す。

戦いなら一瞬で済む作業が、夕暮れまでかかった。

その間にも人々は俺を見に来た。

罵声を浴びせる者、無言で睨む者、遠巻きに眺める者。

誰も歓迎しなかった。

歓迎されるために来たわけではないと自分に言い聞かせても、胸は重かった。

トトが石を投げたとき、俺は反射的に避けそうになった。

戦場で身についた癖だ。

だが、目の前にいるのは敵兵ではなく、父を失った子供だった。

石は肩に当たり、鈍い痛みが走った。

「痛いか!」

「痛い」

「父ちゃんはもっと痛かった!」

「……そうだな」

「何が分かるんだよ!」

その通りだった。

俺には彼の父の最期も、家でどんな冗談を言っていたかも分からない。

知っているのは、自分が魔王軍を斬り進んだことだけだ。

俺は腰の聖剣を外し、布に包んでリリスへ渡した。

「預かってくれ」

「武器を持たずに歩くのですか」

「剣を見ただけで怯える人がいる」

「それでも、あなたを狙う者はいます」

「分かっている。近くにいてくれるか」

リリスは少し驚いたあと、頷いた。

「私が守ります。父の仇を守るなんて、奇妙な話ですね」

「本当に」

翌日、俺は壊れたかまどを直した。

煙突に詰まった煤を取り除くと、煙が室内に戻らなくなった。

子供たちが鍋の周りに集まる。

薄い豆のスープでも、温かいものを食べられるだけで表情が変わる。

サフィアは配給の列を見ながら言った。

「あなたが直したのは、かまど三つだけです。飢えている者は千人以上います」

「分かっている」

「分かっているなら、なぜこんな小さな仕事を?」

「大きなことを言う前に、今できることをやりたい」

彼女はしばらく俺を見つめ、鍋に薪をくべた。

「では、私は薬草の仕分けをします。小さな仕事を一つ増やしましょう」

かまどを直すための石を運んでいると、トトが遠くから俺を見ていた。

俺が近づくと逃げるが、しばらくするとまた戻ってくる。

「重い石は下に置けよ」

三度目に顔を合わせたとき、少年が言った。

「どうしてだ?」

「上に積むと崩れる。父ちゃんが言ってた」

俺は言われたとおり石を積み直した。

「ありがとう」

「別に、お前のためじゃない。かまどが崩れたら、みんな困るだろ」

その言葉が嬉しかったが、俺は笑わなかった。

父親のいない子供に、気軽に親しげな顔を向ける資格はないと思ったからだ。

午後、炊事場の屋根に雨漏りが見つかった。

修理を始めると、トトがまた現れた。

「その板、逆だ」

「どっちが表なんだ?」

「木目を見ろよ。雨が流れる向きがあるんだ」

俺は板を裏返した。

少年の小さな手は、父の仕事をよく覚えていた。

「お父さんは、いい職人だったんだな」

言った直後、後悔した。

トトの顔が強張ったからだ。

「お前が知らないくせに、分かったようなこと言うな」

「……ごめん」

「謝ればいいと思うなよ」

「思ってない」

トトはしばらく俺を睨んでいたが、板を一枚拾い、釘の位置に小さな印をつけた。

「そこに打て。曲げるなよ」

俺は印の上に釘を当てた。

剣の扱いなら誰にも負けないつもりだった。

けれど、この子が知っていることを、俺は何一つ知らなかった。

夕方、桶の仕上げに取りかかった。

トトが釘を選び直すのを見て、褒めようとした言葉を飲み込んだ。

安易な褒め言葉が、父を失った悲しみまで慰めたことにはならない。

「この釘、斜めだぞ」

トトが言った。

「本当だ。もう一度教えてくれ」

「……しょうがないな」

少年は釘を抜いて位置を示した。

指先は小さくても、手つきは俺よりずっと確かだった。

作業が終わると、トトは俺を見ずに尋ねた。

「父ちゃんは、勇者に勝てなかったのか」

「……分からない。戦場では相手の名前を聞けなかった」

「じゃあ、父ちゃんのこと、覚えてないんだな」

「すまない」

トトは唇を噛んだ。

俺は何も言い足さなかった。

しばらくして彼は、直した桶を俺の足元へ置いた。

「これ、使えよ。水運びに」

「いいのか」

「返せよ。壊したら今度は自分で直せ」

「約束する」

彼は走り去った。

許されたわけではない。

けれど俺は、その桶を剣より重いもののように受け取った。

夜、城壁の上でグレンと顔を合わせた。

「町では随分と情けない姿をさらしたそうだな」

「そうだな」

「俺なら石を投げた子供を叱る」

「叱る資格がない」

グレンは長い間、暗い町を眺めた。

「俺にも弟がいた。王国軍との戦いで死んだ。お前の剣だったかどうかは知らん」

「……そうか」

「知らないからこそ、憎む相手を一人に決められた。お前は都合がよかったんだ」

俺は黙って聞いた。

グレンは背を向けた。

「明日の食糧庫では、情けだけで兵を守れんぞ」

「分かっている。だから準備する」

俺は初めて、グレンの忠告を敵意だけではない言葉として受け取った。

「勘違いするなよ。許したわけじゃない」

「ああ」

その夜、俺は聖剣を手入れしながら考えた。

強い剣なら魔王を倒せる。

だが、トトの父を取り戻すことはできない。

明日から何を守るか、それだけが俺に選べることだった。

トトが直した桶の底には、小さな印が彫られていた。

父親から受け継いだ職人の印だと、今なら分かる。

俺はその印を消さないように桶を持ち直した。

雨漏りを直した屋根の下で、子供たちがようやく眠り始めた。

トトはその様子を確かめてから、何も言わずに道具箱の蓋を閉めた。

俺が桶を返そうとすると、少年は首を振った。

「明日の朝、水を運ぶんだろ。だったら使えよ」

「……ありがとう」

「礼を言うなら、壊すなよ」

俺は桶の取っ手を握った。

許しではない。

明日の仕事を託されたのだ。

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