22話
石壁の中に木材を運び入れた後、今日からスマラルダスとシルバートはここで休むと言った。
モルダヴァイトはフロウライトの町まで来ている孤児院の子供たちと他の仲間を迎えに行く。
そうして、明日から本格的なお引越しをする事となった。いったんシルバートの護衛で森を出て、シルバートと私たちは別行動になる。
ログハウスに戻ったら、村の女の人が数人来てくれていて、お引越しの荷作りをダートナを先頭に行っていた。
その中に、ガーネットちゃんとそのお母さんもいた。
ガーネットちゃんのお母さんはお医者さまだ。
この世界では女医さんは かーなーり、珍しい。
私の主治医でもあるアンバー先生が感心しきりだったもの。
「ガーネットさん、ガーネットさんのお母様、お手伝いありがとうございます。エレスチャレ子爵のお加減はいかがですか?」
私は彼女らに駆け寄り貴族らしい鷹揚な笑みで挨拶した。
「子爵はだいぶ落ち着きましたわ、アイアンディーネ様。お気遣い、ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ。ガーネットさん、今日はジェダイト様は?」
「ジェダイトは今日は来れなかったの」
ガーネットちゃんは打ち解けた笑顔を見せてくれる。いい子だ。
「ガーネットさんはお母様似なのね」
「よく言われるわ。私もお母様みたいになりたいの。お母様は小さい頃に両親を失くして、館で育てられたの。使用人だけど、先代のエレスチャレ子爵にもよくして頂いたんですって。だから、お医者様を必要としていた当時のエレスチャレ領のために、勉強を頑張ったんですって」
「偉いわ。それで町の診療所にいらっしゃるのね」
「ええ。診療所は私のお父様と開業したのだけどお父様は私が小さい頃に亡くなってしまって。お母様は一人で後進の指導も行って診療所を支えているの」
ガーネットちゃんは素直にお母さんを尊敬の眼差しで見ている。
「りっぱなお母様だわ」
ガーネットちゃんは ありがとう、と笑う。
「今は子爵の援助でお医者になった他の先生たちと数人で患者さんを診ているの。なので、そろそろエレスチャレ村に戻ろうかとも話していたのよ。ここで医療院を開業しようかって。私はここが大好きだから賛成だわ」
近くなると、また、一緒に遊べるねと二人で笑いあった。
同じ年頃の女の子の友達、嬉しいな~。
手を振ってその日ガーネットちゃんと別れると私は隣にいるスピネル君に気が付いた。
(ハッ!)
いけない、私は最近スピネル君に甘えすぎでは? 彼に感謝の言葉が足りないのでは?
「スピネル君、私に友達が増えてもスピネル君が心の友だからね! 一緒に居てくれて感謝しているからね」
突然の発言にキョトンとしたスピネル君がちょっと可愛いぞ。
しかし、ツンは容赦ない。
「私はただの護衛ですよ」
「えっ、まさかの拒否! 愛情の空回り!」
うそーん。その夜、ショックを隠せずベッドでしくしく泣いてしまった。
ちなみにそれを慰めたのもスピネル君だ。
なに、このマッチポンプ男。
翌日、お引越し準備が整い、荷馬車に荷物を載せて移動です。
今日もガーネットちゃんたちと村のお手伝いさんたちが来てくれている。
「孤児院の子供たちは?」
「昼には着くそうです。小さい子が多いので、ゆっくり来ます」
スピネル君がそう言った。
う~ん、どんな子達かなあ。張り切っちゃうなあ。
「子供たちが着く前に、ベッドの用意しなくちゃね」
私は楽しみにして、朝迎えに来たスマラルダスたちと伴に森へ歩き出した。
昨日出来上がった精霊堂の中に村のお手伝いさんたちも入れて、荷物の紐解きを始める。
ダートナとブルーレースはここに入ったのは初めてなので、村の女の人たちと一緒にお湯の蛇口に嬌声をあげていた。
ダートナは魔法でお湯を湧かせるのに…と思わなくもない。
スピネル君と私はアンバー先生とコンクシェルの助手だ。
各部屋用のベッドの製作をするのだ。
王都の孤児院では広い部屋に子供たちのベッドを並べていたが、今後のことも考えて個室にすることになった。
子供たちが成長した時、二人、三人で使うには狭い。
ただ、まだかなり小さい子もいるというので、その子たちは広い客間で相部屋にすることにした。
ベッドはアンバー先生とコンクシェルとスピネル君で作る。
机は建物に備え付けだったので、私は一人で椅子の製作になる。
(自分一人で背もたれのある椅子を作るのは初めてだ~)
丸椅子は先生の授業で作ったことあるんだけどね。
私は設計図がないと細かいモノは作れないので、設計図はコンクシェルに用意してもらった。
「設計図の描き方は冬の間にお教え致しますぜ」
おお、それは楽しみ。
木材と魔石で設計図に魔力を通して魔法陣が現れ、一瞬で木製の椅子が出来上がる。
(わ~い、成功!?)
