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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第百十六話 雪の夜に届いた百一通目

雪が窓を叩く夜、食堂の扉が三度鳴った。

ライアンが開けると、配達人のレムが立っていた。

肩には雪が積もり、手袋は濡れている。

「これを。宛名が少し読みにくくなってしまって」

封筒の裏には『百人の子の父へ』と書かれていた。

ライアンはレムを中へ招き、まず火のそばに座らせた。

「届ける前に、体を温めてくれ」

「仕事ですから」

「倒れてまで届ける仕事じゃない」

レムはようやく荷物を下ろした。

封筒に差出人の名はなかった。

中の紙には、たった二行。

『あの日、パンを半分くれた人へ。

生きています』

ライアンは何度も読み返した。

二十年前、百人の子供たちと暮らした食堂では、戸口に現れた人へパンを分けることがあった。

あの人だろうか、この人だろうか。

顔は浮かぶが、誰とも決められない。

「父さん、誰から?」

セーラが覗き込んだ。

「分からないんだ」

「会いたい?」

「会いたいよ。でも、名前を知りたいのは俺の都合だな」


その夜、ライアンは返事を書こうとして、何度も筆を置いた。

名乗らない相手に、何を尋ねればいいのだろう。

名前か。

住んでいる町か。

それとも、なぜ手紙を書いたのか。

どれも知りたかった。

だが、相手が名前を伏せたのには理由があるはずだった。

ライアンは紙を新しくし、短い言葉だけを残した。

『手紙は届きました。

読んでくれてありがとう。

寒い日は、どうか温かいものを食べてください』

セーラはその文を読み、少し笑った。

「父さん、誰から来たか分からないのに、また食事の心配?」

「分からないからこそだよ」

「返事が来なかったら?」

「それでもいい。返事を待たずに食べてくれたら、それでいい」


翌朝、掲示板の端にその紙が貼られた。

通りかかった人の中には、足を止める者も、見ずに通り過ぎる者もいた。

ライアンは誰にも説明しなかった。

受け取った人が、自分への言葉だと気づけば十分だった。

ライアンは手紙を畳んだ。

『生きています』。

書いた人は、その知らせだけを届けたかったのかもしれない。

次の朝、ライアンは返事を書いた。

『知らせてくれてありがとう。

あなたが今日も生きていることを嬉しく思います。

会えたら嬉しい。

でも、名乗らなくても、帰ってこなくても構いません』

宛先がないため、食堂の掲示板に写しを貼った。

原本の手紙は、誕生日に届いた百通とは別の封筒にしまった。

「本人が見られるか、分からないよ」

マリナが言った。

「そうだな。でも、読んだ誰かが、返事を待っている人の気持ちを知るかもしれない」

夕方、掲示板の前で旅人が足を止めた。

紙を読んで、何も言わずに去った。

ライアンは追わなかった。


数日後、レムが再び訪ねてきた。

今度は雪のない道を、乾いた靴で歩いてきた。

「先日の配達で、詰め所から注意されました。吹雪の中で無理をしたことを」

ライアンは頷いた。

「注意してくれる仲間がいてよかった」

「でも、あの手紙は届けたかったんです」

「届いて嬉しかった。だからこそ、次も元気で届けに来てほしい」

レムはしばらく黙り、温かな茶を口にした。

「配達が遅れる時、待っている人へ知らせる仕組みを作ろうと思います」

「いい考えだ」

「手紙を運ぶ人も、家へ帰らないといけませんから」

春になる頃、掲示板の返事は端が擦り切れていた。

セーラが新しい紙へ書き写し、古い紙は保管した。

「結局、誰だったんだろうね」

「分からないままでいいこともある」

ライアンは答えた。


翌朝、ライアンは差出人の名がない手紙を机の引き出しにしまった。

返事の宛先は分からない。

だからこそ、手紙に書かれた願いを勝手に公表しないことにした。

窓の雪が解けるころ、配達人にはただ「届いたよ」と伝えてほしいと頼んだ。

レムが帰る支度をすると、ライアンは封筒をもう一度見た。

雪に濡れた宛名は判読しづらい。

だが差出人が名前を伏せたのか、ただ消えてしまったのかは分からなかった。

「配達先を探し直した方がいいですか」

レムが尋ねる。

「いや、返事を求めているとは限らない。勝手に探すのはやめよう」

ライアンは便箋を折り、食堂の引き出しにしまった。

「ただ、来たいと思ったときに迷わないよう、門の灯りだけは点けておく」

レムは濡れた手袋を火のそばで乾かし、道が明るくなるのを待って帰った。

誰かの秘密を守ることと、助けを求める道を残すこと。

その二つを同時にできる夜だった。

差出人のない手紙を読み終えても、ライアンは封筒を裏返して名前を探さなかった。

返事を求めない言葉もある。

彼は手紙をほかの百通と同じ箱に納め、「届いたことだけは、覚えておこう」とつぶやいた。

レムが温まるまでの間、ライアンは封筒を机の上に置いていた。

急いで開ければ、差出人の事情まで分かる気がした。

しかし、紙の向こうにいる人は、返事を急かされるために手紙を書いたわけではない。

「この道は、雪が深かったろう」

ライアンが尋ねると、レムは頷いた。

「途中の宿場で止められました。明日でもいいと。でも、手紙がずっと鞄にあるのが気になって」

「届けてくれてありがとう。ただ、次は自分の命を先に守ってくれ」

レムは照れくさそうに茶を飲んだ。


翌日、ライアンは返事を書く紙を用意した。

宛名が分からないので、送ることはできない。

それでも、書かずにはいられなかった。

『あの日のパンを覚えていてくれて、ありがとう。

もし今、温かい食事が必要なら、門を叩いてほしい』。

書き終えると、ライアンは紙を折り、食堂の引き出しに入れた。

サラはその様子を見て尋ねた。

「いつか渡せると思う?」

「分からない。でも、誰かが来たときに、何も言えずにいるよりいい」

その夜、食堂の戸には新しい灯りが掛けられた。

名前を告げられない人でも、暗い道で迷わず見つけられるように。

百人の子供たちから届いた手紙には、それぞれの名前があった。

百一通目には名前がない。

だが、誰かが冬を越えて生きている。

ライアンは朝の食堂に灯りをともした。

配達人レムは翌朝、食堂の灯りがまだついているのを見た。

ライアンは返事の宛先を探すよう頼まなかった。

差出人が名乗らないことを選んだなら、その気持ちも守りたいからだ。

代わりに、道に迷った旅人が立ち寄れる場所を村の掲示板に知らせた。

百一通目を書いた人が現れなくても、その灯りは別の誰かを温められる。

いつかその人が来ても、来なくても、温かな食事を出せるように。

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