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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第十五話 地下室で見つけた十二人の子供

鍵が回る音に、地下室の中から悲鳴が上がった。

ライアンは扉を開ける前に、もう一度声をかけた。

「扉を開けるよ。入ってほしくなければ、ここで待つ」

返事はなかった。

ノアがゆっくり扉を押すと、冷たい空気が流れ出した。

暗い部屋には、十二人の子供がいた。

年長の少女が小さな子を背中へ隠し、こちらを睨んでいる。

「私たち、ちゃんと働くから。怒らないで」

ライアンは床に膝をついた。

「働かなくていい」

「嘘。前の人もそう言った」

少女の言葉に、誰も言い返せなかった。

ライアンは水差しを床へ置いた。

「信用しなくてもいい。水はここに置いておく。飲みたいときに飲んでくれ」

少女は動かなかった。

一番小さな子が水差しへ手を伸ばすと、少女はその腕を引き戻した。

「駄目。あとで返せって言われる」

セーラが少し離れた場所に座った。

「返さなくていいの。具合が悪い子を診たいけれど、急に触らない。誰から診てもいいか、一緒に決めよう」

年長の少女は、仲間の顔を一人ずつ見た。


やがて、一番小さな子を前へ出した。

「この子から」

セーラは頷いた。

「ありがとう」

診察が始まると、エマとエルは毛布を運んだ。

エルが少女へ椅子を勧めると、彼女は壁に背中をつけたまま首を振った。

「座ると、扉が見えない」

エルは椅子を動かし、出口が見える位置に置いた。

「ここならどう?」

少女はようやく座った。

ライアンは、その小さな変化を見ていた。

地下室の扉を開けることと、安心して外へ出られることは違う。

「名前を聞いてもいいか?」

少女は答えるまでに間があった。

「……ユナ」

「ユナ。教えてくれてありがとう」

「名前を言ったら、帳簿に書かれる?」

「保護するための記録は必要だ。でも、誰に見せるかは説明する。嫌なことがあれば、言っていい」

ユナは答えなかったが、視線を落とさずにいた。

十二人のうち、二人は立ち上がれなかった。

セーラは急に大量の食事を与えず、状態に合わせて少量の水分と食事を用意させた。

「今日は全員を一度に移さない。診察を終えた子から、四人ずつ」

ガイアが廊下を確認した。

「外の護衛は鎧を外す。剣も見えないところへ。出口を塞ぐな」

兵士たちは頷き、階段の先へ下がった。

最初の四人が地下室を出るまでに、長い時間がかかった。

光を怖がって足を止める子がいた。

階段の途中で座り込む子もいた。

エルは急かさず、子供が自分で立ち上がるのを待った。

ユナは最後の組に残った。

「ここから出たら、戻れない?」

「今は、戻らなくていいようにするために出るんだ」

ライアンが言うと、ユナは首を振った。

「そうじゃない。怖くなったら、どこに戻ればいいの?」

ライアンは答えを変えた。

「救護所に、静かな部屋を用意する。そこで休める。嫌なら別の部屋も選べるようにしよう」

ユナは少し考え、立ち上がった。

十二人目が階段を上がったとき、ライアンはようやく息を吐いた。

だが救護所に移ってからも、子供たちはすぐには眠れなかった。

毛布を返そうとする子。

パンを寝台の下へ隠す子。

扉が閉まるたびに震える子。

エルは、ユナの部屋の扉に外から鍵を掛けないことを説明した。

「閉めたいときは閉めていい。でも、入る前には声をかける」

ユナは何度も扉を開け閉めした。

四度目に、隙間を少し残して寝台へ戻った。

夜更け、ライアンは救護所の廊下に座っていた。

ガイアが隣へ腰を下ろす。

「十二人、助けられたな」

「そうだな」

「なのに、嬉しそうじゃない」

ライアンは扉を見つめた。

「昔、お前たちが来た夜も、俺は『助けた』

と思っていた。でも本当は、明日も食べられると信じてもらうまで、何も終わってなかったんだ」

ガイアは黙って頷いた。

「じゃあ、明日もここに来よう」

「ああ」

そのとき、寝室の扉が少し開いた。

ユナが顔を出した。

「……明日も、ノックしてくれる?」

エルが立ち上がった。

「もちろん。返事があるまで入らないよ」

ユナは小さく頷き、扉を閉めた。


