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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第十四話 父さんの名を使った偽物の孤児院

『ライアン慈愛院』

門の看板を見たライアンは、しばらく動けなかった。

名前の下には、百人の孤児を育てた英雄の父が監修する施設、と書かれている。

「俺はここに来たことがない」

隣でマリナが頷いた。

「寄付金の受付記録にも、父さんの署名はないわ」

門の内側は妙に静かだった。

食堂には立派な献立表が貼られ、毎日百人分の食事を出したことになっている。

しかし大鍋は冷たく、薪置き場に新しい灰はない。

院長を名乗る男が、作り笑いを浮かべた。

「子供たちは職業訓練に出ています。今日は全員、外出中でして」

「何人いる?」

ライアンが尋ねた。

「ええと、百人ほど」

「名前を記した帳簿は?」

男は視線をそらした。

マリナは監査官へ立ち入りの許可状を渡した。

「寄付金の流れと、ここに暮らす子供の安全を別々に確認します」

男が抗議しようとしたとき、裏口から小さな声がした。

「……おじさん、本物のライアン?」

痩せた少年が、戸の隙間から顔をのぞかせていた。

ライアンは膝をついた。

「そうだよ。君はここで暮らしているのか?」

少年は頷いた。

「毎日食べられるって言われた。でも、働かないと水もくれない」

院長の顔が強張った。

「その子は嘘つきでして」

「今は黙っていてください」

マリナが言った。

「子供の話は、保護の担当者が聞きます。あなたには帳簿の説明をしてもらう」

セーラが少年の手を取ろうとすると、少年は身を引いた。

「ごめんね。触らないわ」

セーラは少し離れた場所に水を置いた。

「飲みたくなったら飲んで。診察も、できることからでいい」

少年は水差しを見つめたあと、そっと持ち上げた。

奥の廊下には寝台が並んでいた。

だが毛布は新品で、使われた跡がない。

「見学用の部屋かもしれない」

ノアが言った。

「じゃあ、本当に寝ている場所は?」

ライアンが問いかけると、少年は床を指した。

「下」

地下へ続く扉には、外側から錠が掛かっていた。

ガイアは剣の柄に手を置いたが、ライアンが止めた。

「中に子供がいるなら、急に壊すな。まず人数と出口を確かめよう」

ノアが扉の構造を調べ、セーラは救護用の毛布を運ばせた。

その間、マリナは寄付の帳簿を開いた。

寄付者には、毎日温かい食事を百人に届けていると報告していた。

しかし食料の仕入れ記録は、わずか十数人分しかない。

「差額の金は、どこへ?」

院長は答えなかった。

帳簿の支出先には、存在しない食料商の名があった。

さらに寄付箱の底から、子供の字で書かれた手紙が見つかった。

『おなかがすいた子に、あげてください』

ライアンはその紙を見つめた。

手紙を書いた子は、誰かが食べられると信じて寄付したのだろう。

その善意を利用した人間がいる。

だが怒りをぶつけるより先に、地下の扉を開けなければならなかった。

門の外では、寄付者の老婦人が待っていた。

「私は孫の服を預けました。ここなら、寒い子に届くと思って」

ライアンは頭を下げた。

「ここは俺の施設ではありません。寄付がどう使われたか、調べています」

「では、私がしたことは無駄だったの?」

「そうは思いません。でも、届いたかどうかは、まだ確かめられていない。分かったことは必ずお知らせします」

老婦人は服を胸に抱き直した。

「それなら、待ちます」

夕方、監査官は寄付帳簿を封印し、子供の身元が外へ漏れないよう名簿を別に保管した。

ノアが地下扉の錠を調べると、管理人が持つ鍵で開けられることが分かった。

「中から、音がする」

ガイアが耳を寄せた。

二度叩いて、間を置いて三度。

ライアンは息を呑んだ。

昔、百人の子供たちに教えた、助けを求める合図と同じだった。

「聞こえているぞ」

ライアンは扉へ声をかけた。

「今から開ける。大きな音は立てない。怖かったら、離れていていい」

扉の向こうで、小さな足音がした。

監査官が院長の机を調べると、寄付者向けの報告書が何種類も見つかった。

どれにも同じ子供の写真が貼られ、別々の日付が書き込まれていた。

「写真を撮られた子はどこにいる?」

マリナが尋ねると、院長は肩をすくめた。

