14話
小説のストックが切れてしまいました。毎日更新は終了です。不定期更新になります~。
※11/13:後半、スピネル君との会話を少々書き直しました。
14
なんとなく、スピネル君に聞いてみたくなった。
彼は少し驚いたようにこちらを見た。
「…意外です。アイアンディーネ様はそんなこと気になさらない方だと思っていました」
「ちょっと、それどんだけジャイアンよ」
「じゃいあん?」
「あ、ごめん。わかんないか」
同じ年頃なせいかスピネル君には素が出るな。
「オレ様というか、うーん、ジャイアンはジャイアンだし--ってそんな事じゃなく! シルバートが主のスマ
ラルダスへのほうこく前に、私にあんな事聞いたのが意外だったの。なんでかなあって。スピネル君は二人と付き合い長いんでしょ?」
スピネル君がそうですか、と息と伴にこぼした。
「…私の両親が亡くなったのが赤ん坊の時なので…。私はエメラルディン様…スマラルダスの母親に連れてこられて彼女と縁がある孤児院で過ごしました。ですが、この魔力のせいで同じ年頃の子供とほとんど接触がありませんでした。三歳になった頃スマラルダスの母に引き取られ、スマラルダスと伴に冒険先に連れて行かれました。スマラルダスの母は市井ではギルドに所属し、冒険者として実入りを得ていましたので。勿論、シルバートも一緒です。スマラルダスの母は冒険者としての仕事に集中していましたので、私はほとんどスマラルダスとシルバートに育てられたようなものです」
(…孤児院…て)
私はハタと気づく。
(もしかしてスマラルダス、いや『隠された第一王子』エメラルディン王子のお母さんの出身孤児院!? あー、と言うことはスピネル君は"『隠された第一王子』とその仲間"か!
いや、最初から行動一緒にしているんだからそうよね。気が付け、私。
あー、これ、私が周囲に無関心と思われても仕方ないや。もう、これ あー、あー、あー、な案件だ!)
内心の動揺を隠して私はスピネル君に続きを促した。
「…シルバートはスマラルダスがそれこそ幼い頃、スマラルダスの父上に彼を守るよう託されたそうです。それから赤ん坊のスマラルダスと、彼の母と伴に市井で暮らしたと聞いています。スマラルダス自身も私と同じように孤児院へは小さい頃から出入りしていたそうです。スマラルダスの母は危険な地に赴くときは孤児院に彼を預けていました。ですがそれ以外は一緒に色々な場所へ彼を連れて行っていたと。なのでスマラルダスの母は私を引き取った時も依頼先へ連れて行くのに躊躇しませんでした。豪胆な人物でしたよ、スマラルダスのお母様は」
「へえ…」
「むしろ、シルバートは反対していましたね。魔力はあるけれど使い方を会得していない私がスマラルダスの傍で暴発することを恐れて」
彼は一拍置いて言う。
「シルバートはあくまでスマラルダスの守り刀です。だから、今回、アイアンディーネ様に確認したのは…アイアンディーネ様が精霊と契約することで、スマラルダスに益があると判断したのでしょう」
「益…」
「私たちは今の生活をよしとはしていないので」
「え?」
驚いた。
「スマラルダスは冒険者として自由に生きたいのです。ですが、今彼は孤児院を守るために無理をしています。シルバートも、私もそれが不安です」
それは、つまり。
「先立つもの?」
「まあ、そうですね」
スピネル君はクスリと笑う。
「それと安全です。スマラルダスと彼が守りたい孤児院の子供たちの。今、院には十人ほど小さな子供がいます。皆、私より年下です」
「スピネル君はいくつ?」
「九歳です」
「九歳ではたらいているの…」
「下町では普通です」
いや、仕事の内容は違うでしょ、きっと。
「ん~…。じゃあ、シルバートはスマラルダスに頼ることなく、孤児院のみんなが安心してくらせる場所、または収入をもさくしているわけだ」
「そういうことですね。ただ、難しいでしょう。私たちの孤児院は特殊なので」
「とくしゅ?」
スピネル君は一瞬考え、言葉に淀んだが意を決したように言った。
「スマラルダス…エメラルディン王子が預けられるような孤児院です。ほとんどが貴族の隠し子であったりその存在が公にできない子供です。それらを庇護することで、貴族は敵対勢力を作る場合があるので私たちのパトロンになることを嫌がります。ソーダライト商会が長くパトロンでいてくれるのは貴女という存在があるからでしょう。貴女の祖父のオニキス・ソーダライトは貴族社会に食い込みたい人間ですから」
「ふーん…。お祖父様にとって私はだいじなコマなのね」
「それだけではないでしょうけど。幾度か会っただけの印象で恐縮ですがオニキス・ソーダライトは家族愛がむしろ過剰な人物だと思います。ただ、それが自身の価値観に拠るものなので、家族にとっては判断つきにくいのでしょう」
「ごめん、もっとやさしく言ってください」
「オニキスは貴族としてかしづかれるのが娘や孫娘の最高の幸せだと信じてます。そのためならどんなことでもやってのけるほど、家族を愛おしんでいますよ」
そ、そうか…。確かに難しい愛情だ…。私は背負いきれるか自信ない…。
ハッ! まさか
「今回のエレスチャレ子爵をだましたのは、もしかして本当にお祖父様のさしがね…?」
「それはないでしょう。時期が悪すぎます。アイアンディーネ様とエレスチャレ子爵の結婚がなれば正々堂々と子爵家に干渉できるのに。彼はそんな愚かな人間でもありません」
う~ん。そっか。
(まとめてみよう!)
