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15話


私の"既に死んでいる"発言にスピネル君が小首をかしげる。


「『呪い』に襲われたことですか?」


魔力取得の儀式の際、『呪い』により私は貴族としての魔力を得ることは出来なかった。

でも、それではないよ、と私は自分の鼻の頭をコリコリかいた。


「ううん。それじゃないの。信じてくれなくてもいいけど、私、別の世界で一回人生を終えているの。どういう人生だったか個人的なことは覚えていないのだけど、その世界のちしきがあるの。だからね、この人生がおまけのような気がするの」


スピネル君の眉根がひそまれる。


「別におまけだからって、いい加減に生きようとは思っていないよ! でも」


私は手振り身振りでなんとか伝えようとする。


「…思ったようにしたいなあって」


スピネル君がその紫の目を瞬く。


「私、ダートナとアンバー先生が家族なんだよ。だから大切にしたいの。スピネル君やスマラルダスたちも好きだよ! 精霊もあんな悲しいのはイヤだし? なんて言うの、みんな幸せになって欲しいよ。多分きっと」


私はため息のように声を出した。


「私はしあわせな人生だったんだよ。きっと、そう。人生に"よろこび"があったから、少なくとも好意を持っている人達に自分と同じだけの"よろこび"を知って欲しいんだよ…、きっと。だから、その、なんだ~」


う、言いたいことよくわからなくなった!

う~ん。

いいや!

私は眼前のスピネル君の手をガツンと握った。


「やっちゃおうぜ、て気持ちなの! みんなが希望を得られるチャンスが目の前にあるなら、飛びつきたいの」


どや! と私はスピネル君に言い募る。


「それに、今すぐお安く手に入る土地があれば、せんこうとうしで手に入れておきたいじゃん!? 領主になるならない別にして!」

「それは本音ですね」


あれ、いい話で着地しなかった。あれ?






私たちは蛍光石ランタンの揺れる明かりの下、それぞれ天井を見上げていた。

いや、本音が軽く生臭くってゴメンね!


「…あ~の~さ~…。明日、スマラルダスたちに精霊とけいやくするって話すんだけど」

「…はい」

「…いっしょに来てくれる?」


スピネル君がクスリと笑った。


「いいですよ」

「…ありがと」


私は寝袋の中に肩まで入り込む。スピネル君も身じろぎした。


「後悔しませんか?」

「うん、しない」


私、潔さは前世からビックリレベルなの。


「それに、ぜんせの記憶で、私 ダートナとアンバー先生のうんめいを知ったの。二人が死なないためにはフロウライト伯爵から遠ざけたいの。…それに、ソーダライトのお祖父様の望むようにはできなさそう」


今回の冤罪をかぶせられて、やっぱり二人が責任取らされる場合だってある。

フロウライト伯爵領内では、伯爵がいつ二人を厳罰するかわからない。

事が大きくなれば、誰かが責任取ることになる。

フラグに怯えて生きるのは、嫌だ。


「前世、ですか」

「信じなくていいよ」

「そうですね…。どうして私に話したんですか?」

「信用を得たい。スピネル君は私の見張りでしょ」

「護衛ですよ」

「でも、私の人となりはスピネル君がスマラルダスに話すでしょ」

「話さなければ?」

「スマラルダスはきっと自分で見た私をそのまま評価するでしょ。私、信用と好意は別だと考えている。どちらも得られなければ、私はそれだけの人間だっただけだよ」


スピネル君が鼻で笑う。

この間私を鼻で笑ったのも幻覚ではなかったようだ。


「…アイアンディーネ様は生意気ですね」

「一回死んでるからね」


私もお返しで笑ってやった。


「明日は手をつないであげますよ」

「ありがと、…たのむわ。おやすみなさい」


スピネル君はツンだった。

意外。




****




さて、草原のテラスで朝日を浴びて私とスピネル君は手をつなぎ、大人たちに向き合っている。

びびるな~、びびるなよ、私~。


「あ、あの! 昨日、わたくしが受けた精霊印についてなのですけど…」


ダートナがいぶかしがる。

スマラルダスは一瞬、すごく怖い顔になった。

言え、言うんだ私!


