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魔王を倒した翌日、勇者の俺が世界から指名手配された ~裏切った王国を追われたので、魔王の娘と戦争を終わらせます~  作者: レモンティー


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第三十一話 王国軍の一部が反乱を起こした

旧見張り台に着いたとき、最初の矢はまだ放たれていなかった。

代わりに、王国軍の旗が二つ立っていた。

一つは正規軍の青い旗。

もう一つは、戦時中に北部方面軍が用いた黒い鷲の旗だった。

「黒鷲旗を掲げた時点で、停戦監視団の指揮系統から離脱したことになる」

ゾイドが低く言った。

砦の上には百人ほどの兵が見えた。

城門の前には、食料を積んだ荷車が三台。

荷車の下から、槍の穂先が覗いている。

「突入するか」とグレン。

「だめだ。こちらが先に剣を抜けば、奴らは魔族に襲われたと言い張る」

俺は剣帯を外し、ゾイドに預けた。

「話をしてくる」

「一人でか?」

「一人なら、少なくとも魔族の侵攻とは呼べない」

リリスが外套を掴んだ。

「あなた一人の言葉では、人間だけの都合だと思われます。私も行きます」

「危険だぞ」

「危険だから隠れていろと言うなら、和平の意味がありません」

結局、俺たちは二人で城門へ歩いた。

見張りが弓を引いた。

「反逆者ユリウス! 魔王の娘を連れて何の用だ!」

「停戦協定に基づいて、発砲を中止するよう求めに来た」

「停戦など王都の腰抜けが決めたことだ!」

兵士の声は怒りよりも疲れに近かった。

頬がこけ、制服の肘には継ぎ当てがある。

「給料が止まっていると聞いた。家族への送金もできないそうだな」

弓の弦がわずかに緩んだ。

「だったら何だ!」

「未払いの記録を持ってきた。評議会に支払いを要求する。橋の修復工事も始める。だが、今夜ここで矢を撃てば、その仕事はまた戦争に奪われる」

兵士は答えなかった。

そのとき、城門の内側から怒号が響いた。

「余計なことを聞くな! 射撃位置へ戻れ!」

黒鷲旗の下に立った将校が、兵士の肩を突き飛ばした。

ゾイドが前へ出た。

「北部第二連隊の諸君。私はゾイドだ。今から読み上げる命令は、停戦監視団と王都評議会の連名によるものだ」

彼は封蝋のついた書状を掲げた。

「発砲を停止し、武器庫を封印せよ。従った者は武装解除後に事情を聴取する。命令を拒否した指揮官については、責任を個別に問う」

「全員を反逆罪で吊るすつもりだろう!」

将校が叫ぶ。

「全員ではない。命令を出した者と、従わざるを得なかった者を区別する」

ゾイドの声は震えなかった。

一人の兵士が弓を下ろした。

次に二人、三人。

だが塔の上で、別の男が火矢を構えた。

狙いは俺たちではない。

国境の向こうにある魔族の監視所だった。

「伏せろ!」

俺は地面を蹴った。

矢が放たれる寸前、リリスの魔法が弓の弦を凍らせた。

弦が裂け、火矢が足元に落ちる。

「魔族が攻撃したぞ!」

将校が叫んだ。

その叫びに応じて、砦の奥で爆発が起きた。

武器庫の屋根が吹き飛び、煙が上がる。

「自分たちの砦を燃やしたのか」

グレンが歯を食いしばった。

煙の中から兵士たちが飛び出す。

倒れた仲間を運ぶ者もいた。

俺は聖剣を抜いたが、敵へ向けなかった。

崩れかけた梁の下に取り残された若い兵を見つけ、剣で梁を支える金具を断ち切った。

「歩けるか」

「どうして助ける……俺たちはあんたを撃とうとした」

「撃たなかった。それで十分だ」

彼を外へ押し出すと、城壁の向こうからゾイドの号令が聞こえた。

「負傷者を運べ! 所属は問わん!」

王国兵と魔族兵が同じ担架を持って走り始めた。

