表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第14章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

440/440

14-31 クリスマスイブ 後編

大変遅くなりました。

本日もよろしくお願いします。


 クリスマスイブなのでASMR生配信をしている命子たち。

 メカ耳攻めの紫蓮に、視覚と聴覚の両面からアプローチしたささら。対する視聴者は、真冬だしほとんど動いてないのに汗びっしょり。


 一方その頃、チームクララ。

 みんなで交代をして長時間ASMRをしているので空いている時間がある子もおり、クララもまた命子たちのASMRを視聴していた。


「その手があったか……っ!」


 クララは紫蓮のASMRに感銘を受けた。

 機械によって脳へ激しくアプローチ、これは流行る……っ! 本当だろうか?

 ささらの方は剣士として高い技術が必要なので真似はできない。


「今度、紫蓮お姉様に電動ドリルを改造してもらいましょう」


 クララのドSなASMR道が始まる……っ!

 そんなふうに、中学生に冥府魔導の道を進ませる生配信は続く。


 次に出てきたのはメリスである。


「次は拙者でゴザル。みんなにイジメられて可哀そうだったでゴザルな。おーよしよし、おーよしよし」


 メリスはバイノーラルマイクへ向かって慈愛に満ちた声で囁きかけ、カツラがついたマネキンを撫でる。


:あ、あいぃ、ばぶー……。

:優しい声……癒える……。

:あぁ、これ寝ちゃうかも……。

:zzzzz

:紫蓮ちゃんが僕の脳を……っ!


 これは優しいフェーズが始まったなと視聴者さんもホッと一安心しかけたその時。


「などとその気になっていたお主たちの姿はお笑いだったでゴザルよ」


:ん?

:知ってた。

:流れ変わったな。

:こ、このネコ娘、ネットミームまで!

:鼻水出たwww


 画面外にいたメリスがカメラフレームの両側からぴょこんと顔を出した。分身である。


:分身ASMRキターッ!

:分身ASMR大好き!

:ダブルメリスちゃんからよしよしされるってマ?


 世の中にはすでに分身ASMRというジャンルがあった。

 若い世代のダンジョン人気は高く、かつNINJA人気も高く、それでいて以前から動画投稿の人気も高かったわけで、マナ進化したNINJAタイプの人たちによる分身ASMRという特殊な芸が生じるのは自然なことだった。

 そして、それを聞く人は、恋人が分身して自分をチヤホヤしてくれる夢を見るのである。この願望を持つ人はなにも男性だけでなく、女性にも多かった。


 まあそれはそれとして、画面のダブルメリスは紫蓮の電動ドリルを徐にフレームの中に入れて構え、ニチャアとした。視聴者たちは腰骨の辺りがゾクゾクした。


 紫蓮は無口キャラなので、これと言ってトークもなく脳を破壊していたが、メリスは結構お喋りである。


「ここが良いでゴザルか?」


「こっちでゴザルよね?」


「おーとっとっとっとでゴザル!」


「あとちょっとで鼓膜でゴザルよー……にゃくちっ!」


 メリスの可愛い声と共に高速回転綿棒が出し入れされ、リスナーさんはビクンビクン。途中でくしゃみが入った時は心臓が握られたように身構えたものの、鼓膜にはノーダメージ。


:ヤバい、この回転が滅茶苦茶気持ち良くなってきた。

:調教されました。ありがとうございます!

:もう優しい綿棒じゃダメかもしれない……。

:お願いします、有料でも良いのでドリル綿棒だけのASMRを出してください!

:脱力感がヤバい……力が入らない……。


 終わった頃にはリスナーの魂は抜けていた。


「さて、次は私だね」


 しかし、次が命子だとわかると、リスナーたちの口に魂がヒュンと戻った。


「私のASMRはこれだよ」


 バイノーラルマイクの向こう側に座った命子の周りに水の魔導書が浮かび上がった。


「みんな、知ってる? 魔導書は歌うんだよ。これは偉い人が論文にもしてるから、探してみるといいかもね」


 魔法待機状態になった魔導書が青いエフェクトを出して、ゆっくりとバイノーラルマイクの右耳に近づく。


 サァー……。

 それは水というよりも、風が吹いているような音だった。不思議なもので、耳のそばから強い気配を感じる。


「みんな、目を瞑って聞いてね」


:ホントだ……

:この音知ってる気がする。

:魔導書を使ってる時、こんな気配をずっと感じてるかも。

:ホントに何かが鳴ってる、知らなかった。

:綺麗な音だなぁ。


 命子が魔導書を動かすと、その方向に気配を感じながら流れの音は遠ざかり、再び耳のマイクに近づくと気配や音を立体的に感じるようになる。

 それにしても、目を瞑って聞いてねと言われているのに、すぐにコメントをする謎の勢力は何なのか。


「第二段階」


 命子が魔導書に魔力を送ると、待機している魔法の階位と魔導書の気配が強くなった。

 それに伴い、風のように聞こえていた音から水が流れるような音に変わり始めた。


:波打ち際みたいな音が聞こえる。

:え、こんな音がしてるんだ。

:全然気づかなかった。


 これは本当に小さな音で、気づかない人も多い。集音マイクだからこそ聞こえる音だった。


 命子は順番に段階を上げていく。

 その段階ごとに魔導書の気配と水の音が強くなっていく。

 この段階に至った魔導書使いは、集音マイクを使わなくても音に気づき始める。命子や研究者たちもそうやって魔導書の音に気づいたのだ。


:雰囲気変わったな……っ。

:ちょ、存在感がエグい!

