14-32 次の部長はだぁれ?
毎度のことながらお待たせしました!
本日もよろしくお願いします。
年が明け、命子たちはいま修行部のコンちゃん部長に呼び出されていた。
場所は修行部部長執務室。
執務室というと偉そうだが、生徒たちが買ってきた日本全国のタペストリーや、謎のお土産で雑多に飾られ、冷蔵庫や電子レンジ、給湯ポットなどが置かれて、かなり好き勝手やっている部屋である。
部屋にいるのは命子、ささら、ルル、メリス、そしてコンちゃん部長で、他には誰もいなかった。
ここは命子たちにとっても勝手知ったる部屋である。命子たちは自宅のようにソファでくつろぎ、ささらは手際よくお茶を淹れる。
「くつろぎすぎじゃね?」
上履きを脱いでソファの上であぐらをかく命子やソファに寝転がるルル、勝手に冷蔵庫を開けるメリスのやりたい放題に、コンちゃん部長が思わずツッコンだ。
「コンちゃん殿、プリン食べて良いでゴザルか?」
「あっ、私も欲しい」
「ワタシも食べるデス」
「聞いてる?」
ささらがお茶を出してくれて、命子たちは強奪したプリンを食べつつ、話を聞く体勢になった。
「それで今日はどうしたんですか?」
「来年度の新部長の件だよ」
「もうそんな時期ですか」
「普通の部活なら滅茶苦茶遅いよ。普通の部活なら夏の大会や秋の文化祭を最後に新部長へ引き継ぐからね」
「もう1月ですよ! なにやってるんですか!」
命子が言うと、コンちゃん部長はパンと手を叩いてから命子を指さし「ほんそれ!」と笑った。
「まあ、石音先輩とか卒業式に引き継いだから、それに比べればマシか」
「ううん、私も実際に指名するのは卒業式にやるよ。あれ、マナ進化を抜かせば、私の人生で一二を争うレベルで感動したから」
初代部長である石音縁は自身の卒業式の日に、修行部ボスを示すロングコートと共に、部長職を引き継いだ。コンちゃん部長はそれが素晴らしい思い出になっていた。
「でも、あれのせいで石音先輩とコンちゃん部長、春休みにずっと学校に来て引き継ぎしてたじゃないですか」
「卒業してもずっと一緒でめっちゃ嬉しかったが?」
「さよで」
「勘違いしないでほしいのは、命子ちゃんを部長にしようってんじゃないの」
「ふむ」
「命子ちゃんとは初代からの盟約があるからね。ささらちゃんたちとはそう言うのはないけど、選ぶつもりはないよ」
盟約という中二病的な単語に、命子の心はちょっとざわざわ。
そんな命子だが、永世名誉部長になる代わりに部長職に指名されないという盟約を石音元部長と交わしている。サザエの身の部分だけを食べるような美味しい役職である。
「みんなに来てもらったのはアドバイザーとして。みんなから見て、誰がいいと思う?」
「ここにきて初めて名誉部長っぽい仕事が来ましたね」
「そんなことないよ。命子ちゃんが学校の顔をしていたから、私も縁お姉様もずいぶん助かったし」
「そうっすかね」
「そうだよ」
命子は仲の良い先輩からそう言われて、ちょっとしんみりした。まだ3年生は自由登校が始まっていないが、そろそろそんな時期になるので、余計に寂しさを感じる。
「次の部長か。コンちゃん部長のパーティって2年生は……いないか」
「そうなのよ。マジで失敗したわー。縁お姉様はこういったことを見越して私たちを冒険に連れて行ったんだなって、今ならわかるわ」
命子は余計なことを言わないために、ささらが淹れてくれたミルクティーをクイッと呷った。
命子は『絶対にあの人はそんなことを考えていなかった』と確信していた。
コンちゃん部長が石音元部長とつるみ始めた頃はまだ、ダンジョンとはおっかなびっくり入るような場所だった。石音元部長の風女総魔法少女化計画にいち早く賛同してダンジョンに飛び込んだ子の一人が当時2年生のコンちゃん部長だったため、その後も連れまわしているだけだったように命子には見えていた。