「出入りが多い施設ですから、いちいち覚えていません」

ライアンは報告書を取り上げなかった。

紙を奪えば、男はまた別の言い訳をする。

代わりに、写っている子供の服の袖を指した。

三枚とも同じ場所に継ぎが当たっている。

「同じ日に撮った写真を、三か月分の報告に使ったんだな」

院長の笑みが消えた。

門の外では寄付者たちが集まり始めていた。

怒鳴る者もいれば、自分の善意が人を傷つけたと思い込み、泣き崩れる者もいた。

ライアンは扉を開け、集まった人々に頭を下げた。

「俺の名を信じて寄付した人がいる。名前を勝手に使われたことは、俺の落ち度ではないかもしれない。でも、今ここで何が起きているかを説明する責任はある」

「金を返せ!」

男が叫んだ。

「返すべき金は追う。ただし、先に子供たちを安全な場所へ移す。返金のために食事を一日遅らせることはしない」

老婦人が、抱えていた服の包みをほどいた。

小さな外套が一枚、膝の上に広がる。

「これは孫が着ていたものです。亡くなってから、ずっとしまっていました」

彼女は震える指で襟をなぞった。

「また誰かの冬を温められると思ったのに」

「まだ、そうできます」

ライアンは答えた。

「ただし、今度は受け取った子が本当に着られたか、確かめられる仕組みにしましょう」

マリナが頷き、寄付品に番号を付け、受領と配布を別々の担当者が記録する方法をその場で書き始めた。

寄付者の名前を公開する必要はない。

必要なのは、品物が誰かの手に届くまで消えない道筋だった。

地下の扉を前に、ライアンは一度だけ手を止めた。

自分の名前が飢えた子供を閉じ込める看板に使われた。

その事実は、どんな剣傷よりも痛かった。

だが、向こう側で待つ子供にとって大事なのは、彼の怒りではない。

次に聞こえる足音が、怖い大人のものではないと分かることだった。

「鍵を回す前に、もう一度知らせよう」

ライアンは扉に掌を当て、声の高さを落とした。

「俺たちは食べ物と毛布を持ってきた。誰も叱らない。出たくない子は、すぐに出なくてもいい」

返事はなかった。

だが、扉の下から、小さな指先が一瞬だけ見えた。

マリナが寄付の台帳を読み上げると、院長は急に声を荒らげた。

「善意で集めた金だ。使い道まで口を出すのか!」

「善意で集めたからこそ、使い道を確かめるんです」

寄付者の老婦人は震える手で一枚の受領証を差し出した。

そこには『冬服二十着を配布済み』とある。

だが衣服の保管棚は空で、配布先の名簿もなかった。

ライアンは老婦人に言った。

「あなたの善意が悪かったわけじゃない。ここで子供が何を受け取れなかったか、確かめさせてほしい」

監査官は院長を別室へ案内した。

誰かを怒鳴りつけて終わるより、地下の扉の向こうにいる子供の数を確かめる方が先だった。

管理人が鍵を差し込むと、錠が小さく鳴った。

ノアが扉を支え、セーラは毛布を抱えて少し離れたところで待った。

扉の向こうには、身を寄せ合う子供たちがいた。

ライアンは中へ踏み込まず、目線を合わせてもう一度声をかけた。

「迎えに来た。ここから先は、働かなくても水を飲める場所へ行こう」

最初に出てきた子が水差しを見て立ち止まる。

セーラはそれを床に置き、「飲んでいいのよ」と告げた。

子供は両手で水差しを持ち、ようやく一口飲んだ。

「外へ出たら、また働かされる?」

奥から細い声がした。

ライアンは首を横に振った。

「今夜は働かなくていい。明日のことは、暖かい場所で話そう」

「名前を言わないと駄目?」

「今は言わなくてもいい」

「じゃあ、出ていったら、またここに戻される?」

年長の子が問い返した。

ライアンは安易に否定せず、同行の監査官へ確認した。

「保護先と引き渡しの記録を残します。施設の院長が勝手に連れ戻すことはできません」

「その紙、私たちにも見せて」

「もちろんだ」

監査官は保護先の名称を読み上げ、子供たちが聞き取れたか一人ずつ確かめた。

ライアンは初めて、年長の子が扉の方へ一歩近づくのを見た。

監査官が人数を数えるあいだ、セーラは子供の手首に札を結ばなかった。

代わりに毛布の色と座る場所を記録し、本人が落ち着いてから名前を聞くことにした。

救い出した直後から管理される恐怖を、重ねたくなかった。

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