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26話

今年最後の更新です。良いお年を(^^)


お互いの鼻をつまみながらどちらが折れるかと意地張り合っているうちに馬車が止まった。

意外や周囲がこのやり取りを微笑ましく見ていた事に気が付き、赤面する。


(見た目子供だもんな、私も彼も)


実際に子供なのだが。

まあ、でもこういうフザケっこできる友達は希少だね。さすが、心の友!

なんかさっきまでの悲壮な自分が滑稽極まりなく思えてきた。

失敗? あるじゃん、あるじゃん、子供なんだからさー! と軽快に思えるくらいに。


(でも、もう、絶対に同じ失敗はせん!)


エレスチャレ子爵に襲撃されたときも思った気がするけど、さすがに命に関わる失敗はもう犯したくないと充分その恐怖を味わったわ。

子供のうちに思えてよかった。

二度目の人生も知らない内に終わるような目に合いたくないもんね。



精霊堂に到着したら、戸惑う彼らにまずお風呂を促し、私はダートナに急かされ部屋に連れて行かれた。

怪我があるんじゃないかと、ダートナが私だけ自室のお風呂に入れられて検分される。怪我はないけど、怖かったせいか私はダートナに久しぶりに甘えてしまった。


そうこうしている内に彼らの集落から男性陣も到着だ。

丁度夕食時だったので、食事と一緒に顔合わせした。

彼らの中の壮年男性がどうやら村長らしい。

彼らはむしろ、うちの小さな子供たちを見て驚いていた。


「ここは孤児院もかねていますの。私が主のアイアンディーネ・フロウライトですわ。フロウライト伯爵の長女です」


ザワと彼らが慌てる。

うん、私、一応領主の娘だもんね。でも七歳だとハッタリ効かないな。


「あなた方はセルカドニー侯爵領の方々でよろしいのかしら? 詳しい話を代表の方から伺いたいのです」


鹿肉のソテーを口にして彼らに詳細を問う。

ううん、薬味効いていて美味しい。


村長さんの話は昼間老人から聞いた話と同じものだった。

そして、今も三人の村人が攫われたままになっていることも聞く。

全員男性だったが、怪我しているとのことだ。父親が攫われている娘さんがいた筈だ。

私は凶悪な気分になる。ヤツらめ…。

アンバー先生の言うとおり、目にもの見せてやるべきだ。





「しかし、どうやって?」


私の素直な疑問は会議室で空を切った。

二階の私やスマラルダスの部屋のあるフロアは会議室やそれぞれの執務室もあり、急遽、緊急会議中となった。

子供たちと保父さんのコーパル、彼らの護衛にモリオンを残し、三階の未使用の使用人部屋を解放して総勢三十数人のセルカドニーの村人を休ませた。三階に自室のあるメンバーは万一の危険回避のため、今日からしばらくは一階の空いている部屋を使うことになった。


「囚われている村人を探してまずは救出だな。それを証拠にセルカドニーの警邏にやつらを突き出せばいい」

「生ぬるい…」


どす黒くなっている私はついつい言い過ぎてしまった。

スマラルダスが私の頭をガシと掴む。やーん、髪洗った後なのに! 男臭くなる!


「お前の懲罰感情は差し置く。法に従えないならこの国から出て行け」

「う、厳しいです、スマラルダス!」


スマラルダスは権力者の暴走を嫌うのね。わかるよ、権力持つと人間勘違いしちゃうよね。私も自重せねば。でも子供に教え諭す時は暴力はやめて~。痛くなかったけど主張はする。

もーもー言いながらわざと髪を払うとスマラルダスはちょっと傷ついた顔した。


「小さくとも女性ですよ、スマラルダス」


スピネル君が言い放つ。

あ、いや、そこまでイヤでは…。スマラルダス、ちょいすまん。

私はコホンとひとつ咳払いをした。


「連中のセルカドニーの事務所を見張って動きを見るのですか?」

「いくつか情報を既に得ている。人質がどこにいるかまず調べるさ。で、お前はあの村の人間をどうするつもりだ?」

「う、そこはまだ考えていません!」


正直に言うと呆れたため息が人数分聞こえる。


「で、でも、出来ればここで雇い入れればなあと思っているんです」

「農奴として?」


アンバー先生がすかざす言った。昼間のやりとりを思い出せということか。

ぐぬぬ。


「…いいえ! ちゃんとした仕事と、それに対する対価を用意します!」


とはいえ、今その仕事がないんだわな。

私は大口叩いてから後悔した。

室内の空気はやれやれこれだから子供は…という私にとって屈辱的な雰囲気になっている。くくくぅ。

前世を記憶していても、いいアイディアなんか浮かばない。浮かんでいたら私は体力バカのままで死んでいないと思う。会社のシャチョさんになっていたよ、きっと。

でも。


(ぐぐぐ、私はどうやら負けず嫌いらしい…。思い出せ、逆転のヒントを!