一方、黒鷲旗を掲げた将校たちは、裏門から馬で逃げていた。

「追うか」とグレン。

「負傷者が先だ」

俺が答えると、リリスは頷いて薬箱を開いた。

砦の炎が鎮まったころ、ゾイドは兵士を広場へ集めた。

武器を置いた者は百十二人。

逃走した将校は七人。

死亡者は三人だった。

「三人の名前を記録してくれ」

俺は書記に頼んだ。

「敵味方を分けずに?」

「ここで死んだのは全員、同じ国の兵士だ」

その夜、兵舎の食堂に残っていた鍋を使い、皆で麦粥を作った。

弓を下ろした兵士が俺に尋ねた。

「俺たちの家族は、本当に食えるようになるのか」

「すぐに全部とは約束できない。でも、未払いを隠さない。名簿を公開し、支払いの順番を決める」

「そんな言葉、何度も聞いた」

「だから、明日の朝ここで最初の支払い記録を作る。君も立ち会ってくれ」

兵士はしばらく俺を見つめたあと、頷いた。

兵の数を聞くたび、俺はその数字を食料に置き換えた。

一万人が一日食べる麦、馬に与える飼葉、負傷者を運ぶ荷車。

大軍を止めるには、剣より先に道を考えなければならなかった。

夜明け前、伝令が王都から駆け込んできた。

「北部方面軍の別の三つの駐屯地で、同時に反乱が発生しました!」

俺は冷えた粥の椀を置いた。

旧見張り台は、始まりにすぎなかった。

砦の負傷者を診ていたスーシャは、俺を呼び止めた。

「矢傷の治療薬が足りません。倉庫の薬は爆発で燃えました」

「王都から運べるか」

「最短でも半日です」

俺は外へ出て、魔族側の監視所に合図を送った。

向こうには魔王領の薬草がある。

だが、たった今、反乱軍から攻撃されかけた場所だ。

見張りの魔族兵は眉をひそめた。

「人間の兵を治すために、こちらの備蓄を使うのか」

「無理にとは言わない。交換できる薬があるなら、王都側の包帯と食料を渡す」

「お前たちは、いつも都合のいいときだけ頼みに来る」

俺は言い返せなかった。

代わりにリリスが一歩前へ出た。

「この砦で死んだ兵士は、もう誰も帰りません。これ以上増やしたくないのです」

魔族兵は遠くの煙を見た。

「俺の弟は、この砦の兵に殺された」

「知っています」とリリス。

「だからこそ、お願いするしかありません」

長い沈黙のあと、兵は小さな袋を渡した。

「止血草だ。全部じゃない。俺たちの分も必要だからな」

「十分だ。ありがとう」

その夜、薬を受け取った王国兵が、袋に付いた魔族の紋章を見て固まった。

「これを使うのか」

「使わなければ傷が悪化する」とスーシャ。

兵士はためらったが、隣で苦しむ仲間を見て頷いた。

翌朝、彼は自分から薬草袋の送り主を尋ねた。

「礼を言いたい」

俺は魔族の監視所を指した。

「直接言うといい。ただ、返事は期待しすぎるな」

兵士は歩いていった。

遠くから二人の短い会話が聞こえた。

握手はしなかった。

互いに頭を下げただけだった。

それでも、昨日なら矢を向け合っていた場所に、今日は薬草の空袋が置かれていた。

朝の点呼で、俺は救助された兵士たちの名前を一人ずつ聞いた。

名簿には番号しかない者もいた。

「番号じゃ家族へ知らせられない」

書記は困った顔をした。

「戦時中、転属が多すぎて名簿が追いつかなかったんです」

俺は兵士本人に故郷と家族の名を書いてもらった。

字を書けない者には隣の兵が代筆した。

「こんなことが役に立つのか」とエド。

「君が生きていると知らせるのに役立つ」

エドは少し黙ってから、弟の名前を丁寧に書いた。

その紙を見て、俺は思った。

軍の大きな数字の裏には、こういう小さな名前がある。

反乱を止めるだけでなく、名前を取り戻すことも必要だった。

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