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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第百十五話 父さんの肖像画が似ていない

広場の中央には、布を掛けられた巨大な肖像画があった。

除幕式の主役はライアンだという。

本人は何も聞かされていなかった。

「父さん、怒らないでね」

フィルが言う。

「みんな感謝してるんだ」

布が外されると、そこには剣を掲げた壮年の英雄が描かれていた。

背筋はまっすぐで、目は鋭い。

ライアンは絵を見上げ、しばらく黙った。

「……誰だ、これは」

広場に笑いが起きた。

画家シモンは顔を真っ赤にした。

「あなたを立派に描こうとしたのです」

ライアンは絵の剣を指さした。

「俺は剣を持ってないし、こんなに背も高くない」

シモンは下書きを何枚も見せた。

王宮の役人が『英雄らしく』

と指示し、皺を消し、鍋を剣に変えさせたのだという。

「俺を立派にしてくれる気持ちは嬉しい。でも、子供たちが覚えている俺は、たぶん違う」

ライアンは広場に集まった百人の子供たちを見た。

誰もが少しずつ違う表情で笑っていた。

子供たちは画家シモンの前で、父親の姿を順番に語った。

ガイアは「昔、俺が転んだ時に手を貸してくれた」

と言い、セーラは「熱を出した夜、眠らずに水を替えてくれた」と話した。

フィルは笑いながら「焦げたパンを、うまいと言って食べた」と付け加えた。

シモンは困惑した。

誰も剣を持った英雄の話をしない。

「では、どんな顔を描けばいいのでしょう」

「皺だらけで、眠そうで、時々困った顔かな」

ライアンが言うと、皆が笑った。

シモンは絵を描き直し始めた。

だが今度は、百人の思い出を一枚に詰め込もうとして、画面が散らかった。

子供たちはまた口を出した。

「それは俺の思い出だ」

「いや、私の方が大切」

ライアンはしばらく聞いてから、静かに言った。

「俺の顔を一つに決めなくてもいいんじゃないか」

シモンは筆を止めた。

広場の中央に置く大きな肖像画を、皆の記憶そのものにする必要はない。

ライアンは、食堂の椅子に座ってパンを切る姿を描いてほしいと頼んだ。

「それなら、俺が何をしてきたか分かるだろう」

画家は頷いた。

英雄の剣を消し、代わりに小さなパン切り包丁を描いた。

シモンは描き直す間、食堂へ何度も通った。

ライアンがパンを切る時、誰が先に手を伸ばすのか。

熱いスープを配る時、どの子が手伝うのか。

彼は英雄の伝記には載らない小さな動作を観察した。

「あなたは、いつも最後に食べるんですね」

シモンが言うと、ライアンは苦笑した。

「癖になってるだけだ」

セーラが横から口を挟んだ。

「その癖、直してって何度も言ってるの」

シモンは笑い、絵の中のライアンの前にもパンを一つ置いた。

描き直した絵を見たガイアは、「父さんの背中が少し丸い」と言った。

フィルは「今はこれくらいだよ」と答えた。

ライアンは二人の言い合いを聞きながら、年を取ることを隠さなくていいのだと思った。

若い頃の強さより、今日もここに座っていることを、子供たちは喜んでくれている。

シモンは最後に、絵の片隅へ空の椅子を一脚描いた。

まだ帰っていない誰かのための席だった。

シモンは画布の裏に制作日を記した。

何年か後に絵が古くなっても、描かれた日が分かるように。

ライアンはそれを見て、皺が増えたらまた描いてもらおうかと冗談を言った。

シモンは笑いながら、「その時もパンを切っていてください」と答えた。

除幕式のあと、子供が肖像画の前で立ち止まった。

「このおじいさん、強いの?」

ライアンは答えた。

「パンを切るのは得意だよ」

子供は笑い、食堂の方へ駆けていった。

シモンは絵を描く途中で、何度も筆を止めた。

パンを切るライアンの手は少し震えている。

若く勇ましい姿に直した方が喜ばれるだろうか。

ライアンはその迷いを見抜いた。

「震える手も描いてくれ」

シモンは驚いた。

「でも、弱く見えます」

ライアンは首を振った。

「昔の俺は子供たちを抱えて歩いた。

今はあの子たちに支えてもらってる。

それを隠す方が寂しい」

シモンは震えた線を消さずに残した。

絵の下書きには、百人の子供たちがそれぞれ小さな書き込みを残した。

