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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第九十四話 父さんは敵の子供まで抱き上げた

東倉庫の火災から四日目、調査を受けていた男が、幼い息子を連れて町外れの廃屋に立てこもった。

「近づけば火をつける!」

窓から怒鳴り声がした。

扉の前には乾いた薪が積まれ、隙間から灯油の臭いが漂う。

ガイアは部下に弓を下ろさせた。

「周囲の家を避難させろ。火を消す水を用意する。扉を破るのは待て」

男の名はベルド。

倉庫で働いていた元荷役人だった。

火災当夜、倉庫の裏門付近で目撃されている。

ただし、放火をしたと断定できる証拠はまだない。

「倉庫の火事の犯人なのか?」

ライアンが尋ねる。

「分からない。本人は取り調べを恐れて逃げた。息子を連れている」

「子供の名前は?」

「トム。七歳だ」

ライアンは廃屋を見た。

小さな顔が一瞬、窓の隅に現れ、すぐ消えた。

「父さん、危険だ」

「分かっている。だから、お前の指示に従う」

ガイアは驚いた顔をした。

「俺は子供に話しかけたい。でも、近づく場所はお前が決めてくれ」

ガイアは建物の風下を避け、石垣の陰に立つ位置を指定した。

盾を持つ兵を離れた場所に待機させ、セーラには救護所の準備を頼んだ。

ライアンは石垣から声をかけた。

「ベルド。息子さんは怪我をしていないか」

「黙れ! お前たちは俺を捕まえるんだろう!」

「調べるべきことは調べる。俺には無罪にする権限も、罪を決める権限もない」

「だったら何の用だ!」

「トムに水を渡したい。君にもだ」

返事はなかった。

ライアンは続けた。

「渡し方は君が決めていい。扉を開けなくても受け取れる場所へ置く」

男がようやく答えた。

「窓の下だ。近づくのは一人だけ」

ガイアが安全を確かめ、兵が水袋を置いて下がった。


しばらくして細い腕が伸び、袋を引き込んだ。

「お父さんも飲んで」

トムの声が聞こえた。

廃屋の中で物音がした。

男が咳き込み、何かを蹴る音が響く。

「俺はもう終わりだ。火事の夜に裏門を開けたのは俺なんだ!」

ガイアが身を乗り出しかけた。

ライアンは首を振った。

「それは後で記録を取る。今は、火をつけないでほしい」

「開けろと命じられた。断れば仕事を失うと言われたんだ」

「誰に?」

「名前を言えば、息子まで狙われる」

ライアンは簡単に安全を約束しなかった。

「証言を保護する方法をガイアたちに相談する。今ここで全部話さなくていい。まずトムを外へ出してほしい」

「俺から取り上げる気か!」

「トムが安全に眠れる場所を用意したい。君のことを好きでいてはいけないとは、誰も言わない」

沈黙が続いた。


やがて窓から少年の声がした。

「おじさん。ぼくが外に出たら、お父さんは一人になるの?」

ライアンは答えに迷った。

「しばらく離れることになるかもしれない。でも、君が悪いからじゃない」

「ぼく、お父さんと一緒がいい」

「そうだね。離れたくないよね」

ベルドのすすり泣く声が聞こえた。

「俺は、あの子を守りたかった」

「なら、今できることを選んでくれ。火から遠ざけて、外へ出してやってほしい」

ガイアは交渉役の兵へ目配せした。

建物の裏手では消防隊が延焼を防ぐ準備を終えている。

けれど、誰も合図なしには動かなかった。

長い時間のあと、窓が少し開いた。

「……トムだけ先に出す。俺はそのあとだ」

「分かった」

男は扉を細く開け、少年を押し出した。

トムは走らなかった。

振り返って父親の服を掴んだ。

「お父さんも来て」

ベルドは少年の手を一度握り、ゆっくり離した。

「すぐには帰れないかもしれない。ごめんな」

「悪いことしたの?」

「したことと、していないことがある。ちゃんと話す」

ベルドは床に刃物を置き、空の手を見せて外へ出た。

兵が身柄を確保し、別の隊員が建物の火種を点検した。

火はついていなかった。

セーラがトムを診察する。

目立つ外傷はないが、少年は冷え切り、言葉をほとんど発しなくなっていた。

「お腹はすいた?」

少年は頷いた。

ライアンは温かいスープを受け取り、少年の前にしゃがんだ。

「ここに座ってもいい?」

小さく頷くのを待って、隣に座る。

「ぼくが出たから、お父さんは捕まったの?」

「違う。大人のしたことを調べるためだ。君のせいじゃない」

「お父さん、ぼくにパンを半分くれたよ」

「そうか」

「悪い人なの?」

「君にパンを分けてくれたことは本当だ。それとは別に、調べなければならないことがある」

トムは器を抱えたまま泣いた。

ライアンは抱きしめてよいか尋ねた。

少年が手を伸ばしてきたので、そっと抱き上げた。

ガイアが近づいてきた。

「ベルドは証言を始めた。裏門を開けたことは認めているが、火をつけたかどうかはまだ分からない。ほかの者の関与も調べる」

「そうか。決めつけずに頼む」

「分かっている」

「トムのことは?」

「児童保護の担当者が来る。面会の希望も記録して、危険がないか確認するそうだ」

トムはライアンの服を掴んだ。

「ぼく、お父さんに会いたいって言ってもいい?」

「いいよ。会えるかどうかは、大人たちが安全を確かめて決める。でも、会いたい気持ちを隠す必要はない」


その夜、トムは保護施設の二つの部屋を見せてもらい、庭が見えるほうを選んだ。

寝台のそばには、少年が持ってきた小さな布袋が置かれた。

中には半分に割れた乾いたパンがあった。

「食べずに取っておくの?」

ライアンが尋ねると、トムは首を振った。

「明日、お父さんに会えたらあげるつもりだった」

ライアンはその願いを否定しなかった。

「じゃあ、明日も気持ちを聞かせて。今日は温かいものを食べて、休もう」

トムが眠りについたあと、ガイアは廃屋の捜索報告を持ってきた。

証拠品は封印され、ベルドの供述は別の証言と照合される。

事件は終わっていない。

ライアンは窓の外を見た。

大人の責任を曖昧にせず、子供を罪から切り離す。

その両方を守るには、扉が開いたあとの日々が必要だった。

「父さん、帰ろう」

「ああ。でも明日、また来てもいいか聞いておいてくれ」

ガイアは頷いた。

ライアンは空になったスープの器を洗い場へ運んだ。


翌朝、トムはスープを半分残したままライアンに尋ねた。

「父ちゃんは悪い人なの?」ライアンはすぐには答えられなかった。

「何をしたかは、これから調べる。お父さんが君を大事に思っていることと、したことの責任は別なんだ」トムは器を握り直した。

「じゃあ、会える?」ガイアが隣から答えた。

「安全を確かめて、担当の者と相談する。約束できる日が決まったら伝える」子供に都合のよい嘘をつかない。

それが今、三人にできる最初の保護だった。

今夜、自分にできることは小さかった。

だが、あの子の明日の食事を途切れさせたくなかった。

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