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魔王を倒した翌日、勇者の俺が世界から指名手配された ~裏切った王国を追われたので、魔王の娘と戦争を終わらせます~  作者: レモンティー


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第三十四話 裏切り者は英雄だった

古い城塞の名は、白狼砦。

十年前、王国軍が魔王軍の包囲を破った場所だ。

その戦いで補給路を守り抜いた将校がいた。

ローデンだった。

「白狼砦の英雄」

ゾイドは古い戦記を机に置いた。

「兵士たちは今もそう呼ぶ。雪に閉ざされた砦で、奴は三百人の負傷兵を見捨てなかった」

「そんな人が、どうして村を焼く命令を出すんだ」

俺の問いに、ゾイドはすぐには答えなかった。

「戦争で人を救ったことと、今の罪は別だ」

ヴォルマが白狼砦の補給路を指した。

「砦には地下倉庫があります。ローデンはここへ兵を集め、王都への通行を封鎖するつもりでしょう」

「攻め落とせば済む話じゃない」と俺は言った。

「攻城戦になれば、また大勢死ぬ」

そこで俺たちは、反乱軍の内部へ手紙を届けることにした。

宛先は、白狼砦にいる兵士たち全員。

内容は簡単だった。

未払い給与の調査を開始したこと。

武器を置いた兵の家族を罰しないこと。

停戦を破る命令に従う義務はないこと。

そして、ローデンが王都と魔王領の倉庫火災に関与した証拠を、調査中の事実として公開すること。

「証拠は確定していない部分もある」とスーシャが言った。

「だから断定しない。調査の進み具合も含めて全部出す」

ゾイドは頷いた。

「都合の悪い部分を隠せば、ローデンと同じになる」

手紙を届ける役を引き受けたのは、旧見張り台で最初に弓を下ろした兵士だった。

名はエド。

「俺なら中へ入れます。北部第二連隊の仲間がいる」

「危険だぞ」

「危険なのは分かっています。でも、弟がまだ砦にいるんです」

エドは手紙を懐に入れ、夜明け前に出発した。

俺たちは砦から離れた森で待った。

夕方、白狼砦の鐘が鳴った。

一度、二度、三度。

ゾイドの顔色が変わる。

「軍法会議の招集だ」

「エドが捕まったのか」

「可能性はある」

俺は立ち上がったが、リリスに腕を掴まれた。

「今飛び込めば、彼の言葉を聞こうとする兵士まで敵にしてしまいます」

「でも、放っておけない」

「助ける方法を考えましょう」

その夜、砦の地下から一枚の紙が流れてきた。

水路の出口に挟まっていたのを、グレンが見つけた。

紙には短い文が書かれていた。

『手紙は読まれた。

弟は無事。

エド拘束。

明日、公開裁判』

俺は紙を握りしめた。

翌朝、砦の外門に兵士たちが集まった。

エドは両手を縛られ、中央に立たされていた。

ローデンが壇上へ上がる。

「諸君。この男は敵に買収され、軍の団結を壊そうとした」

兵士たちの間にざわめきが起きた。

エドは顔を上げた。

「買収されていません。弟に帰ってほしいだけです」

「臆病者め!」

ローデンが怒鳴った。

「十年前、我々が逃げていたら、この国は滅んでいた!」

ゾイドが砦の前へ進んだ。

「ローデン!」

声が響いた。

「十年前、白狼砦でお前が兵を救ったことを、私は忘れていない」

ローデンは一瞬黙った。

「ならば分かるはずだ。兵士を捨てる王都に従う必要などない!」

「分かる。兵士を捨ててはならん」

ゾイドは続けた。

「だが、お前は今、その兵士を使って村を焼こうとしている」

「国を守るためだ!」

「守るべき国には、あの村の子供も含まれる」

沈黙が落ちた。

俺はその間に、砦の兵士たちへ向かって言った。

「ローデンの過去の功績を消すつもりはない。だが、今の命令に従うかどうかは、君たち自身が決められる」

兵士の一人が槍を下ろした。

