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魔王を倒した翌日、勇者の俺が世界から指名手配された ~裏切った王国を追われたので、魔王の娘と戦争を終わらせます~  作者: レモンティー


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第十八話 王宮地下で始まった、最後の勇者召喚

国王の行方を追うと、王宮の奥に秘密階段が見つかった。

地下へ降りる前、俺は伝令を門へ走らせた。

炉に魔族の紋章があると分かった以上、リリスが必要だった。

召喚記録に名のあった少年ルカにも、地下で何が起きているかを知らせねばならない。

守備隊長は事情を聞くと、追加の二人だけを通した。

二人が城門をくぐるまで、俺たちは階段口で待った。

少年には地上に残る道も示した。

彼は石の手すりを握ったまま動かなかったが、やがて自分の足で一段目を降りた。

俺たちはその後に続いた。

グレンは聖剣を携えて駆けつけたが、城門を離れる兵を増やせないという。

「剣を渡したら、俺は門へ戻る。何かあれば伝令を寄越せ」

「ああ。地上は頼む」

俺は聖剣を受け取り、グレンが引き返すのを見届けた。

秘密階段の壁には、代々の王家の紋章が刻まれていた。

古い紋章は欠け、新しいものだけが金箔を残している。

「王は、この地下を知っていたのか」

「少なくとも、鍵は代々引き継がれてきたはずです」

スーシャの返事を聞きながら、俺は鞘の聖剣に触れた。

王宮の誰かを斬るためではない。

地上の人々を生かすために使う。

階段の壁には、細い魔力の溝が走っていた。

スーシャが触れると、白い光が指へまとわりつく。

「神殿の祈りが、ここへ吸い込まれています」

反対側の溝には黒い光が流れていた。

リリスの顔が強張る。

「こちらは魔族領から。恐怖と絶望まで集めている」

装置は地下に隠されている。

だが、奪われているものは地上の人々の願いそのものだった。

最下層の扉を開けると、恐怖収集炉の前に宰相ベルガンと国王ローゼンハイム三世がいた。

炉の中央では巨大な魔法陣が回転している。

スーシャが外周の三つの環を指した。

「第一環は人々の祈りと恐怖を吸い込む入口。第二環は蓄えた魔力を逃がさない弁。第三環はその力を召喚陣へ送り込む出口です」

「入口を止めれば終わるのか?」

「いいえ。中に溜まった力は残ります。先に入口を断ち、墓所へ通じる安全弁を開いてから、最後に出口を閉じなければ、王都へ逆流します」

俺は三つの環の位置を目に焼きつけた。

力任せに炉を壊せば、街ごと吹き飛ぶ。

だからこそ、誰か一人の剣では止められない。

国王は玉座のない地下でも威厳を取り繕った。

「勇者ユリウス、そなたは王国の秩序を乱した」

「その秩序のために、何人死なせた?」

「国を治めるには犠牲が――」

「犠牲になる者の名を、一人でも知っているのか」

王の視線が宰相へ逃げた。

ベルガンは薄く笑う。

「陛下は仕組みまでご存じなくてよいのです」

王が知らなかったことと、責任がないことは違う。

だが、裁くのはこの場の俺ではない。

「まだ続ける気か!」

「お前が真実を広めたせいで、炉の力が足りなくなった。ならば恐怖を作り直せばよい」

「次の勇者を召喚するのか?」

「勇者ではない。今度は本物の災厄を呼ぶ」

魔法陣から黒い影が伸びた。

王都の上空に裂け目が開き、巨大な獣の輪郭が浮かぶ。

国王が震えながら言った。

「ベルガン、こんなものは聞いておらぬ!」

召喚陣が暴走し、地下の床に亀裂が走った。

階段を伝って粉塵が降り、上から避難の鐘が聞こえる。

鐘が二度鳴ったところで、重い破砕音が割り込んだ。

伝令が手すりにしがみつく。

「東の塔が傾いています! 下敷きになった人が!」

俺は階段へ足を向けたが、炉から噴き出した熱風に押し戻された。

救いに行くためにも、まずこの装置を止めなければならない。

リリスが回路に刻まれた父の紋章を見つけた。

「停止用の印です。でも、魔族の印だけでは動かない」

スーシャが隣に立ち、聖印を重ねる。

二つの紋章の間に、かすかな光の道が生まれた。

「人間と魔族、両方の力が要るんですね」

「ええ。今度は一緒に止めましょう」

リリスが頷く。

二人の指が触れたところだけ、黒ずんだ回路が白く戻った。

階段の陰で少年ルカが立ち尽くしていた。

手首の召喚契約が黒く光る。

「怖いか?」

「うん。でも、見ていたい」

落石が靴先で砕けた。

俺が差し出した手を握り返し、少年は石碑を見つめた。

石碑にはスーシャを育てた神殿長老の署名もあった。

