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23話


「魔女!? ブルーレース先生って魔女の家系なのですか!?」

「うふふ、ご存知でしたか? 魔女のことを」

「…え、ええ」


ゲームの前説ですが。

確か、竜と仲の悪い強い魔力を持った一族で、その魔力は王家に封印された…という記述があったのよね。

でも、実際ゲーム内で出てくる魔女は古典的な『イヒヒヒ、お嬢ちゃん、占いは如何かね~』的な鉤鼻キャラばかりだった。


(しかも、小悪党が多かった…。竜と王家に睨まれて肩身が狭いとか言っていた辻占のおばーちゃんモブがいたな…)


つい、そんな残念なキャラを思い浮かべ、醒めた目でブルーレースを見てしまった。

視線の冷たさを感じてかブルーレースは 「まっ」と小さく声をあげている。


「誤解なさらないでくださいませ、アイアンディーネ様。わたくしは良い魔女ですから。それに、スマラルダスのおかげで魔力が解放されていますの! スピネルにだって負けませんわ!」


いや、自称良い魔女て。


「…魔力の解放って?」

「わたくしはスマラルダスに真の名を捧げていますのよ。王家の血筋の信頼を得れば、わたくしたち魔女はその力を発揮できます。結界は魔女の十八番ですわ。竜に疎まれて、わたくしどもの祖先は結界を張り、そこに魔女の里を作り暮らしていたのですから」

「あら、それは魅力的ですね、ブルーレース先生…」


つい、うっとりしてしまう。

隠れ里か。いいね、いいね、この響き。

私のそんな様子にスピネル君がため息ついた。


「ブルーレース。雑談はそのくらいで。夕食が間に合いません。ダートナも来てもらっているのですから」

「わかってるわよ。そこまで広い範囲は無理ですけど、この城壁の中だけなら充分ですわ」


そう言って、彼女は精霊堂を出て、城門前まで進み出た。

そして、優雅な仕草で手に持っていた杖を掲げた。杖の先端には柊の葉の意匠が施されていた。

それから彼女は--歌いだした。


「魔女は歌に魔力を込めます。…普通の魔法と違うところだね」


その声に見上げると、いつの間にかアンバー先生がダートナと並んでいた。


(わ~、なんだか、精霊みたい! カッコいい!)


「これ、私も使えますか? アンバー先生!」

「どうだろう。魔女の歌は魔女の伝統ですからね…。錬金術みたいに、材料と魔力があればできるものじゃないらしいですよ。魔女自体、隠れ住んでいますからね。僕も魔女が魔法を使うところは初めて見ました」


アンバー先生は研究者の顔になっている。

歌は佳境に入る。

歌詞はなぜか頭に入らない。これが魔女の歌のせいかもよくわからない。

それから、指揮棒のように杖を振ると、先端の柊が緑の色を持ち、薄い新緑色の魔力がそこからほとばしった。


その薄緑の魔力の雫は黄昏時におおいに似合っていた。

それはくるくる渦を巻き、夕暮れの空高く浮かび、パンと花火のように弾けて壁の周囲を囲うように落ちてきた。


(…たーまやー!!)


いや、言いたくなるでしょ! 日本人なら! しだれ柳かよ!

思わずぱちぱちと手を叩く私にブルーレースは満足気に微笑む。


「これで、この結界内で悪意ある行動はとれません。事故すら起きないのですわ」


え? どういう意味と私が目を見開けば、ブルーレースが懐から小さなナイフを取り出し、自身の指先に押し当てた。

ギャー、赤い血がほとばしると思って息を飲んだが、ナイフの切れ味はすこぶる悪い。

ポヨンと指の肉圧に押し返される。


「刃物の手入れが悪いわけではありませんよ」


そう言って、スピネル君がブルーレースにハンカチを渡す。

ブルーレースはそれを受け取って刃物でスーッと二つに切った。


「もったいない!」

「驚くところ、ソコですか?」


スピネル君の呆れ口調にムムと怯んだ。


「魔女の結界内では人間を傷つけることが出来なくなります。首を絞めても同じ結果です。打撲も勿論。相手を眠らせるか、拘束するくらいしか行動不能にする術がなくなるのですわ。まあ、言葉による暴力は可能ですけれど」


うっわ、有効打のない延々続くボクシングを想像した。ないわー。


「まあ、これも竜のブレスまでは防げませんよ」


スピネル君が言い添える。


「え!? そうなの?」


私の使う万能盾では防げる筈。あいつ、どんだけ、チートなの。


「仕方ありませんわ。魔女は竜の加護から外れた生き物ですもの」


ブルーレースが肩がすぼめる。

淑女らしからぬ振る舞いですわ、ブルーレース先生。


「でも、これで子供たちが怪我することなく過ごせますわ。この結界を張るのは魔力が充分に満ちた場所でないと出来ませんの。王都のように精霊と契約した土地でも、人間が多すぎるとそれはそれで魔力が分散して上手くいかないのです。魔女が人のいない場所で隠れ住む理由ですわね」