「この皺が足りない」

「笑う時は右の目が細くなる」

「パンを切る手はもっとゆっくり」

シモンは困り果て、ライアンへ助けを求めた。

ライアンは書き込みを一つずつ読んだあと、「みんな、俺をよく見てくれてたんだな」と言った。

画家は初めて、似せるべきものが英雄の顔だけではないと分かった。

肖像画の完成前、シモンはライアンに座ってもらい、何時間も筆を動かした。

ライアンは途中で眠りかけた。

シモンは「少し休みましょう」

と言い、パンと水を出した。

ライアンはパンを半分に割り、画家へ渡した。

「お前も食べないと」

その何気ない動作を見た時、シモンは筆を止めた。

絵に足りなかったものは、立派な背景ではなかった。

完成した絵には、窓の向こうに小さな庭が描かれていた。

かつて子供たちが遊んだ庭だ。

ガイアは「こんなに狭かったっけ」

と笑い、セーラは「私にはもっと広く見えた」と答えた。

思い出の大きさは人によって違う。

だが、皆が帰ってくる食卓は一つだった。

絵の描き直しが始まった日、シモンはライアンに椅子へ座ってもらおうとした。

「じっとしていてください。顔の線が取れません」

だが厨房から鍋の音がすると、ライアンはすぐ立ち上がった。

「すまん、火を弱めてくる」

シモンはため息をつき、筆を置いた。

フィルが笑って言う。

「父さんの顔を描きたいなら、座らせちゃ駄目だよ」

そこでシモンは厨房の隅に画架を移した。

ライアンがパンを切り、子供の皿を直し、こぼれた水を拭くたび、手の形が変わる。

「肖像画なのに、顔より手を見ているな」

ライアンに言われ、シモンは赤くなった。

「この手がないと、あなたらしく見えないんです」

完成した絵には剣も王冠もなかった。

代わりに、湯気の立つ鍋の向こうから差し出された手があった。

シモンは肖像画の署名を入れる前に、もう一度ライアンの手を見た。

鍋の取っ手を握ってきた節くれだった指だ。

剣を掲げる手より、パンを分ける手を描きたかった。

絵の中のライアンは誰かを見下ろしていない。

食卓の向こうにいる人と、同じ高さで目を合わせていた。

絵を掛ける日、シモンは額縁の高さを何度も調整した。

子供にも見える位置にしたかったのだ。

ライアンは「俺の顔なんて、見上げなくてもいい」と笑った。

そこで少し低く掛け直すと、小さな子が立ち止まり、絵のパンを指さした。

「これ、食べられる?」

皆が笑い、フィルが台所から本物のパンを持ってきた。

シモンはその様子を見て、ようやく絵が完成した気がした。

描き直された肖像画は、以前よりずっと小さかった。

食堂の椅子に腰掛け、パンを切る老人が描かれている。

顔には皺があり、袖には粉がついていた。

「これなら、俺だな」

ライアンが言うと、シモンはほっとした。

だが広場に集まった人々の反応は分かれた。

「英雄らしくない」

「これがいい」

シモンは迷ったが、ライアンは笑った。

「全員が同じ顔を覚えているわけじゃないさ」

肖像画は王宮の大広間ではなく、食堂の壁へ掛けることになった。

ただし古い建物の傷みが見つかっていたため、改築が終わるまでは仮設の集会所で預かる。

シモンは「絵より先に、人が安心して座れる壁が必要ですね」

と言い、ライアンは深く頷いた。

広場の台座には、食堂を支えてきた人々の名前を記す案が出た。

名前を刻まれたくない人には、無理に求めない。

仮の披露の日、ライアンは絵の前でしばらく立ち止まった。

パンを切る手が少し大きく描かれている。

「俺の手は、こんなに立派じゃないぞ」

「そこは、少しだけ画家の自由です」

シモンが答え、皆が笑った。

ライアンは絵の横に、小さな札を掛けた。

『食べたい人は、遠慮せず声を掛けてください』。

披露の日、絵の前に集まった人の一人が、札を読んで食堂へ向かった。

シモンはその背を見送り、描き直した手の大きさをもう一度眺めた。

絵が似ているかどうかより、誰かが声を掛けやすくなったことが、少しだけ誇らしかった。

その人が食堂で温かいパンを受け取ったと聞き、シモンは札の文字をもう少し大きく書き直した。

絵だけでなく、案内も読めることが大切だった。

肖像画を見るために来た人が、空腹のまま帰らないように。

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