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魔王を倒した翌日、勇者の俺が世界から指名手配された ~裏切った王国を追われたので、魔王の娘と戦争を終わらせます~  作者: レモンティー


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第三十九話 戦争を終わらせる裁判

裁判は、王都ではなく国境の共同庁舎で開かれた。

人間と魔族の双方から裁判官が選ばれ、傍聴席には戦争で家族を失った人々が座った。

ローデンとヴェルナー商会の会頭は、別々の席に着かされた。

「これは復讐の場ではありません」

議長が最初に言った。

「誰が何を命じ、誰が何を実行したのか、証拠によって明らかにする場です」

俺は傍聴席の後ろに座った。

英雄として証言すれば、それだけで判決が決まってしまうかもしれない。

だから、俺の言葉より記録を優先してほしかった。

最初に証言したのは、王都の倉庫番だった。

「火事の前日に、臨時の鍵が作られました。命令書には補給監督官の印がありました」

次に魔王領の穀物庫の番人が証言した。

「王都から来た監査官が、油壺を運び込ませました」

二人の証言は一致した。

だが、それだけではローデンの直接命令とは断定できない。

そこでスーシャが輸送記録を提出した。

「この荷札番号は、王都と魔王領の両方で確認されています。ヴェルナー商会の帳簿にも同じ番号があります」

会頭が叫んだ。

「商会は軍の命令に従っただけだ!」

ローデンが睨み返す。

「お前が計画を持ち込んだのだろう!」

議長が木槌を打った。

「順番に話してください」

傍聴席がざわつく。

俺はユアンの姿を探した。

少年は保護所にいる。

証言は録音と書面で提出することになった。

本人が法廷に立つ必要はない。

「子供を利用した証言は信用できん!」

会頭が叫んだ。

議長は静かに答えた。

「少年の記録だけで判断しません。荷札の原本、御者の証言、倉庫の鍵の記録と照合しています」

俺は胸の奥で、少しだけ安堵した。

ユアンが勇気を出したことを、誰かの都合のいい物語にしてはいけない。

午後、ゾイドが証言台に立った。

「ローデンは十年前、多くの兵士を救いました。それは事実です」

傍聴席が静まった。

「同時に、今回の反乱では村を焼く命令を出し、停戦を破ろうとしました。これも事実です」

ローデンは顔を上げた。

「お前まで私を裏切るのか」

「違う。私は、過去のお前が守った兵士たちを、今のお前から守りたい」

ローデンは何も言わなかった。

続いて、反乱軍から投降した若い隊長が証言した。

「村を焼けという命令を受けました。ですが、従いませんでした」

「なぜですか」

「弟が住んでいたからです。でも、弟がいなかったとしても、焼くべきではありませんでした」

その言葉に、傍聴席の老婆が目を伏せた。

夕方、判決が言い渡された。

ローデンと会頭は、放火、偽装工作、武装反乱の指揮、子供の不法拘束について有罪。

刑罰の詳細は両国の法に照らして定められ、被害者への賠償と記録の公開が命じられた。

一方、命令を拒んだ兵士たちには一律の反逆罪を適用しないことが確認された。

「これで終わりか」

裁判所の外でグレンが尋ねた。

「終わりじゃない」と俺は答えた。

「焼けた倉庫は戻らない。家を失った人もいる」

リリスが頷いた。

「でも、罪を誰かの種族全体に押しつけずに済みました」

その夜、国境の広場では小さな食事会が開かれた。

王国兵と魔族兵が同じ鍋を囲んだ。

エドは弟トマと並んで座っていた。

「明日から橋の工事だ」とエド。

「兵士はやめるのか」

「しばらくはな。弟の学費を稼ぎたい」

トマが笑った。

「兄ちゃん、橋なんて作れるの?」

「習うんだよ」

俺は二人の会話を聞きながら、初めて少しだけ肩の力を抜いた。

裁判で戦争は終わらない。

だが、誰かを悪者にして殺すだけの方法とは違う道が、ようやく見え始めた。

翌朝、スーシャが古い書類を持ってきた。

「白狼砦の地下から、召喚記録の写しが見つかりました」

俺は顔を上げた。

「恐怖収集炉の記録か」

「いいえ。それより古いものです。勇者を召喚する契約の原本に関する記述があります」

紙の端には、見覚えのある紋章があった。

魔王ゼルガディスが託した結晶と同じ印だった。

国境をめぐる戦いは終わった。

だが、勇者と魔王を生み出した仕組みには、まだ知らない部分が残っていた。

裁判のあと、共同庁舎の外には長い列ができた。

判決は終わりではなかった。

奪われた麦の返還、負傷者の治療、行方不明者の調査。

書類の上で戦争を終わらせても、暮らしは一日で元に戻らない。

反乱に加わった兵士の家族、倉庫火災で家を失った者、採石場で賃金を受け取れなかった作業員。

皆が別々の訴えを持っていた。

「判決が出ても、何も戻ってこないじゃないか」

一人の男が叫んだ。

俺は列の最後に立った。

「そうだ。判決だけでは戻らない」

男は俺を睨んだ。

「じゃあ何のための裁判だ」

「誰に何を請求できるか、はっきりさせるためだ。賠償の順番も公開する」

「金がなかったら?」

「商会の資産を調べる。足りなければ評議会にも責任を問う」

男は黙った。

その隣で、魔族の女性が手を挙げた。

「王国の裁判で、私たちの被害も数えてくれるの?」

「共同庁舎だから、両方の被害を記録する」とリリス。

「でも、書類が読めない人はどうするの」

スーシャが答えた。

「口頭でも受け付けます。書記が読み上げて、内容を確認してもらいます」

女性はようやく列に並んだ。

午後、ローデンから手紙が届いた。

『私は兵士を見捨てなかった。

それだけは信じてほしい』

ゾイドは読み終え、しばらく動かなかった。

「信じるか」と俺が尋ねる。

「十年前の奴は信じる。だが、今日の罪まで許す理由にはならん」

彼は手紙を折りたたんだ。

「返事を書く。救った兵士の名も、焼かれた村の名も、両方記録に残すと」

俺は頷いた。

歴史を都合よく書き換えないことも、平和を守る仕事なのだと思った。

裁判所の掲示板には、判決だけでなく証拠の一覧も貼り出された。

読めない者には、書記が声に出して説明する。

「こんな面倒なことを毎回するのか」と役人が呟いた。

ヴォルマは頷いた。

「毎回です。説明を省けば、噂が代わりに広がります」

俺は広場の端で、リリスとその様子を見ていた。

「父が裁かれる日が来たら、私は耐えられるでしょうか」

彼女が突然尋ねた。

「分からない」

「あなたも、証言しますか」

「知っていることなら」

リリスは目を伏せた。

「それでいいと思います」

俺は彼女を見た。

許しを求めるより先に、事実を見つめる。

その難しさを、彼女は誰より知っているのだと思った。

庁舎の鐘が鳴った。

人々は一斉に帰るのではなく、明日の受付時間を確かめてから散っていった。

裁判が終わったあとにも仕事が続く。

その当たり前のことが、今は救いだった。

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