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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第二十一話 山奥の村から届いた、泥だらけの手紙

春の雨が食堂の窓を叩いていた。

ライアンが百一個の椅子を数えていると、配達人が泥だらけの封筒を差し出した。

差出人の欄は空白。

宛名だけが震える文字で書かれている。

『ライアンさんへ。

たすけて。

パンがない』

ガイアは短い訴えを読み返し、返す言葉が見つからなかった。

手紙の裏には小さな手形が押されていた。

文字を書けない子が、せめて自分もここにいると知らせたのだ。

差出地は北の山村ルーゼ。

昨冬の雪崩で街道が崩れ、救済隊が到着した記録はない。

役所の帳簿には『配給完了』と記されている。

「誰が受け取ったんだ?」

マリナは書類を調べ、眉をひそめた。

「受領印が村長のものじゃない。王都で使う倉庫の印よ」

ガイアは護衛隊を整えようとしたが、ライアンは荷車一台とパン職人二人を求めた。

「軍隊を見たら、村の子は隠れるかもしれん。まず飯を運ぶ」

「父さん、山道は危険だ」

「だからお前が来てくれると助かる」

大将軍は何も言えなくなった。

二十年前も父はそうやって、人を頼ることを覚えずに無茶をした。

今度は違う。

ガイアは兵士ではなく、山道に詳しい案内人を呼んだ。


翌朝、荷車が山裾で止まった。

橋が落ちている。

向こう岸に、痩せた少年が一人立っていた。

手には赤い布。

助けを求める合図だという。

「向こうに何人いる?」

「子供が二十三人。大人はもっと。でも病気の人がいて、動けない」

少年の名はトビ。

橋の向こうから叫ぶ声は、川音にかき消されそうだった。

ノアが転移魔法を提案する。

しかし対岸の着地点を安全に確認できず、大量の荷物を一度に送るのは危険だった。

ライアンは崩れた橋脚を見つめた。

「縄は渡せるか?」

「熟練者なら命綱をつけて渡れます。荷車は無理です」と案内人。

「だったらパンを袋に分けよう。一度に全部運ぶ必要はない」

案内人が袋の重さを量り、縄の傷みを確かめた。

濡れた麻縄では途中で切れる。

ガイアは護衛の工兵に命綱をつけ、残った橋の足場から予備綱を対岸へ渡させた。

工兵が固定点を確かめて戻ると、向こう岸のトビにも合図を教えた。

一本引けば送る、二本なら止める。

子供にも分かる決まりにしてから、ようやく最初の袋を吊った。

ガイアたちは二本の縄を対岸へ張り、滑車で袋を渡した。

最初の一袋が向こうへ届くと、トビは泣きながらパンを抱えた。

「一人で食うなよ。みんなで分けるんだぞ!」

「分かってる!」

対岸の足場が確保され、ライアンも命綱をつけて村に入った。

そこで配給完了の記録の意味を知った。

食料は村に届く前、山麓の関所で止められていた。

担当官は『通行税が未納だから』と言い張ったという。

「村の人間は雪崩で畑を失ったんだぞ」

「役所の決まりです」

関所に戻ると、若い徴収官が同じ言葉を繰り返した。

ガイアの名を聞いて青ざめたが、ライアンは剣を抜かせなかった。

「君の上司が何を命じたか、紙に書いてくれ。君自身が考えたことも」

徴収官は長い沈黙の末、上司の署名がある命令書を差し出した。

命令は違法だった。

食料は税の担保にされ、倉庫で傷み始めていた。

マリナは緊急輸送を手配し、関所の帳簿を保全した。

罰を決めるのは裁判所だ。

ライアンが今するのは、目の前の空腹を止めることだった。

夕方、村の広場で大鍋が煮えた。

トビはパンを二つ受け取り、一つを小さな妹に渡した。

妹は匂いを嗅いでから、恐る恐るかじった。

「おじさん、本当に明日も来る?」

「ああ。ただし、毎日俺が運ぶだけじゃ駄目だ。橋を直して、村の人が自分で行き来できるようにしよう」

