表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/50

44話


--少しだけ数日前の出来事を思い出しおセンチになってはみたが 私とスピネル君の距離が変わったかと言えばそうではない。

いや、むしろ、私め とある義務感に駆られました。


だって、スピネル君が人間の女の子と結婚すると早死にするなら--竜族的に。人間なら百歳は超お達者、天寿ですがな--それは私もやっぱりいやだ。

だけど、スピネル君の美貌によろめく女の子は数知れず。九歳の今でもヒロインパールを落としているんだよ?

これが、成長してごらん。どんな美女がコナかけてくるかわかりゃしない。

そのとき、無防備なスピネル君が頂かれちゃったらどうするの!

ダメ、だめよ、そんなの。

おねーさん、許容できません!


そう、誰かが、誰かが防波堤にならねばならないのだ!

スマラルダスが私に釘刺ししたようにね。


じゃあ、誰が、という話になったら、そりゃあ、決まっているでしょう。

スピネル君の心の友、相棒たるこのアイアンディーネ・ザ・ジャイアンでしょ!


私が! 悪役令嬢の面目躍如含めて! スピネル君に向かう矢印すべて打破してやんよ!

私が傍にいる限り、スピネル君は名実伴に魔法使いだよ。わっはっはっは。


………。


下品でゴメン。


ちなみに このアイディアをスマラルダスに意気揚々と話したら、無言でアイアンクローされた。

スマラルダスは私のいやがることするよな!

憎し。


でも、「こいつがこの調子なら取り越し苦労か…」と呟いていた。

スマラルダスは心配事多くてダイヘンだね。禿げないように、精霊様にお祈りしてあげるよ。

さて、ロープウェイの試乗も問題ないようだし、せっかくなので開通式などやりたいな~。








数日後、ロープウェイの開通式にエレスチャレの町長さんらも参加くださり、私、アイアンディーネ・アンダリュサイト女子爵の初めての公式行事となった。

白銀にお日様が反射し、雪焼け確定のお天気の中、アンダリュサイト村、空晶館の皆さん、そしてエレスチャレ町長さんと--お隣の、セルカドニー侯爵がいた。


(え? な、なんで?)


正直、セルカドニー侯爵を招いた覚えはない。もしや、モルダヴァイトあたりが声をかけたかと聞いたが彼も首を振る。

スマラルダスが如才なく侯爵に挨拶を始め、私もそれに倣って突然現れた高位貴族の前に歩み出た。


「ようこそ、セルカドニー侯爵。わざわざのお越しいたみいります」

「ああ、アンダリュサイト女子爵。面白い発明と聞き及んで足を運ばせてもらったよ」


気安い声で返事した背の高い彼はライオンの鬣のような髪を揺らし、こちらを向いた。

そして、口調と違うその目は気位の高さを如実に顕していた。


(--獰猛)


それが、セルカドニー侯爵の私の第一印象だった。




開通式はアンダリュサイト村の側の空晶の森入り口の駅で行われた。

空晶館の子供達や希望者で合唱隊を組んで貰って、この日のためにブルーレースが猛特訓し精霊を讃える合唱を披露だ。

なかなか美しい歌声に皆、微笑ましい拍手をくれた。

そして、寒い中なので、振る舞い酒をしたあと駅入り口に張った赤いリボンを私が皆の見守る中ハサミで切り、私、スマラルダス、セルカドニー侯爵、アンダリュサイト村長、エレスチャレの町長を乗せてロープウェイは滑り出した。

駅に集まった村人たちはやんやの歓声で、参加者たちはこのあと空晶館前の駅と往復を楽しんでいた。


そして、私はセルカドニー侯爵と同乗したロープウェイから降りた後、侯爵からセルカドニー侯爵の屋敷でのお茶会の招待を受けた。





***





「いったい、どうして、セルカドニー侯爵が参加していらしたの…?」


その日、慌てはしたがまさか歓迎しないワケにはいかず、私は無難にセルカドニー侯爵と対話し、その日無事侯爵をお送りすることが出来た。


しかし、来るなんて聞いていない。

聞いていないぞ!


「申し訳ない。実はエレスチャレ町長が話したそうです。と、言っても世間話の延長で。たまたまエレスチャレ町の宿に王都に向かう途中のセルカドニー侯爵がいて、そこに挨拶に赴いた町長がアンダリュサイト村の近況を話した、と」


