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魔王を倒した翌日、勇者の俺が世界から指名手配された ~裏切った王国を追われたので、魔王の娘と戦争を終わらせます~  作者: レモンティー


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第二話 魔王の娘に案内された先は、滅亡寸前の魔族の村だった

村へ続く道は、馬車一台がようやく通れるほど細かった。

道端の標識は折れ、畑の境目には焼けた杭が残っている。

人間の村と変わらない。

違うのは、家々の屋根に黒い角を模した飾りがついていることだけだった。

「魔族は人間を見たら襲うと教えられた」

俺が言うと、リリスは歩みを止めた。

「私たちも、人間は赤ん坊まで殺すと教えられました」

「……そうか」

「父は、どちらの話にも嘘と本当が混ざっていると言っていました」

道の先に焼けた納屋が見えた。

井戸の滑車は壊され、畑には馬の蹄跡が深く残っている。

踏み荒らされた畝を見て、ここが戦場ではなく生活の場だったことが分かった。

村の老人は俺の顔を見るなり鎌を握った。

リリスが制止しても、怒りは消えない。

老人の背後で、幼い子が泣き始めた。

俺は聖剣から手を離した。

「武器を持っているのは、そちらだけでいい」

「勇者が丸腰を装ったところで、何の意味がある!」

「意味がないなら、それでもいい」

俺は膝をついた。

老人は鎌を振り下ろさなかった。

俺の背中に石が当たり、痛みが走った。

だが、石を投げた子供を責めることはできない。

納屋の梁が落ちた瞬間、誰もが一斉に走った。

俺は聖剣の力で梁を支えたが、狭い隙間に子供を通すには人手が要る。

「右の柱を押さえてくれ!」

老人がためらった。

リリスが叫ぶ。

「ダグ、今は子供たちを!」

老人は鎌を捨て、俺の隣で柱を支えた。

腕が震え、崩れた木材が軋んだ。

二人の子供を外へ出したとき、俺たちは同時に尻もちをついた。

「……助かったのか」

老人が呟いた。

俺は息を切らしながら頷いた。

「まだだ。妹の足が折れている」

治療はリリスが引き受けた。

俺の聖属性魔法が魔族に安全かどうか、誰も保証できない。

いつもなら真っ先に回復魔法を使う場面で、何もできないことが歯がゆかった。

代わりに布を裂き、添え木を用意し、水を運んだ。

井戸には焦げた縄が垂れ下がっていた。

滑車の軸を外して磨き、折れた木枠を組み直す。

手先の器用さには自信がなかったが、旅の途中で壊れた荷車を直した経験が役に立った。

「そんなに強いなら、魔法で水を出せばいいだろう」

村の青年が皮肉を言った。

「出せる量には限りがある。それに俺がいなくなったあと、井戸が壊れたままだと困る」

青年は縄を結びかけて、手を止めた。

「俺の弟ユアンは王国軍の荷車を追いかけて、そのまま帰らなかった。あんたの手を借りるくらいなら、井戸なんか要らない」

縄が地面に落ちた。

俺は拾わなかった。

「そう言う権利はある。でも、あの子たちには水が要る」

青年は歯を食いしばった。

しばらくして、自分で縄を拾い、俺の隣で結び始めた。

許されたわけではない。

ただ、今夜飲む水を選んだのだ。

夕方には井戸から水が上がった。

子供たちが木桶を持って集まり、少しだけ村に声が戻った。

炊事場では、女たちが残った根菜を煮ていた。

鍋の中身は薄い。

俺は携帯食を差し出したが、三十人分にも足りない。

「なぜ王国軍は穀倉を燃やしたんだ」

俺の問いに、村長ダグは鼻を鳴らした。

「魔王軍に渡す食料を断つためだそうだ。ここにいたのは老人と子供ばかりなのにな」

「討伐隊の指揮官の名は?」

「紋章は見た。白い鷹だ」

俺は息を呑んだ。

白い鷹は王国の東部方面軍の印だった。

俺も何度か共に戦ったことがある。

戦場では補給を守る優秀な部隊だと聞いていた。

彼らが民間人の食料を焼いたのか、それとも命令に逆らえなかったのか。

確かめる必要があった。

夕食のあと、助けた兄妹の兄が近づいてきた。

手には小さな木の笛がある。

「これ、父ちゃんが作ったんだ」

「いい笛だな」

「父ちゃん、兵隊に連れていかれた。帰ってくる?」

俺は答えられなかった。

少年は俺の聖剣を見た。

「強いんだろ。なら、探してよ」

「……約束はできない。でも、調べる」

少年は頷いた。

