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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第八十一話 最初の百一脚の椅子を数えた朝

食堂の古い椅子を数えていたサラの指が、百一で止まった。

隣には後から増えた一脚もある。

それでも、今日食事を求めて来る人の数は百二人とは限らない。

「百二脚あっても、それより多く来たら、誰かは食べられないの?」

フィルは笑って答えかけたが、サラの顔を見て言葉を飲み込んだ。

サラが以前いた施設では、椅子は成績のよい子から与えられた。

遅れた子は壁際に立って食べた。

だから彼女には、椅子の数が食べていい人数に見えていた。

「昨日、入口にいた子が帰ったの」

「え?」

「席がないって言われて。ご飯は残ってたのに」

フィルは配食帳を開いた。

確かに昨日の食事は余っていた。

記録上の来訪者は一人少ない。

「誰が帰したんだろう」

「分からない。誰も名前を聞かなかったから」

ライアンは百一脚目の椅子に手を置いた。

昔、自分が使っていた椅子だった。

子供たちが大人になっても、最初の百一脚は記念として残してきた。

後から増えた椅子も、今は大切な一脚だ。

けれど、昔の家族の数を守ることと、今日の子供を迎えることは別だ。

「まず、その子を探そう」

フィルが立ち上がると、サラも一歩前に出た。

「私、顔を覚えてる」

二人は市場へ向かった。

パン屋の軒下に、昨日の少年が座っていた。

片手に小さな布袋を抱えている。

「昨日はごめん。食事は残っていたんだ」

少年は警戒して立ち上がった。

「でも、座るところがないって」

「それは僕たちの案内が悪かった。今日は食べられるよ」

「僕が行ったら、ほかの子が立たされる?」

サラは息を止めた。

自分と同じことを考えている。

「立たせないようにする。もし席がいっぱいなら、温かい椀を渡して、次の席を用意する」

少年はすぐには動かなかった。

「名前は?」

とフィルが尋ねる。

「……リク」

「リク。今度は、君が来たことをちゃんと記録する」

食堂に戻ると、厨房は昼の配膳で混み合っていた。

追加の椅子を運ぼうとしたフィルを、調理係が止めた。

「通路を塞いだら、熱い鍋が通れなくなる」

そのとおりだった。

椅子を増やせば解決するとは限らない。

フィルは食堂の奥にある空き部屋を確認し、そこに長椅子を二脚置くことにした。

入口には待ち時間と持ち帰りの案内を掲示する。

誰もが利用できるよう、文字の下には椀の絵を描いた。

「でも、誰が満席を知らせるの?」

サラが尋ねた。

「僕がやる」

「フィルがいない日もあるよ」

フィルは苦笑した。

彼女の方が大事なところに気づいている。

受付の当番表を作り、席の空き状況を確認する役を決めた。

食事の受け取りに席札は必要ない。

初めて来た子には、まず名前と困っていることを尋ねる。

夕方、リクは空き部屋の長椅子でスープを飲んだ。

サラはその向かいに座った。

「ここ、また来てもいい?」

「いいよ」

「明日は席がなくなるかもしれない」

サラは言葉に詰まった。

自分も同じ不安を抱えていたからだ。

そこへライアンが来て、二人の椀を見た。

「椅子が足りない日はあるかもしれない。でも、それでお前たちを追い返さない。困ったら受付に言ってくれ」

サラは椅子の脚に結んでいた布を指で触った。

ここに戻ってくる目印だった。

「布が取れても?」

「取れてもだ」

リクが小さく笑った。


翌朝、サラは入口の掲示を自分の字で書き直した。

『満席でも、まず声をかけてください』。

その横に、リクが椀の絵を描いた。

線は少し曲がっていた。

ライアンは二人の作業を見て、古い百一脚目の椅子を奥へ運んだ。

