14-33 2年目のエピローグ
毎度のことながら大変遅くなりました。
日々は流れ、3月。
今日、命子たちの1学年上、現3年生の卒業式が行われる。
眩しい春の光の中、早咲きの桜が卒業生たちの最後の通学路を飾り付けている。
生徒たちは、先輩後輩あるいは同級生同士で並んで歩き、まるで高校最後の時間を噛みしめるようにゆっくりと学校へと向かっていた。
命子はその光景を鮮明に覚えていた。
丁度一年前に、石音元部長と共に見た切ない光景だ。
すると、命子の肩を叩く存在が。
そちらを振り返ると、命子のほっぺに肩の上で立った指がぷにぃと突き刺さった。命子は猛犬のように鼻の上に皺を寄せるとカチカチと歯を鳴らし、悪戯を仕掛けた人物をビビらせた。
「こえー! そんな切り返しする子、初めてだわー」
「おはよー、ナナコちゃん、ルナ」
昨年は卒業をする石音部長が一緒にこの道を歩いたが、今年は同じクラスのナナコが一緒に歩くようだ。ナナコの頭の上には精霊のルナがいる。
「卒業だねー」
「うん」
「なに、命子ちゃん。センチメンタル真っ盛り?」
いつもより元気のない命子を見て、ナナコが言った。
「そうだよ。また知り合いが卒業しちゃうもん。センチメンタルもたけなわだよ」
「今からたけなわだと式の最中とかどうなっちゃうのよ。ていうか、命子ちゃんって案外情が深いよね」
「そうだよ。情深きことマリアナ海溝の如しだよ。命子ちゃんに情をかけられると水圧で死んじゃうんだから。武田信玄も真っ青だよ」
「重すぎてワロタ」
そんなことを言っている命子だが、本当にセンチメンタル真っ盛り。
「ナナコちゃんだって親しい先輩いるでしょ?」
「いっぱいいるよ。だけど、連絡すればすぐに会えるってもう知っているからね」
「それはそうね」
去年卒業した先輩たちも、遊ぼうとすればすぐに遊べる。実際にナナコは東北の国立大学へ行った先輩とネットを介してフォーチューブでコラボをしたり、近くに住んでいる先輩とダンジョンで冒険したり、たくさん交流していた。
顔見知り程度の人とは疎遠になりつつあるが、特に親しい先輩たちとは、これからもたまにそうやって遊ぶのだろう。ダンジョンやフォーチューブはビジネスや趣味であると同時に、そうやって人と遊ぶきっかけになっていた。
それはナナコだけでなく、多くの生徒がそうやって卒業した先輩と交流を持っていた。
その時である。
命子はハッとして、ナナコを止めた。
「なに? チューしている人いた?」
「あれ」
駅から高校へ向かうには、いくつかのルートがあった。命子が使っている大通りの他にも、裏道的なルートがあるのだ。
その裏道から、修行部のコンちゃん部長とその腹心であるドSメイドのミクノン先輩が出てきて、命子たちの30mほど先を歩き始めたのだ。
いつもからかい、からかわれる関係の2人だが、今日は手を繋いで歩いていた。命子もナナコも、他の生徒たちだって、2人がそうやって手を繋いで歩いている姿なんて見たことがなかった。
「まあまあ!」
「これにはナナコちゃんの口からお姉さんキャラみたいな感嘆詞も出ちゃうか」
「部長たちにも、いろいろな青春があったんだろうねー」
「うん。2人にとっても、人生観を変えるような2年間だっただろうからね」
そして、それはコンちゃん部長たちだけではない。
今日、この景色を目に焼き付けている全ての生徒がそうなのだろう。それは当然、命子も同じ。
「あぁ、やっぱり、卒業式の日はセンチメンタルもたけなわだ」
学校に到着した命子を待っていたのは、お通夜状態のクラスメイトたちだった。
目を赤くしたささらは登校中にすでに泣いたらしい。しかし、それはささらだけではない。
ルルとメリスもネコミミをへんにょりとさせているし、他の生徒たちも目を赤くしている子が多い。
「卒業式だね」
「でしゅわ……」
命子の言葉に、ささらはグスゥと鼻を鳴らす。
「式のあとにはいっぱい泣いてあげるんだよ。先輩たちもその方がきっと喜ぶからね」
命子が泣くことを恐れるなと慰め、ささらはハンカチをギュッと握ってコクンと頷く。
「お菓子くれる先輩がまた減っちゃうデス」
命子の前の席に座り、命子の机にぐでぇとするルル。
命子はルルの髪の毛を両手でわしゃわしゃと撫でた。
