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思い出が部屋に意思を持たせた〜異世界へ行って別れの覚悟が出来るまでの話。  作者: ネコロビン


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第7話 勇者捕らわれる

東の森。


朝日が木々の隙間から差し込む中、王国軍と魔王軍は互いに向かい合っていた。


静寂。


誰一人として声を発しない。


風が木々を揺らし、葉が一枚、二枚と地面へ落ちる。


その静けさを破ったのは、近衛隊長の怒号だった。


『魔法障壁、展開ッ!!』


その瞬間、王国軍全体を淡い青白い光が包み込む。


何百人もの魔法使いが一斉に杖を掲げ、巨大な障壁を張り巡らせた。


対する魔王軍。


魔族たちも角へ魔力を集中させ、黒紫色の巨大な障壁を展開する。


二つの軍勢の間に、魔力がぶつかり合う低い唸り声が響く。


悠斗は息を呑んだ。


『すごい……。』


これほど大規模な魔法を見たことがない。


美咲は静かに杖を握り、前方だけを見据えていた。


『始まるよ。』


その一言と同時だった。


『撃てぇぇぇぇッ!!』


王国軍の魔法師団が一斉に杖を振る。


無数の氷の槍が空を埋め尽くした。


キィィィィン!!


鋭い音を立てながら魔王軍へ降り注ぐ。


『迎撃!!』


魔王軍も負けてはいない。


風魔法。


水魔法。


氷魔法。


巨大な氷壁が生まれ、暴風が槍を弾き、水流が軌道を逸らしていく。


ドドドドドドッ!!


森中へ氷が突き刺さる。


木々が凍り付き、枝が砕け散る。


『第二波!』


今度は魔王軍から無数の水弾が放たれる。


王国軍の障壁へ激突。


バァァァン!!


水しぶきが霧となって辺りを覆う。


風魔法が唸りを上げ、互いの攻撃を押し返し合う。


『火魔法は使うな!』


近衛隊長が叫ぶ。


『森が燃えれば敵味方共倒れだ!』


その命令は魔王軍にも共通していた。


火を放てば、この森そのものが巨大な火災となる。


だから両軍とも、あえて火魔法だけは封じていた。


戦場は氷と風と水だけで構成される。


それでも十分すぎるほど激しかった。


『うわっ!』


悠斗は飛んできた氷の破片を避ける。


障壁があるとはいえ、砕けた魔法は戦場中へ飛び散る。


まるで嵐だった。


『落ち着いて!』


美咲が叫ぶ。


『障壁の後ろなら大丈夫!』


悠斗はドライヤーを握り締めながら頷く。


まだ戦う場面ではない。


今は王国軍が押し返している。


しかし


『このままじゃ埒が明かない。』


美咲が小さく呟いた。


彼女は一歩前へ出る。


『勇者様!?』


近衛騎士たちが驚く。


『危険です!』


『大丈夫。』


美咲は静かに笑った。


『少しだけ前へ出る。』


勇者だけが持つ特別な魔力。


それは、普通の魔法とは決定的に違っていた。


美咲は杖を両手で握る。


『天を巡る雷よ。』


空が暗くなる。


雲が集まり始める。


魔法師団が息を呑んだ。


『勇者魔法……。』


魔王軍にも動揺が走る。


『勇者を止めろ!』


『間に合わん!』


次の瞬間。


バリバリバリィィィィッ!!


無数の雷が空から降り注いだ。


巨大な雷撃は王国軍の障壁をすり抜け、魔王軍の障壁さえ貫通する。


ドォォォォン!!


雷柱が森へ落ちる。


魔物たちが次々と吹き飛ばされる。


魔族たちも障壁ごと弾き飛ばされ、大地へ倒れ込んだ。


王国軍から歓声が上がる。


『勇者様だ!』


『やった!』


『さすが勇者!』


悠斗も思わず見惚れていた。


(すごい……。)


(これが勇者。)


その光景を見ていた魔王軍幹部は、静かに目を細めた。


『やはり厄介だ。』


低い声で呟く。


そして周囲の魔族へ命じた。


『影部隊。』


『勇者を捕えろ。』


『……はっ。』


いつの間にか、数人の魔族が姿を消していた。


まるで影そのもののように。


悠斗も王国軍も、その存在には気付かない。


幹部はさらに命じる。


『陽動を始めろ。』


魔族たちが一斉に杖を掲げる。


火球が放たれた。


王国軍の魔法師団がざわついた。


『待て!』


『何を考えている!』


『森が燃えるぞ!』


魔王軍は迷わない。


無数の火球が空へ放たれる。


ゴォォォォォッ!!


火球は王国軍前衛と、美咲の周囲へ次々と着弾した。


爆発。


炎。


煙。


木々が一瞬で炎に包まれる。


『馬鹿な!』


『敵も焼けるぞ!』


近衛隊長が叫ぶ。


『水魔法隊!』


『急げ!!』


王国軍は混乱した。


なぜ魔王軍は禁じ手とも言える火魔法を使ったのか。


その答えは、煙の中にあった。


誰にも見えない。


煙に紛れた影部隊が、美咲のすぐ背後へ現れる。


『……!』


美咲が振り向いた時には遅かった。


黒い布が口元を覆う。


首筋へ衝撃。


意識が急速に遠のいていく。


(しまっ……。)


最後に見えたのは、炎の向こうでこちらへ走ってくる悠斗の姿だった。


『悠斗……。』


その名を心の中で呼びながら、美咲の意識は闇へ沈んだ。


影部隊は一瞬で美咲を抱え上げる。


『任務完了。』


炎と煙に紛れ、その姿は森の奥へ消えていった。


『美咲ぃぃぃぃ!!』


悠斗は叫びながら前へ走る。


しかし炎が行く手を阻む。


何が起きているのか分からない。


ただ、美咲が危ない。


その思いだけだった。


『水魔法隊!』


『一斉放射!!』


ザァァァァァッ!!


巨大な水流が炎を飲み込んでいく。


ジュウウウウッ!!


大量の蒸気が立ち上り、やがて煙がゆっくりと晴れていく。


悠斗は真っ先に美咲がいた場所を見る。


『……え?』


誰もいない。


杖だけが地面に転がっていた。


近衛騎士の一人が青ざめた表情で叫ぶ。


『勇者様が……。』


『勇者様がいない!!』


その言葉は戦場全体へ広がり、王国軍に今まで以上の衝撃を与えるのだった。

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