が、コンちゃん部長からすれば、石音元部長に選ばれたというのはかなり誇りに思っているだろうから、それは言わなかった。何か理由を求めるのなら、それは石音元部長の口から貰うべきだ。
「ふーむ、新部長かー」
命子は2年生を思い浮かべる。
「難しいですわね。修行部部長はいまや重責のある立場ですものね」
ささらがそう言うと、コンちゃん部長は大きく頷いた。
「そうなんだよね。学校内だけのことなら確かに割と誰でもできると思うんだ。武闘派の生徒会長みたいなものだしね。だけど、修行部の部長は学校外に対しても、しっかり対応できる人を考えないとダメなんだよ。ほら、大小龍姫祭の時に、六花橋が風女に攻めてきたでしょ?」
「あの時は危なかったでゴザルな」
「イッショクショクパンだったデス」
「一触即発だけど。2人の言うように、ああいうピンチの時に、修行部の部長は私くらい堂々とできないとダメなんだよね」
「トラの前に出された子犬の方がまだ吠えると思えるくらいビビってましたけど」
「ええ? それ、命子ちゃんだけ寝ぼけてた可能性があるね。『ここは風女の敷地です。たとえどなたであろうとも無法は許しません』って私、みんなの前に出て、一歩も引かずに言ってやったけど」
「じゃああとで京極さんに聞いてみますわ。ルインアドレス交換したし」
「やめてやめて」
「コンちゃん部長の妄想はともかくとして。修行部は全国的にすっかりメジャーになっちゃったし、ファンタジー3年目の来年は、どこの学校も、きっとさらに凄い女の子たちを引っ張っていくようになると思うんだよね」
「合同体育祭に出た他の4校の部長も、皆さんとてもカリスマ性のある方でしたものね」
コンちゃん部長はうんうんと頷いた。
「誰かやりたいって子はいないんですか?」
「いないのよねー」
「まあ、石音先輩とコンちゃん部長のあとで重圧もヤバイでしょうからね。今の2年生って地球さんがレベルアップする前にこの学校に集った、言っちゃえば最後の雑草世代みたいなものだし、そこまでの覚悟を持って入学した子は誰もいないんだよね」
「それもあるね。ヤバいヤツが3人混じってたせいで、強制的にファンタジー最前線の学校になっちゃったけど」
「マジウケる!」
命子が笑い、他の子たちも釣られるようにして笑った。
一頻り笑い、改めて考える。
「ふーむ、良い感じの子デスかー」
「誰がいたでゴザルかねー」
「皆さん素敵な人たちですけどね」
「ナナコちゃんとかどうなの? 精霊さんを連れた部長とかめっちゃファンタジーじゃん」
「ニャーコは配信でみんなを楽しませることはできるでゴザルけど、人を引っ張っていくタイプじゃないでゴザル」
ルルたちはコンちゃん部長を交えて、うーんと考えた。
そんな中で、命子は窓の外を眺めた。
「今年で私たちも3年か」
この校舎から見る冬景色もこれで2回目。
桜舞い散る春景色も、青く眩しい夏景色も、紅葉の秋景色も、どこか寂しさのある冬景色も、あと1回ずつしか巡ってこない。
これまでのことを振り返ってみると、なんだかそれがとても貴重なことのように思えてきた。
ささらは多くの人と出会い、先輩たちの卒業に涙した。
海外移住して心細かったルルや留学してきたメリスには、多くの友達ができた。
そして、自分もまた学年を越えて多くの友達を得て、たくさんの経験をさせてもらい、たくさんの経験をする人たちを見させてもらった。
そんな学校で迎えるファンタジー3年目。
その年を自分はどう過ごすのだろうか。この煌めくような学校で最後に何を得るのだろうか。
そんなことを考える命子の手に触れる手があった。
隣を見ると、ささらがニコリと笑っていた。
「別にいいでゴザルよ」
「ニャウ。何が正解なんかわからないデスからね。メーコのやりたいようにやるデス」
メリスとルルも命子に向けてそんなことを言った。