トビはしばらく考え、頷いた。

「ぼく、橋の釘を拾う係になる」

ライアンはその頭を撫でた。

大将軍が橋を守り、大聖女が病人を診て、大商人が穀物を調達する。

その中心にいる男がしたことは、少年の話を最後まで聞くことだけだった。

帰り際、村長が古い箱を差し出した。

中には十数通の手紙。

どれも宛名はライアンだった。

「これは?」

「届けられなかった助けの声です。関所で戻されていました」

ライアンは箱を受け取った。

救われた村が一つある。

しかし、まだ声が届かない村もある。

関所から戻ったマリナは、村長に三枚の書類を渡した。

受領の記録、次の輸送予定、天候で届かないときの連絡先だった。

「届いたことにされた食料と、実際に届いた食料を、これからは別々に数えましょう」

トビが首を傾げた。

「字を読めない人は?」

「一袋につき石を一つ、この箱へ入れる。配った袋の数と、最後に石を数え合わせるの」

トビは試しに石を三つ入れ、妹と一緒に数えた。

村の大人たちも、間違いがあれば声をかけた。

「間違ったら叱られる?」

「直せばいい。間違いを隠したら、誰かが食べられなくなるからね」


翌朝、橋の仮設に使う木材が届いた。

だが老大工は、傷んだ橋脚を見て首を振った。

「荷車が通れるようになるには、まだ日がかかる。急いで載せたら川に落ちる」

ガイアは工兵を残し、徒歩で渡せる荷物の重さを制限した。

村長には、橋の開通までの食料備蓄を確認してもらった。

トビは新しい帳面の最初の頁に、壊れた橋を描いた。

その隣に、一本の縄を描き足す。

「次は橋が直った絵を描くんだ」

ライアンが言うと、少年は頷いた。

「その次は、向こうの村の子が遊びに来る絵」

助けの手紙は、ようやく届いた。

今度は、助けを呼ばなくても行き来できる道を残さなければならない。

帳簿の受取欄には署名のない行が残っていた。

ライアンは疑われた人を呼びつけるのをやめ、まず配った側の記録と照らし合わせた。

「受け取った人を責める前に、渡した数を確かめよう」

その一言で、居合わせた者たちはようやく帳簿に目を戻した。


翌日の昼、トビは橋のたもとへ戻ってきた。

「昨日のパン、半分残したんだ」

ライアンは驚いた。

飢えていた少年が食べ物を残すのは、容易なことではない。

「妹に明日の分を取っておきたくて。でも、もう明日も届くんだよね」

「ああ。約束したからな」

ライアンは橋の補修予定を見せた。

雨が降れば工事は止まる。

荷物が遅れる日もある。

それでも村に知らせる方法を先に決めておけば、突然見捨てられたような思いをさせずに済む。

村長は鐘を三度鳴らす合図を考えた。

食料が届いたら一度、橋に危険があれば二度、急病人が出たら三度。

向こう岸の見張りも同じ回数で返す。

最初の試し打ちで、トビは三度鳴らしてしまった。

「病人が出たってことになるぞ」

ガイアが言うと、少年は顔を赤くした。

「じゃあ、僕が間違えたって分かるように、もう一回鳴らす合図もいるね」

村長が笑い、皆で合図を考え直した。

助けを受けるだけだった少年が、村の仕組みを作る一人になっていた。

雨は止んでいた。

空に細い月が浮かんでいた。

トビは鐘の合図を板に書き、文字の読めない祖母にも分かるよう、横に丸を一つ、二つ、三つ描いた。

「鐘が聞こえない家は?」とライアンが尋ねると、少年は考え込み、橋から離れた家には隣人が伝える仕組みを提案した。

村長は家々の位置を地面に描いた。

誰が誰に知らせるかを決めると、これまで名前の出なかった一人暮らしの老人の家が残った。

「僕が行くよ」とトビが言った。

ガイアは「雨の日は一人で走るな」と釘を刺す。

少年は頷き、二人一組の伝令役を作った。

食料を運ぶだけでは届かない安心が、村の中で少しずつ形になった。

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