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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第五十七話 百人の英雄の名簿に、知らない百一人目がいた

王宮から届いた名簿の最後に、見知らぬ名前があった。

『特別代理人セドリック』

百人の英雄の名前に続いて、その一行だけが同じ書体で印刷されている。

さらに、救済所を閉じる命令書には、その代理人の印が押されていた。

「こんな奴は知らない」

ガイアが紙を握り潰そうとした。

「待って」

マリナが止めた。

「それは証拠よ」

名簿が印刷された場所を調べると、地方の印刷所へ行き着いた。

職人は依頼を受けたことを認めたが、依頼主の顔を知らなかった。

封筒には行政院の印があり、代金は先払いだった。

「息子の薬代が必要だったんです」

職人は震える声で言った。

セーラは息子の診察を引き受けた。

しかし、父親の行為を不問にするとは言わなかった。

「治療を受ける権利と、何をしたか調べることは別です」

マリナは印章の使用記録と支払伝票を照合した。

偽の代理人は、救済所の閉鎖に賛成しただけではない。

食料の搬入先も変更していた。

変更先の倉庫は空だった。

「名簿を直すだけじゃ駄目だ」

ガイアが言った。

「麦はどこへ行った?」

運送記録を追うと、荷車は三つの倉庫を経由していた。

最後の受領印は、土地を買い集める商会のものだった。

その商会は、救済所が閉まれば周囲の地価が下がると見込んでいた。

だが、商会が不正を指示したかどうかは、まだ証言だけでは確定できない。

ガイアは兵を集めた。

「関係者を全員連れてこい」

ライアンが静かに尋ねた。

「何を知っている人と、何も知らずに荷を運んだ人を、どう見分ける?」

ガイアは返す言葉が見つからなかった。

マリナは荷車の御者を一人ずつ訪ね、運賃の支払いと指示書を確かめた。

証言した人が報復されないよう、記録を別の担当者へ預けた。

その間、偽の名簿は街中に貼られた。

『英雄百人、救済所閉鎖を支持』

救済所の前で、人々が怒鳴っていた。

「お前たちも、結局は偉くなったら俺たちを捨てるのか!」

ガイアは言い返しかけた。

しかし列の先頭にいた女性が、空の椀を掲げた。

「言い訳より、明日の食事を返して」

ガイアは口を閉じた。

名誉を守るための説明は必要だ。

だが、腹を空かせた人には、それだけでは足りない。

マリナは訂正公告を作った。

『英雄百人は閉鎖を支持していません』

その下に、救済所ごとの再開予定日と、食料が届かなかった場合の連絡先を大きく記した。

ガイアは兵を使って倉庫の在庫を確認し、法的な手続きに従って食料の保全を求めた。

別の備蓄から、再開までの食事を手配した。


数日後、救済所に鍋の火が戻った。

偽の名簿を作った職人は、証言台に立った。

息子はセーラの病院で治療を受けていた。

「私は、名前を印刷しただけだと思っていました」

職人はうつむいた。

「でも、その紙で食べられなくなった人がいた」

審問は続く。

誰が偽造を指示し、誰が物資を動かしたか、まだすべては明らかになっていない。

夜、ガイアはライアンのもとへ来た。

「父さん。俺たちの名前を使われるのが、こんなに怖いとは思わなかった」

ライアンは鍋をかき混ぜながら答えた。

「名前を守るのは大事だ。でも、名前より先に守らなきゃいけないものがあるだろ」

「……明日の飯か」

「ああ」

ガイアは椀を一つ受け取った。

かつて百人の名が書かれた帳面は、家族が増えた喜びの記録だった。

誰かがその名を勝手に使っても、彼らが何をするかまでは決められない。


翌朝、印刷所の職人が自分から訪ねてきた。

「もう一つ、見ていただきたいものがあります」

差し出された注文票には、偽の名簿より前の日付があった。

『救済所移転告知、印刷準備』

「閉鎖を決める前から、移転の紙を刷るつもりだったのか」

ガイアが机を叩いた。

「まだ決めつけないで」

マリナは注文票と出庫票を並べた。

発注した部署の番号は、偽の代理人の印章を管理する部署と一致する。

しかし、番号を使えた人物は一人ではない。

その日の昼、救済所に運び込まれた麦袋を前に、住民が立ちふさがった。

「英雄の名前で閉鎖したくせに、今度は英雄の名前で配るのか!」

ガイアは言い返さなかった。

剣帯を外し、袋を開けて秤に載せた。

「俺の名前を信用しなくていい。重さを見てくれ。受け取った数は、皆で書き残そう」

老人が秤を覗き込んだ。

「一袋、少ないぞ」

「分かった。足りない分を記録して次便で補う」

ガイアは自分で不足量を書き、老人にも確認してもらった。

「嘘を書いたら、俺たちを責めてくれ」

老人はようやく道を開けた。

夕方、マリナの調査で、土地買収を担当した商会の役員が、閉鎖前に移転告知の印刷費を立て替えていたことが分かった。

支払伝票と印刷所の受領簿が一致する。

「これで役員を調べる根拠はできたわ。けれど、共謀の全容はまだ審理が必要よ」

マリナは証拠を監督官へ提出し、印章の管理者と支払いを指示した人物の調査を求めた。

印刷職人は息子の薬袋を握りしめていた。

「私がしたことは、消えませんね」

「消えない。でも、今ここで話したことも消えません」

ライアンが答えた。

夜、救済所の食堂で、ガイアは最後の椀を一人の少女に渡した。

「百人の英雄って、本当にいるの?」

「ああ」

「じゃあ、百一人目は?」

ガイアは首を横に振った。

「名簿にはいなかった。でも、今日ここで麦を量った人は、何人もいた」

少女は椀を抱えて笑った。

「じゃあ、明日もその人たちが来る?」

「来られるように手配した」

ガイアはライアンのほうを見た。

百人の名前が守られたから食堂が開いたのではない。

名前を疑われても、誰かの食事を守る仕事をやめなかったから、火を戻せたのだ。


翌日、救済所の入口には新しい掲示が出された。

『英雄百人が認めた』という言葉はない。

代わりに、配給する麦の量、受領した人が確認できる記録、問い合わせ先が書かれていた。

老人がガイアを呼び止めた。

「昨日の足りなかった分は?」

「今朝届いた。ここに記録もある」

老人は秤を確かめてから、小さく頷いた。

「だったら今日は信じてやる。明日はまた量るぞ」

「それでいい」

ガイアは笑った。

百人の名があるから信じられるのではない。

毎日確かめられるから、少しずつ信用が戻る。

マリナは偽造名簿の写しを証拠箱にしまい、調査継続の札を付けた。

犯人の処分はこれからだ。

だが、閉鎖された救済所の扉には、もう鍵が掛かっていなかった。

ライアンは湯気の上がる鍋を見て、あの冬に子供たちへ言った言葉を思い出した。

「明日も食べられるようにしよう」

今、その約束を引き継ぐ手は百人分より多くなっていた。

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