「…ブルーレース先生は隠れ里におられたんですか?」

「いいえ。わたくしは祖母の代で王都に出てきて、彼女が貴族に囲われました。母に言わせるとそれなりに幸せな生活だったようですわ。わたくしは祖母と母に魔女の薫陶を受け、魔法を使えるようになったのです。母はとある貴族に嫁ぎました。おかげで魔力取得の儀式も受けられ、貴族として恥ずかしくない教養も身に付けられました。けれど…十二の歳に両親が馬車の事故で亡くなり、わたくしは親戚の策略で廃嫡されましたの」


(重いーーー!)


なにげに聞いたら超重い話が出てきてしまった。

そうね、ここの孤児院の方たちは皆、事情あるんだもんね。

私もデリカシー覚えなきゃ。


「ご、ごめんなさい。言いづらい事を…」

「構いませんわ。娼館に売られるところを、たまたまその娼館に商談に来ていたスマラルダス様に拾われました。だから、彼には感謝してもしきれません。わたくしはまだ孤児院に来て三年しか経っていませんから、あの中では新参ですわね」


そう言って清々しく笑うブルーレースはとても綺麗な人だ。


「先生! わたくしも魔女の魔法を覚えることは出来ますか?」

「それは無理ですわね」


おおう、即行。


「魔女は血なのです。でも、魔女の魔法以外にもわたくしが知っている魔法を教授できます。かなり強力な魔法もありますわ。竜の加護なんか必要としないような」


そう言って彼女はスピネル君を挑発的に見て、笑う。


「…ジュエルランドが竜の守る国であることをお忘れなく、ブルーレース。王家の一人、スマラルダスに忠義を誓うなら」


呆れたようにため息交じりで言うスピネル君の様子から、ブルーレースはどうやらスピネル君に対抗心があるようだ。そうだよな~。スマラルダスを挟んで三角関係か! 大いに結構。

わかっていますわ、と言い彼女は口元に指先を当て私を見た。


「なので、スマラルダスの依頼のアイアンディーネ様の淑女教育はビシバシ参りますからね?」


お、おう…。







ところで、竜と魔女の仲が悪い原因はと聞いたらスピネル君いわく


「欲深い魔女が薬の材料として竜のうろこを狙うからです」


ブルーレースいわく


「欲深い竜がうろこのひとつも分けてくれないからですわ! 宝石に囲まれて眠っているんだから、うろこのひとつ、ふたつ分け与えても宜しいと思いません?」


二人の意見を鑑みて、私はそりゃ、竜も怒るわと結論づけた。








その夜、久しぶりに一人で寝た。

天蓋付きの白いフリルのベッドに少々居心地の悪い気持ちもあったけど、真新しい布団は気持ちよかった。

お風呂は今日は部屋のバスタブに入ったけれど、明日は大風呂を使おう。

近い年頃のお姉ちゃんとして、そして温泉大好き元日本人として、子供たちに公衆浴場の入り方指南してやるぜ。

夕食はダートナとブルーレース、私とスピネル君で作り、子供たちを歓待した。

子供たちは口々に美味しいと絶賛し、鍋をがんばってかき混ぜた私も甲斐があったと満足しました。

ちなみに、新しい鍋をモリオンたちが持ってきてくれたのに、万能盾を使うのはちょっと…。


「この鍋で煮込み料理を作ると、他の鍋より美味しくなるような気がするのですわ、お嬢様」


真剣な表情でダートナが言うのでアレですが、この鍋、いや盾はもとは魔獣が背中に背負ってまして…。


(…狸の出汁か。ぽんぽこぽーん…)






(ちょっと、寝付けないなあ…)


久しぶりに一人で寝ているからかな。

いや、多分、気にかかっているからだ。

エレスチャレ子爵のことが。


(従僕のヘマタイトさんには人格疑わないとは言ったけど、どうもな~)


ゲームでは、エレスチャレ子爵は大変権力欲強い人物として描かれていた。

そのせいで、フロウライト伯爵といがみあっていたんだもの。

現在も決して仲良くはない。


(エレスチャレ子爵がフロウライト伯爵に対抗心があるのは間違いないんだろうけど。…この村では、皆伯爵家に好意的なんだよね。雇ったばかりの執事に騙されてしまう世間知らずな部分はあろうけれど、基本領民主体で考えることのできる人ってこと?)


七歳の子供に手を上げるような人物に、その片鱗は感じられないけども。

なんとも、彼の周囲の扱いと実像がそぐわないのだ。

むしろさらに気になるワードもあったじゃないの。探偵モードで思考する。


(お子様"たち"だよ、たち!)