私はガバと身を起こす。
「お祖父様はフロウライト伯爵領でのかいはつけんが欲しい。あわよくば、フロウライト伯爵家ものっとりたい。だから、フロウライト伯爵がしっきゃくした場合、エレスチャレ子爵家から養子をとるというのが慣例だからエレスチャレ子爵家に私を縁付かせてフロウライト伯爵領のしょうあくを考えている。まず、これがひとつ」
スピネル君はきょとんを私を見ている。
気にせず続けますよ!
「スマラルダスやスピネル君、シルバートは孤児院のなかまを立場的、けいざい的にも守ることを希望している。これでふたつ」
それから
「土地の精霊は人間をここに呼んでまじゅうを生み出さずに済むようにしたい。そのため、通りすがりの私にけいやくを持ちかけるほど困っている。これがみっつめ」
そして
「私は、ダートナとアンバー先生と一緒になかよく暮らせて、二人のろうごまで見守りたい。…で、よっつ」
私はパンと手を叩く。
「これら全部かいけつできる方法、考えてスピネル君! 頼むよ ドラえもん!」
「なんですか、それ!」
国民的猫型ロボットだよ! ジャイアンじゃなくてのび太になっちまった!
「だって、私が考えたらもう、精霊契約して領主になっちゃえば? になるし」
私の知っているジュエルランドでの生活ってソレだし。
「精霊けいやくして新しい領地の領主になれれば、お祖父様もフロウライト伯爵領ののっとりせずに貴族のしんせきになれるし、そうしたら私がソーダライト商会ひいきにするわよ。かいはつけんくらいドーンと老い先短いご老体に、喜寿のおいわいにあげちゃうよ。
『隠された第一王子』とその愉快な仲間はそのまま私がやとってあげる。孤児院も領主ちょっかつで面倒みるよ。サイコーじゃない? もしかして」
「…難しいですよ。さっきも言いましたが孤児院にいる子供は私も含め、特殊な生い立ちです」
「今、この手の甲にある精霊印を消すより難しいとは思わない」
私はフー、とため息ついた。
「でも、領主になって、それを続けていくには支えが必要だよね…。私、こどもだし」
そうですね、と彼は困ったように笑った。
「精霊と契約した土地で領主を名乗るのはそう難しくはないと思います。エレスチャレ子爵と、フロウライト伯爵、そして国王の承認あれば。貴族の称号が戴けるかはまた別になりますけど」
「え、そうなの?」
半分勢いで言ったのに。
スピネル君がコクリと頷く。
「エレスチャレ子爵には今回のことで金銭的な困窮があります。そして土地は抵当に入れていません。なのでエレスチャレ子爵からアイアンディーネ様が買い取る形でまずは精霊のいる一帯を得ればいいでしょう。
それから、大儀名分を用意し、税を充分納められるだけの収入と住民がいれば、アイアンディーネ様の自治領として国王に裁可を求めればいいのです。
アイアンディーネ様が精霊と契約した土地であれば裁可が下りる確率が高い。
エレスチャレ子爵はこの地の代官でありながら、多額の借金をしています。これを訴えれば、フロウライト領から切り取りできるでしょう。
アイアンディーネ様ご自身がフロウライト伯爵のお身内です。結婚が破談になった場合、アイアンディーネ様への慰謝料とすればエレスチャレ子爵やフロウライト伯爵の面目も保てます。
フロウライト伯爵にとってもこのエレスチャレ一帯はいわば不良債権です。
これをよその領主に押し付けることができればむしろ願ったりのはず。
国王の裁可があれば、平民でも領主を名乗れます。今後の税の納める状況次第で準男爵くらいは下賜されるかもしれません」
ですが、と彼は続ける、
「それは全てこの地に国庫へ税金を納めることのできる産業があれば、の話です」
税を納められなければ、新たな領主として認められませんと彼は続けた。
「人も集めないとならないねえ…」
「魔石採取地としてなら当面は冒険者が集まります。魔獣討伐は期待できませんが…。魔力を吸い込む魔剣はやはり珍しいので」
「そっか、魔剣持った冒険者以外はまじゅう狩はうまみがないんだ」
だから、貴族の仕事なんだ~。
よし、それは任せて!
