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魔王を倒した翌日、勇者の俺が世界から指名手配された ~裏切った王国を追われたので、魔王の娘と戦争を終わらせます~  作者: レモンティー


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第十七話 王国の真実を知った民衆が、王城の門を埋め尽くした

王都の広場には、何千人もの人々が集まっていた。

商人が帳簿を掲げ、兵士が命令書を読み上げ、聖職者が歴代勇者の記録を説明する。

すべてを一度に信じる者ばかりではない。

それでも、誰もが問い始めていた。

王城へ向かう群衆の中には、怒りに任せて石を持つ者もいた。

父を戦争で失った青年が、城壁を見上げて叫んだ。

「もう話し合いなんかいらない! 王を引きずり出せ!」

周囲から賛同の声が上がる。

俺は青年の前へ出た。

「気持ちは分かる。でも、石を投げれば城壁の兵士も撃ち返す」

「お前は強いからそんなことが言えるんだ!」

青年の言葉が胸に刺さった。

「そうだ。俺には剣がある。だからこそ、剣を使わずに済む道を先に試したい」

「父ちゃんは戻ってこない!」

「戻ってこない。俺にも戻せない」

俺は頭を下げた。

「でも、今日ここで別の誰かの父親が死ぬのは止めたい」

青年は石を握ったまま黙り、やがて足元に落とした。

商人代表は、王宮に提出する質問状を用意していた。

穀物の仕入れ記録、戦争費用、聖女の投獄命令、歴代勇者の記録。

どれも答えを曖昧にできないよう、日付と担当者名を添えている。

「王が答えなければ?」

俺が尋ねると、商人は静かに言った。

「答えないという事実を、民に知らせます」

スーシャは神殿の代表に声をかけた。

神官たちは意見が割れていたが、少なくとも公開の場で記録を確認することには賛成した。

「信仰を守ることと、王宮の嘘を守ることは違います」

年老いた神官の言葉に、スーシャは深く頭を下げた。

広場の端で、戦災孤児の母親が小さな靴を抱えていた。

「息子は勇者様に憧れていたんです。王にあの子の名を覚えているか聞きたい」

俺は返す言葉を探せなかった。

そのとき城門の上から矢が放たれ、俺の光の壁には無数の矢じりが突き刺さった。

矢を射た兵士たちの顔も青ざめていた。

命令に従うしかない者と、家族を守りたい者が、同じ場所に立たされている。

ゾイドが大声で叫んだ。

「守備隊長! 私の声が聞こえるか!」

「将軍……!」

「門を開けろとは言わん。負傷者を出す前に、発砲を止めてくれ!」

守備隊長はしばらく動かなかった。

「発砲停止は、王命への反逆になります」

城壁から絞り出すような声が届く。

ゾイドは自分の将軍章を外し、門前の石畳へ置いた。

「責任を問うなら私を先に裁け。ここにいる兵の名を、命令書に書くな」

隊長は将軍章を見つめ、やがて旗を下ろして弓兵に待機を命じた。

群衆から安堵の声が漏れる。

誰も勝ってはいない。

それでも、誰も死ななかった。

その事実が、次の言葉を交わす時間を作った。

矢が止むと、守備隊長は城門の小窓から告げた。

「国王への面会を取り次ぐ。だが、武装したままは通せない」

「武器を預ける。民の代表も同席させてくれ」

隊長は返事を保留した。

誰かが怒鳴れば交渉は壊れる。

俺は拳をほどいた。

城壁の弓兵も、門前の民も、隊長の返答を待っていた。

城門の前に、火のついた矢が一本落ちた。

群衆がどよめく。

火矢は兵士の列からではなく、路地の屋根から飛んできた。

「王宮が撃ったぞ!」

先ほど石を捨てた青年が叫び、門へ走り出す。

「待て! 射手は城壁じゃない!」

ゾイドが路地を指さした。

黒衣の男が屋根から降り、群衆に紛れようとしている。

俺は追おうとして足を止めた。

今ここで門の前を離れれば、群衆が暴走する。

「青年、火を消してくれ。あの男はゾイドの兵に任せる」

青年は歯を食いしばった。

先ほど石を投げずに済んだその手で外套を脱ぎ、火を踏み消した。

「俺の父を殺した奴らを守れっていうのか」

「守っているのは、ここにいる人の明日だ」

青年は答えなかった。

それでも、次の火の粉を踏み消した。

屋根から逃げた射手はゾイドの兵に取り押さえられた。

火矢が王宮から放たれたものではないと分かり、群衆は門の前で踏みとどまった。

日が傾いても門は閉じたまま。

城壁の兵も、下の民も、次の一矢を恐れていた。

パン屋が薄いスープを配り始めると、先ほど石を握っていた青年が器を運んだ。

「まだ王を許したわけじゃない」

彼は俺を見ずに言った。