彼女は一瞬息を止め、それでも顔を上げた。

「真相は後で確かめます。今は皆を助けます」

天井が軋み、砂が肩に降りかかる。

リリスは父の紋章から伸びる細い回路を、指先でたどった。

その先は、歴代勇者の墓所へ続いていた。

「父は……壊すだけでなく、逃がす道も残していた」

リリスは紋章に触れ、震える指を押さえた。

スーシャが第一環へ聖印を重ねると、神殿につながる溝から白い光が噴き上がった。

地上で救助の鐘が鳴るたび、炉の光が強まる。

「祈りまで吸い込んでいる……ここで断ちます!」

彼女は膝をつき、焼ける掌を刻印に押し当てた。

炉へ注ぐ線が一本消え、また一本消える。

腕の火傷が広がっても、スーシャは手を離さなかった。

リリスが父の結晶を第二環へ近づけると、閉じた弁が震えた。

圧力計の針は赤い端に張りついている。

「墓所が開く前に弁を動かせば、街へ魔力が噴き出す!」

その横で第三環の黒い導線が天井へ伸び、裂け目から突き出した獣の爪が床を抉った。

あの線を切れば獣は止まる。

俺が聖剣を構えると、圧力計が激しく赤く明滅した。

「待って! 先に溜まった魔力を逃がさないと、街へ逆流する!」

リリスが俺の手首を掴んだ。

俺は刃を止めた。

地上で塔が崩れる音がした。

助けを急ぐほど、剣を振るえない。

そのとき、床の亀裂が少年の足元まで伸びた。

俺が肩を引き寄せると、彼は震える指で石碑を指した。

「僕が読まなかったら、みんな死ぬの?」

「俺たちは守る。だが、読むかどうかはお前が決めろ」

少年は石碑に手を伸ばした。

『勇者ならば命令に従え』

召喚契約の黒い糸が手首を締め、指が勝手に開く。

俺が聖剣を近づけると、糸はさらに食い込んだ。

「くそっ……!」

少年は声を殺し、震える手を胸に押しつけた。

まだ答えは出せない。

それでも石碑から目を逸らさなかった。

「陛下。あなたは利益を受け取るだけでよかった。仕組みを理解する必要はない」

宰相は王を押しのけ、炉へ魔力を注いだ。

第三環が逆回転し、墓所へ続く安全弁が閉じかける。

「今なら宰相を止められます!」

階段口に戻った伝令が叫んだ。

ベルガンは無防備だった。

俺が一太刀振るえば、これ以上の操作を止められる。

だが、ここでベルガンを斬りに走れば、暴走した第三環を一時的に押さえる者がいなくなる。

炉からあふれた魔力は地上へ流れ込む。

「ユリウス、選んで!」

リリスが叫んだ。

俺はベルガンではなく、第三環の制御溝に聖剣を突き立てた。

召喚回路を切るのではなく、暴走する流れを一時的にせき止める。

剣身に亀裂が走り、腕の古傷が開く。

「王を裁くのは、生き残った人間の仕事だ。今は街を守る!」

スーシャの掌の下で刻印が消えていく。

最後の一本だけが黒く脈打ち、地上から祈りを吸い続けた。

「最後の一本が……!」

スーシャは焼けた掌を押し当て直した。

焦げた匂いが立ち上る。

「手を離せ!」

「離したら、街の人の祈りまで獣の餌になります」

俺は第三環を押さえたまま、彼女に駆け寄ることすらできなかった。

スーシャは歯を食いしばり、最後の刻印に聖印を押し込んだ。

黒い脈動が途絶え、炉へ向かう光の線が消えた。

彼女は焼けた掌を引き、息を整える。

「第一環は止めました。あとは墓所の安全弁を開いて、溜まった魔力を逃がすしかありません!」

リリスは閉じた切替弁を押さえ、頷いた。

少年ルカは手首の黒い糸を押さえ、石碑に刻まれた名を一つずつ目で追っていた。

俺は階段口の伝令に、グレンとゾイドへ避難誘導を頼むよう告げた。

地上の救助は仲間に託す。

俺は剣を制御溝に押しつけ、震える刃を支え直した。

ベルガンが叫んだ。

「やめろ! これがなくなれば王国は弱くなる!」

俺は答えた。

「弱くなってもいい。人を犠牲にして強い国なんて、もういらない」

召喚陣が激しく光った。

裂け目から伸びた爪が王城の塔を砕く。

残された時間はわずかだった。

制御盤の赤い目盛りが一つ上がるたび、地下の床が跳ねた。

針が最上段に届けば、第三環を塞いでいる聖剣ごと制御溝が砕ける。

「あと三目盛り!」とリリスが叫ぶ。

地上から二度、救助の鐘が聞こえた。

俺はその音を数える代わりに、剣を押す腕の力を数えた。

次の一度で限界だ。

「第一環を閉じる。第二環は急に切るな、圧力を逃がせ!」

スーシャの声が、崩れかけた通路に響いた。

俺は聖剣を押さえながら、リリスに目で合図した。

装置を止める順番は分かった。

だが、その間、裂け目から出てくるものを誰かが食い止めなければならない。

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