:龍脈強化が始まってるんだけど!?


 魔導書が通り過ぎるたびに、水が流れる音が通り過ぎていく。まるで水が入った浮き輪を、顔の周りで横に縦にと回転させたような水の音。

 さらに、龍脈強化を行なった命子から波動のような物が生まれ、バイノーラルマイクへ圧力を与える。


 一方向から浴びせられる命子による圧力と、衛星のように回りながら存在感を出す魔導書。コメント欄では謎の勢力によって、それに対する感想が書き込まれていくが、皮肉にも、それはこの疑似体験を真に感じられている人たちではなかった。

 命子から言われた通りに目を瞑って聞いている人ほど、この体験に没入できているのだ。それはまるで、自分が達人の世界に踏み込んだかのような、色濃く気配を感じる体験。


「いまの私にできる最終段階」


 命子が紫蓮とメリスに目を向ける。紫蓮はカメラを支え、メリスはバイノーラルマイクの支柱を下から支えて、頷いた。


 命子の髪が長くなり始める。

 龍姫覚醒——宴会げ……命子の本気である。


 この技の最大の欠点は風を巻き起こすことである。龍脈強化でも同じ現象は起こるが、すでに命子は巻き起こる波動をある程度は制御できていた。しかし、龍姫覚醒はまだその段階には至っていない。だからこそ、紫蓮たちに機材を支えてもらっているのだ。


:龍姫覚醒きちゃーっ!

:圧力が凄い……っ!

:こ、これASMRでやっていいレベルなの!?

:あ、あ、あ……メリークリスマスぅうう!


 そんな書き込みをする謎の勢力。しかし、彼らはやはり三流、配信者としてはありがたい存在ではあるのだが、賑やかせ。画面で神秘的な光景を見ている代わりに、命子が意図する体験はできていなかった。


 一方、目を瞑っている人たちは、命子と一緒に水の中を漂うイメージを鮮明に体験していた。魂を刺激するほどの没入感により、命子に向けて思わず手を伸ばす人もいる。

 すると、その手に魚が通過した。魚は衝撃もなく腕をすり抜けて、ハッとして手を引っ込めてから、それがバイノーラルマイクの周りで動いている魔導書だったのだと気づく。

 謎の勢力は、後に、目を瞑りながら命子の演目を聞くと、そんな体験ができると知って驚愕することになる。


「私の演目はこれで終わりだけど、そのまま目を閉じていてね」


 やがて命子はゆっくりと段階を下げていき、最後には魔導書を手元に戻した。リスナーが感じていた全ての圧力や存在感が消え、あとには喪失感のようなものが残った。


:凄い体験だった……。

:予定をキャンセルして本当に良かったw

:手の震えがまだ止まらない。

:なんだこの喪失感は……。


 謎の勢力が相変わらず書き込んでいるが、言われた通りにそのまま目を閉じている人たちは喪失感から来る孤独の中にいた。そんな彼らの耳に、「にゃー」と声がした。


『ネコちゃんだーっ!』と、孤独の中にいる人たちはテンションを上げた。命子の演目からノンストップでルルの演目が始まったのである。


「にゃおー。んなごぉー」


:ネコASMR始まったな!

:ネコの鳴き声上手すぎて草なんよ。

:可愛い!

:さすがネコの国の子だなぁwww


 謎の勢力はほっこりするが、やはり目を瞑っている人たちは違う光景を体験していた。命子によってトランス状態に入っている彼らは、本物のネコが顔の周りで鳴いているような錯覚を体験し始めたのだ。


 ASMRの近くにクッションが置かれた。それをルルが手でもぎゅもぎゅと押して音を鳴らす。そして、耳元で「にゃー」。ここに来てまともなASMRの予感。


 ネコちゃんライフを体験している人の逆の耳に、今度は別のネコが現れた。子猫の「みー」という鳴き声と共に、耳に柔らかでフサフサな圧力。それはまるで足取りがまだ覚束ない子猫が自分の顔に倒れ込んできたような愛らしい圧迫感。


:分身ニャンコきたーっ!

:尻尾ASMRマジで助かるぅ!

:贅沢セットすぎて死ねる!


