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魔王を倒した翌日、勇者の俺が世界から指名手配された ~裏切った王国を追われたので、魔王の娘と戦争を終わらせます~  作者: レモンティー


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第三十五話 勇者を殺すための罠

白狼砦から逃げたローデンは、南の旧採石場へ向かった。

そこには戦時中の地下牢がある。

「追うなら少人数だ」とゾイドは言った。

「大部隊を動かせば、周囲の村がまた戦争だと思う」

俺は頷いた。

リリス、グレン、スーシャ、そして俺。

四人で採石場へ向かった。

途中、廃屋の前で一人の老人が倒れていた。

「助けてくれ……孫が中にいる」

俺は駆け寄った。

家の奥から、子供の泣き声が聞こえる。

「罠かもしれません」とリリス。

「分かっている。でも本当に子供がいるなら、放っておけない」

俺は扉を開けた。

暗い部屋の中央に、小さな靴が落ちていた。

次の瞬間、床が沈んだ。

「ユリウス!」

リリスの声と同時に、天井から鉄格子が落ちた。

俺は剣を抜いたが、格子に触れた瞬間、腕の魔力が抜けていった。

膝が折れる。

「何だ、これは……」

床に埋め込まれた紋様が、青白く光っていた。

白狼砦で見つかった拘束具と同じ紋様だ。

「勇者の魔力を逆流させる封印陣です!」

スーシャが叫ぶ。

俺は格子を押し上げようとしたが、力が入らなかった。

扉の向こうで拍手が響いた。

ローデンだった。

「魔王を倒した男も、子供の声には弱いらしい」

「子供はどこだ」

「録音魔石だ。心配するな。本物の子供は使っていない」

俺は安堵しかけ、すぐに腹が立った。

「俺を捕らえるために、村人を騙したのか」

「村人には金を払った。戦争が終わって、誰も仕事をくれないからな」

ローデンは格子越しに俺を見下ろした。

「お前がいなければ、和平は崩れる。王国と魔王領は互いを疑い、軍が再び必要になる」

「そのために何人死ぬ?」

「必要な犠牲だ」

俺は首を振った。

「必要だと言うなら、なぜ自分が犠牲にならない」

ローデンの顔が歪んだ。

「私は十年前に十分犠牲を払った!」

その叫びには、疲れと怒りが混じっていた。

彼が白狼砦で人を救ったことは本当だ。

だが、その功績を盾に今の罪を正当化することはできない。

外で金属音がした。

グレンが格子を壊そうとしている。

「無駄だ」とローデン。

「この封印陣は勇者の魔力に反応する。力を使えば使うほど、地下の石室へ吸い取られる」

「何に使うつもりだ」

ローデンは答えず、壁の扉を開いた。

その奥に、鎖のついた椅子があった。

「王宮の地下にあった技術を、商会が買い取った。恐怖収集炉ほど大きな装置ではないが、勇者一人を縛るには十分だ」

俺は息を呑んだ。

恐怖収集炉は停止したはずだった。

だが、装置の知識までは消えていなかった。

ローデンは兵士を呼び、俺を椅子へ運ばせた。

「勇者が和平を裏切ったという証言をしてもらう。拒むなら、死体でも構わん」

俺は抵抗しようとしたが、指先すら動かない。

スーシャの声が遠くから聞こえた。

「ユリウス、聞こえますか!」

「聞こえる……」

「魔力を流さないで。封印陣に吸われます!」

俺は目を閉じ、呼吸を整えた。

戦場ではいつも、力を使って突破してきた。

今は力を使うほど、相手を助けてしまう。

ローデンが外へ出たあと、兵士が一人だけ残った。

若い男だった。

「名前は?」

俺が尋ねると、彼は驚いた。

「何で聞く」

「君が何を命じられているのか知りたい」

「見張れとだけ」

「俺が逃げたら?」

「殺せと」

彼は唇を噛んだ。

俺はそれ以上責めなかった。

しばらくして、廊下の向こうから足音がした。

リリスの声だった。

「ローデン。勇者を捕らえたなら、今度は私を人質にするつもりですか」

「魔王の娘が自分から来るとはな」

「交換条件があります」

俺は目を開いた。

彼女が何を考えているのか分からない。

だが、俺を助けるために自分を差し出すつもりなら、止めなければならなかった。

「リリス、来るな!」

声は石室に反響した。

返事はなかった。

代わりに、廊下の奥で鍵の回る音がした。

封印陣の中で時間が過ぎるにつれ、俺は奇妙なことに気づいた。

体から力を奪われるたび、床の紋様が少しずつ濃くなる。

出口の位置を数え、巡回の足音を覚える。

だが俺が逃げても、同じ罠に次の誰かが落ちるなら終わりではない。

証拠を残す方法を考えた。

そして隣の石室から、誰かが鉄を叩くような音が聞こえた。

「何を作っている」

見張りは答えなかった。

「俺の魔力を使って、何かを動かしているんだろう」

若い兵士は唇を噛んだ。

「知らない。本当に知らないんだ」

「なら、君も騙されているのかもしれない」

彼は床を見た。

「俺の父は北部軍で死んだ。ローデン様は遺族に金を配ってくれた。だから、悪い人だと思えなかった」

「助けてもらったことは、消えない」

俺は言った。

「でも、その人の命令を全部正しいと思う必要はない」

見張りは何も言わなかった。

しばらくして、外で荷車の音がした。

格子の隙間から見える廊下を、木箱が運ばれていく。

箱には『鉱山用安全器具』の文字。

だが隙間から覗いていたのは、鉄輪と小さな魔石だった。

「まだ作るつもりなのか」

俺は胸が冷たくなった。

恐怖収集炉の仕組みを知る者が、別の場所で同じことを繰り返す。

ここで俺が死んでも、装置は残る。

俺は見張りへ尋ねた。

「君の名前を教えてくれ」

「……ネイル」

「ネイル。もし俺がここを出られなくても、あの箱の行き先を記録してほしい」

「そんなことしたら、俺が処刑される」

「だから命令はできない。ただ、知っておいてほしい」

ネイルは顔を伏せた。

やがて彼は、廊下の角に積まれた箱の数を小声で教えた。

「十二箱。全部、白狼砦へ戻す予定だ」

俺はその数を覚えた。

そのとき、遠くからリリスの声が聞こえた。

彼女はまだ、俺を助けようとしていた。

石室の壁には、古い傷が無数についていた。

俺より前に、ここへ閉じ込められた者がいたのだろうか。

傷の一つに、読めない文字が刻まれている。

「これを知っているか」

俺がネイルに尋ねると、彼は首を振った。

「採石場が閉鎖される前からあったそうです」

「誰が使っていた」

「捕虜だと聞いています」

俺は文字を指でなぞった。

魔力を奪われているせいか、指先がひどく冷たい。

外では荷車がまた動き出した。

俺を閉じ込める仕組みが、別の誰かにも使われる。

そう考えると、焦りが喉を締めつけた。

それでも今、無理に魔力を使えば封印陣を強めるだけだ。

俺は壁の傷の位置を覚えた。

出られたら、ここにいた人々の記録を調べよう。

ただ逃げるだけでは、同じ牢が残ってしまう。

廊下の向こうで誰かが咳をした。

俺は耳を澄ませた。

牢にいるのは俺だけではないのかもしれない。

ローデンは勇者一人を捕らえればいいと言った。

だが、採石場に運ばれた鎖の数は明らかに多すぎた。

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