アンダリュサイト村の村長が汗をかきかき事情を説明する。

せっかく楽な移動手段が出来たのだからと今夜はアンダリュサイト村の村長は空晶館でお泊まりだ。拉致ではないぞ。


「だからと言って、侯爵本人が予定にないアンダリュサイト村へ来ると言い出すとは町長も思っておらず」

「ええ、それはわかりますわ…。エレスチャレ町長とは挨拶が必要とも思っていましたから、今日をわたくしも楽しみにしていました」


でも、おまけが大きすぎて、エレスチャレ町長の印象が薄くなってしまった。


「いや、まさか、わたくし共もアイアンディーネ様にセルカドニー侯爵が」


彼の汗はなかなか引かない。


「求婚なさるとは」


「--村長。その物言いは誤解を招きますわ。次男のアルウィン様の、相手としてです」


思わず注釈が口をつく。

さすがにエレスチャレ子爵の次も中年男性相手はゴメンですわい。

しかし、セルカドニー侯爵がこれほどフットワークの軽い方だとは。

冷や汗で一回り痩せそうな村長をこれ以上いじめるのはやめて、彼には大浴場で疲れを取って貰おうと退室を促した。


空晶館の会議室に残った私たちは、いつものメンバーで会議を始めた。

スマラルダス、スピネル君、シルバート、アンバー先生、ダートナとそして私。

スマラルダスは渋い顔だ。


「息子との婚約の打診を言い出すとはな…。セルカドニー侯爵はアイアンディーネがフロウライト伯爵候補として最有力と見ているのだな」

「少し判断が早い気がしますわ…。お嬢様とセルカドニー侯爵は魔力取得のお披露目でも挨拶もされていませんのに」


ダートナはセルカドニー侯爵に好感を持っていない。

そりゃそうだ。あまりに変わり身が早い。


「セルカドニー侯爵は見た目、獅子のような方でしたわね」

「実際、かなりの豪腕家だ。港があるためセルカドニーは貿易の要。また、外国との戦争の場合も重要な港になる。造船業も盛んだ」


正直--とスマラルダスは続けた。


「フロウライト伯爵領に固執する理由はないんだがな…」

「単純にわたくしのことが気に入ったのでは?」

「………かもしれんな」


む。返事が遅いぞ、スマラルダスめ。


「セルカドニー侯爵は先を見る目がおありです。アイアンディーネが侯爵夫人の器と考えたのかもしれませんよ」


私はスピネル君を仰ぎ見る。彼は ふ、と笑って返してくれた。いや、照れるね。


「だが、昨今セルカドニー侯爵領は貧富の差が激しいですね。港の発展と伴に、身元の怪しい輩も入ってきて、治安維持が課題になっていると聞いています。もしかしたら、アイアンディーネ様というより王家とのつながりを欲しがっているのかもしれませんね。アイアンディーネが輿入れとなったら、自然、スマラルダス…、エメラルディン王子もついてくる」


アンバー先生がつるり、となったあごに手を当て考え込む。


そう、アンバー先生はあの後トレードマークのお髭を剃った。

もともと顔立ちは悪くないと思っていたら、まあまあ、顔の造作の整ったイケメンが出てきましたよ。……ちょっと、国王と似ていてギクリとしたんですけど。

スマラルダスが聞くなと言ったので、その辺は聞いていないけど、アンバー先生はなにか心境の変化があったみたい。それがいい方だったのなら私は嬉しいのだ。


「とりあえず、アルウィン様との婚約の返事はほりゅうの方向でいいでしょうか? わたくし、まだ結婚は考えていませんから」


受け取ったお茶会の招待状を見る。

日時は来週。おそらく侯爵独断の急な催しだろう。主賓のセルカドニー侯爵夫人は大変だ。それとも、ご主人のこういう行動に慣れているのかな?


「でも、セルカドニー侯爵とよしみを結ぶのは悪くないでしょう? これから王都とそしてお隣のセルカドニー領がきっとこのアンダリュサイトのお得意様になるのですもの。水道が王都で普及したらきっとセルカドニーも真似しますわ。それだけの財力のある領ですもの」


ふふふ。笑いがとまらんわい。


「--アイアンディーネ。欲深い者はいつか痛い目を見るぞ」


シルバートがツラっと言い放つ。

おお、いけない、頬があくどい顔で緩んでいたみたいだわ。

七歳の乙女の顔じゃないね。


「杞憂ならいいのですが」


アンバー先生がポツリと言った。


「セルカドニー侯爵領の財政について、調べた方がいいと思いますよ--スマラルダス」

「そうだな。ニンジャに連絡を取れるか?」


スマラルダスのその言葉に私はコテリと首をひねる。

スピネル君がスマラルダスの代わりに答えた。


「ニンジャは薬売りで全国に販売網を持っています。勿論、セルカドニー侯爵領でも。だから彼らは裏の情報にも通じています。…セルカドニー侯爵領から逃げてきた村の人達もいる。彼らは暮らしに困り土地を捨てました。もしかしたら、これが氷山の一角だとしたら、セルカドニー侯爵領は見た目と違い、財政困難に陥っているのかもしれませんよ」


その言葉に私は軽く戦慄する。


なぜならこのゲーム、戦争イベントがあったのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