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思い出が部屋に意思を持たせた〜異世界へ行って別れの覚悟が出来るまでの話。  作者: ネコロビン


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第5話 魔道具

馬は森を抜け、街道を軽快に駆けていく。


夕日に照らされた石畳の道を進むたび、悠斗は何度も周囲を見回した。


見たこともない景色。


広大な草原。


遠くに見える雪山。


空には二つの月が薄く浮かび始めていた。


『本当に……異世界なんだな。』


思わず呟く。


美咲は少し笑った。


『最初は私もそうだったよ。』


『毎日夢じゃないかって思ってた。』


『でも、四か月もいると慣れちゃう。』


『四か月か……。』


悠斗は少し寂しそうに笑う。


自分にとっては今日亡くなった幼なじみ。


でも美咲にとっては、もう四か月前の出来事なのだ。


その時間の差が少しだけ切なかった。


『見えてきたよ。』


美咲が前を指差す。


巨大な城壁。


その中央には、高さ二十メートルはありそうな門がそびえ立っていた。


『ここが王都。』


門の前には大勢の旅人や商人が列を作っている。


荷馬車が行き交い、兵士たちが手際よく検問をしていた。


美咲の姿に気付いた衛兵が、慌てて姿勢を正す。


『勇者様!』


門番二人が同時に敬礼した。


『お帰りなさいませ!』


『討伐、お疲れ様です!』


美咲は優しく笑いながら軽く手を振る。


『ただいま。』


『今日はお客様も一緒なの。』


『勇者様のお連れなら問題ありません。』


門はゆっくり開かれた。


悠斗はその様子を見て驚く。


『すごいな……。』


『みんな、美咲のこと知ってるんだ。』


美咲は少し照れくさそうに笑う。


『勇者だからね。』


『みんな期待してくれてる。』


王都へ入る。


そこには活気あふれる街並みが広がっていた。


石造りの建物。


色とりどりの屋台。


パンを焼く香ばしい匂い。


果物を売る商人。


鍛冶屋から聞こえる金槌の音。


噴水の周りでは子どもたちが楽しそうに遊んでいる。


『勇者様!』


『お帰りなさい!』


『今日もご無事で!』


街の人々が次々と美咲へ声をかける。


パン屋のおばさんが焼き立てのパンを差し出す。


『サービスですよ!』


果物屋の主人も笑う。


『勇者様のおかげで安心して商売できます!』


子どもたちは駆け寄ってくる。


『勇者様ー!』


『また魔物倒したの?』


美咲は一人ひとりに笑顔で応えていた。


その姿を見て悠斗は思う。


(……愛されてる。)