「許さなくていい。まず、隣の人に熱いものを渡してくれ」

青年は次の器を手に取った。

さっき石を投げようとした手で、こぼれないように縁を押さえた。

門の向こうの兵士にも一杯届けたいという声が上がった。

「矢を射た連中にか?」

誰かが怒鳴る。

遺族の女が静かに答えた。

「飢えた兵士が怖くて撃つなら、食べさせてから話を聞けばいい」

俺はその言葉に頷いた。

城壁の小窓から縄が下ろされ、湯気の立つ器が一つずつ引き上げられた。

最初の器を受け取った兵士は、何も言わずに頭を下げた。

それだけで憎しみが消えるわけではない。

けれど、矢が飛ぶ代わりに器が行き来している。

城壁の向こうへ渡った温かな器は戻ってこなかった。

代わりに小窓から空の水筒が下りてきた。

底には、震える文字で「兵にも子がいる」と書かれていた。

火を囲む人々のそばで、商人は帳簿を守り、神官は負傷者を診た。

誰かが勝手に代表を名乗るのではなく、地区ごとに話し合って質問をまとめている。

俺はその輪を見て、王国を変えるのは聖剣一本ではないと知った。

自分の声を持ち始めた人々こそ、王宮が最も恐れていたのだろう。

商人代表は、評議の輪の中で腕を組んだ。

「門が開いたら、誰が倉の鍵を持つ? 王を追い出しても、明日の配給が止まれば暴動になる」

遺族の女が言い返した。

「その前に、死んだ息子の命令書を見せてもらう!」

どちらも譲らない。

俺は二人に頭を下げた。

「調査と配給を同じ日に始めよう。片方だけを後回しにしたら、また誰かが見捨てられる」

誰も拍手しなかった。

商人代表が配給の欄を書き、遺族の女が調査の欄に息子の名を記した。

別々だった議題が、同じ一枚の紙に並んだ。

人間と魔族、双方の戦死者の名が読み上げられた。

その声を遮るように、城門の上へ宰相ベルガンが姿を現した。

「民よ、反逆者に惑わされるな!」

群衆から声が返る。

「なら、帳簿を見せろ!」

「勇者の墓は本物か!」

宰相は答えなかった。

代わりに、開きかけていた内門を閉じるよう命じた。

守備隊長が取り次いだ面会の約束さえ、宰相は踏みにじろうとしていた。

俺は前へ進んだ。

「ベルガン! 王に伝えろ。俺たちは王位を奪いに来たんじゃない。真実を確かめに来た!」

「貴様の存在そのものが反逆だ!」

「なら、民全員を反逆者にするつもりか!」

城壁の兵士たちが互いの顔を見た。

夜が更けるころ、守備隊長が再び門の小窓を開いた。

彼の背後には、先ほど温かい器を受け取った若い弓兵が立っていた。

「隊長。命令が出たら、またあの人たちを撃つんですか」

答えられないまま、隊長は門外にいる兵士の母親を見た。

そして王宮の封蝋がついた命令書を、皆の見えるところで二つに破った。

「宰相は面会を禁じた。従えば、門前の民を反逆者として拘束しろとも書いてある」

隊長は破れた紙を足元に落とした。

背後の副官が一歩退く。

命令違反の証人が、ここに何十人もいる。

「門の外にいるのは敵だけじゃない。俺の家族も、俺が守ると誓った民もいる」

その声は震えていたが、鍵を持つ手は揺れなかった。

「代表五名だけ通す。武器は預かる」

城内へ入る直前、兵士の母親が声を上げた。

「王を倒すなら、うちの息子も殺すのかい」

「殺さない」

俺は答えた。

「でも、息子さんが何を命じられたのかは調べる。罪まで見なかったことにはできない」

母親は唇を噛み、道を空けた。

俺は聖剣をグレンに預けた。

スーシャ、ゾイド、商人代表、戦災孤児の母親とともに門をくぐった。

リリスと少年ルカは門の外に残った。

二人とも炉を止める鍵になるかもしれないが、五名という約束をここで破れば、門を開けた守備隊長まで危うくなる。

「地下への道が見つかったら伝令を出す。それまでは避難を頼む」

リリスは不満そうに眉を寄せたが、少年の肩に手を置いて頷いた。

「必ず呼んでください。父の残したものを、あなた一人で背負わせません」

廊下には食事の盆が置き去りにされ、衛兵は誰も目を合わせなかった。

俺たちを迎えたのは王の命令ではなく、逃げた者の足跡だった。

門の向こうには、誰も座っていない玉座が待っていた。

国王は姿を消していた。

玉座の肘掛けには、まだ温かい蝋が垂れていた。

急いで持ち去った書類の跡だけが、机に四角く残っている。

「逃げた先を追いますか」とグレンが問う。

俺は廊下に積まれた未処理の救援申請を見た。

「追う。だが、まずこの申請を運び出す。王がいなくなっても、待っている人は消えない」

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