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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第七十五話 救済基金を盗んだ男が、父さんの前で泣いた

旧行政院の会計官が出頭した。

男の名はベルン。

救済基金の帳簿を書き換えたことを認め、マリナに一冊の手帳を差し出した。

「ローデン次官に命じられたんです。妻と息子を殺すと脅されて……」

「それは調べます」

マリナは手帳を開いた。

「でも、こちらの金は何ですか。命令より前の日付です」

ベルンの手が止まった。

「……私が受け取りました」

「いくらですか」

男は答えなかった。

ライアンは部屋の隅に座っていた。

ベルンはその姿を見ると、床に膝をついた。

「父さんと呼ばれるあなたなら、許してくださると思ったんです」

ライアンは首を振った。

「俺は、お前が金を取った子供たちの父親じゃない。あの子たちの許しを、俺が代わりに渡すことはできん」

マリナは、帳簿に残った被害地域を一つずつ照合した。

ある村では配給が二日止まり、別の町では冬の薪を減らしていた。

「返せる金は?」

「隠した口座にあります。全部ではありません」

「返還できない残額も、被害として記録します」

ベルンはようやく口座の場所を書いた。


その日の午後、ベルンの息子が保護施設へ移された。

父の証言に対する報復を防ぐためだった。

少年はセーラに尋ねた。

「父さんは、悪い人なの?」

セーラは簡単な答えを選ばなかった。

「あなたのお父さんがしたことは、これから裁判で確かめる。あなたが責任を負う必要はないよ」

「僕、父さんを嫌いにならなきゃいけない?」

「そんな決まりはない」

少年はしばらく黙り、温かい椀を受け取った。

翌日、ベルンは息子に手紙を書こうとした。

『父さんは仕方なくやった』

そこまで書いて、筆が止まった。

マリナが確認した記録には、脅される前に自分の利益のために受け取った金もあった。

ベルンは紙を破り、最初から書き直した。

『父さんは、してはいけないことをした。

怖かったことも本当だ。

けれど、それより前に自分で金を取った』

続きを書こうとして、涙が落ちた。

裁判の日、ベルンは命令された改竄と、自分から行った横領を分けて証言した。

傍聴席には、配給を受け取れなかった村の女性がいた。

判決が言い渡されても、女性は拍手をしなかった。

「金が戻れば、あの日の子供の空腹も戻らなかったことになるのですか」

誰も答えられない。

マリナは席を立ち、返還金の配分と不足額を記した書類を渡した。

「なりません。返せる分は返します。足りない分と、二度と起こさない仕組みについても報告します」

女性は書類を受け取ったが、礼は言わなかった。

それでよかった。

裁判後、ベルンは護送の前にライアンへ尋ねた。

「私には、もう何もできないのでしょうか」

「できることはある。隠している事実を残さず話せ。返せるものを返せ。できない約束はするな」

「それで許されますか」

「分からん。許すかどうかは、傷つけられた人が決める」

ベルンは顔を覆って泣いた。

ライアンは肩を抱かなかった。

ただ、男が自分の足で立ち上がるまで待った。

帰り道、マリナが言った。

「父さん、冷たく見えたかもしれないね」

「そうかもしれん。でも、あの男を慰めるために、食べられなかった子のことを忘れたくない」

「私も」

二人は救済所の前を通った。

入口には、翌日の配給時刻と、不足があったときの連絡先が掲示されていた。

帳簿の数字を直すことはできる。

けれど、失われた一食をなかったことにはできない。

だからこそ、次の一食を確実に届ける。


翌朝、マリナは回収できた金額だけでなく、配給を受け損ねた世帯数を別欄に記した。

金が戻っても、昨夜の空腹は取り消せない。

窓口には再申請を待たずに食事を受け取れる手順を掲示し、担当者が実際に案内できるか確かめた。

判決から数日後、救済所にはベルンの事件を知った人々が集まった。

「盗まれた金が戻るなら、私たちにも配ってくれるんでしょう」

「帳簿に名前がない家は、どうなる?」

窓口の担当者は答えに詰まった。

被害を受けた人の記録そのものが、改竄されていたからだ。

マリナは臨時の受付を開き、申請を受けるだけでなく、当時の配給記録や近隣の証言を照合することにした。

「話したくないことは無理に聞きません。確認が必要な点は、こちらから説明します」

列の後ろにいた女性が手を挙げた。

「私は金が欲しいわけじゃない。配給が止まった理由を知りたい」

マリナは新しい欄を作った。

『補償の希望』『説明の希望』。

同じ被害を受けても、求めるものが同じとは限らない。

ベルンの息子は、父からの手紙を受け取ってもすぐには開かなかった。

施設の相談員が「読まなくてもいい」

と伝えると、少年はほっとした顔をした。

「読んだら、許さなきゃいけないの?」

「そんな決まりはないよ」

少年は封筒を引き出しにしまった。


数日後、彼は自分で開封し、父の字を確かめた。

途中で読むのをやめたが、破りはしなかった。

「また今度読む」

相談員は頷いた。

少年に必要なのは、父の罪をすぐに理解することでも、父を憎むことでもない。

自分の速さで考えられる時間だった。

一方、ベルンは拘置所で追加の帳簿を思い出した。

隠し口座だけでなく、別の名義で買った倉庫があったのだ。

「これを言えば、罪が重くなるかもしれない」

面会した弁護人が確認すると、ベルンは頷いた。

「それでも話します」

倉庫には未配布の毛布と保存食が残されていた。

マリナは保管状態を確認し、使えるものだけを救済所へ移した。


その夜、食堂に来た子供が新しい毛布を受け取った。

ベルンの名前を聞かされることはなかった。

ライアンは配給表を見て言った。

「誰の手柄かより、必要な人に届いたかを確かめよう」

マリナは頷き、残りの在庫を翌日の担当者へ引き継いだ。

マリナは手帳の二つの日付を指で押さえた。

「脅迫が始まる前にも金を受け取った。そこは、あなた自身の選択ね」

ベルンは反論せず頷いた。

隣室で待つ息子に聞こえないよう、声を落とす。

「息子には何と説明すれば……」「私が決めることじゃない。でも、嘘を重ねないことはできる」

マリナは供述を書き終えると、保護担当者を呼んだ。

妻子の安全と、盗まれた基金の返還は別々に進める。

被害者の配給を遅らせてまで自白を待つ理由はなかった。

ベルンは自分の手で返還できる財産を書き出し、最後に震える字で署名した。

「息子に会えるでしょうか」「その判断は、息子の気持ちも聞いてから」

その言葉にベルンはようやく、自分の謝罪だけで終わる話ではないと理解した。

ベルンの息子が施設で初めて笑ったのは、父の話をした日ではなく、隣の子と木の駒で遊んだ日だった。

相談員はその小さな出来事も、少年の暮らしとして大切にした。

彼が安心して眠れる夜を増やすことも、救済の一部だった。

マリナは翌日の配給時刻をもう一度確かめた。

返された金と品物が、必要な人の手に届くまで仕事は終わらない。

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