「わたくし、けいやくを受けようと思いますの!」


言ったー…。

だけど、スマラルダスがひどく低い声を出した。


「スピネル、お前が唆したのか?」


スピネル君はごく、と生唾を飲んだ。

私は慌てて否定する。


「ちがいます! 自分で考えて決めました。まずはけいやくして、エレスチャレ子爵から土地を買い取ろうと思います」

「お前、自分が…いや、ソーダライトがエレスチャレの乗っ取りを疑われているのはわかっているのか? そんな時に広大な土地を買い占めてみろ。疑いが濃厚になるぞ」

「そうでしょうか? じじつ、ソーダライトのお祖父様はフロウライト伯爵領を欲しています。その足がかりとしてエレスチャレ子爵と私を結婚させようとしたのですわ。今更、疑惑をおそれてどうするのです?」


むしろ


「今、けいやくしなければ、エレスチャレの土地は手に入らないでしょう。このままだとエレスチャレ子爵が代替わりしますもの。その、サギ師に。

サギ師が土地に興味をもたない言えますか? 興味ないのは今だけかも知れません。彼らが子爵位を得たあと、この土地をどうするかは、そうぞうつきません」


ならば


「今なら、エレスチャレ子爵からそう高い金額でなく、そうおうの広さの土地をこうにゅうできますわ」

「こんな土地、買ってどうする?」

「とうしします。貴族としての魔力がじゅうぶんではないわたくしは、精霊とけいやくできるチャンスはそうありません。わたくしは…、父であるフロウライト伯爵やソーダライトのお祖父様にかんしょうされる人生は歩みたくありませんの」

「自分の自治領としたいと?」

「まだそこまで考えていません。わたくしが領主を名乗るには国の裁可が必要ですもの」

「…それなりの理由が必要だな。それと、フロウライト伯爵領から切り取るんだ。伯爵次第だ。たまたま手に入れた精霊印で、そこまで面倒ごとに首を突っ込む必要はない」


スマラルダスは大きくため息する。

スピネル君の手のひらが冷たい。私はギュッと強く握った。


「スマラルダス…、あなたたちがここで暮らせば たよりになります」

「俺たちに出来るのは見届けだけだ。見返りなしで、仕事はしない」

「孤児院の子供たちのめんどうを見ましょう。その子たちが独り立ちするまで安全をほしょうします」


スマラルダスが面をあげる。


「スピネルが話したか? どこまで?」

「とくしゅな孤児院とだけ。スピネル君をせめないでくださいませ」


スピネル君がスマラルダス、と呟く。


「限界です。この仕事を請ける前、側妃の刺客が子供たちを狙いました。いつか、彼らが殺されます。その時、貴方は耐えられますか?」


…思った以上に重い実情に目を剥いた。


「だからと言って、貴方が王妃派に付けば国が乱れます。それが嫌でずっと私たちは自分たちでなんとかしようともがいてきました。子供たちを守れる--場所が必要です。王都の孤児院で今何かあった時、私たちでは間に合わない」


ああ…。だから、シルバートも焦っていたんだ。

少なくとも、子供たちを王都から脱出させたかったのね。

いや、待て。

じゃあ、それこそ、時間が惜しい。こんなところでグダグダしている場合じゃないじゃん!


「決まりですね。スマラルダス。わたくしがここに土地を得て、孤児院を建てます。子供たちは必ず守ります。その代わり、貴方たちの仲間をやとわせてくださいませ。これはお祖父様ではなく、わたくしが雇用主です」

「お嬢様!?」


ダートナとアンバー先生が驚きの声を上げた。


「二人には事後しょうだくになってごめんなさい。でも、私、もうお祖父様たちの事情に振り回されたくないの」


眼前に"たのしいサバイバル森番小屋生活"が落ちていたら、拾うじゃん?

今、まさに、そんな生活が出来そうな大きな森が落ちているんだよ、アンバー先生、ダートナ!

まあ、多分、そんなスローライフとは無縁だろうけども。


「少なくとも肩身のせまい思いをして、かめんふうふで悩むことは避けられそうですもの」


私はダートナに駆け寄り二人の目を見て言い放つ。


「ダートナ、アンバー先生! 私、精霊とけいやくします。そして、二人に楽させてあげますから、見ていてくださいね」

「お嬢様…」


おおお、なんか武者震いくるよ。やるぞ、ゲームの知識総動員して、ここに私の王国(仮)を作ってやるぜ!









