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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第八十話 百二脚の椅子に、家族が帰ってきた

救済制度の見直しから一年。

フィルは食堂の庭に百二脚の椅子を並べていた。

最初の百人の子供たちと父ライアンの百一脚に、ガイアがユウトのために脚を削った一脚を加えた数だ。

三脚は脚がぐらつき、二脚は背もたれが欠けている。

「新しいのを買った方が早いですよ」

修理屋が言うと、フィルは首を振った。

「直せるものは直したいんです。父さんがずっとそうしてきたから」

リナと二人で釘を打ち、傷んだところを補強した。

ところが朝になっても、席は半分以上空いていた。

国境の警備、病院の当直、商会の仕事。

子供たちはもう、それぞれの場所で誰かを守っている。

「全員そろうなんて、無理だったかな」

フィルが言うと、ライアンは椅子を拭く手を止めた。

「来られないのは、悪いことじゃない。帰る場所があると知っていれば、それでいい」

昼前、馬車が一台着いた。

次に二台、三台。

ガイアは鎧を脱ぎ、セーラは白衣を畳み、マリナは帳簿を閉じて門をくぐった。

皆、仕事を代わりの人に任せてきた。

昔は父がいなければ何もできなかった子供たちが、今は自分がいなくても仕事が続く仕組みを作っている。

食事が始まる前、フィルは席順の紙を丸めた。

王族になった者、遠くの国で軍を率いる者、病院を預かる者。

立場を考えて並べれば、いつまでたっても席が決まらない。

「昔の順番でいいだろう」

誰かが言った。

「昔の順番って何だ?」

「鍋の前に早く並んだ順だよ」

笑いが起きた。

だが、笑わなかった者が一人いた。

新しく保護された少女だった。

少女は入口で立ち止まり、空いている椅子を指さした。

「ここは、偉い人の席じゃないの?」

ガイアは椅子を引いた。

「今日は、腹が減った人の席だ」

少女はまだ座らない。

ライアンが椀を置いて言った。

「明日もここで食べられる。今夜だけの席じゃない」

少女はその言葉を二度確かめてから腰を下ろした。

ライアンは、今日集まれた子供たちの顔を見回した。

自分たちの再会を祝う食卓に、今日初めて来た子供が座っている。

それでようやく、二十年前の約束が過去の記念ではなく、今日も続いているのだと思えた。

食事の途中、一通の手紙が届いた。

若い領主になった娘からだった。

『代行者が急病で、今日は帰れません』

ライアンは短く返事を書いた。

『無理に来なくていい。

お前の席は取っておく』

フィルは並んだ椅子を見渡した。

空席が一つあっても、家族が欠けたことにはならない。

食事を続けていると、庭の端に新しく救われた子供たちが立っているのに気づいた。

「椅子が足りないね」

リナが言った。

フィルは倉庫から長椅子を運び、百二脚の外側に置いた。

「この数は、もう増えていいんだよね」

ライアンは頷いた。

「もちろんだ。次に来る子の席も作ろう」

新しい子供がパンを落とすと、隣に座ったガイアが自分のパンを半分渡した。

ライアンは、最初の冬を思い出した。

あの頃は、自分が半分にするしかなかった。

今は、頼まれなくても誰かが手を伸ばす。

食後、フィルは修理を終えた椅子の脚に、昔の傷を見つけた。

まだ幼かったころ、自分が釘を打ち損ねた跡だ。

「これ、捨てなくてよかったな」

修理屋は傷を撫で、少し笑った。

「傷は残して、危ないところだけ直しておいた」

フィルは椅子を持ち上げ、食卓の端へ運んだ。

誰かが欠席すれば席は空く。

全員が同じ日に帰れるとは限らない。

ライアンが空席を眺めていると、庭の門から仕事着のままの娘の一人が駆け込んできた。

「十分だけ、顔を見に来た!」

皆が席を詰めようとしたが、ライアンは立ち上がらず手を振った。

「まず食べなさい。急いで戻るなら、持っていく分も包もう」

娘は笑い、パンを二つ受け取った。

百二脚の椅子は、全員を縛り付けるためではない。

いつ戻っても座れる場所を残すために並んでいた。

食事が続くなか、庭の端で待っていた少年が、おずおずと声をかけた。

「僕、皿を運んでもいい?」

すでに席についた少女を見て、自分にも何かできることがあると思ったのだという。

フィルは熱い鍋から離れた台を指した。

「じゃあ、この木の匙を運んでくれるか。無理はしなくていいよ」

少年は一つずつ匙を並べた。

数え終えると、ライアンが空いた椅子を引いた。

「ありがとう。今度は一緒に食べよう」

「手伝わなくても、食べていい?」

「もちろんだ。手伝うのは、やりたいときだけでいい」

サラが椀を一つ増やすと、少年はようやく席についた。

少年が座った古い椅子は少し低く、足が地面に届く高さだった。

少年は食べ終わると、使った椅子を自分で拭いた。

誰に言われたわけでもない。

ライアンが手伝おうとすると、少年は笑って首を振った。

「ここは僕がやるよ。今日は僕の席だから」

椅子の背には、昔から小さな星が刻まれていた。

次に来る子が座ってもよいという印だった。

少年はその星を撫でて、「じゃあ、今度は友達も呼べるね」と言った。


その夜、昼間に顔を見せた娘とは別の、遅れていた娘が門をくぐった。

補佐官が急きょ仕事を引き受けてくれたという。

「父さん、間に合った?」

「飯はまだ温かい」

ライアンは取り置いた椀を差し出した。

娘は空けてあった椅子に座り、ようやく笑った。

食事のあと、ライアンは順番に名前を呼んだ。

王や将軍の肩書きは使わない。

小さい頃に呼んだ名前だけだ。

「昔、俺はお前たちを腹を空かせたまま眠らせないと約束した」

ライアンは湯気の立つ鍋を見た。

「でも、俺一人じゃ守れなかった。お前たちが手伝ってくれた。今は、その先の子供たちもいる」

フィルが言った。

「これからは、みんなで数えるよ」

最初の百一脚は、終わりの数字ではない。

新しい椅子が増えても、昔の椅子が一脚欠けても、帰る場所はなくならない。

ライアンは椅子に深く座り直した。

「じゃあ、今日は俺もゆっくり食べるか」

食卓に集まれた子供たちが笑った。

帰ってきた英雄たちの真ん中で、父が安心して飯を食べている。

食事を終えたフィルは、欠席した者たちからの伝言をライアンに渡した。

「当直の子を置いて帰れない」「橋の復旧が明日まで掛かる」

ライアンは頷き、帰れなかった子供たちへの返事を書き始めた。

次に帰る日には、何を食べたいか聞こう。

食堂の灯りの下で、二人は名前を一つずつ確かめた。

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