「エドを解放してください」

次に別の兵が続いた。

「俺たちは裁判を見たい。命令書も証拠も」

ローデンは唇を噛んだ。

そして突然、壇上の幕を引いた。

奥に隠されていた弩砲が姿を現す。

「全員、裏切り者だ!」

俺は走った。

弩砲が放たれる寸前、聖剣で軸を断ち切った。

巨大な矢は石壁へ突き刺さり、砦が揺れた。

ローデンは兵士に取り押さえられず、裏通路へ逃げた。

エドの縄を切ると、彼は真っ先に弟の名を呼んだ。

「トマ! いるか!」

兵士の列から少年が駆け出し、兄へ抱きついた。

俺はその光景を見て、ようやく息を吐いた。

だが、白狼砦の地下倉庫からは、ヴェルナー商会の荷札がついた大量の武器が見つかった。

その中には、王国軍の規格ではない特殊な拘束具もあった。

スーシャが一つを手に取った。

「これは……勇者の魔力を封じるためのものです」

俺は彼女を見た。

「なぜ商会がそんなものを持っている?」

答えはまだ出なかった。

ローデンは逃げた。

かつての英雄を告発するには、噂では足りない。

証言した兵士を守り、同じ日時の命令書を集め、反論を聞く。

俺は自分が受けられなかった手続きを、敵にも認めると決めた。

そして俺たちは、彼が最初から俺を捕らえるつもりだったことを知った。

白狼砦で見つかった拘束具は、見た目にはただの鉄輪だった。

だがスーシャが聖印を近づけると、内側に細かな文字が浮かび上がった。

「この紋様、神殿の禁書庫で見たことがあります」

「勇者を封じるものか」

「それだけではありません。魔力を吸い取って別の場所へ送る仕組みです」

俺は鉄輪を机へ置いた。

「恐怖収集炉は止めた。なのに、また同じことができるのか」

「装置は壊せても、技術を知る人間の記憶までは消せません」

ヴォルマは商会の帳簿を開いた。

「この拘束具は、軍用品としては登録されていません。『鉱山用安全器具』という名目で運ばれています」

「鉱山?」

「旧採石場です。ローデンの逃走先と一致します」

ゾイドは眉をひそめた。

「採石場は十年前に閉鎖された。戦時中は捕虜の収容施設として使われていた」

「今も人がいるのか」

「記録上は無人だ」

その『記録上』という言葉が、妙に耳に残った。

俺たちは周辺の村で聞き込みをした。

パン屋の女主人は、夜になると採石場の方角へ荷車が通ると話した。

「軍の馬車に見えました。でも、車輪に布を巻いて音を消していたんです」

「いつから?」

「倉庫が燃える前からです」

鍛冶屋は、見知らぬ男が大量の鎖を注文したと証言した。

「囚人を縛るような鎖でした。そんな仕事は断りました」

「顔は覚えているか」

「赤い手袋をしていた。手袋だけは覚えてる」

俺はユアンの移送記録を思い出した。

まだ救えていない子供たちがいるかもしれない。

リリスも同じことを考えたらしい。

「急ぎましょう。ただし、相手は勇者を捕らえる準備をしています」

「分かってる」

俺は頷いた。

だが、子供の声を聞いたとき、慎重でいられる自信まではなかった。

ローデンが逃げたあと、砦の兵士たちは弩砲の前に集まった。

「これで俺たちを撃つつもりだったのか」

エドの弟トマが震える声で尋ねた。

「分からない」と俺は答えた。

「でも、使われなかったのは確かだ」

ゾイドは弩砲を解体するよう命じた。

「部品は橋の補強金具に転用できる」

兵士たちは顔を見合わせた。

「武器を橋に?」

「鉄は鉄だ。何に使うかは、俺たちが決める」

翌日、鍛冶屋が弩砲の金具を運び出した。

重い鉄を持ち上げたのは、つい昨日まで反乱軍だった兵士たちだ。

トマはその様子を見て、兄へ言った。

「これなら、怖くないね」

エドは少し考えた。

「まだ怖いよ。でも、前よりはましだ」

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