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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第百一話 百一脚の椅子を修理した少年

食堂で椅子の脚が折れた。

音がした瞬間、食堂にいた子供たちは一斉に立ち上がった。

椅子の下から飛び出した小さな木片を、テオは拾い上げた。

木目に沿って亀裂が走っている。

一本が折れたということは、同じ時期に作られたほかの椅子にも傷みがあるかもしれない。

「誰が悪いんだろう」

座っていた少年が震える声で聞いた。

ライアンは少年の膝に傷がないことを確かめてから答えた。

「悪い人を探す前に、危ない椅子を探そう。座っただけで壊れたなら、お前が謝ることじゃない」

少年はそれでも椅子を見つめていた。

昔、ものを壊すと食事を抜かれたことがあるのだという。

ライアンはテオに椅子を渡した。

「直すところを、この子にも見せてやってくれないか」

テオは頷き、木片を二つ並べて、割れた理由をゆっくり説明した。

座っていた子供に怪我はなかったが、主人はすぐに残りの椅子を使うのを止めた。

食堂には、かつて百人の孤児たちとライアンが使った百一脚の椅子がある。

隣には、後から加わった一脚も置かれていた。

今では寄付を受けた子供や働き手が使うため、毎日ほとんど休みなく動かしていた。

修理に呼ばれた若い職人テオは、椅子の裏を覗き込んだ。

「直せます。でも、全部を使い続けていいかは別です」

ライアンは頷いた。

「怪我をするくらいなら替えよう。昔の椅子だからって、子供に我慢させるわけにはいかない」

修理の途中、テオは古い椅子の裏から小さな傷を見つけた。

背もたれに隠れた場所に、子供の字で『ここにいていい』と刻まれていた。

「誰が書いたんでしょう」

ライアンにも分からなかった。

百人の子供たちのうち、文字を覚えたばかりの誰かかもしれない。

テオは傷を削り落とすために鉋を手に取ったが、途中で止めた。

「残した方がいいですか」

「使う子が怪我をしないならな。危ないなら削ってくれ」

テオは指で傷を確かめ、表面だけを丁寧に磨いた。

文字は薄くなったが、消えなかった。

「昔のことを守るのは、壊れたままにしておくことじゃないんですね」

ライアンはうなずいた。

「今の子が安心して座れるなら、それが一番だ」

テオは図面の余白に、その傷の位置を書き留めた。

次に修理する職人が、傷を欠陥と間違えて消さないためだった。

テオは驚いた。

親方からは、英雄の父が使った椅子を修理できるのは名誉だ、代金を取るなと言われていたからだ。

「仕事の値段は、ちゃんと書いてくれ」

「でも、父さんの椅子ですから」

「俺の椅子じゃない。ここで飯を食べる人の椅子だ」

テオは道具箱から紙を出した。

最初の百一脚を調べると、脚の付け根に亀裂のあるものが十二、座面が緩んだものが十九。

追加された一脚も別に点検した。

問題のない椅子も、釘が浮いていないか確かめる必要があった。

「十二脚は使わないでください。七脚は部材を替えれば直せます。残り五脚は、新しく作る方が安全です」

食堂の主人は渋い顔をした。

「全部直すつもりだったんだが」

「思い出を残したいのは分かります。でも、木の内部まで傷んでいます」

テオは切り出した木片を見せた。

外側は艶があっても、芯は湿気で黒くなっている。

ライアンは五脚を見つめた。

背もたれには、幼い子供たちが刻んだ背丈の線があった。

「線だけは残せないかな」

「背もたれなら、別の板に移せます。椅子としては使えなくても」

テオの提案で、五脚の背もたれは食堂の壁に並べることになった。


翌日、ガイアが見積書を見て眉を寄せた。

「高くないか」

テオの手が止まった。

「材料費と作業賃です。こちらに内訳を……」

「すまない。責めたんじゃない。俺は相場を知らないんだ」

ガイアは見積書を受け取り、材料の単価から教わった。

軍隊なら命令ひとつで百人を動かせる。

しかし職人の仕事を命令で安くしては、次の椅子を直す者がいなくなる。

修理が始まると、テオは食堂を使う子供たちにも尋ねた。

「椅子で困ることはある?」

小柄な女の子が足をぶらぶらさせた。

「床に届かない」

老人は、立つときに背もたれが掴みにくいと言った。

テオは背の低い椅子と、手を掛けやすい椅子を試作した。

どちらも見た目は地味だったが、使う人が笑顔になった。

「百一脚を同じ形にする必要はないんだな」

ライアンが言うと、テオは首を横に振った。

「同じ食堂にいる人でも、体は違いますから」


三日後、修理を終えた区画から食堂の利用を再開した。

使える椅子には点検日が記され、修理した部分は次の職人に分かるよう図面が残された。

テオは請求書を差し出す前に、ためらった。

「僕がこんな金額を受け取っても……」

「受け取ってくれ。次の仕事を続けるために」

ライアンが支払うと、テオは何度も金額を数えた。

その夕方、初めて食堂に来た少年が新しい椅子へ座った。

テオは椅子の脚を交換する前に、食堂の床を調べた。

古い床板にはわずかな段差があり、脚の長さを揃えただけでは椅子がぐらつく。

「木工だけの問題じゃないんだ」

大工の親方は頷いた。

「使う場所を見ずに直すと、また壊れる」

テオは床板の補修も提案した。

食堂を一日閉める必要があると分かると、ライアンは困った顔をした。

「その日の食事はどうする?」

「庭に仮の席を作ります。雨なら隣の集会所を借りられないか聞いてみる」

テオは自分で集会所の管理人を訪ねた。

初めて、修理のために他人へ頭を下げた。

後日、床板を補修する工事の日、子供たちは庭で昼食を取った。

古い椅子を運び出すと、座面の裏に小さな刻み傷が見つかった。

「これ、背の高さを比べた印だ」

ライアンは懐かしそうに指でなぞった。

「みんな、少しでも大きくなったと証明したがった」

テオはその傷を削らず、補修した椅子の裏に残すことにした。

新品同様にするだけが修理ではない。

使い続けた時間を守る方法もあるのだ。


翌朝、テオは修理した椅子に小さな札を結びつけた。

札には日付と、使った木材の種類が記されている。

「名前を書かないのか」とライアンが尋ねる。

「俺が直した椅子じゃなく、次に直す人が困らない椅子にしたいんだ」

その日の午後、背の低い少女が椅子を引き寄せたが、足が床に届かなかった。

テオは脚を切ろうとして手を止め、取り外せる足台を作った。

誰かに合わせるたび椅子を壊すのではなく、使う人が変わっても受け継げるように。

ライアンは足台に乗せた少女の靴が揺れなくなったのを見て、ようやく安心した。

「これ、誰の椅子?」

ライアンは壁の古い背もたれを見てから答えた。

「今は君の椅子だよ。食べ終わるまで、ゆっくり座っていなさい」

壁には、二十年前の背丈の線が残っていた。

食卓には、新しい子供の足がきちんと床に届いていた。

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