私は椅子に腰掛けたり、揺らしたり耐久性の確認をする。
それを見ていたコンクシェルがこちらに歩み寄り、椅子の確認をした。
「上出来です、お嬢様。この調子で人数分お願いしますぜ」
はい! コンクシェル先生!
私はご機嫌で椅子作りに専念したが途中魔力枯渇でパタっと倒れて周囲を慌てさせた。
すみません…。
家具が揃ったら、ブルーレースとダートナ指示の元、私の部屋と子供たちの部屋のファブリック類も整えた。
私の部屋は二階の奥で一応、女主人格だ。
執務室と寝室の二間続きで、家具はアンバー先生がちょっぴり豪華にしてくれた。
白いロマンチックな家具で姫家具だ。
ダートナが用意したカーテンはひらひらの白地に小花柄の可愛い系だ。
(わ~。前世の私では似合わないが、アイアンディーネなら…!)
設置されたデコラティヴな姿見を見てちょおっと考え込む。
そこに映った私は半ズボンの少年にしか見えないから…。
イメージしていたのとちょっと違ったが、メゲないぞ…。
子供たちの部屋は簡素だが、清潔で、事前に用意していた綿の入ったお布団をベッドに敷いて完成だ。
スマラルダスも同じ二階の部屋を使って貰うことになった。
ここもブルーレースが腐心していた。もしかして私の部屋より豪華な設えになったのでは。
(ブルーレース、もしかして、スマラルダスにご執心か!?)
あらイヤン、野次馬根性が沸き起こるわ~。
さすがにもうスピネル君と同じ部屋はダメだとブルーレースに言われ、彼は私の部屋の隣室になった。
「深夜の護衛はもう必要ありませんもの。魔法結界を張るのですから」
う~ん、寝る前のこそこそ話しが楽しみだったのに。
ただ、スピネル君が二階の部屋を与えられたことに、私は少し疑問を持った。
(スマラルダスに育てられたと言っていたし…。もしかして、相当高貴の出…?)
私は今更ながら、スピネル君の特別扱いに不思議を感じた。
午後になって昼食の準備を始めた頃、モルダヴァイトが馬車を二台引いて森に到着した。
幌付きの馬車の御者にはモルダヴァイトと見知らぬ女性。
荷物をたっぷり載せた荷馬車は男性が御者をしていた。
幌付き馬車が停まると、そこからはわらわらと三歳から五歳位までの小さい子が降りてきた。
(か、可愛い~! 思ったより、小さい子たちだ!)
スピネル君くらいの年齢を想像していたからギャップに驚いた。
「ここが、あたらしいおうち!?」
子供たちは元気で、珍しそうに辺りを見回す。
その様子を村の女性たちが まあまあと目を細める。
「いやぁ、思ったより立派ですねぇ…」
モルダヴァイトは少々呆れた口調だ。いや、まったく。
荷馬車の男性が子供たちを整列させ、幌付き馬車の女性は剣を携えて御者台からヒラリと降りた。
そして、二人は私を認めると、そのままこちらにやって来た。
女性は後ろで括った長い髪を右肩からハラリとたらし、恭しく礼をする。
「アイアンディーネ様、お初にお目にかかります。私はモリオンと申します。スマラルダスの庇護する孤児院で育ちました。一介の剣士でありますが、アイアンディーネ様のご厚情に報いるよう、精一杯努めさせて頂きます」
「同じくコーパルと申します。孤児院の子供たちの庇護をお約束くださり、ありがとうございます」
「アイアンディーネです。こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」
そして、ちんまい子達がコーパルさんの手招きで集まり、背丈の順に整列する。
「アイアンディーネ様、初めまして。お世話になります」
一斉に頭を下げる。
(かわえええええ~!!)