「不安材料としては、今この土地で精霊が死に掛けている事が露呈すれば、場合によっては、セルカドニー侯爵が出てくるでしょう」
「お隣さん?」
スピネル君はコクリと頷く。
「今の状況ではフロウライト伯爵がこの地を正しく治めきれないと判断されます。
実際、身内である代官たちとフロウライト伯爵はいい関係ではないのですから。エレスチャレ子爵が代官を任命されたこの土地の状況はそのいい例になってしまいます。
そうなれば、国は人間に対し好意的な精霊のいるこの土地をフロウライト伯爵に任せて置けません。いっそセルカドニー領に配分した方がいいと考えます。
魔石がふんだんな今の森の状況なら、セルカドニー侯爵も引き受けると思いますよ。港により豊潤な財力のある侯爵なら、冒険者を雇って魔獣を狩ることなど朝飯前でしょうし、自領となれば騎士団の派遣も出来ます。騎士団なら魔剣もちもいる事でしょう」
あ、なんか、それは悔しい。
「アイアンディーネ様が一時的に私財をなげうってこの地の領主になっても、税が納められなければセルカドニー侯爵にとられるという事です。
ただ、領主となった時点でエレスチャレ子爵からの信用は完全に失墜するでしょう。自分が代官を務める土地が切り取られるのです。明らかな敵対行為ですからね。フロウライト伯爵にしても、荷物であったとしても自領が減るのは面白くないと思います。理性と感情は別ですから。正直、フロウライト伯爵の貴女への心証は…」
「お互いよくありません」
「言いづらいことを言わせてしまいました…」
「いいのよ~。ほぼ会ったことないヒトだから」
ここまで愛情感じないとむしろ助かる。
「そうですか…。ですね」
スピネル君も共感するところがあるのかな? 彼も血のつながった家族ではなく、他人に愛情受けて育った人間だものね。
「領地経営に失敗した場合はそのフロウライト伯爵の心証はさらに悪化するでしょう。そしてソーダライト商会は当然アイアンディーネ様を切り捨てます。場合によっては肉親であるオニキスでさえも貴女を見捨てるやもしれません。
いえ、危険な賭けを好まない商会は最初から協力しない、ということだって考えられます。
ソーダライト商会の望みはフロウライト領の利権ですからあの空晶という精霊の許した土地に鉱脈がなければ話に乗らないでしょう。
アイアンディーネ様、あなたは完全に孤立します。
…その覚悟はおありですか?」
「覚悟か…」
確かにかなりの難問だと今更思う。
お金持ちのセルカドニー侯爵に丸投げした方が楽だろう。
精霊印だって、代わりがいるなら、精霊に話せば外してもらえるかもしれない…。
(でも、でもさ~)
私は口元を引き結ぶ。
(それって、千載一遇のチャンスを捨てるってことだよね!?)
領地を得て、フロウライト伯爵やソーダライトのお祖父様からの独立。
これって、好機じゃない?
エレスチャレ子爵とだって結婚しなくて済む。
そりゃ、失敗するかもしれないけど、フロウライト伯爵やエレスチャレ子爵のヘイトはもう最初からだし。
…お祖父様は確かに金銭的な援助で食うに困らないようにしてくれていたから感謝しているけど、愛情、という点では正直よくわからないし…。
それに。
「…私、一回死んでるんだよね」
私は目を伏せ、ポツとこぼした。