「また遊んだ時に貰えるよ。今度は大人になった先輩たちだから、きっとケーキになるよ。その時まで楽しみにしてようぜ」
「みゃー……」
「メーコぉ……」
「メリス……会おうと思えばいつだって会えるから大丈夫! 大丈夫だから!」
「ちょっと雑でゴザル!」
「そんなに慰めのレパートリーがないんだよ。ほら、代わりになでなでしてあげるから」
いまの2年生にとって、去年の卒業生よりも今年の3年生の方がより歳が近く、長い時間を一緒にいた。そんな先輩たちの卒業が与える喪失感は大きかった。
外で会えるとはいえ、廊下で、机を挟んで、校庭の石段で座って、通学路を一緒に歩いて、制服姿で笑い合う時間はもう訪れない。それが在校生たちは寂しかった。
風見女学園の卒業式に参加する在校生は、1、2年から30名だけである。
去年にその30名に選ばれた命子たちは、今年もまた式に参加していた。羊谷命子とその仲間たちは、それだけ卒業生に与えた影響が大きいのだ。
去年の卒業生よりも1年分多くファンタジーの恩恵を受けて卒業する生徒たちの姿は、それはもう立派なものだった。
ずいぶん前にマナ進化した子もいれば、最近した子もいる。自分のペースでのんびりやっている子もいるが、卒業生全員に、努力の形がたくさん見られた。
そんな子供たちの2年間の努力の成果を見つめる父兄席の人たちの手から、ハンカチが仕舞われることはなかった。
生徒たち一人一人の名前が呼ばれ、返事と共に起立していく。
卒業生が返事をするたびに、命子の脳裏に彼女たちとの思い出がふわりと蘇り、また次の子の名前と共に思い出が切り替わっていく。
2度マナ進化して人の可能性を拡大させた命子の記憶力は良く、ダンジョンにおっかなびっくり入っていたような、どこにでもいる平凡な女子高生だった頃の先輩たちの姿をよく覚えており、いまの先輩たちの姿と重ね合わせていた。
そんなことを思いながら、命子は隣に座るささらの手を握ると、ささらも鼻を鳴らしながら、強く手を握り返してきた。
校歌を合唱して、卒業式は終わった。
「みんな、行くよ」
去年は先輩から促された言葉を、今年は2年の命子が言う。
1年生たちはグズグズと泣きながら立ち上がり、体育館の出口でアーチを作った。
寂しげな卒業のメロディーが流れ始める。
卒業生たちは1組から順番に立ち上がり、父兄席の中央通路をたくさんの拍手に包まれながら歩いて、アーチへと向かう。
去年、命子たちがやったように、1年生たちが体育館の扉を開ける。その先には、在校生たちが花道を作ってくれていて、3年1組出席番号1番の安藤さんは、その光景を見て潤んだ瞳を眩しそうに細めた。
「安藤先輩。おめでとうございましゅ」
「ささらちゃん、泣いてくれてありがとう。本当にこの学校に来てくれてありがとうね」
「っ。先輩……お世話になりました」
1組の安藤先輩は、お祝いの言葉を贈ったささらを抱きしめた。
「ソラ先輩、おめでとう」
「ソラせんぱっ……ふ、ふぅ……おめ……うぅうう」
卒業式に1年生の代表として出席していた紫蓮と車メーカーの社長令嬢である雷雲寺が、工作部の部長・山海空へお祝いの言葉を贈る。雷雲寺の方は言葉になっていないが。
「ほら、泣かないの。また一緒に何か作ろうね。お金を貯めて、大きな作業小屋を建てちゃうんだからさ」
「はい……はい!」
「紫蓮ちゃんも楽しかったよ。卒業しても活躍を見ているからね」
「はい。我も先輩の活躍を見てる」
ソラ先輩は雷雲寺の頭を撫で、紫蓮とも別れの言葉を交わした。
そして、命子の前で止まった。
「命子ちゃん、ありがとう」
「私の方こそ凄い物を見せてもらってありがとうです」
「それこそ命子ちゃんたちのおかげだよ」
ソラ先輩は、世界で初めて高校生でラビットフライヤーを作ったチームのリーダーで、その機体で空を飛んだ。浮遊石を手に入れる難易度が高いのもあるが、それに続く学校はまだほんの少数だ。
そんな偉業を打ち立てたソラ先輩を慕う生徒は多く、体育館から出るとたくさんの涙とお祝いの言葉に包まれて花道を歩いた。
「ルルちゃん、ほら、最後のアメちゃん」
「にゃー、アカちゃん先輩……」
「今度はルルちゃんが後輩にアメを渡すんだよ。良い先輩になりな」
「ニャウ……絶対になるデス。みゃー……」
