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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第九十三話 百人の英雄が一斉に動いた夜

東倉庫の火災から三日後、北の橋で爆発が起きた。

最初の伝令が到着したのは、夕刻だった。

「橋の中央部が崩落。向こう岸の住民と連絡が取れません」

ガイアが地図を広げたところへ、二人目の伝令が駆け込んできた。

「西の救済所との連絡が途絶えました」

三人目は東倉庫からだった。

火災を免れた麦袋の一部が雨で濡れ、配給できる量が予定より減るという。

三つの報告が重なり、部屋にいた者たちが一斉に立ち上がった。

「全員で橋へ向かう」

ガイアが言いかけたとき、マリナが地図に指を置いた。

「それでは西の救済所が孤立したままよ。東の食料も止まる」

ガイアは拳を握った。

「橋には人がいる」

「ほかの二か所にもいる」

ライアンは誰の案にもすぐには頷かなかった。

「分かっている人数と、分からない人数を分けてくれ」

ノアが報告書を読み上げた。

北の橋では爆発が確認されたが、負傷者数は不明。

西の救済所は通信途絶のみで、襲撃の証拠はない。

東倉庫では、濡れた袋を検査中だった。

「三つとも敵の仕業だと決めるには早い」

ガイアは言った。

「けれど、同時に起きている以上、警戒は必要だ」

役割が決まった。

ガイアは工兵と救助隊を率いて北の橋へ向かう。

セーラは医療班を編成し、負傷者の受け入れ先を確保する。

ノアは西の救済所へ複数経路で伝令を送り、通信設備を調べる。

マリナは東倉庫の食料を検査官と仕分け、代替の配給計画を立てる。

ライアンは食堂に残り、避難者を迎える準備を引き受けた。

「父さんも危ない場所へ行きたいだろうに」

フィルが言うと、ライアンは鍋に水を張った。

「行ったところで、俺には橋を直せない。ここでできることをやるよ」

北の橋では、崩れた石材が川を塞ぎ、水が激しく渦を巻いていた。

対岸に数人の姿が見える。

小さな灯りが揺れた。

「向こう岸に妊婦がいるそうです」

若い衛兵が叫んだ。

ガイアは川へ飛び込みかけた兵を止めた。

「水流を確かめろ。救助者が流されたら、助ける人数が増える」

工兵は橋脚の残存部分を調べ、対岸へ縄を渡す方法を探った。

船頭の老人は増水の時刻を告げた。

「今すぐ舟を出せば、帰りは流れに逆らえん」

「では、まず連絡だけでも」

ガイアは縄に小さな袋を結んだ。

中には水と保温布、負傷者の人数を記す紙が入っていた。

対岸の住民が袋を受け取り、紙に書き込んで返してきた。

負傷者は四人。

歩けない者が二人。

妊婦は意識があり、産気づいてはいない。

数字を見たセーラは、救護班に必要な器材を指示した。

「急ぐ。でも、無理に川を渡らない。まず安全な渡河方法を確保して」

そのころ、西の救済所から伝令が戻った。

通信が切れた原因は、倒木による中継線の破損だった。

救済所そのものは無事で、入所者は全員確認できた。

ただし夜間の連絡手段がない。

ノアは胸をなで下ろす前に、修理担当と予備の伝令路を決めた。

「今回は偶然の故障だった。でも次もそうとは限らない」

東倉庫では、検査官が濡れた麦袋を配給から外した。

マリナは残量を数え、今日の配給に足りない分を別の倉庫から回すことにした。

「全部使えば人数だけは満たせます」

倉庫係が言った。

「傷んだ食料で病人を増やしたら、助けたことにならないわ」

迂回路は狭く、荷車が通れない。

地元の運送人たちが背負い袋で運ぶ案を出した。

マリナは賃金と帰路の安全を確認し、参加を希望する者だけに依頼した。

夜半、北の橋に仮の吊り渡しが完成した。

工兵が荷重を試し、救助隊員が一人ずつ渡った。

妊婦と歩けない負傷者は固定した担架で運ばれた。

最後の住民がこちら岸へ着いたとき、ガイアは報告を受けた。

「対岸で確認された住民は全員移送しました。負傷者四人は医療班へ引き継ぎ済みです」

「未確認の者は?」

「住民名簿との照合は、まだ終わっていません」

ガイアは頷いた。

「なら、全員救出と報告するな。確認が終わるまで捜索を続ける」

夜明け前、三か所からの報告が食堂に揃った。

西の救済所は全員無事。

東の食料は一部廃棄したが、代替分が届いた。

北の橋では住民名簿との照合が終わり、行方不明者はいなかった。

食堂には、温かい粥が並んでいた。

ガイアが椅子に座ると、ライアンが椀を差し出した。

「橋は?」

「通れない。人は助けられたが、修理には時間がかかる」

「そうか。じゃあ、明日の食料の運び方も考えないとな」

ガイアは匙を持ったまま、父を見た。

百人の英雄が一斉に動いた夜だった。

けれど誰一人、百人で同じ場所へ駆けつけようとはしなかった。

それぞれの持ち場で、自分の知らない誰かを守った。

ライアンは食堂の戸口に掲げた連絡表を見た。

誰がどこにいて、次に誰へ知らせればいいか。

以前なら自分一人の頭にあったことが、今は誰にでも読めるようになっている。

「大きくなったな」

ライアンが呟くと、ガイアは首を振った。

「まだだ。明日は橋を直す仕事が残ってる」

ライアンは笑い、空になった椀へ粥をよそった。

橋の向こう岸から、濡れた布を振る人影が見えた。

伝令はそれを救助の合図だと思ったが、ガイアは望遠鏡を下ろして言った。

「人数が分からない。先に合図の意味を確かめよう」

ノアが光を三度点滅させると、対岸から二度返ってきた。

あらかじめ決めていた『負傷者あり』の返事だった。

「舟を出す。ただし一度に乗せる人数を守れ」

急ぎたい者ほど、荷を積みすぎる。

ガイアは船頭の判断を優先し、救助順を医療班に任せた。

西の救済所では、マリナが帳簿の数字を数え直していた。

通信が途絶えたのは襲撃ではなく、嵐で倒れた伝令柱のためだった。

安堵する間もなく、濡れた小麦を乾かす場所が足りないと分かる。

「食べられない麦を配るわけにはいかない」

「じゃあ今夜の分は?」

「南の共同倉庫に確認して。返事が来るまで、必要な人数を一人ずつ数える」

英雄たちが一斉に動いた夜、誰も同じ場所に集まらなかった。

離れた場所で自分の役割を果たすことが、初めて百人を本当の一つの家族にした。

橋の向こう岸から最初の合図が届いたのは、深夜だった。

ガイアが手を振り返すと、向こうの灯りが二度揺れた。

生存者はいる。

しかし渡れる場所はまだ見つからない。

「舟を出すな。流れが速すぎる」ガイアの命令に若い兵が唇を噛んだ。

「助けを待っているのに」「だからこそ、助けに行く者を失えない」ノアが川幅を測り、岸の高い場所へ綱を張る方法を提案した。

夜明け前、最初の救助者が綱を伝って戻ってきた。

誰も歓声を上げなかった。

まだ向こうに人がいると分かっていたからだ。

「なら、まず食べなさい」

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