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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第九十七話 父さんの誕生日に届いた百通の手紙

誕生日の朝、ライアンは食堂の机に置かれた九十九通の手紙を見て、立ち止まった。

封筒の大きさも、紙の色も違う。

紐を掛けたもの、角を丁寧に折ったもの、港の潮で少し波打ったものまである。

「百人で書いたんだけど、最後の一通がまだ届かないの」

サラが申し訳なさそうに言った。

「九十九通も届いたなら、十分じゃないか」

「でも、一人だけ抜けたら……」

サラはそこで口を閉じた。

子供の頃、椅子が足りない食堂では、誰が座れるかを気にしたものだ。

彼女には今も、数から一人欠けることが怖かった。

ライアンは椅子を引いた。

「待つのはいい。でも、届かないことを責めるのは違うよ。書きたくない日だってある」

サラは頷いた。

最初の手紙はガイアからだった。

『鍋を割った日、父さんは先に俺の手を見た。

怪我がないと分かってから、ようやく鍋を惜しんだ』

ライアンは声を上げて笑った。

「あれは本当に惜しかった。替えがなかったからな」

次はセーラ。

『熱を出した夜、父さんは歌ってくれた。

歌詞は一つも合っていなかったけれど、怖くなくなった』

「歌は苦手だったんだ」

「今も苦手よ」

セーラが横から言うと、食堂に笑い声が広がった。

三通目には、マリナが初めて帳簿を任された日のことが書かれていた。

数を間違え、食料が足りなくなると泣いた彼女に、ライアンは一緒に数え直そうと言ったのだという。

「俺はそんな立派なことを言ったか?」

「言ったわ。叱るより先に、隣に座ってくれた」

ライアンは手紙を置いた。

二十年前の自分は、いつも正しい答えを知っていたわけではない。

ただ、子供を一人にしないことだけは決めていた。

昼を過ぎても、最後の一通は届かなかった。

サラは何度も玄関を見た。

マリナは茶を入れ替え、ライアンは一通ずつ読み進めた。

遠い港の青年は、店で皿を割った見習いに、まず怪我がないか尋ねるようになったと書いていた。

北の村の娘は、寒い夜に誰かの上着を乾かすため、食堂に紐を張ったと書いていた。

父が与えたものは、遠い土地で少しずつ形を変えていた。

だが、すべてが感謝の言葉ではなかった。

一通には、こうあった。

『父さんが病気の子に付き添っていた夜、私は自分だけ置いていかれた気がした。

今なら仕方がなかったと分かる。

でも、あのときは寂しかった』

ライアンは読み終えて、しばらく黙った。

「そうか。気づけなかったな」

「父さん」

「返事を書きたい。言い訳じゃなく、寂しかったと教えてくれてありがとうって」

サラは父の横顔を見つめた。

この人は百人を育てた。

けれど百人全員の気持ちを、いつも分かっていたわけではない。

だが、今から聞こうとしている。

夕暮れになり、玄関が叩かれた。

立っていたのは、雨に濡れた若い男だった。

仕事で遠方にいるはずの、百人のうちの一人である。

「手紙を出すつもりだったんだけど、何度書いても変になって」

男は濡れた封筒を差し出した。

「遅れてごめん」

ライアンは封筒を受け取らず、先に男の肩を抱いた。

「よく帰った。冷えただろう」

「手紙、読まないの?」

「まず、お前が無事だと分かったからな」

男は泣き笑いの顔になった。

着替えと温かい茶を用意してから、ライアンは百通目を開いた。

『父さん。

最初に会った日、名前を聞いてくれてありがとう。

あれから、誰かに名前を呼ばれるのが怖くなくなった』

ライアンは便箋をそっと畳んだ。

百通は、百人の英雄から届いた勲章ではなかった。

百人の、違う人生から届いた返事だった。


翌朝、ライアンは白い便箋を百枚並べた。

サラが尋ねた。

「全部に返事を書くの?」

「ああ。時間はかかるだろうけど」

「同じことを書けば早いよ」

「同じ子は、一人もいないからな」

最初の便箋に、ライアンはこう書いた。

『あの夜、寂しかったと教えてくれてありがとう。

今からでも、話を聞かせてほしい』

サラはその字を見て、もう手紙の数を数えなかった。

翌朝、ライアンは届いた手紙を一通ずつ封筒に戻した。

遠くに暮らす子の便りは、返事を急かすためのものではない。

彼は書きかけの返事に「無事でいてくれれば十分だ」と一行だけ足し、次の配達便に託した。

手紙を読み終えたライアンは、返事の宛名を一枚ずつ確かめた。

立派な文章を書く必要はない。

「読んだよ」「元気でいてくれ」

短い言葉でも、送り主が自分の手紙を受け取ってもらえたと分かるようにしたかった。

最後の一通が届くまで、ライアンは九十九通を一度に開けなかった。

一通読むごとに、差出人が今どこで暮らしているか地図に印を付けた。

港で働く子は、波の音がうるさくて眠れなかった最初の夜を書いていた。

山で暮らす子は、初めて自分の畑を持った日のことを書いていた。

どの手紙にも、英雄としての肩書きより、昔の小さな失敗が多く書かれていた。

『父さんの鍋を焦がしてごめん』。

『靴を隠したのは私でした』。

ライアンは笑いながら、時折読む手を止めた。

サラが茶を運んでくると、机の上に一枚の紙が残っていた。

「それは?」

「返事の書き方を考えていたんだ」

紙には名前が百人分並んでいる。

ライアンはそれぞれの横に短い覚え書きをした。

好きだった食べ物、怖がっていた音、初めて自分から話しかけた日。

「父さん、そんなことまで覚えてるの?」

「忘れたこともあるよ。だから手紙を読み返す」

サラは九十九通を見つめた。

百通目がまだ届かないことを心配していた自分に、父は今いる九十九人を一人ずつ見ているのだと教えてくれた。

百通目を書いた子は、手紙の封を閉じるまで三度書き直したという。

『父さん、今年は帰れません』とだけ書くのが嫌で、仕事のこと、世話をしている子のこと、春には会いたいことを足した。

ライアンはその文字を指で追い、返事を書いた。

『帰れない理由を謝らなくていい。

お前が今いる場所で誰かを守っているなら、私はうれしい』。

サラは返事を預かりながら、百通が揃うことより、百人それぞれに返事が届くことの方が大事なのだと気づいた。

サラは手紙を並べた机に、返事を送った日付を一つずつ記した。

遠方で働く子には、帰るよう急かす言葉を書かない。

会いに来られない理由も、父への愛情が足りない証拠ではなかった。

ライアンは届いた手紙を読み終えるたびに、その子が今どんな暮らしをしているのか尋ねた。

サラは答えながら、家族の数を数える意味が少し変わった気がした。

百通目が遅れて届いたことも、途中で涙が落ちたことも、家族の誕生日には必要な時間だったのだと思った。

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