ルルはよくお菓子をくれる先輩から最後のお菓子を貰い、ポロポロ泣いている。
「メリスちゃん、楽しかったよ。元気でね?」
「ニャウ……ムクちゃん先輩も元気でやるでゴザルよ?」
「あー、泣いちゃってもう! 可愛いなー!」
「あたしも最後にギューッ!」
「にゃー……先輩、先輩。いっぱい話しかけてくれて嬉しかったでゴザル。メルシシルー、メルシシルー……っ」
「うん……うん!」
不安いっぱいの日本での学校生活で、たくさん話しかけてくれたギャルっぽい先輩たちだ。そんな先輩たちからギューッと抱きしめられ、メリスも先輩たちも眦に涙を溜めながら笑いあう。
「命子ちゃーん」
「こ、コンちゃん部長。相当やられちゃってますね」
コンちゃん部長がやってきた。
その顔は涙でグズグズだ。
「一生懸命頑張ったんだもん。泣いちゃうよ」
「本当にお疲れさまでした。卒業おめでとうございます」
「うん、ありがとう、命子ちゃん。また後でね」
「はい」
コンちゃん部長は名残惜しそうに命子へ微笑むと、光溢れる出口の先へと一歩踏み出した。
すると、コンちゃん部長を慕う声が外の在校生たちから上がった。まだ体育館にいる命子は、コンちゃん部長の高校生としてのエンディングが素晴らしかったことに嬉しくなった。
卒業生がいなくなった体育館は、卒業のメロディーの中で泣く親やスタッフさんの姿が残されていた。
それは命子にとっては2度目の光景。しかし、紫蓮には初めての光景だった。
「良い卒業式だったね」
「うん……」
「雷雲寺さんも、ほら、行こう」
「はい……」
命子はしゃっくりをあげる雷雲寺を慰めながら、卒業生と同じ出口から外へと出ていく。その後を追う紫蓮は最後に体育館を振り返った。
「……卒業」
先輩は自分よりも早くに卒業するもの。
それは当たり前のことだが、この卒業式に出席した紫蓮は、あと1年で命子たちが卒業してしまうのだと、初めて実感するのだった。
『これより、修行部による卒業生の送別会を行ないます。特別な約束がない方は、校庭にお集まりください』
最後のホームルームが終わってしばらくすると、そんな校内放送が流れた。
去年、この送別会を企画したのは今から卒業していく3年生たち。送る側がいよいよ送られる側になり、各々が話したい後輩の顔を思い浮かべて校庭へと向かう。
「先輩。卒業式って、こんなに寂しいものなんですか……」
修行部の副顧問をしている滝沢が、誰もいなくなった校舎を歩きながら言った。
1年間教員をした滝沢は、たくさんの生徒と一緒にダンジョンへ潜り、時にはジョブや技術、恋愛の相談を受けてきた。仲良くなった生徒は準備室にお弁当を食べに来てくれたりして、とても慕われる先生になっていた。
滝沢から問われたアネゴ先生は、寂しげに「うん……」と答える。
すでに2人も、目が真っ赤だった。
「滝沢先生。これからきっと、もっと泣いちゃいますよ。覚悟してください」
「はい……」
「ねえ、滝沢先生。今日は、一緒に吞みませんか? 1人でしんみりと泣くよりも、2人の方が楽しい思い出が出てきますよ」
「ふふっ、はい。呑みましょう」
アネゴ先生の予告は正しく、2人が校庭に出るとすぐに卒業生たちが集まってきて、口々にお礼を言ってくれた。
滝沢は、自分が体験してきたどの卒業式よりも泣いた。それはアネゴ先生も同じ。
滝沢は、こんなに寂しい気持ちを毎年感じるなんて、と教師生活に切なさと恐ろしさを感じるのだった。
最後のホームルームが終わると、コンちゃん部長は修行部の執務室に向かった。
部室に入ると、そこには親友がいた。
「ミクノン」
「お茶が入りました」
「うむ」
コンちゃん部長が執務椅子に座り、いつものようにお茶が出された。
いつも使っているキャラ物のカップはもう持ち帰ってしまったので、それは来客用のカップだった。それにほんのりと寂しさを感じる。
「あー、美味しいなぁ」
「当然です」
「学校で飲むミクノンのお茶も飲み納めか」
「学校以外でならいつでも淹れてあげますよ」
「シチュエーションが重要なんだよ、ミクノン。まあ淹れてもらうけど」
そんな話をしていると、送別会の案内を告げる校内放送が流れた。
「去年に私たちが企画した送別会で、今度は私たちが送られるのか。ずっと続くといいね?」
「はい」