それから、全員で森へ向かい、精霊を呼び出して契約を行った。

契約者は私。精霊の空晶は今日は穏やかだった。


「では、娘。そなたの名前を」


そう言うと空晶は何もない空間から金の粒を取り出す。


「アイアンディーネ・フロウライト…」


言うとその金の粒が私の手の甲に吸い込まれ、精霊印を金色に染めた。それから空晶の声がガラリと変わる。

なんと、私の声に。


「"アイアンディーネ"」


だがそれは一瞬で、私の名前を呟いた後、空晶の声は元の美しい声に戻っていた。


「契約は成った。ご覧、アイアンディーネ」


空晶が手を掲げた。

森の周囲の境界線が金色に現れる。それがゆっくり空まで届くくらい、光り輝いている。


「この金の境界の内側が妾の土地。好きなだけ切り取るがいい。人間たちの契約までは妾は関知できないが、お前以外が政を行うのは好まぬ。その時はせめて妾に一言あるように。でなくば、妾は人間を追い出すからな」

「ええ、空晶。約束します。そして、さいしょのお願いです。貴女が元気になるように、わたくしたちは魔獣を狩ります。もし、お元気になられたら、季節の変わり目、わたくしたち人間の目に見えるように美しい歌をひろうしていただけますか? たくさんの人が貴女をたたえられるよう、わたくし、人をいっぱい集めますわ」


空晶はにっこりと笑った。


「お安い御用だ」


空晶が去ったあと、私はガッツポーズを決めた。


「よし! イベントゲット!」


ゲーム時、別の領地で見た、イベント! 精霊の歌は集客率高いお祭りに発展できるのよ!

まだ、なんにもないところなんだから、少しでも人を集めることをしなくちゃ!


そんな私を眉根をひそめて見ている大人たち!

恥ずかしいから凝視しないで。

さあ、さあ、さくさく行くわよ!


「で、資金はどうなさるのです?」


アンバー先生が呆れたように口にした。

むむむ、付き合い長い彼は私の勢いだけの状況把握に冷静な突っ込みをする。

ええと、資金ね。お任せあれ。


「これで何とかなりませんか?」


私はおもむろに白バラから採取した魔石を取り出した。

採取できる条件の朝、必ず取りに行っていたので、巾着からはざらざらざらーと二十ばかり出てきた。


「薔薇聖石か…!」


スマラルダスが感嘆の声をあげた。


「…知っていたのか、アンバー?」


彼はアンバー先生に問いかける。


「これだけの数を集めていたとは知りませんでした。ですが、あの鍋型の盾に使っているのもこの魔石ですよ、スマラルダス様」


どや? どや?

価格が私、気になるんですけど!


「…なるほど。あのおかしな盾が高性能なワケだ」


おかしなとは失礼な!

否定しないけど。

スマラルダスはその魔石を三つ取り分け、私の方を向いて言った。


「これで充分だ」

「え…?」

「この近辺の山二つは買える。このエレスチャレの地価なら充分だ」

「…エレスチャレはそんなに安いのですか?」


呆然として言った。


「それもあるが、薔薇聖石はめったに手に入らない。市場に出れば瞬殺だ。すぐに買い手がつく。これが死の病にも効く万能薬の素材だからな。俺も冒険者生活が長いが、滅多に見たことがない」

「えええーー!」


私は驚愕の声を上げた。


「じゃ、じゃあ これを全部お金に換えたら一生遊んで暮らせませんこと!?」


私の目の色が変わった。

うひょー!


「馬鹿、その前に殺される。こんなものが簡単に手に入る方法を知っている人間だと知られれば、誘拐されて拷問も受けかねないぞ。喉から手が出るほど欲しがる金持ちが多いんだからな」

「は、ははー!」


変な声が出るわ。怖い。


「なんだ、その返事は」

「す、スマラルダスはそんな悪い人じゃないですわよね?」


言いながら本人でなく、スピネル君とアンバー先生を見た。

アンバー先生は苦笑いしている。


「スマラルダスは常識人ですよ、アイアンディーネ様」


スピネル君も心外な、と少し眉を寄せてコックリ頷く。


「では、薔薇聖石はスマラルダスに預けてよろしいですか? 不用意に市場に出して危険を呼び込みたくないでしょう、アイアンディーネ様? 彼なら信用できる換金先を知っている」


アンバー先生の言葉に そうなの? とまたスピネル君を見つめた。

彼はまたコックリと頷いた。


「では、お願いできますか? てすうりょうは何パーセントにするか事前に決めましょう」

「お前、本当に変な事だけ知っているな…」


ダートナの教育の成果ですわ! と胸を張ったらダートナがお嬢様! と顔を赤らめた。

あや、失敗、失敗。


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