エレスチャレ子爵が一人っ子ではないのなら、子爵になにかあった場合、その人物が出てくる可能性があるんじゃないかな。

それがいい人物ならいいんけど、もしも、フロウライト伯爵と結託して私たちに何らかのプレッシャーを与えてきたらどうしよう…。


(やっぱ、スマラルダスと この事はじっくり相談すべきかな~。でも、スマラルダスは何か知っていそうなんだよね。なのに言わないってことはそれほどの危険ではないのかな? それとも、エレスチャレ子爵もソーダライトのお祖父様同様、見る角度で違うだけ?)


祖父のオニキス・ソーダライトはゲームと違いアイアンディーネを強引にエレスチャレ家に娶わせようと画策しているように見えるが。


(いや、半分はそうなんだけど!)


動機はアイアンディーネへの愛情だ。

商会の利益だけではない。


(…はず。…や~ん、実際に会ったことないから話だけでは信用できな~い。元大人だから、疑り深いんだよ~! 穢れた自分がいや~!)


思考がエレスチャレ子爵から反れてしまった。

実際のエレスチャレ子爵の私の評価はやはり散漫だ。


(ヘマタイトさん、やっぱり、私は子爵を完全に信用はできませんわ)


そして、子爵位を狙う輩がいるのも忘れてはいけない。

ゲームではジェダイトは子爵家の人間だったけど、ルートストーリーをそのまま進行しないこの現実。

爵位をめぐる危険がこの地にあるのは明らかだ。

だとしたら、今後、この土地で暮らす私たちにも影響があるのかな、と私はかすかな不安を抱いた。




****




翌日、私は手の空いたシルバートを案内に、アンバー先生と三人で本格的に購入した土地の散策を行うことした。

生活に入用な残りのものは錬金術で作らず、村で購入するか、作るようにした。村にお金を落とすのも大事だ。

あと、私はあの美味しいリンゴの苗木が手に入るか交渉して欲しいと留守を任せたスマラルダスに頼んだ。

ダートナがなにも、アイアンディーネ様ご自身が赴かれなくても、と渋い顔していたが、私はこの辺りの土地をどういう特徴があるか、つかんでおきたいのよ、わかって、ダートナ!


目的としては、沢と渓流の確認と、魔鉱石の鉱脈の発見だ。

シルバートが夜に空晶の森や購入したもうひとつの山も見ているので道案内はバッチリだった。


「シルバートは歩いて移動するのですか?」

「いいや、我は空を飛べるからな。目に見える範囲なら瞬時に移動もできる。スマラルダスの元へなら、どれだけ離れていても戻れるぞ」


言って彼はふわりと浮かんでそれから私の前から一瞬姿を消し、三メートルほど先に現れた。


「さすが魔剣! 私の魔剣もそれ、できるようになりますか!?」

「人型になるよりは簡単だ。魔力を与え、成長させれば、遠い場所からでもすぐ己の手に戻せるようになる」


な、なるほど。だから、スマラルダスはシルバートを別行動させることができるんだ~。

私が常に着けているアンバー先生からもらった移動の魔石を思い出す。

ふふーん、私はアンバー先生を呼び出せるもんね。

いでよ~!

私が首に下げている魔石の付いたバングルを掲げて独り遊びをしていると、アンバー先生がなにか思いついたようで少し待つようにと言い置いて自室に戻った。

半時ほどで戻ってきた先生は私の付けているような魔石のついたバングルを付けていた。


「ちょっと呼び出しを出来るようにね」


誰を、とは言わずお髭の下の口元に笑みを作って、先生は出発すると言った。



子供たちに見送られ、私たち三人は城壁から出た。

見送りの中にスピネル君がいることに、なんだか違和感を感じる。


(ここひと月ばかり、ずっと一緒だったもんなぁ)


なんとなく、寂しいなあ、と思ったらスピネル君も寂しいと思っているような気がした。

心の友だからかしら。






伐採の済んでいない森を歩くのは正直すごく大変だ。

先頭をシルバートが小枝を払いながら先導する。

途中、魔獣が現れれば、アンバー先生が魔法で弱体化しシルバートがフォローしながら、私が倒すこともある。

足元でウネウネする気色の悪い魔獣もいれば、熊のような魔獣もいて、魔剣への魔力吸収率の高いのは、『呪い』のような真っ黒な影のような魔獣だ。見た目、普通の獣に近いと死骸が残って厄介だった。

歩いて三時間ほどで、水の音が聞こえた。


「この先だ」


シルバートが指差した。

さすがに私も疲れが出たよ。へとへとだ!


「空腹でしょう。水場近くで昼食にしましょう」

「は~い!」


アンバー先生の昼食の言葉にホクホクし、私は現金に水音の方へ向かった。


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