校舎内を移動する生徒たちの声を聞きながら、コンちゃん部長はゆっくりとお茶を飲む。
「ごちそうさまでした。美味しかったよ」
「お粗末さまでした」
ミクノンはカップを綺麗に洗い、ペーパーで水気を拭う。もうこの部室を次の代に引き継ぐから、水切りラックには置かなかった。
「いつまでもゆっくりはしてられないね。名残惜しいけど、行こうか」
「はい」
ミクノンはハンガーから金の刺繡が施された白いロングコートを取り、コンちゃん部長の肩にかけた。
コンちゃん部長は振り返ると、ミクノンの両手を取った。
「ミクノン。きっと、私はこれからも続く修行部の歴史で一番平凡な部長だったよ」
先代は石音縁、次代は羊谷命子。そして、これから入ってくる生徒たちは、小中学校から地球さんの恩恵を受けて自分を磨いてきたとても優秀な子たち。だから、これはコンちゃん部長の本心だった。
「だけど、そんな私でもこの1年間、なんとかやってこられたのはミクノンのおかげだよ。本当にありがとう」
そうお礼を言われたミクノンは、唇を震わせ、ポロポロと涙を溢した。
「そんなことないよ。コンちゃんだから、みんなついてきたんだよ。わ、私にとって、最高の主だったよ」
「ふふっ、そっか」
コンちゃん部長は、壁に掛かった写真を見上げた。
そこには2つの代の修行部主要メンバーたちの集合写真がかかっていた。主要メンバーと言っても曖昧で、どちらの写真も通りかかった生徒が勝手に交ざってくるような、賑やかなものだ。
修行部2代目の写真には、中央に白いコートを羽織ったコンちゃん部長、その横にはメイド服を着てキリリ顔をしたミクノン、そして周りには愉快な仲間たち。
修行部に自分たちがいた歴史を刻み、コンちゃん部長とミクノンは執務室を後にした。
コンちゃん部長が校舎から出ると、お互いに別れを惜しむ生徒たちの視線が自然と集まった。寂しさに溢れていた校庭が徐々に静まっていく。
一緒に過ごしてきた卒業生や在校生たちの顔を見て、コンちゃん部長は何か言葉を残してあげたいという気持ちが自然と湧きあがってきた。元よりそのつもりではあったが、自然とそう思えるのは、コンちゃん部長もまた修行部部長だった証拠だろう。
コンちゃん部長は、桜がチロチロと舞う石段の一番上に立って、みんなに向かって言う。
「昨年の今日この場所で、縁先輩は、『私たちは地球さんがレベルアップした世界を夢中で楽しんだ』と言った」
3年生と2年生はその光景を鮮明に覚えていた。1年生も撮影されていた映像を見て、その演説を知っている。
「そんな縁先輩たちが作った修行部を受け継いで、あっという間の1年だったね。私たちは去年に続いて、この1年間も全力で楽しんだ。この1年で、私は、人と人が支え合った時に生まれる大きな力をたくさん見てきたよ」
生産部連合が協力して作ったラビットフライヤー、合同体育祭での優勝記録、1年生を育てるための連携したダンジョン探索、コンちゃん部長を支えてくれた仲間たち。
生徒たちもまた、コンちゃん部長の言う大きな力をたくさん見てきた。
「これから私たちは大人になっていく。だけど、風見女学園で学んだ、世界を、ファンタジーを、そして人生を、めいっぱい楽しむ気持ちをどうかいつまでも忘れないで欲しいな。その気持ちこそ、人と人を繋ぎ、支え合う原動力になると思うんだ」
それは自らを平凡だと評価したコンちゃん部長だからこその言葉だった。自分が楽しんだからこそ、ミクノンやみんなが支えてくれて、部長をやってこられたのだと。
「在校生のみんな。3年生のために涙を流してくれてありがとう。みんなが慕ってくれたから、私たちは夢のような学園生活を送れたんだよ。本当にありがとう!」
コンちゃん部長が頭を下げると、その隣に立つミクノンも深々と頭を下げた。
コンちゃん部長が再び上げた視線の先では、涙を拭う卒業生たちの姿があった。
「命子ちゃん、前へ来て」
「はい」
名前を呼ばれた命子は、袖でグッと涙を拭って、石段を上がった。
「みんなも知っていると思うけど、3代目の部長は命子ちゃんだよ」
コンちゃん部長はそう告げて、羽織っていた白いロングコートを命子の肩に掛けた。
「今まで着たどんな装備よりも重いですね」
「ふふっ、それはおかしいな。私がちょっと軽くしたはずなんだけど」