記念の椅子は大切にする。

だが、食堂の席を昔の数に縛る理由にはしない。

フィルが新しい来訪者数を帳面に記すと、サラが覗き込んだ。

「今日は何人?」

「まだ分からない」

「じゃあ、来た人から数えよう」

その週の終わり、フィルは来訪者の数と待ち時間を並べて記した。

食事が足りた日にも、満席を見て帰った人がいた。

椅子だけを増やしても、入口の案内が届かなければ同じことが起きる。

サラは受付係に尋ねた。

「知らない人が来たら、最初になんて言う?」

「何人ですか、かな」

「先に『ご飯を食べに来たの?』って聞いてほしい」

リクは隣で頷いた。

数を数える前に、用事を聞いてくれるだけで入りやすくなる。


翌朝、サラは入口の札を一枚書き直した。

『食事の相談はこちら』。

椅子の数を知らない人にも、入ってよい場所だと分かるようにするためだ。

最初に札を見た老人は、戸口で足を止めた。

「金がなくても入れるのかい」

受付係は料金と支援の仕組みを説明し、老人の希望を聞いた。

サラはそのやり取りを見て、椅子が空いているだけでは席にならないと知った。

座ってよいと言われて、初めて誰かの居場所になる。

サラは、椅子を一脚増やせば済む話だと思っていた。

けれど新しく来た少女は、食堂の入り口から動かなかった。

「座ったら、何かできることを見せなきゃいけないんでしょう」

「そんな決まりはないよ」

「前のところでも、最初はそう言われた」

サラは少女の言葉を途中で遮らなかった。

椅子を勧めるより先に、逃げたくなったらどの扉から出られるかを案内した。

その日の夕食で少女は座らず、窓際でパンを食べた。


翌日は食卓の端に立った。

三日目、ようやく椅子の背に手を置いた。

「ここ、明日も空いてる?」

フィルが答える。

「空いてなくても、君が来たら場所を作るよ」

少女は少し笑った。

椅子の数を正しく数えるだけでは足りない。

座るまでに必要な時間も、一人ずつ違うのだった。

サラは少女が座らなかった二日間のことも、無駄だったとは思わなかった。

待ってもらえた時間があったからこそ、少女は自分の足で椅子へ歩いて来られたのだ。

その晩、少女は食堂の戸締まりを見届けた。

扉に鍵が掛かる前、フィルは翌朝の開門時刻を教えた。

「明日も同じ時間に開ける」

約束は、短い言葉の方が確かに伝わることがある。


翌日の配食が始まる前、サラは入口に二本の線を引いた。

一方は食事を受け取った人、もう一方は途中で帰った人の数だ。

「帰った人を数えても、何も渡せないでしょう」と手伝いの青年が言う。

「だから数えるの。次に来たとき、同じことを繰り返さないために」

昼過ぎ、入口で立ち止まった少年がいた。

椅子は全部埋まっている。

サラは空席を探す代わりに自分の皿を持ち、少年に「先にパンを渡そうか。それとも一緒に席が空くのを待つ?」と尋ねた。

少年はしばらく考え、「待つ」と答えた。

フィルは配食係に残りの鍋の量を確かめ、後から来た人にも温かい汁が行き渡るよう火を弱めた。

食堂の人数が増えても、誰かの返事を待つ時間まで削ってはいけないと、サラは帳面の余白に書いた。

彼女は扉を開けた。

椅子を数えるのではなく、誰が入ってくるかを見るために。


翌朝、サラは配食係に頼んで、椅子とは別に来訪者の数を記す帳面を作った。

座らずにパンを持ち帰った子も、名前を言わずに立ち去った子も、一人として数えるためだった。

「名前を知らない子は、どう書くの?」と係が尋ねる。

「無理に聞かないで。来た時刻だけでもいい」

サラは昨日の少女の欄に小さな丸を付けた。

椅子の数を増やすのは職人に頼めば済む。

だが、食堂の人間が見落とした一人を見つけるには、まず数え方を変えなければならなかった。

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