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魔王を倒した翌日、勇者の俺が世界から指名手配された ~裏切った王国を追われたので、魔王の娘と戦争を終わらせます~  作者: レモンティー


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第二十四話 行方不明の少年ユアン

「白い鷹の部隊は、解散したことになっています」

スーシャが差し出したのは、古い移送台帳の写しだった。

グラディ村から連れ去られた少年ユアン。

先の和平会議で見つけた「氏名不詳の少年一名」の記録は、北の収容所で途切れていた。

「収容所の台帳は?」

「焼失したと報告されています。でも、焼けた日付がおかしいんです」

俺は紙を見比べた。

収容所が火事になったのは、部隊が撤収した二日後。

ところが火災報告書には、撤収前の担当官の署名がある。

「先に書かれた報告書か」

「少なくとも、調べる価値があります」

リリスはグラディ村から届いた手紙を開いた。

ユアンの兄が、弟の履いていた靴のことを書いていた。

『右足の紐だけ、青い糸で結んでいた。

母さんが縫ったものだ』

名簿にない少年を、名前だけで探すのは難しい。

だが小さな特徴なら、覚えている者がいるかもしれない。

俺たちはスーシャ、ゾイドの監査官、魔王領の立会人とともに北へ向かった。

収容所の門は半分崩れ、見張り台には鳥が巣を作っていた。

奥の倉庫には焼け焦げた帳面が積まれている。

「ここに子供がいたのか」

リリスが小さく尋ねた。

「捕虜だけじゃない。家族と離れた避難民も集められたらしい」

俺は壁に刻まれた背丈の印を見つけた。

子供たちが自分の身長を比べた跡だ。

線の横に、小さな鳥の絵がある。

「白い鷹の印か?」

「違います」とスーシャ。

「これは子供が描いた鳥です」

彼女は膝をつき、壁の下の文字を読んだ。

『ユアン また帰る』

胸が強く鳴った。

文字は乱れていたが、確かにその名だった。

「生きてここにいた」

「ここにいたことは分かります。でも、今どこにいるかは……」

スーシャは慎重だった。

希望を確定した事実に変えないためだ。

倉庫の奥で、錠の壊れた箱を見つけた。

中には靴が何足も入っている。

青い糸の結ばれた靴が一つあった。

リリスがそっと持ち上げる。

「これを兄さんに見せましょう」

「まだ本人のものとは限らない」

「ええ。だから、確かめてもらうんです」

そのとき、門の外で馬の嘶きが聞こえた。

黒い外套の男が二人、立会人の荷車を調べていた。

「誰だ!」

俺が声をかけると、男たちは走り出した。

追おうとした俺の前に、リリスが立った。

「帳面を守ってください。火をつけるつもりかもしれません」

彼女の言う通り、倉庫の外壁に油の匂いがした。

俺は男たちを追うのをやめ、井戸の水で壁を濡らした。

スーシャが帳面を運び出す。

やがてゾイドの監査官が一人を捕らえた。

男は元収容所の雑役で、今は運送商会に雇われていると話した。

「帳面を燃やせと言われた。中身は知らない」

「誰に?」

「名前は聞いてない。金を渡されたんだ」

男の懐から銀貨と小さな札が出た。

札には、穀物商会の印が押されていた。

夕方、収容所から出てきた元看守を訪ねた。

老人は俺たちを見るなり門を閉めようとしたが、スーシャが靴を示すと手を止めた。

「その青い糸……覚えている」

「少年はどこへ行った?」

「冬の前に、子供だけ別の施設へ移された。南の修道院だ。名前を記すことは禁止されていた」

「なぜ禁止された?」

老人は俯いた。

「戻る家があると分かれば、引き渡しを求められる。あの連中は子供を手放したがらなかった」

収容所の壁の文字を写すとき、スーシャは紙を強く押さえすぎて破いてしまった。

「大丈夫か?」

「すみません。昔、神殿で保護された子供たちの名簿を見たことがあるんです」

彼女は破れた紙を畳んだ。

「私は祈ることしかできませんでした。子供たちがどこへ行くのか、尋ねることも許されなかった」

「今は尋ねられる」

「はい。だから、必ず確かめます」

移送された子供の人数と、記録に残る人数は一致していなかった。

スーシャは空欄に線を引かず、「未確認」と書いた。

いないことにされていた命を、勝手に数え終えてはいけない。

俺は彼女が震える理由を、ようやく少し理解した。

勇者だった俺は、戦場の敵ばかり見ていた。

戦争を支える書類の陰で、誰が消されていたのか知らなかった。

元看守の家には、古い箱が残っていた。

彼は最初、開けるのをためらった。

「ここには、あの子たちから預かったものがある」

箱の中には木彫りの鳥、紐の切れた首飾り、小さな石が並んでいた。

「移送されるとき、持ち物を取り上げろと命じられた。捨てられなかったんだ」

リリスは品物を一つずつ布の上に並べ、形を記録した。

「持ち主が見つかったら返しましょう」

「今さら返して、許されるかね」と老人。

「許されるかどうかは、持ち主が決めます」

彼女の声は静かだった。

老人は長く俯いたあと、南の修道院へ向かう道をさらに詳しく描き始めた。

途中の渡し場、冬でも通れる山道、当時使われていた馬車の印。

「青い糸の靴の子は、馬車の最後尾にいた。ほかの子に毛布を渡していたよ」

俺は息を呑んだ。

「名前を呼ばれていたか?」

「ユアン、と聞いた気がする。だが、十年以上前のようにも感じる。間違っていたらすまない」

「それで十分だ。ありがとう」

収容所を出る前、俺は壁に残った子供たちの背丈の印をもう一度見た。

名前の分からない線も、消してはならない。

スーシャは一つずつ写し取り、記録の余白に発見場所を記した。

ユアンだけを探して帰るのではない。

この場所から消えた子供たちの行方も、調べ続けなければならなかった。

帰りの馬車で、俺はユアンの兄への手紙を書いた。

『北の収容所で、ユアンの名が刻まれた壁を見つけた。

青い糸の靴も見つかった。

本人の行方はまだ分からない。

次は南の修道院を調べる』

書き終えてから、最後の一文を付け加えた。

『必ず生きているとは言えない。

でも、探すことをやめない』

リリスがその手紙を読み、頷いた。

「約束は、都合のいい答えを届けることじゃありませんね」

「ああ。確かめたことを届けることだ」

帰り道、リリスが言った。

「ユアンが生きていたら、兄さんは喜ぶでしょうね」

「そうだな。でも、確かめるまで知らせ方を考えよう」

「希望だけを先に届けるのは、残酷なこともあります」

俺は頷いた。

あの村で名前を預かった日から、何度もこの瞬間を想像した。

だが、見つかったのは靴と、次の場所への道だけだ。

それでも俺たちは、一歩進んだ。

収容所の壁に刻まれた『また帰る』という文字が、頭から離れなかった。

俺は青い糸の靴を布に包み、荷車の奥へしまった。

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