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魔王を倒した翌日、勇者の俺が世界から指名手配された ~裏切った王国を追われたので、魔王の娘と戦争を終わらせます~  作者: レモンティー


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第三十七話 ユアンが見た秘密

ユアンを見つけたのは、旧採石場の奥にある記録室だった。

正確には、ユアンが残した印をスーシャが見つけた。

壁の低い位置に、三本の短い線と一つの丸が刻まれていた。

「魔族の村を訪れたときに聞いた印です」

スーシャは記録を広げた。

ユアンの母親が教えてくれた、迷子になったときの合図。

三本の線は『ここを通った』、丸は『まだ生きている』。

「この先にいるのか」

俺は扉へ手をかけた。

「待ってください」

リリスが床を指した。

新しい足跡が二組ある。

一つは大人の靴。

もう一つは小さな靴だった。

扉の向こうから、かすかな声が聞こえた。

「誰?」

「ユアンか」

沈黙。

「……勇者様?」

俺は息を止めた。

「そうだ。迎えに来た」

鍵を開けると、薄暗い部屋の隅に少年が座っていた。

頬は痩せ、袖は長すぎる。

だが、目はしっかりこちらを見ていた。

「本当に来たんだ」

「約束したからな」

ユアンは立ち上がろうとして、ふらついた。

俺が支えると、彼は小さな声で言った。

「お母さんは?」

「探している。今は君を安全な場所へ連れていく」

「まだ、生きてる?」

俺は答えを急がなかった。

「確かなことは分からない。でも、探すのをやめていない」

ユアンは頷いた。

そのとき、彼が抱えていた布袋から紙がこぼれた。

「これ、捨てられなかった」

紙には数字と名前が並んでいた。

「採石場に来た荷車の数?」

「うん。僕たち、荷札を写させられた。読める子供が足りなかったから」

「僕たち?」

「ほかにもいた。でも昨日、別の場所へ連れていかれた」

俺は拳を握った。

リリスが紙を拾い、慎重に読んだ。

「ヴェルナー商会の輸送番号……それに軍の通行証の番号もあります」

ユアンは続けた。

「火事の前の日に、油の樽が来た。あと、魔族の服と王国兵の服。みんな同じ荷車に積んであった」

俺たちは顔を見合わせた。

両国の倉庫に残されていた偽物の証拠。

それが一つの輸送で運ばれていたことを示す記録だった。

「誰が命令したか覚えているか」

「赤い手袋のおじさん」

「名前は?」

「みんな、会頭って呼んでた」

ヴェルナー商会の会頭だ。

だが、少年の証言だけで決めつけるわけにはいかない。

スーシャは紙を封筒へ入れ、署名した。

「原本として保管します。ユアンの話は、落ち着いてから本人の言葉で記録しましょう」

「今すぐ話してもいいよ」

ユアンは強がった。

「無理をしなくていい」と俺は言った。

「でも、僕が黙ってたら、また誰かの家が燃える」

その言葉に胸が痛んだ。

子供が証人になることを勇気と呼ぶのは簡単だ。

だが、本当ならこんな役目を負わせたくなかった。

俺たちはユアンを馬車に乗せ、保護所へ向かった。

途中、彼は窓の外を見て尋ねた。

「魔族の人もいるの?」

「ああ」

「怖い?」

「怖い人もいる。優しい人もいる。人間と同じだ」

ユアンは考え込んだ。

「採石場で、角のある女の人がパンをくれた」

リリスが顔を上げた。

「誰でしょう」

「名前は知らない。でも、見張りに隠れて半分くれた。自分の分なのに」

俺は彼の話を聞きながら、まだ見つかっていない子供たちのことを考えた。

夕方、保護所でユアンの記録を整理していると、スーシャが新しい事実を見つけた。

移送先の欄に、白狼砦の古い地下水路の番号が記されている。

「子供たちは、砦へ連れていかれた可能性があります」

「何のために?」

「書類を写させるためだけではないかもしれません」

ユアンが小さく言った。

「会頭が言ってた。『勇者が来たら、子供を見せろ』って」

俺は顔を上げた。

「どういう意味だ」

「勇者様は、子供がいると絶対に助けに来る。だから逃げないようにしろって」

リリスが静かに息を吐いた。

「採石場の罠と同じです」

ユアンは俺の袖を掴んだ。

「勇者様。今度は、みんなを助けて」

俺は頷いた。

「必ず探す。ただし、今度は一人で飛び込まない」

ユアンは不思議そうにした。

「勇者様なのに?」

「勇者だからだ」

俺は仲間たちを見た。

「助けるために、助けてもらう」

ユアンの証言は、まず本人の言葉のまま記録した。

誰かの都合に合わせて順番を変えない。

彼の記憶が曖昧な箇所には、無理に答えを埋めなかった。

夜、白狼砦から火の手が上がったという報告が届いた。

ローデンは最後の戦いを始めようとしていた。

保護所へ戻ったユアンは、温かいスープを飲み終えると、眠る前に一つだけ頼みごとをした。

「僕が書いた数字の紙、なくさないでね」

「大切に保管するよ」とスーシャ。

「僕、字を間違えてるかもしれない」

「間違いがあっても大丈夫。ほかの記録と照らし合わせるから」

ユアンはほっとしたように目を閉じた。

俺は廊下で待っていたリリスに言った。

「約束を守れたと思ったのに、まだ終わっていないな」

「ユアンを見つけたことは、大切な一歩です」

「母親の行方も、ほかの子供も」

「一つずつ調べましょう」

保護所の職員が、子供たちの名前を書いた板を持ってきた。

ユアンが覚えていたのは六人。

だが移送台帳には九人分の記録があった。

「三人足りない」

「別の部屋にいた可能性があります」と職員。

俺は板の空欄を見た。

名前の分からない子供を、どう探せばいいのか。

リリスが提案した。

「採石場へ食料を運んだ人に聞きましょう。子供の顔を見ているかもしれません」

翌朝、俺たちは御者を集めて話を聞いた。

一人は、いつも赤い靴を履いた少女を見たと言った。

別の者は、片腕に包帯を巻いた少年を覚えていた。

断片的な情報を、スーシャが一つずつ書き留める。

「名前がなくても、特徴から探せます」

俺は頷いた。

ユアンの記録が、ほかの子供を救う道しるべになっていた。

夕方、王都から連絡が来た。

ユアンの母親らしい女性が、別の避難所の名簿に載っているという。

だが綴りが違い、まだ本人確認はできていない。

「急いで知らせるか」と俺は尋ねた。

スーシャは首を振った。

「希望を伝えることと、確定したと言うことは違います。まず確認しましょう」

俺はその言葉を覚えた。

その晩、ユアンは眠りながら何度も目を覚ました。

「扉を閉めないで」

保護所の職員は廊下の灯りをつけ、扉を少し開けたままにした。

俺は入口の椅子に座った。

「ここにいるから」

「明日も?」

「ああ。明日も誰かがいる」

「勇者様じゃなくても?」

「そうだ。スーシャも、ここの人たちも」

ユアンはしばらく考えてから目を閉じた。

朝、彼は食堂でパンを二つ受け取った。

一つは自分の分。

もう一つは、まだ帰っていない友達の分だという。

「取っておける?」

職員は頷いた。

「帰ってきたら、温かいものを焼こう」

ユアンはパンを見つめ、ゆっくり食べ始めた。

俺は彼が子供らしいわがままを言える日が来るまで、守らなければならないと思った。

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