コンちゃん部長はそう言うと、命子の頭をひと撫でした。
「命子ちゃんは凄い子だけど、修行部は一人では運営できません。みんなも命子ちゃんを支えてあげてね」
「「「はい!」」」
自分の言葉に元気に返事が上がるその光景を、コンちゃん部長は、万感の想いを抱いて見つめた。
去年、石音元部長がお願いしたことを、今年、自分が口にした。これを以て、バトンが引き継がれたのだ。
コンちゃん部長は軽くなった袖でグシッと涙を拭うと、生徒たちに向けて言う。
「風見乙女の詩を唱和します!」
コンちゃん部長の少女っぽさのある勇ましい声が告げる。
リーダーの最後の指示に、生徒たちは全力で楽しんだファンタジーな青春を思い出しながら歌声を上げる。
『乙女よ淑女たれ。その心に凛と咲く誇りを宿せ。
乙女よ修羅たれ。その体を暗雲切り裂く刃となせ。
乙女よ修行せい。己を磨き、新たな時代を華麗に生き抜くのだ。
我ら風見女学園修行部は永遠なり』
最後の一文を歌い終わると、校庭には後輩たちのすすり泣く声だけが残った。卒業生はとても大きな青春の痛みに唇を震わせる。
「縁先輩、最高の青春でした……」
コンちゃん部長は、昨年、敬愛する石音元部長がそうしたように青空を見上げ、涙を流しながら笑った。
その姿を見つめる命子は、偉大な2人の先輩がこの青い空に何を見ているのだろうと、その姿を目に焼き付けた。
命子も追うようにして青空を見上げたその時、桜の花吹雪が空を覆った。突風が吹き荒れたのだ。
夢中で駆け抜けた青春は、マナ因子を大きく成長させる。
その法則が、今年もまた少女たちをマナ進化へと導いたのだ。
神秘の繭に包まれたのは、まだマナ進化していなかった卒業生たち。
「くぅー、いいなー! っぱ、卒業式のマナ進化だよ! なっ、命子ちゃん!」
コンちゃん部長が陽気な声で言う。
コンちゃん部長自身はすでにマナ進化を済ませてしまっているため、マナ進化は始まらない。次のマナ進化には間に合わないだろうとコンちゃん部長自身も理解していたから、そこまで残念には思わなかった。
「そんなこと言ってる場合じゃないですって!」
「はははっ、もう風物詩みたいなもんだよ!」
コンちゃん部長は、大騒ぎする校庭を愉快そうに眺める。
生徒たちは慣れたもので、危険がないように周りに指示を出し合っていた。
「変なところでどっしりしてるんだから」
やれやれとした命子は、一緒になって、いくつも現れた光の繭とワクワクした様子の生徒たちを眺めた。
「きっと今この瞬間、日本中の学校でこんなふうにマナ進化している卒業生がいるんだろうね」
「まったく大変な世の中ですね」
ひとつマナ進化が終わるたびに、大きな歓声が上がっていく。
その光景を愛おしそうに見つめていたコンちゃん部長は、命子へと体を向けた。
「ねえ、命子ちゃん。命子ちゃんに出会えて、本当に良かった。風見女学園に最高の青春を運んでくれて、ありがとう」
コンちゃん部長は命子の手を取って、力強く握った。
命子は握られた手の温もりを感じながら、コンちゃん部長の目を見つめて言った。
「私はただ、種を拾っただけの子ですよ。石音先輩やコンちゃん部長たちが最高の高校生活を望んだから、種が芽吹いたんです。種を拾った子よりも、育て方のわからないその種を上手に育てた人の方がずっと凄い」
「命子ちゃん……」
命子は握られた手にもう片手を乗せて言う。
「私の方こそ、コンちゃん部長の後輩になれて誇りに思います。ありがとうございました」
「泣かせにきてるじゃん……」
コンちゃん部長は命子の術中に嵌り、ポロポロと涙を流した。
「さぁて、命子ちゃんの修行部部長としての最初の仕事だ! 者共、かかれい!」
「にゃにーっ!?」
命子の合図で、石段の近くにいた生徒たちがコンちゃん部長やミクノンに襲い掛かった。
2人は在校生のお神輿に乗せられ、わっしょいわっしょいと卒業をお祝いされる。それはあっという間に伝播して、いくつものお神輿が校庭を彩った。
こうして、2代目の修行部の先輩たちは卒業していき、命子たちは3年生になるのだった。
読んでくださりありがとうございます。
これにて第14章は終わりです。
ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




