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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第四十九話 燃える馬車の中から、父さんの名前を呼ぶ声がした

「ライアン父さんを、呼んで」

横転した荷車の下から、少年の声がした。

エマが耳を寄せる。

「聞こえる? 助けに来たよ。何人いるの?」

「ぼくと……女の子。もう一人は動かない」

ガイアは火の広がりを見た。

荷台には乾いた藁が詰められ、風が炎をあおっている。

力任せに扉を壊せば、内側に倒れた子供を傷つける。

「消火を先に。板は一枚ずつ外せ。中の子に声をかけ続けろ。返事が止まったらすぐ知らせてくれ」

エルと兵士が雪をかけ、マーヤが風上から濡れた布を運んだ。

エマは板の隙間から声をかけ続けた。

「名前を教えてくれる?」

「リオ」

ガイアの手が止まった。

グレゴールが探していた九歳の孫だ。

「リオ。おじいさんが待っている」

「……怒ってる?」

「心配している。今は息をして、こちらの声を聞いてくれ」

板を外すと、狭い空間に三人の子供がいた。

リオは女の子を抱きかかえていた。

青い襟には、小さな鳥の刺繍。

「ネルか?」

少女は弱く頷いた。

もう一人の少年は意識がなかった。

ガイアは呼吸を確かめ、救護班に引き継いだ。

エマがネルを毛布で包む。

「お兄ちゃんのフィルが探しているよ」

ネルの唇が震えた。

「……お兄ちゃん、怒ってない?」

「怒ってない。ずっと待ってる」

リオは咳き込みながら、ガイアの袖を引いた。

「父さんを呼んで。あの人なら、みんなを連れて帰るって……」

「ライアンは今、病院で休んでいる」

ガイアは答えた。

「でも、俺たちが来た。父さんに育ててもらった俺たちが」

リオはそれを聞き、ようやく目を閉じた。

救護班が三人を宿場へ運ぶと、ガイアは荷車の底を調べた。

焼け残った板に、人数を示す数字があった。

『十・十・十』

三台に十人ずつ乗せたのかもしれない。

けれど、今確認できたのは三人だけだ。

「三十人全員救出、と報告するな」

ガイアは命じた。

「見つかった人数と、まだ分からない人数を分けて書け」


翌朝、リオとネルはセーラの病院へ運ばれた。

セーラは煙を吸った子供たちの呼吸を確認し、安静を指示した。

病室の外では、グレゴールが何度も頭を下げていた。

ライアンは椅子に座ったまま、老人を見上げた。

「礼は、まずあの子に言ってやれ。よく生きて帰ってきたって」

グレゴールは扉の向こうの孫を見つめた。

「リオ……」

その隣では、フィルがネルの手を握っていた。

「もう離れない」

ネルは首を振った。

「離れても、また会えるって言って」

フィルは泣きながら頷いた。

「うん。また会える」

ガイアは廊下の端で、捜索記録を開いた。

三十人のうち、三人の身元と生存を確認。

残る二十七人は、まだ捜索中。

ガイアは数字の横に『荷車の記載人数を基準とした暫定値』と書き足した。

三人を救った喜びが、残る二十七人の所在を知っていることにはならない。

捜索班の交代表には、最後に目撃した地点、天候、確認済みの証言だけを引き継いだ。

次の隊が、同じ足跡を何度も追わずに済むように。

ライアンが隣に来た。

「眠っていないだろう」

「あと少し調べたら……」

「次に探す人が倒れたら困る。交代しろ」

ガイアは父の顔を見て、少しだけ笑った。

「父さんも病室へ戻れよ」

「そうする」

二人はそれぞれの持ち場を離れた。

助かった三人には、明日がある。

まだ見つからない二十七人にも、明日を届けなければならない。

宿場の医療所では、ネルが何度も同じ質問をした。

「フィルは、来る?」

