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魔王を倒した翌日、勇者の俺が世界から指名手配された ~裏切った王国を追われたので、魔王の娘と戦争を終わらせます~  作者: レモンティー


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第二十七話 勇者は剣を抜かずに暴動を止めた

配給所の扉が破られたのは、朝の鐘が鳴る前だった。

「麦を隠しているんだろう!」

数十人が倉庫へ押し寄せ、役人が机の下に逃げ込んだ。

広場では、昨夜貼られた『反逆者』の紙を持つ男が群衆を煽っている。

俺が到着したとき、兵士はすでに槍を構えていた。

「勇者殿、退いてください。暴徒を鎮圧します」

「槍を下げろ。倉庫の中には子供もいる」

「ですが、このままでは備蓄が奪われます!」

どちらも正しかった。

麦を守らなければ明日配る分がなくなる。

だが、飢えた人々に槍を向ければ、停戦で得たわずかな信頼が崩れる。

俺は倉庫の屋根へ上がり、鐘を三度鳴らした。

「全員、俺の話を聞いてくれ!」

石が飛んできた。

肩に当たり、痛みが走る。

「勇者なら麦を出せ!」

「俺もそうしたい。だから、まず倉庫を開ける」

役人が顔を上げた。

「勝手に開ければ、管理責任が……」

「帳簿をここへ持ってこい。誰の目にも見えるところで数える」

俺は鍵を受け取り、倉庫の扉を開いた。

中にあった麦は、群衆が想像していたより少なかった。

袋は百二十。

王都の配給対象は二千人を超える。

「隠していたのは、これだけか」

誰かが呟いた。

「昨日、国境へ四十袋を送った」と役人が説明する。

「魔族にくれてやったのか!」

怒号が戻る。

俺は配給表を広げた。

「その代わり、魔王領から薬草と乾燥豆が届いている。病院へ渡した。ここに受領の署名がある」

スーシャが病院の帳面を持ってきた。

人間の子供の名前が並び、薬を受け取った日付が記されている。

「敵の薬で助かった子もいます」と彼女が言った。

群衆の中から、包帯を巻いた少年が手を挙げた。

「俺、その薬を飲んだ」

母親が少年の手を引いた。

「この子は熱で死にかけていたんです」

誰もすぐには答えなかった。

そのとき、倉庫の裏で火が上がった。

「火事だ!」

群衆が押し合い、出口へ殺到する。

俺は屋根から飛び降り、倒れた棚を支えた。

「走るな! 子供を先に!」

リリスが水桶を運び、グレンが裏口を開けた。

ゾイドの兵は槍を捨て、避難路を作る。

火元の近くで、黒い外套の男が油壺を落とした。

俺は追いかけたが、男は群衆へ紛れた。

無理に追えば人を踏みつける。

代わりに、俺は男が落とした壺を拾った。

底には穀物商会の焼き印があった。

火は倉庫の一角で止まった。

麦の損失は七袋。

避難中に足をくじいた者はいたが、死者は出なかった。

午後、俺は広場に配給表を貼り出した。

「一人あたりの量を減らす。足りない分は明日、別の村から運ぶ。俺たちも同じ量を食べる」

「勇者様まで?」

「俺だけ腹いっぱい食べて、守ると言っても信用されないだろう」

老人が前に出た。

「昨日、魔王の娘に石を投げたのは、わしの知り合いだ。息子を失って気が立っていた」

火事のあと、配給所には長い列ができた。

昨日暴動に加わった男も、幼い娘の手を引いて並んでいた。

「俺を捕まえないのか」と男が尋ねた。

「人を殴ったか?」

「扉を蹴った」

「壊した分は直してもらう。だが、娘の食事まで奪わない」

男は俯いた。

「仕事がなくなった。軍の馬具を作ってたんだ。戦争が終わったら、注文が一つも来ない」

俺は男の手を見た。

指先には厚い皮ができている。

「馬具を作れるなら、荷車の革紐も直せるか?」

「できる。でも誰が金を払う」