翌朝、十二人の容体を確認するため、セーラが寝室を回った。

だが一つだけ、寝台が空になっていた。

少年テオの姿がなかった。

救護所に着いて最初の食事が運ばれたとき、十二人のうち半分は皿に手をつけなかった。

毒を疑ったのではない。

食べた分だけ働かされると思っていたのだ。

ユナは自分の皿をテオの前へ押しやった。

「私はいらない。小さい子に」

セーラは皿を戻さず、台所から空の器を持ってきた。

「今は食べられなくてもいい。でも、あなたの分をなくすつもりはないの。あとで温め直せるよう、別に取っておくわ」

「残したら怒られない?」

「怒らない。明日の朝も、あなたの分はある」

ユナは疑うように台所の扉を見た。

エルは彼女に、食料庫の鍵を預けるのではなく、明日の献立を書いた紙を渡した。

約束が破られたら確かめられるようにするためだった。

夜の見回りで、エルは一人の子が靴を履いたまま眠っていることに気づいた。

いつでも逃げられるようにしているのだ。

脱がせようとした兵士を止め、寝台の脇に乾いた靴下だけを置いた。

「明日、足が痛かったら教えてね」

その子は目を閉じたまま、小さく頷いた。

別の子は、食べ残しを毛布に包んでいた。

エルは見なかったふりをせず、保存できる容器を渡した。

「隠さなくていい。名前を書いて棚に置こう。明日も残っているか、一緒に確かめよう」

ライアンは廊下でその様子を見守った。

二十年前、自分が初めて預かった子供たちも、パンを枕の下へ隠した。

彼は当時、食べ物が足りないせいだと思っていた。

だが今なら分かる。

足りなかったのは、明日も同じ約束が守られるという確信だった。

「父さん」

ガイアが呼んだ。

「院長の取り調べが始まった。俺が立ち会う」

「子供の居場所は伏せてくれ。怒鳴り声を聞かせるな」

「分かった」

深夜、ユナが水差しを持って廊下へ出てきた。

「これ、空になった」

「入れようか」

「……自分で入れたい」

ライアンは台所まで案内し、蛇口の使い方だけを教えた。

ユナは水を満たし、重い水差しを両手で運んだ。

途中で少しこぼしたが、誰も叱らなかった。

「拭くもの、ある?」

エルが布巾を渡すと、ユナは床を拭いたあと、しばらく布巾を見つめた。

「私、ここで仕事をしたから、明日のご飯をもらえる?」

「違うよ」

ライアンは静かに言った。

「こぼした水を拭いたのは、ユナがそうしたかったからだ。明日のご飯は、何もしなくても出る」

ユナはすぐには笑わなかった。

ただ、水差しを持ち直す手から、少しだけ力が抜けた。

救護所の洗面台で、ユナは何度も自分の手を洗った。

「汚れてると、食堂に入れないって言われたから」

セーラは横に並んで手を洗った。

「ここでは、汚れているから追い出すんじゃなくて、洗えるようにするの」

「石鹸、使っていいの?」

「使っていい。なくなったら言ってね」

ユナは泡を見つめたまま、しばらく動かなかった。


やがて指の間を洗い流し、顔を上げる。

「テオにも教えていい?」

「もちろん」

その晩、ユナは小さな子に洗面台の踏み台を譲った。

命令されてしたことではない。

自分が受け取ったものを、初めて自分の意思で渡したのだった。

窓の外には、雪の上を続く裸足の足跡が残っていた。

見回りの職員が窓を閉めようとして、足跡に気づいた。

寝台を数えると、一つだけ毛布が畳まれている。

「テオがいません」

見回りの職員は声を潜めた。

周囲の子供を驚かせないためだったが、ユナは聞き逃さなかった。

「私、アニって子の話をしたの。テオが一緒にいた子」

「アニはどこに?」

「前の院長が別の場所へ連れていった。テオは、あの子だけ置いてきたと思ってる」

ライアンはユナの言葉を遮らず、アニの名と最後に見た場所を記した。

失踪の理由が分かれば、追う足音も変えられる。

ユナは洗いかけの手を止めた。

「あの子、誰かを探しに行くって……」

ライアンは外套を手に取ったが、走り出さなかった。

「最後に話したことを教えて。どこへ行くか、何を怖がっていたか」

ユナは震えながらも、テオが口にした少女の名を思い出した。

窓の外の足跡は、北の路地へ続いていた。

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