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思い出が部屋に意思を持たせた〜異世界へ行って別れの覚悟が出来るまでの話。  作者: ネコロビン


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第6話 魔王軍進軍

王立魔道具研究所。


研究員たちは未だ興奮が冷めていなかった。


机の上には色とりどりの魔石が並び、その中央には悠斗のドライヤーが置かれている。


アルバート所長は何枚目か分からない研究資料へ夢中でペンを走らせていた。


『素晴らしい……。』


『実に素晴らしい。』


『こんな魔道具は見たことがありません。』


悠斗は苦笑いを浮かべる。


『そんなにですか?』


『そんなに、ですとも!』


老人は勢いよく立ち上がる。


『普通の魔道具は一つの属性しか扱えません。』


『炎なら炎。』


『風なら風。』


『雷なら雷。』


『それが常識です。』


『しかし君のドライヤーは違う。』


老人はドライヤーを指差した。


『魔石を交換するだけで属性が変わる。』


『これは革命です!』


研究員たちも何度も頷く。


『量産できれば歴史が変わる。』


『魔道具の常識が覆ります。』


『研究費が足りません!』


『まず予算申請ですね!』


研究所中が盛り上がっていた。


悠斗は少し照れくさそうにドライヤーを見つめる。


現代では何の変哲もない家電。


髪を乾かすだけの道具。


それが異世界では、誰も見たことのない魔道具として扱われている。


不思議な気分だった。


その時。


バンッ!!


研究所の扉が勢いよく開いた。


『アルバート所長!!』


若い兵士が息を切らして飛び込んでくる。


『どうした?』


『王宮より緊急伝令です!』


研究所の空気が一瞬で張り詰めた。


兵士は大きく息を吸う。


『魔王軍です!』


『魔王軍が東の森へ進軍しました!!』


研究員たちの顔色が変わる。


『何だと……。』


アルバートも笑顔を消した。


兵士はさらに続ける。


『斥候からの報告では……。』


『魔王軍幹部の姿も確認されています!』


その言葉だけで部屋は静まり返った。


幹部。


その存在は、普通の魔族とはまったく格が違う。


一人で街一つを壊滅させると言われる存在。


悠斗にも、その空気だけで重大さが伝わった。


『東の森……。』


思わず呟く。


あの場所。


部屋のドアが現れた森。


美咲と再会した森。


アイアンボアと戦った森。


兵士は頷く。


『現在、勇者様をはじめ近衛騎士団、王国魔法師団、魔道具部隊、各騎士団へ緊急招集がかかっています!』


『全軍出撃です!』


アルバートは迷わなかった。


『研究は中断!』


『全員、避難準備!』


『神崎君。』


老人は悠斗を見る。


『君も勇者様の所へ。』


悠斗はドライヤーを握る。


研究より大事なものがあった。


『はい。』


『行ってきます。』



王宮前広場。


そこには数え切れないほどの兵士が集まっていた。


銀色の鎧をまとった近衛騎士団。


巨大な盾を持つ重装兵。


杖を掲げる魔法師団。


剣と魔道具を同時に装備した魔道具兵。


弓兵。


槍兵。


王都中の戦力がここへ集まっていた。


悠斗は圧倒される。


『すごい……。』


そこへ一人の少女が歩いてくる。


純白のマント。


腰の剣。


手には杖。


勇者、美咲だった。


彼女が現れた瞬間、兵士たちが道を開ける。


『勇者様!』


『お願いします!』


『今回も勝利を!』


誰もが美咲へ期待を寄せていた。


美咲は力強く頷く。


『必ず。』


『みんなを守ります。』


悠斗はその姿を見つめる。


胸の奥が締め付けられる。


(まただ。)


(また、美咲は一番危険な場所へ行く。)


森での戦いが頭をよぎる。


肩から流れた血。


アイアンボアの針。


あと少し遅れていたら。


もし、ドライヤーが力を貸してくれなかったら。


もう一度失っていたかもしれない。


拳を握る。


(嫌だ。)


(もう二度と。)


(失いたくない。)


悠斗はドライヤーを強く握り締めた。


(今度は俺が守る。)


(絶対に。)


美咲が悠斗へ気付く。


『悠斗。』


『研究は?』


『中断。』


『俺も行く。』


『でも……。』


『俺も戦える。』


そう言ってドライヤーを見せる。


美咲は少しだけ笑った。


『うん。』


『頼りにしてる。』


その笑顔だけで悠斗は決意を新たにした。



『全軍!』


近衛隊長が剣を掲げる。


『出撃!!』


ドォォォォン!!


王都の門がゆっくりと開く。


何百頭もの馬が一斉に駆け出した。


兵士たちの鎧が朝日に輝く。


悠斗は美咲と並んで馬へ乗る。


東の森。


そこが戦場になる。



一方、その頃。


東の森。


木々の間を黒い影が埋め尽くしていた。


魔物。


牙を持つ狼。


巨大な熊。


角の生えた猿。


蛇。


鳥。


昆虫。


無数の魔物たち。


その後方には、人間によく似た姿の者たちが歩いていた。


額には黒い角。


紫色の瞳。


禍々しい魔力をまとっている。


魔族。


そして。


その中心を歩く、一人の男。


長い黒髪。


漆黒の鎧。


左右に伸びた二本の角。


静かな笑みを浮かべながら前だけを見て歩いている。


周囲の魔族たちは誰も声をかけない。


幹部。


その圧倒的な存在感だけで、誰も逆らえないことが分かる。


男はゆっくりと王都の方向を見た。


『勇者。』


小さく呟く。


『ようやく会えるな。』


その笑みには、余裕しかなかった。



その時だった。


ガサガサガサッ!!


森の奥から大量の動物たちが飛び出してくる。


鹿。


ウサギ。


リス。


鳥。


イノシシ。


魔物ですらない普通の動物たち。


いや、それだけではない。


弱い魔物までもが一斉に森から逃げ出していた。


まるで


森そのものが恐怖に震えているようだった。


それを見た美咲は馬を止める。


『……来る。』


近衛騎士団も剣を抜く。


魔法師団は杖を構える。


悠斗はドライヤーを握り締めた。


森の静寂が、嵐の前の静けさのように辺りを包み込む。


王国軍と魔王軍。


両軍が、ついに東の森で相対しようとしていた。


第4話へ続く。

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