勇者だから尊敬されているだけじゃない。


ちゃんと街の人たちと向き合ってきたから、こんなにも慕われているんだ。


『少し食べて行こうか。』


美咲は近くの食堂へ入った。


木の温もりを感じる店内。


料理の香りが食欲を刺激する。


『おすすめ定食を二つ。』


しばらくして運ばれてきたのは、大きな肉料理と焼きたてのパン、それに野菜たっぷりのスープだった。


『いただきます。』


悠斗が一口食べる。


『……うまい!』


思わず声が出る。


『でしょ?』


美咲が嬉しそうに笑う。


『ここの料理、私もお気に入りなんだ。』


二人は久しぶりにゆっくり話をしながら食事を楽しんだ。


その時間だけは、異世界ということも忘れてしまうほど穏やかだった。



食後、美咲は悠斗を王城へ案内した。


巨大な城門。


赤い絨毯が敷かれた長い廊下。


豪華なシャンデリア。


そして玉座の間。


中央には壮年の王が座っていた。


『よく戻った、勇者よ。』


『はい、陛下。』


美咲は丁寧に頭を下げる。


『本日は紹介したい人物がおります。』


『こちら、神崎悠斗さんです。』


悠斗は慌てて頭を下げる。


『は、初めまして!』


『神崎悠斗です!』


緊張で声が裏返る。


玉座の間にいた大臣や騎士たちから小さな笑いが漏れた。


王は穏やかに微笑む。


『そう固くならずともよい。』


『勇者が連れて来た者なら歓迎しよう。』


美咲はドライヤーを取り出した。


『陛下。』


『この方は、不思議な魔道具を持っています。』


『魔道具?』


『はい。』


『この世界には存在しない形状ですが、風魔法を発動しました。』


玉座の間がざわつく。


王はすぐに命じた。


『魔道具研究所の責任者を呼べ。』


しばらくして、一人の老人がやって来た。


白衣をまとい、丸眼鏡をかけた老人だった。


『王立魔道具研究所所長、アルバートです。』


老人はドライヤーを受け取る。


『ほう……。』


何度も角度を変えながら眺める。


『見たことがない構造ですな。』


『これは何という魔道具でしょう?』


悠斗は答える。


『ドライヤーです。』


『……どらいやー?』


研究者たちは顔を見合わせる。


聞いたこともない名前だった。


アルバートはスイッチを押した。


ブォォォ……


温風が出る。


『……ただの風?』


『これだけですかな?』


『いや。』


悠斗はドライヤーを受け取る。


『たぶん……。』


目を閉じる。


助けたい。


守りたい。


あの時と同じ気持ちで……。


ブォォォォォン!!


緑色の風が研究室中を駆け抜けた。


『なっ!?』


『魔力反応!』


『風属性魔法!』


研究者たちが一斉に立ち上がる。


アルバートは目を見開いた。


『持ち主だけに反応する魔道具……。』


『いや、それだけではない。』


『この魔力回路……。』


『素晴らしい!』


老人は興奮した様子で悠斗へ近付く。


『ぜひ研究させてください!』


『この魔道具は歴史を書き換える可能性があります!』


悠斗は美咲を見る。


美咲は笑って頷いた。


『お願い。』


『きっと、この世界の役に立つ。』


悠斗も頷いた。


『分かりました。』


『よろしくお願いします。』


『ありがとうございます!』


アルバートは満面の笑みを浮かべた。



その日の午後。


美咲は騎士団との合同訓練へ。


悠斗は研究所へ案内された。


広い実験室。


棚には色とりどりの魔石が並んでいる。


アルバートは一つの赤い魔石を持ってきた。


『神崎君。』


『風魔法が使えるなら、一つ試してみたいことがあります。』


『何ですか?』


『魔石です。』


『魔道具は普通、一つの属性しか扱えません。』


『ですが、このドライヤーは違う可能性があります。』


赤い魔石を差し出す。


『炎の魔石です。』


『魔力を流してみてください。』


悠斗は魔石を握り、ドライヤーへ添える。


魔力を流す。


ブォォォォ……


風が吹く。


その風は少しずつ赤く染まり


ボォッ!!


炎をまとった。


『おおっ!』


炎の風が一直線に飛び出し、実験用の的へ命中する。


ドンッ!!


火球が弾け、的は黒く焦げた。


『成功だ!』


研究者たちが歓声を上げる。


『まさか!』


『属性が変わった!』


アルバートは震える声で言った。


『普通の魔道具ではあり得ません……。』


『魔石を交換してください!』


今度は青い魔石。


吹雪。


黄色い魔石。


雷をまとった風。


茶色の魔石。


砂嵐。


白い魔石。


光を帯びた浄化の風。


次々と属性が変わる。


研究所中が驚きと興奮に包まれていた。


アルバートは震える手で記録を書き続ける。


『神崎君……。』


『君のドライヤーは、我々の魔道具とはまったく別の理論で動いています。』


『これは、新しい時代の始まりかもしれません。』


悠斗は手の中のドライヤーを静かに見つめた。


(この力があれば……)


美咲を守れる。


その想いが、さっきまでより少しだけ強くなっていた。


第3話へ続く。

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