 謎の勢力は何が行なわれているか画面で見えていた。それもファンとしては大変に楽しい光景だったが、やはりルルの意図している体験はできていない。今のルルはネコライフを世に広めるネコ伝道師なのだ。己の可愛さなどアピールしていない。リスナーの魂にネコを刻み込んでいるのだ。


 クッションをフミフミするネコちゃん、首周りに体を寄せるネコちゃん、オヤツをおねだりするネコちゃん、何かをカリカリするネコちゃん、いきなりシュバッと動くネコちゃんと、ネコ伝道師のネコ真似は変幻自在。クッションとその身ひとつで、枕元をウロチョロするネコを表現する。


 これには画面の外で見ている同郷のメリスも後方腕組みで大きく頷く。命子とイヨは指を差して声を出さずに爆笑し、紫蓮とささらは唇をうにうにして笑いをこらえる。


 たっぷり15分、リスナーさんにネコライフを体験させたルルは、「にゃー」と一声鳴いて演目を終えた。

 目を瞑っている人たちは、いつまでもネコちゃんの声が聞こえないので、どこにいったのか不安になった。それこそがネコ伝道師が植え付けた巧妙な罠。飼いたくなるじゃろ?


「さて、それでは最後に妾じゃの。もう夜も遅いからの、そのまま寝てしまうのが良いのじゃ」


『なんなん』


 イヨとイザナミの声が聞こえたことで、初めてルルの演目が終わったのだとリスナーさんたちは涙した。自分の枕元にいたネコちゃんは幻だったのだ。


 さて、最後にイヨの番となった。


 カメラが移動し、畳の上で正座するイヨを映す。

 紫蓮がそこにバイノーラルマイクを持っていき、イヨは膝の前にそっと置いた。


:正統派ASMR始まった!

:古代巫女が一番ASMRを理解しているのはなぁぜ?


 イヨは枝を持つと、シャンと振った。

 すると、イヨの周りにマナが湧きあがり、リスナーさんはほんのわずかにふわりとした気配を感じる。


 そうして準備が整うと、イヨはバイノーラルマイクをふとももに乗せた。左耳が塞がったような感覚は、バイノーラルマイクがもたらす魔法だ。


 イヨはバイノーラルマイクの周りを手で優しく撫で、歌い始めた。

 曲は赤トンボ。


「夕焼け 小焼けの 赤とんぼ」『なんなん』


 イザナミの合いの手を聞き、命子たちはグッと唇を噛み、笑える状態にいるリスナーさんは噴き出した。


 しかし、イヨの歌はとても上手く、イザナミの可愛らしい合いの手にもすぐに慣れて、優しい気持ちになってくる。


 日本人なら誰もがどこかで聞いたことがある曲だ。名曲が名曲たる所以か、あるいは命子たちが想像力を増強させたからか、はたまた、イヨが龍の巫女であるというバイアスがかかっているのかもしれない。理由はともあれ、リスターさんの心に夕焼けに染まる田園風景や子供時代を思い起こさせる。


 実際に、夕焼けの中でお別れした古い友達の顔や声を鮮明に思い出して懐かしむ者や、薄暮の時間に駆け込んだ家の中、温かな台所の光の下で夕食を作っている母の姿を思い出して涙する者もいた。


 イザナミの合いの手と共に古い子守歌をいくつか聞かせて、よしよしとするだけの配信。

 しかし、謎の勢力の活動は不思議と一番少なく、多くのリスナーさんを思い出の旅と眠りへと誘う。


「皆の衆、今日はよく来てくれたの、ありがとうなのじゃ。このあとのお礼のコメントはいらぬよ。妾は皆の衆が良い夢を見てくれるのが一番嬉しいのじゃ」


 そう告げたイヨは、最後に古代の子守歌を歌う。

 まだ学問として音楽が体系立っていなかった時代の子守歌はとても素朴だった。自然や動物、そして精霊や龍神のことをゆったりと歌った曲だ。

 それは、すでに眠ってしまっている人に海や空、森や大地の夢を見せたという。


 歌を終えてイヨが微笑むと、紫蓮は静かに配信終了のボタンを押した。


 新時代になって2年目。多く人が素敵な自分に変化して、そんな人たちが出会いを重ねて迎えた2回目のクリスマスイブ。

 そんな状況なのに、この日は早くに寝てしまう人たちが急増したという。なんちゃらの6時間をぶち壊す者、戦犯は羊谷命子とその仲間たち。


 その自覚がない命子たちは、配信を終えたあとにジュースで乾杯した。

 リスナーさんは、懐かしい思い出や神秘的な大自然の夢を見ているのに、本人たちは配信を振り返りながら、お菓子やチキンを食べてキャッキャである。これが配信者とリスナーさんの温度差……っ!


読んでくださりありがとうございます。


私の他の作品の報告となりますが、このたび、ミニャのオモチャ箱が書籍化されることになりました。

発売日は本年2026年・6月20日(土)になります。詳しくは活動報告をご覧ください。


活動報告はこちらから↓

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/386706/blogkey/3617363/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
宴会げ…一応主人公やぞ?笑
地球さんもせめて風見町防衛戦まで書籍化してくんないかな~
なんて…なんて神秘てk( ˘ω˘)スヤァ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