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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第四十六話 かつて父さんを捕まえた男が、今度は助けを求めてきた

雨の夕方、ライアンの病室に老人が現れた。

グレゴール。

二十年前、ライアンに手錠を掛け、処刑場へ連れていった役人だった。

ガイアが立ち上がる。

「ここへ来る資格があると思うのか」

老人は帽子を握りしめた。

「ない。けれど、孫がいなくなった」

ライアンは寝台の上で、男の顔を見つめた。

手錠の冷たさを忘れたことはない。

あの日、助けを求めても聞いてもらえなかったことも。

「名前は?」

「リオ。九歳です」

「最後に見た場所は」

「救済本部の裏門。三日前です」

ガイアは険しい顔のまま手帳を開いた。

「なぜそこへ行った」

「私が呼び出された。古い帳簿を持ってこいと。孫を連れていったのが間違いだった」

グレゴールは封筒を取り出した。

中には地下搬入口の鍵番号と、金を受け取った役人の名前が書かれていた。

「その名簿は、どうやって手に入れた?」

マリナの問いに、老人は答えた。

「私も、そこに名前がある」

沈黙が落ちた。

「一度、金を受け取った。疑わしい命令書を調べないための金だった」

ライアンの指が、布団の端を強く握った。

「俺を捕まえたときも、そうだったのか」

「はい。おかしいと知りながら、見ないふりをしました」

ガイアが一歩踏み出した。

「父さん、こいつは――」

「分かってる」

ライアンの声は低かった。

「忘れていない。許したわけでもない」

グレゴールは床に膝をついた。

「孫だけは助けてください。私への罰は受けます」

「孫に、お前の罪を背負わせるつもりはない」

ライアンは言った。

「だが、謝れば帳消しになるとも思うな」

マリナは封筒を受け取り、内容と入手経緯を別々に記録した。

鍵番号が本物かどうかは、救済本部の図面と照らして確かめる。

グレゴールの証言は、独立した監査官にも届けることにした。

「話したことで孫が狙われる可能性があります」

セーラが言った。

「保護先を決めてから捜索の情報を公開しましょう」

老人は頷いたが、立ち上がれなかった。

「私は、あなたの子供たちの前で謝るべきでしょうか」

ライアンは少し考えた。

「謝りたいなら、相手の話を聞け。許してもらうための謝罪なら、今は要らない」

そのとき、廊下で足音がした。

救済本部から戻った偵察兵だった。

「裏門の監視記録に、九歳ほどの少年の姿がありました。別の荷車へ乗せられています」

「生きているのか」

グレゴールが叫んだ。

「その時点では生存しています。今の所在は未確認です」

マリナは偵察兵の報告に時刻を書き添えた。

「グレゴールさんには、確認できた範囲だけ伝えて。生存を約束したように聞こえないように」

老人は何度も唇を噛んだが、やがて頷いた。

「分からないなら、分からないと聞かせてください。孫を待つために、嘘の希望はいらない」

偵察兵は、確かめられたことだけを答えた。

ガイアは地図を広げた。

「父さん。俺が行く」

ライアンは頷いた。

「頼む。ただ、孫を見つけるために、ほかの子を危険にさらすな」

「分かってる」

老人は何度も礼を言った。

ライアンはそれを止めた。

「礼は、リオが帰ってから本人に言え。助けたのは俺じゃない。これから動く人たちだ」

グレゴールが去ったあと、セーラは父の手に触れた。

「辛かったでしょう」

「今でも辛いよ」

ライアンは目を閉じた。

「だが、あの子が帰れるかどうかは、俺の昔の傷とは別だ」

雨音が窓を叩いていた。

ガイアたちの馬が走り出す音が、その向こうから聞こえた。

ライアンはリオの名を書いた紙を、枕元へ置いた。

まだ見ぬ子供の名前が、今夜も一つ増えた。

グレゴールが病室を出る前に、ライアンはもう一度だけ呼び止めた。

「リオは、何が好きなんだ」

老人は目を瞬かせた。

「木で船を作るのが好きです。小さな船を水路に浮かべて……」

言い終える前に声が詰まった。

捜索に必要な背丈や服装は何度も聞かれたが、孫の好きなものを尋ねられたのは初めてだった。

「見つかったとき、怖い話ばかり聞かせないようにしたい」

ライアンは枕元の紙に『木の船』と書き添えた。


その晩、ガイアから最初の伝令が届いた。

救済本部の裏門は閉鎖され、鍵番号もすでに変えられていた。

グレゴールの封筒だけでは侵入できない。

「囮に使われたのかもしれません」

セーラの言葉に、ライアンは頷いた。

「だからこそ、老人の証言だけを頼りに突っ込ませるな」

マリナは名簿の金額を確かめた。

受領額の多い役人ほど重要な情報を持つとは限らない。

小さな額で名を貸した者も、子供を運ぶ経路を知っている可能性がある。

彼女は支払いの日付と荷車の通行記録を並べ、同じ日を赤い線で結んだ。

「ここ。三日前の支払いの翌朝に、荷車が二台出ている」

ガイアへ届ける報告には、確定した時刻と推測を別々の欄に記した。


翌朝、グレゴールが再び訪れた。

昨日より顔色が悪い。

「私は昔、あなたを見捨てました。孫が帰っても、その罪は消えません」

「そうだな」

ライアンは言い逃れを許さなかった。

「だが、罪を償う方法を決めるのは俺一人じゃない。まず知っていることを全部話してくれ。そのあと、法に従って責任を取れ」

老人は深く頭を下げた。

「……はい」

セーラは二人を見守りながら、父が簡単に許すと言わなかったことに安堵した。

許すことを強いれば、傷ついた過去まで消したふりをすることになる。

グレゴールは新しい紙に、かつて命令を受けた部屋の位置を描き始めた。

曲がった線は震えていたが、途中で筆を置かなかった。

「ここには裏階段があります。帳簿には載らない搬入口です」

その図がリオの居場所を示すとは限らない。

それでも老人が初めて、自分の過去を隠すためではなく、誰かを救うために記憶を使った瞬間だった。

グレゴールは図面の端に、震える指で小さな印を付けた。

「ここに灯りがあった。地下に人がいるときだけ点いた」ガイアが問い返す。

「いつ見た」「孫が消える前の日だ」老人は目を伏せた。

「昔の私なら、見なかったことにした」ライアンは返事を急がなかった。

過去の罪が消えるわけではない。

それでも今の証言が誰かの命を救うかもしれない。

「その灯りを見た人を、ほかにも探そう」ライアンは言った。

「お前の記憶だけで突入は決められない」グレゴールは顔を上げ、初めて自分から宿場の見張り番の名前を挙げた。

グレゴールが描いた裏階段の図を、マリナは昔の建築図と照らし合わせた。

図面にはない壁の厚みが、一箇所だけ不自然に広い。

修繕記録を探すと、十年前に倉庫を増築した職人の名が残っていた。

「まだ生きているか調べて」マリナは部下へ頼んだ。

ガイアに知らせる前に、別の入口がある可能性も確かめたかった。

老人は椅子の上で両手を握りしめていた。

「私が黙っていたせいで、何人も苦しんだのかもしれません」「かもしれない、で終わらせるな」ライアンは静かに言った。

「知っていることを話して、確かめられることを確かめよう。リオを助けるためにも、その前に消えた子のためにも」老人はもう一度筆を取り、記憶の中の扉の向きを描き直した。

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