世の中もう終わりと思っていたが、発想変えることで逆転劇があったぞ。

どうせ潰れるならと、どこぞの動物園が理想の展示を実現してブレイクしたじゃん!

その動物園はその地域の経済や、注目度も変えた。そんな一発逆転劇は、人間の情熱と着眼点を変える事で生まれるはずだ~!)


しかし、その着眼点が見つけられない悲しさ。

私パンピーだもん。モブ気質だもん。

…泣きそう。


(…温泉が湧くんだから、宿? こんな僻地で? 空晶が姿を現してくれるからそれでお祭りが出来る。確かゲームでは精霊祭で沸いていた町があったはず。でもそれだけで人が集まるとは思えない…。なにより、利益を出す産業に出来るのか? アイディア~、アイディア出せ、私~!!)


私がうんうん唸っているのを大人たちは呆れた目で見ていた。

うう、悔しい。


…別に彼らをどうしても助けたいワケじゃない。

そりゃ助けることが出来ればそれに越したことはないだろうけど、そこまで彼らに思い入れはない。

けれど、彼らを見捨てることで、得られるものが何もないことが、私を思い止らせている。

正直に言おう。私はケチだ。


(これは、勿体無いの精神なの!? 縁は異なもの、味なもの…だったら…)


「本気で事業を起こすならいずれにせよ人手は必要なのよ。だったら、恩を感じて貰えるこの機会を逃したくない~!」

「…お前そんなこと考えていたのか…」

「え!?」


私が顔を上げる。

スマラルダスが眉間に手を当て、私を可哀相な子を見るような目で見ていた。なんだそれ!

スピネル君が耳打ちしてくれた。


「生々しい心の声を口にしていましたよ。アイアンディーネ」

「まじか!」


超恥ずかしいわ。


「…わかりました、アイアンディーネお嬢様。おやりなさいませ」


悶える私の上に、意外な人物の声が振り落ちた。


「ダートナ…?」


ダートナはにっこり笑って言った。


「私はお嬢様を支持します。彼らをここで雇いましょう」

「ダートナ…!」


どうして? と思わず喉元まで出た。ああ、わかるじゃない。ダートナはいつだって私の一番の味方だからだ。


「ダートナ、事はそう簡単ではないだろう」


アンバー先生が彼女を諌める。二人が私の教育方針で対立するのは珍しい。


「アンバー、いいこと、この土地はお嬢様のもの。スマラルダスとスピネルは別にして、孤児院を支える人間らもお嬢様が雇っているのです。彼らの使い方はお嬢様次第。ですが、彼らが農作業に向いていますか? あなた以外ははっきり言って素人だわ。実際にこの土地で生活するためには開墾する人間が必要でしょう?」

「セルカドニー侯爵領から逃げてきた人間だよ」

「ええ。その借財は肩代わりしましょう。分割で返済させればいいわ。無利子で。勿論正当な報酬も出すし、その上で開墾した土地の一部を彼らの所有にさせましょう。小作から抜け出せる道筋をつければ彼らも必死になるでしょう?」


そうだ、そうだと心の中で囃し立て。私はダートナを応援する。

しかし、ダートナの提案、破格の待遇に感じる。もしや私は前世ブラック企業の社員だったのだろうか。


「そこまでしても逃げる連中もいる。無駄になれば、ただ借財を踏み倒されるだけだ」


アンバー先生が頑なだ…。そんなに彼らを信用していないの?


「お嬢様は支配者になりたいわけではないのよ。あなたが強権にアレルギーがあるのはわかるけれど、これはまず提案してみて彼らに選択肢を与えるべきだわ。逃げたならそれこそ取り立てればいいでしょう。それが出来ない貴方ではないでしょう? 勿論お嬢様も」


ダートナが私に微笑む。

私も微笑み返し。

勿論ですとも。連中並みに厳しく取り立てますわ。

私は決して聖人ではないのです。

ケチだし。

……私とソーダライトのお祖父様はもしかして似ているのだろうか。

アンバー先生は ああ、と小さくため息して椅子に背を預けた。

ダートナが小さく笑んだ。


「まずは彼らに恩を感じて貰いましょう。これは徹底すべきだわ。土地に愛着を持てなければ底辺に沈むことも厭わなくなる。何も持たない人間だからこそ略奪を行うわ。それが一番簡単な方法ですもの。ここに招き入れた責任だけは負わなければ。エレスチャレ村の住人との対立は避けたいでしょう」