「共同輸送隊が払う。まず壊れた荷車を見てくれ」

男は娘を母親に預け、工具を持って戻ってきた。

この町には、働き口を探す人が多すぎた。

壊れた荷車の修理一つでは、誰もが明日を迎えられるわけではない。

俺は修理の依頼と仕事を探す人を結びつける窓口が必要だと考えた。

彼は一時間もかからず、傷んだ革紐を交換した。

俺が支払いの書類を渡すと、何度も数字を確かめた。

「これで明日のパンが買える」

「暴動を起こさなくても、仕事の相談に来ていい」

「そんな窓口があるのか?」

「今から作る」

言ってから、俺は自分で苦笑した。

大きなことを簡単に言いすぎた。

だが、スーシャはすぐに机を用意し、ヴォルマは復興工事の一覧を持ってきた。

屋根の修理、井戸の掃除、橋の補強、荷車の整備。

仕事は山ほどある。

ただ、それを誰に頼み、どう支払うか決まっていなかった。

「仕事があるのに、人が飢えていたのか」と俺は呟いた。

「仕事と賃金を結ぶ仕組みが壊れていたんです」とヴォルマ。

「戦争中は軍の命令がその代わりでした。平和になったら、別の仕組みが必要です」

その日の夕方、広場に『復興仕事の相談所』という札が掛けられた。

初日の求人は七件しかなかった。

希望者はその五倍いた。

それでも俺たちは、翌日も受付を開けると約束した。

最初の申し込みは、暴動に加わった馬具職人だった。

次は戦争で夫を失った大工の妻。

三番目は、荷車の修理を覚えたいという少年だった。

リリスが申し込みの名簿を整えた。

「ここでも人間と魔族を分けますか?」

「仕事に必要な技術で分けよう。種族は関係ない」

「それを嫌がる人もいます」

「いるだろう。だから、無理に同じ班へ入れず、希望を聞こう」

俺は焦げた倉庫の扉を見た。

修理には数日かかる。

だが、扉を壊した人が自分で直す姿を見れば、少しは変わるかもしれない。

暴動を止めたのは俺の声だけではない。

人々が明日の食事を得る道を、少しだけ見つけられたからだった。

「怒るなとは言わない。でも、倉庫を燃やせば子供が飢える」

老人は頷いた。

「分かっている。……分かっているんだがな」

夕方、配給の列は静かになった。

暴動を起こした者の中から、焼けた壁を修理する手伝いが出た。

リリスが隣に立つ。

「剣を抜かずに済みましたね」

「ああ。でも、壺を落とした男は逃がした」

「逃げた人を追うために、目の前の人を踏みつけなかった。それも選択です」

俺は倉庫の壁に残る焦げ跡を見た。

暴動は終わった。

だが、誰かがわざと火をつけた証拠がある。

翌朝、相談所の前には昨日より長い列ができていた。

俺は一人ずつ名前と得意な仕事を聞いた。

鍛冶屋だった男、馬の世話をしてきた女、字は読めないが屋根の修理ができる少年。

誰もが戦争中は何かの役割を持っていた。

平和になったから不要だと言われれば、怒りたくもなる。

相談所の前には、仕事を求める人だけでなく、修理を頼みたい村の代表も並び始めた。

ヴォルマは依頼の緊急度を分け、スーシャは病人のいる家を優先するよう提案した。

全員を一度に助けられない事実は変わらない。

それでも、誰が後回しになったのかを帳簿に残せば、次の日に忘れずに済む。

「ここに来れば必ず仕事があるのか」と老人が尋ねた。

「約束はできない。でも、探す手伝いはする」

老人はしばらく俺を見つめ、それから列の最後尾へ並んだ。

そのとき、焦げた倉庫を調べていた兵士が、小さな紙片を持って駆け込んできた。

油壺の包みに使われていた紙だという。

そこには商会の焼き印と、軍の倉庫番号が並んでいた。

暴動を止めることはできた。

だが、人々の怒りを利用した者は、まだこの町にいる。

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