エマはすぐに「来る」と答えそうになり、口を閉じた。

フィルの居場所はまだ確認できていない。

安心させるための嘘は、次の不安を大きくする。

「探している人がいる。見つかったら、すぐに伝える」

ネルは毛布を握りしめた。

「約束?」

「見つけたことも、見つからなかったことも、隠さず話す。約束する」


その夜、ガイアは地図に三台の荷車の通行記録を重ねた。

焼けた一台の数字だけを手掛かりに、残る二台がどこへ向かったかを追う。

「一台救っただけで、終わりにするな」

部下たちは頷いた。

だがガイアは付け加えた。

「急いで、見落とすな。子供の数を戦果のように報告するな」

窓の向こうで夜明けの鐘が鳴った。

ネルはまだ眠っていた。

彼女が目を覚ますまでに、少なくとも一つ、確かな知らせを届けたかった。

そのために、今日の英雄たちは休むことを選んだ。

宿場の医療所では、救い出された三人のために小さな部屋が空けられた。

エマは寝台の横へ腰を下ろし、ネルが目を覚ますのを待った。

「火が、また来る?」

目を開けた少女は最初にそう尋ねた。

窓の外で薪が爆ぜる音がしただけで、体が跳ねた。

エマは暖炉の火を小さくし、扉を開けたままにした。

「ここは宿場の医療所。火のある場所と寝る場所は離れているよ。怖くなったら私を呼んで」

ネルは何度も天井を確かめた。

「リオは?」

「隣の部屋にいる。手当てを受けてる」

「もう一人の子は?」

エマは言葉を選んだ。

意識の戻らない少年の状態を、安心させるために軽く言うことはできない。

「お医者さんが見ている。まだ眠っているけれど、呼吸は確認できているよ」

ネルは布団の端を握った。

そのころ、ガイアは宿場の外で御者たちを集めていた。

荷車の焼け残った車軸に、運送組合の印が見つかった。

印だけならどこでも手に入る。

しかし車輪の金具には片側だけ異なる鋲が使われている。

修理を請け負った鍛冶屋を探せば、荷車の持ち主を絞れるかもしれない。

「焼けた荷を片づけるな。子供の持ち物も、勝手に捨てるな」

ガイアは兵に命じた。

「誰かが探しに来る。小さな布切れでも、その子のものかもしれない」

朝になると、リオが短い時間だけ目を覚ました。

彼は自分の怪我より先に、木の船のことを尋ねた。

「おじいちゃん、ぼくの船、捨ててない?」

エマは首を振った。

「まだ聞いてない。でも、おじいさんは君を探しているよ」

「怒ってない?」

「君が帰るのを待ってる」

リオは安心したように目を閉じた。

ガイアは伝令の文面を何度も読み返した。

『リオを発見。

生存。

治療中』。

それ以上のことは書かない。

まだ歩けるとも、明日帰れるとも言えないからだ。

「父さんは、これで十分だと言うかな」

副官が尋ねると、ガイアは首を振った。

「十分じゃない。残る子を探す。でも、確かなことだけを伝えるのは、今すぐできる」

リオが意識を取り戻したと聞き、ガイアはすぐに病室へ向かおうとした。

エマが腕を止める。

「今は眠らせて。話を聞くのは熱が下がってから」ガイアは反論しかけ、足を止めた。

自分は兵を動かすことに慣れすぎている。

助けた子供まで命令に従わせてはいけない。

「分かった。祖父への手紙だけ置いていく」彼が書いたのは、救助した場所と治療中であることだけだった。

リオが誰を見たか、何を知っているかは一行も書かなかった。

目覚めた少年が最初に受け取るべきなのは尋問ではなく、自分の無事を喜ぶ人がいるという知らせだった。

彼は伝令に封をし、馬を走らせた。

救えた命を喜ぶことと、まだ救えていない命を忘れないこと。

その両方を抱えて、夜明けの宿場は動き始めた。

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