それを聞いた命子は、『ああ、そうか』と納得した。自分はささらたちにプレゼントしたいのだと。
「どうしたの?」
コンちゃん部長がきょとんとしながら、4人を見た。
命子は苦笑いを少し挟み、真剣な顔をコンちゃん部長に向けて言った。
「新部長の候補がいないのなら、私がなってもいいですか?」
「え、マジで!? え、今のやり取りの中でそういう要素あった!?」
「いやほら、私って文学少女だから。心の中でいろいろ考えるタイプなんですよ」
「文学要素が魔導書を持ってるくらいしかないオラオラ系なんだけど!? いやいや、それはいいとして。いいの?」
「はい。あの卒業式の日、石音先輩が見た景色を見たくなりました。人をマナ進化させるほどの景色を」
「……っ!」
そして、それをささらたちにプレゼントしたい。いま以上に多くの子と関わり、これから入ってくる新1年生たちに心から慕われるファンタジーな学校生活を。それはきっと今後の人生にとても大きな影響を与えるはずだから。
「もちろん、いまの修行部を作るために頑張ってきた子たちを押しのけることはしたくありません。もし、候補がいないのであれば立候補したいです」
「命子ちゃんだって、修行部のためにダンジョン素材をたくさん寄付したり、放課後の修行に参加したり、1年生が入ってきた時だって風見ダンジョン遠征の引率役で何回か参加してくれたりしてるじゃん。十分すぎるほど修行部の名誉部長だよ」
「そう言ってくれたらありがたいです」
「……そっか。じゃあ、本当にいいの? 幹部の子たちに言っちゃうよ?」
「構いません」
「ふふふっ。命子さんが部長をするのなら、わたくしも何かお手伝いしますわ」
「コンちゃん殿、拙者は修行部の隠密になるでゴザル! 敵学校の情報を盗んでくるでゴザルよ!」
「にゃーっ、取られたデス! じゃあ、ワタシはペット役になるデス!」
「いや、隠密とかねえから! だけど、これは大変なことになったよ!」
コンちゃん部長は興奮して立ち上がり、わたわたと手を動かした。
「そ、そうだ。紫蓮ちゃんにも言っておくんだよ。新2年生も幹部の枠があるんだからね」
「はい。それじゃあ、そういうことでよろしくお願いします」
「うん! じゃあ本決まりになったらまた連絡するからね!」
コンちゃん部長は、「てぇへんだてぇへんだ!」と執務室から出ていった。
「みんな、付き合わせちゃってごめんね」
「いいえ。謝らないでくださいですわ。わたくしは命子さんが新しい部長になるのではないかなって、なんとなく予感してましたから」
「ニャウ。ワタシもそんな気がしてたデス」
「せ、拙者も思ってたでゴザルよ? ホントでゴザルよ?」
「マジで? 今日のついさっきまで、そんなこと一切考えてなかったんだけど」
「メーコは行き当たりばったりデスからね。何かきっかけがあれば、なると思ってたデス」
ささらとルルの言葉に、メリスは『そ、それなでゴザル!』と頷いた。
「いつからそんなふうに思ってたの?」
「命子さんが永世名誉部長になった時に漠然とですわ」
「最初じゃん!」
「ふふふ。もちろん、日々の忙しさでそんなこと忘れていましたけど、今日お呼ばれした時にふと思い出しましたわ。たぶん、今日部長になるんだろうなって」
「そっかー。まあ、命子ちゃんもサザエの身の部分だけじゃなく、肝と一緒に食べる美味しさがわかったんだよ。大人になっちまったな……」
命子は感慨深く言った。
ファンタジー3年生にして、高校3年生。
それは入学した学校で、最初から最後までフルにファンタジーを体験する最初の世代。
そんなファンタジー学生ライフの最大の火付け役の1人である命子は、風見女学園修行部三代目部長になることが本決まりとなるのだった。
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