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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第十六話 百人の英雄が、たった一人の少年のために動いた

夜明け前、救護所の寝台が一つ空になっていた。

少年テオが消えたのだ。

窓の下には裸足の足跡が残っていた。

雪の中を北へ向かい、旧市場の裏通りへ続いている。

「追跡隊を出します」

ガイアの副官が言うと、ライアンは首を振った。

「大勢で追いかけたら、あの子は逃げる。まず、足を傷つけずに帰れる道を用意してくれ」

セーラは毛布と靴を持ち、ライアンと旧市場へ向かった。

崩れた屋根の下に、テオはいた。

破れた袋を抱え、隅で膝を抱えている。

袋には固くなったパンの耳が詰まっていた。

「返さない!」

テオが叫んだ。

ライアンは数歩手前で止まった。

「取らないよ。お前のものだ」

「嘘だ。院長は、全部返せって言った」

「俺は院長じゃない」

「大人はみんな同じだ!」

ライアンは反論せず、雪の上に靴を置いた。

「足が冷たいだろう。履くかどうかは、お前が決めていい」

テオは靴を見たが、手を伸ばさなかった。


しばらくして、袋の口を握りしめたまま呟いた。

「妹に持っていくんだ」

「妹?」

「アニ。別のところへ連れていかれた。ちゃんと働けば、会わせてやるって」

ライアンは胸の奥が冷たくなった。

「その場所を知っているか?」

テオは首を振った。

「院長は、名前も教えてくれなかった」

セーラが隣にしゃがんだ。

「私たちが探すわ。あなたは温かい場所で休んでいていい」

「見つからなかったら?」

「見つかったふりはしない。分かったことを、必ず伝える」

テオは長いあいだ黙っていた。


やがて靴に足を入れた。

救護所へ戻ると、マリナが偽慈愛院の移送記録を調べ始めた。

帳簿には『アニ』

の名がなかった。

代わりに、年齢と背丈だけが記された少女の記録が三件ある。

「どれが妹さんか、決めつけられないわ」

ノアは古い施設の所在地を地図に落とした。

セーラは受け入れ先の施療院へ連絡を取り、ガイアは街道の通行記録を照合した。

百人の英雄が集まったわけではない。

それぞれが持ち場で動き、一人の少年の妹を探すために情報をつないだ。

夕方、隣町の施療院から返事が来た。

『九歳のアニという少女が在籍。

兄の名はテオと申告』

マリナは記録を二度確かめた。

「同じ名前の別人かもしれない。本人に、兄のことを確認してもらいましょう」

施療院の職員がアニに尋ねると、少女は答えた。

「兄ちゃんは、左の眉に小さな傷がある。転んだとき、私をかばったの」

テオの眉には、確かに古い傷があった。

ライアンが知らせを伝えると、少年は信じられない顔をした。

「生きてる?」

「生きている。会いたいと言っているそうだ」

「今すぐ行く!」

「まず、セーラに足を診てもらおう。それから一緒に行く」

テオは今度は逃げなかった。


翌朝、施療院の小さな面会室で、兄妹は再会した。

アニは兄の顔を見るなり駆け寄った。

「兄ちゃん!」

テオは袋を差し出した。

「パン、持ってきた」

アニは袋を見て、泣きながら首を振った。

「一緒に食べたい」

セーラが用意した柔らかいパンを二人の前に置いた。

テオは固いパンの耳を手放せなかったが、アニが半分を渡すと、ようやく口をつけた。

帰り道、ガイアがライアンに言った。

「大軍を動かすより、難しいな」

「そうか?」

「剣なら、相手が見える。でも、この子たちが何を怖がっているかは、聞かないと分からない」

ライアンは頷いた。

「分からないなら、聞けばいい。答えたくない日は、待てばいい」


その夜、テオは救護所で初めて自分から靴を脱ぎ、寝台に上がった。

アニは別室で休み、翌日から同じ保護先で暮らせるよう調整が始まった。

まだ手続きは残っている。

けれど、テオの枕元にはもう、パンを詰めた袋はなかった。

彼は眠る前、ライアンに尋ねた。

「明日も、妹に会える?」

「ああ。明日の予定は、ここに書いてある」