私たちの様子を見ている手伝いの村の人達が可愛いわねえ、と口々に誉めそやす。
ホント、ホントと脳内で同意して私はお姉さんらしく凛々しく挨拶を返す。
「初めまして、皆様。なかよくしましょうね」
すると後ろから村の人達のまた褒める声が。
ああ、私もちびっ子枠ですか。そうですか。もー!
ちょっとお姉さんとしてのプライドを傷付けられたが私は子供たちを案内する。
私が用意した椅子を褒めてもらうんだ~。
「スマラルダス、子供たちを部屋に案内してもいいかしら?」
「かまいません。コーパルをお連れください。モリオンとスピネルも荷物を持って付いて行ってくれ」
(人前だと、スマラルダスは敬語だなぁ。私の方が本当は身分低いんだけどね)
私も荷物持つよとスピネル君に小声で言ったが、軽いですからと彼は自分より大きな子供たちの荷物を片手で持ち上げた。
ううむ、身体強化、羨ましす。
子供たちを居住空間へ案内すると、ベッドが整えられた部屋に興奮する。
「すごい、つくえがりっぱ!」
あ、それ備え付けだから。
「みて! ひとりべやだ! これボクのベッドだよね!」
あ、それ、アンバー先生とコンクシェルの創作。
なかなか椅子に注目されない哀しみを秘めて、私は子供たちに慈しみの目を向けた。
(うう、チビども、私の作った椅子を見ろよう~!)
残念な思考を心の中で呟いていたけど。
「さあさあ、皆部屋割りをするぞ。小さい子はボクと一緒に寝よう」
コーパルはそう言って、客間から顔を出す。
左右の棟で男女に別れ、十人中、三人の男の子はコーパルと客間に、一人の女の子はモリオンと一緒にもうひとつの客間を使う。
そして年長の子達は一人部屋だ。
ただ、一人部屋をもらった子も夜はまだ慣れないだろうと、モリオンとコーパルの住まいになる客間にそれぞれのベッドを寄せて寝ることになった。
客間、広く作って良かった!
そうしてホワホワしてたら、一人の子が言った。
「スピネルはこっちでいっしょにねないの!?」
私はそれに耳をそばだてた。
スピネル君がなんと返すか興味があったのだ。
この孤児院にいる子は皆事情があるとは聞いている。その中でも特別扱いの彼がどんな存在か気になっていたのだ。
「バカね」
年長の女の子が言った。
「スピネルはもうはたらいているのよ。スマラルダスさまのじゅうしゃなんだから。わたしたちと、たちばがちがうの!」
「え~」
(…なるほど、道理)
なんだか、特別な理由があるかと穿ってしまっていた。私もおバカだな。
しかし、女の子、しっかりしている。五歳くらいだよね…。
そう思いながら、横を見たら、スピネル君はかすかに困ったように笑った。
「それでは、住まいも整ったようだし始めましょうか」
手伝いに来てくれた村の人達を帰し、護衛に付けたシルバートが戻ってきた夕刻、ブルーレースがサラリと言った。
「なにを?」
私とブルーレースとダートナは夕食のジャガイモの皮を剥いていた。
まだ、料理は出来ていないのだが。
子供たちはお風呂に入っているし。
大風呂に湯を張ってコーパルとコンクシェルで男の子たちの面倒を見ている。
モリオンは既に女の子たちを湯から上げ、部屋で着替えさせているはずだ。
ブルーレースは白いエプロンを外し、くるくるっと巻いて丸椅子に置き、さあさあと私を追い立てる。
「ダートナもいらっしゃるといいわ。魔法結界を張るのは見たことないでしょう?」
私はその言葉に驚いた。
「魔法結界はアンバー先生が張るんじゃないの?」
「…私もそう思っていました」
ダートナも訝しげに呟く。
それにブルーレースが挑戦的に返す。
「アンバーより強力な結界が必要でしょう。精霊の契約者がいるのですもの。しかも、無防備な子供ですもの」
その整った相貌に自信を乗せて言う。
「アイアンディーネ様も、魔女の魔法を見てみたいでしょう?」