大人の曖昧な返事を、もう何度も聞いてきた顔だった。

ダグは村の人数を木板に書き出した。

大人が二十七人、子供が十九人。

動ける者は少なく、怪我人が七人いる。

「村を再建するには、まず何が必要だ?」

「麦だ。次に屋根。冬が来る前に雨を防げなければ、食料があっても病人が増える」

俺は瓦礫の山を見た。

魔王を倒すまで、村の暮らしを数字で考えたことがなかった。

剣を振れば敵が減る。

だが、家を一軒建てるには木材も釘も人手もいる。

「隣村から職人を呼べないか」

「人間の町に行けば、魔族というだけで捕まる」

リリスが地図を広げた。

「北の谷に古い木橋があります。そこが使えれば、魔族の集落同士で物資を運べます」

「橋の状態は?」

「最後に使ったのは二年前です」

俺はダグに言った。

「明日は橋も見に行く。麦を運ぶ道がなければ、食料を手に入れても意味がない」

村長は俺をじっと見た。

「勇者殿。お前は何をすれば許されると思っている?」

「分からない」

「なら覚えておけ。橋を直しても、死んだ者は戻らん」

「分かっている。だから、許してもらうための仕事にはしない」

ダグはようやく視線を外した。

その晩、兄妹のために作った添え木を確認すると、妹の熱が少し下がっていた。

リリスは眠りかけた子供の額に手を当て、静かに息を吐いた。

救える命がある。

その事実を、俺は今度こそ見落としたくなかった。

夜、リリスが村の外れで待っていた。

焼けた畑を見つめる横顔は、年齢よりずっと大人びていた。

「私があなたをここへ連れてきたのは、謝らせるためだけではありません」

「分かっている」

「父が死んでから、国境の襲撃が増えました。王国は勝ったのに、まだ戦争を続けています」

俺は魔王の結晶を握りしめた。

王国が戦争を終わらせたくないのなら、この村の焼け跡は偶然ではない。

「まず食料を運ぼう。そのあとで、白い鷹の部隊を調べる」

「危険ですよ。あなたは指名手配されています」

「もう十分危険だろ」

リリスは一瞬だけ笑いかけ、すぐに真顔に戻った。

「勘違いしないでください。まだあなたを許してはいません」

「何度でも言ってくれ。忘れずに済む」

村の灯りは少なかった。

それでも、直した井戸のそばで子供が水を飲んでいた。

俺はあの小さな光景を守りたいと思った。

夜半、直した井戸のそばで、昼間の青年が俺を待っていた。

「昼間は言えなかった。ユアンは十二だ。白い鷹の紋章を見たら、捕虜の名簿を確かめてくれ」

「ああ」

「見つからなかったら、見つからなかったと言え。都合のいい嘘だけはつくな」

「白い鷹の部隊が連れ去った日付は?」

「秋の初め、三日続いた雨の二日目だ。弟は左足の靴紐だけ赤かった」

俺は地図の裏に日付と特徴を書きつけた。

名前のない捕虜を探すには、名前以外の手掛かりが要る。

青年は懐から割れた木の笛を出した。

「ユアンは、これを吹けば俺が迎えに来ると思ってた。襲撃の日も、ずっと吹いていたそうだ」

吹き口には小さな歯形が残っていた。

「俺は村の反対側にいた。音が聞こえたのに、燃えている家へ向かった。戻ったとき、荷車も弟も消えていた」

青年の指が震える。

「勇者なら、どっちを助ける?」

俺はすぐには答えられなかった。

倒すべき敵がいれば、迷わず剣を振れた。

だが火と人命の間に正解を見つける力など、聖剣はくれない。

「今の俺には弟を連れ戻すと約束できない。でも捕虜の記録を探す。もし見つかったら、まずお前に伝える」

「……英雄らしくない答えだな」

「英雄の答えで弟が戻るなら、いくらでも言う」

青年は笛を握り直した。

「生きていなくても、隠すなよ」

「隠さない」

青年はそれだけ聞くと、笛を唇に当てた。

音は出なかった。

「弟が戻ったら、今度は俺が迎えに行く」

そう言って、青年は家へ戻った。


翌朝、捜索に出る者のために、彼は自分の食事を半分包んで置いていた。

俺はその包みを受け取り、必ず戻って報告しようと決めた。

俺は地図の余白にその名を書き、ダグに預ける物資の目録にも署名した。

守れなかった約束の数を、もう曖昧にしないために。

地図の端に書いた「ユアン」の文字が、夜露で滲みかけていた。

俺は指で押さえ、乾くまで待った。

人を探すという約束は、剣を抜くよりずっと時間がかかる。

だからこそ、忘れずに持ち歩く必要があった。

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