「一度に三十人もの外の人間が入れば、元の住民の反発は必須だぞ」


スマラルダスが呟く。

これはわかる。日本でだってそうだった。前世で通っていた小学校でも新興団地の子と、地元の子の間で派閥が別れていたし。

相互理解と融和が必要…。ん。んん。


「エレスチャレ村って、男性が多いですよね…。独身の」


私が言う。


「ひるがえって、セルカドニーからの皆さんはお年頃の娘さんがほとんどですよね…」

「そうだな。食えない村だったそうだから、男手のある家は村を捨てて出て行ったんだろう」


スマラルダスがあごをさする。

……田舎の独身男性の悩みと言えば。


「…では、お見合い大会を行いましょう…!!」


バンと机を叩いて私は椅子から立ち上がる。

あら、むしろ位置的に低くなった。くく。よいしょ、と再度椅子に腰掛けなおす。締まらないな。


「冬が来る前に、彼女らとエレスチャレ村の独身男性のお見合いをするのです。気が合ったなら春までお付き合いをすすめましょう! 雪が降ったらどうせ村の方々は村から出ません。おたがいを知る時間はたっぷりあります。エレスチャレ村を--取り込みましょう!」

「若い女を餌にする気か、えげつない…。子供の発想じゃない…。さすが、スピネルと気が合う…」


呆然と言ったのはピンクの髪のモルダヴァイトだ。スピネル君も彼をジロと見た。

おい、ピンク。違う、ハニートラップじゃないわよ!


「エレスチャレ村にとってわたくしたちは明らかなしんざんです。そこにセルカドニー侯爵領の人間を大人数抱えたらうさん臭く感じるのは当然です。しかも、わたくしたちはエレスチャレ子爵から詐欺の疑いをかけられています。今回の精霊堂の建設作業でその感情がかんわされたとはいえ、地元住民とあつれきを生む可能性が高い。それはじょうさくではありません。それに彼女らも、いずれ結婚相手が必要でしょう。今回一緒に逃げてきた村の方はほとんど既婚が高齢です。自然、相手はエレスチャレ村の男性になります」


息をつぐ。


「言いたくありませんが、彼女らが地元を捨てた人間として相手のご家族から下に見られる場合もかんがえられます。これは不本意です。ならば、こちらからわたくし、フロウライト伯爵令嬢…いえ、未来のエレスチャレ子爵夫人がひごし、教育した人間として紹介した方が村に溶け込みやすいかと思います」

「ああ、なるほど。エレスチャレ村の人間の選民意識も満たされるだろうね」


モルダヴァイトは苦笑する。

軽そうな見た目と違って、彼は腹黒なのだろうか。

さっきから受け止め方が黒いなー。


「ええ。エレスチャレ子爵夫人のしんらいを得た、と受け取る方もいるでしょう」


まあ、エレスチャレ村にも恩を売りたいし、彼女らを大事にして欲しい。


では、と手を上げたのはブルーレースだった。


「わたくしからも提案ですわ。エレスチャレ村のお嬢さん方から、帽子や最新流行のドレスの縫い方など指南して欲しいと要望を多く頂いていますの。彼女らは冬、この精霊堂で働きたいとも希望があります。彼女らをここで使うのは?」

「人手は充分ですが、セルカドニーの娘さんだけ行儀指南した場合、エレスチャレ村の方がセルカドニーの娘さんと大きく水をあけられた、と感じるのも困りものですね…。

私もエレスチャレ村の奥様たちと仲良くしています。

私やブルーレースがセルカドニーの娘さんと一緒に村に赴いて、そういう縫い物の教室を行うのは?

女同士は打ち解けやすいし、お見合いが成功したら もともと仲のいい人間のいる場所で生活する方がセルカドニーの娘さんにも良いのでは?」


ダートナからも意見が出た。

なる。お洒落番長のブルーレースはエレスチャレ村の若い子から支持があるわけだ。さすが!


(でも、ブルーレースは美人すぎだから、セルカドニーの娘さんが霞むかも…)


お見合い自体にはブルーレースは顔を出させないようにしようとセルカドニーの娘さんに大変失礼なことを考えつつ、私はスマラルダスを伺い見る。


「…どうでしょう」

「悪くはないな」


スマラルダスがニヤリと笑った。


おお、合格点かい!


「だが、セルカドニーの娘たちの安全には充分気をつけろ。これは明日セルカドニーの村長に移住の件と合わせて相談だ。あと、攫われた村人については情報が入り次第だな」


ふー、と私が息をついているとグワシ、とスマラルダスの大きな手がまた頭を掴む。ゴラア!


「産業については、また後日だな? 考えておけよ?」


ぎゃー、抜け落ちていたワ。

ちょっと、意地悪い顔で笑いながら女の子の髪をわっしゃわっしゃしないでよ!

スマラルダス、実はお前もSか!

も~も~言っていたら、ブルーレースが櫛で直してくれた。


「さて、アイアンディーネ様。すこぅしアイアンディーネ様のお行儀作法についてお話しましょうね。

"まじか"はもしや、いつもの癖ですの?」


見上げると、ブルーレースの綺麗な笑顔が凍っていた。

まじか…。


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