ライアンは面会時間を記した紙を見せた。

ライアンは会議の終わりに、発言しなかった者にも尋ねた。

「困ることはないか」

返事はすぐには出なかった。

それでも待つ時間を作ると、後ろの席から一つだけ具体的な心配が上がった。

兄妹を引き離した施設の記録には、移送理由が「保護先の調整」とだけ書かれていた。

マリナはその一行に赤い線を引いた。

「調整という言葉で、本人たちの希望が消えている」

ライアンは紙を見つめた。

「これからは、兄弟姉妹がいるかどうか、最初に聞こう。離れて暮らす必要があるなら、理由と面会の予定を残す」

「全部の施設に徹底するには時間がかかるわ」

「なら、今日この二人から始める」

施療院での面会を終えたテオは、帰りの馬車に乗ろうとしなかった。

アニの手を離すと、また会えなくなる気がしたのだ。

職員は予定の時刻を気にしたが、ライアンは馬車を待たせた。

「テオ。今日、離れるのが怖いんだな」

少年は唇を噛み、頷いた。

「明日来るって言って、来なかった人がいた」

「そうか」

ライアンはその場で面会予定を二枚書き、一枚をテオに、一枚をアニに渡した。

さらに、馬車の御者と施療院の職員にも同じ時刻を確認してもらった。

「俺一人が忘れても、ほかの人が確かめられる。約束を守るのを、俺だけの記憶に頼らない」

アニは紙を両手で持ち上げた。

「明日は、これを見せればいい?」

「そうだよ」

帰路、ガイアは自分の副官に伝令の手配を命じた。

王国の各地で、施設の都合によって離れ離れになった子供がいないか調べるためだ。

「大将軍が子供の面会表を作るのか」

ノアがからかうと、ガイアは肩をすくめた。

「軍では兵士一人の行方が分からなくなれば捜索する。子供の行方だけ、曖昧なままでいい理由はない」

ライアンは二人の言葉を聞きながら、馬車の窓から夕焼けを見た。

英雄が百人いるから救えるのではない。

一人が気づいた不便を、次の人が直せるようにしておく。

それが百人の力だった。

救護所に戻ったテオは、アニに渡すための手紙を書こうとした。

字を習っていなかったため、最初は紙に一本の線しか引けなかった。

エルは代わりに書こうとせず、彼の言葉をゆっくり聞いた。

「何て伝えたい?」

「パン、もう隠さなくていいって」

「それだけ?」

「……明日、会いに行くって」

エルは文字を教え、テオが自分の手で最後の一文字を書き終えるまで待った。

曲がった文字の下に、少年は小さな靴を描いた。

もう裸足ではないという印だった。

テオがアニの病室を出るとき、扉の取っ手を何度も確かめた。

「明日も、この部屋にいる?」

アニは頷いたが、施療院の職員がそっと口を挟んだ。

「診察の都合で部屋が変わることはあります」

テオの顔から血の気が引いた。

ライアンは職員に尋ねた。

「部屋が変わったら、どこで知らせてもらえる?」

「受付です。面会者の名前が分かれば案内できます」

マリナは二人の名前を面会台帳へ記入し、控えをテオへ渡した。

テオは紙を握り、もう一度アニを見た。

「部屋が変わっても、探せるんだね」

「そうだよ」ライアンは答えた。

「会いたい人を探すのに、雪の中を裸足で走らなくていいようにする」

テオは控えの紙を裏返した。

そこには受付の場所を示す簡単な絵が描かれていた。

「字が読めなくても、これなら分かる」

マリナは頷いた。

「明日は一人で行ってみる? 心配なら誰か一緒に行くわ」

「……一人で。だけど、途中まで来て」

ライアンは笑わず、真剣に頷いた。

少年が選んだ距離を守ることも、救出の続きだった。

テオは紙を胸に抱え、目を閉じた。

ライアンは廊下に出て、受付の職員に一つ頼んだ。

子供が面会の場所を尋ねに来たら、追い返さず案内してほしい、と。

「約束した場所に人がいないだけで、子供には捨てられたように思えることがあります」

職員は台帳の脇に案内札を置いた。


翌朝、テオが目を覚ましたとき、アニの寝台は検査のため空だった。

テオは一瞬身を固くしたが、胸の紙を開き、受付へ向かった。

今度は裸足ではなかった。

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