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思い出が部屋に意思を持たせた〜異世界へ行って別れの覚悟が出来るまでの話。  作者: ネコロビン


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20/21

第20話 魔王が知りたいモノ

『……う……』


悠斗は、ゆっくりと目を開いた。


最初に見えたのは、高い天井だった。


黒い石で造られた巨大な空間。


壁には青白い炎が灯り、窓から差し込む光は薄暗い。


『……ここ……』


身体を起こそうとして。


『痛っ……!』


腹に痛みが走った。


あの幹部に殴られた場所だ。


だが、動けないほどではない。


悠斗は床に手をつき、なんとか身体を起こした。


そして気づく。


正面。


長い階段の先。


巨大な玉座。


そこに一人の女が座っていた。


長い髪。


人間離れした美貌。


頭から伸びる角。


どこか妖艶で、それでいて近づき難い空気をまとっている。


女は頬杖をつきながら、悠斗を見ていた。


その口元が、ゆっくりと笑う。


「やっと話せるな、悠斗」


『……話?』


悠斗が眉をひそめる。


女魔王は楽しそうに目を細めた。


『そうじゃ』


『そのために、我まで出ての侵攻じゃからな』


『……………は?』


悠斗の思考が止まった。


『ちょっと待て』


『なんじゃ?』


『俺と話すために……あんな大軍連れてきたのか?』


『そなた一人ではない』


魔王が指を一本立てる。


『勇者美咲。そして、あの二振りの斧を扱う人間。あの三人を見ておきたかったのでな』


『だったら普通に呼べよ!』


魔王が一瞬きょとんとしてから笑った。


『ほう?』


『使者でも手紙でもいいだろ!』


『では、魔王たる我から『話がしたいゆえ、勇者と師団長と悠斗を連れて参れ』と文が届いたとして』


魔王は首を傾げる。


『そなたら、来たか?』


『……………』


悠斗は答えられなかった。


『来ぬであろう?』


『……まあ』


絶対に罠だと思う。


『それに、森では都合が悪い』


『森?』


『木々に隠れ、軍勢は散り、誰がどこにおるのか分かりにくいのでな』


魔王が笑う。


『ゆえに、見晴らしのよい平原まで出てもろうた』


『……やり方が大げさなんだよ』


『魔王ゆえな』


『理由になってねえよ』


『ふふふ』


魔王は楽しそうだった。


悠斗は頭を掻く。


本当にこの女が、魔王なのか。


大軍を率いて王国へ侵攻してきた張本人。


それなのに。


目の前で話していると、どうにも調子が狂う。


そこで悠斗は思い出した。


『……そうだ!』


『なんじゃ?』


『あいつ!』


『どいつじゃ』


『俺と戦った奴だよ!』


悠斗は自分の身体を見る。


『最後……俺、何されたんだ?』


魔王の目がわずかに細くなった。


『ああ』


『急に身体が動かなくなった。指どころか、瞬きすらできなかった』


『あれか』


魔王は何でもないことのように答えた。


『闘気じゃよ』


『闘気?』


『闘気というものは、普通は練るものでな』


魔王が片手を上げる。


『ゼロから十。十から二十。そのように徐々に高めてゆく』


『……師団長がやってたやつか』


『そうじゃ』


魔王が少し嬉しそうに笑った。


『先ほどの戦いも見事であったぞ』


『師団長!?』


悠斗が身を乗り出した。


『師団長はどうなった!?』


『勝った』


『……!』


悠斗の顔が明るくなる。


『マジか!』


『なかなか面白い勝ち方であった』


魔王は左手を見ながら言う。


『戦いの途中から左の斧をほとんど使わず、そこへ少しずつ闘気を溜め続けておった』


『溜めてた?』


『うむ。己より遥かに多い闘気を持つ相手に、総量で勝とうとはせなんだ』


魔王は人差し指を立てる。


『ただ一点』


『一点?』


『斧が触れる一点のみ、相手の闘気を上回ればよい』


悠斗は思わず笑った。


『……師団長らしいな』


『やりおるわ』


魔王も楽しそうに笑う。


『で、俺の相手は?』


『話が逸れたの』


『逸らしたのあんただろ!』


『ふふふ。そうであった』


魔王は続けた。


『あやつも闘気を扱う。されど少々特殊でな』


『特殊?』


『普通は練り上げると言うたであろう?』


『ああ』


『あやつは、それをせぬ』


魔王が指を鳴らす。


パチン。


『ゼロから百へ、一瞬じゃ』


『……は?』


『何の気配もない状態から、一瞬で膨大な闘気を放出する』


魔王は悠斗を見る。


『それを間近で受ければ、頭で考えるより先に身体が驚く』


『身体が……』


『危険じゃ、と肉体そのものが判断するのじゃ。ゆえに硬直する』


『それで動けなかったのか……』


『人間だけではないぞ』


魔王は笑った。


『魔物もじゃ』


そして少し間を置く。


『魔族でさえ、あれをまともに受ければ身体が止まる』


悠斗は絶句した。


『……反則だろ』


『そうかの?』


『そうだよ! 動けなくしてから捕まえるとか、どうしろってんだ!』


『避ければよい』


『どうやって!』


魔王が声を出して笑った。


『はははは! そなた、面白いのう!』


『笑い事じゃねえよ!』


だが。


悠斗はもう一つ気になった。


『……ていうか』


『なんじゃ?』


『あいつ、強すぎないか?』


『ほう?』


『俺が腕時計で加速しても普通についてきたし、ドライヤーの魔法もほとんど効かないし、雷撃食らっても立ってるし……』


魔王は少し考えてから。


『ああ』


何でもないことのように言った。


『あやつ、元は魔王候補じゃぞ』


『……………』


悠斗は固まった。


『……はい?』


『魔王候補じゃ』


『いや聞こえたよ!』


悠斗が思わず立ち上がった。


『そんな奴を俺にぶつけたのかよ!』


『されど、そなた生きておるではないか』


『そういう問題じゃねえ!』


魔王はまた笑う。


『我と魔王位を争える程度には強い』


『程度って言葉の使い方おかしいだろ!』


『本人にその気がなかったのでな』


『なんで?』


『面倒だそうじゃ』


『…………』


悠斗は黙った。


『軍を率いるのも面倒。魔族を治めるのも面倒。人間との戦を考えるのも面倒』


魔王はため息をついた。


『ゆえに候補から勝手に降りおった』


『なんなんだよ、あいつ……』


『されど』


魔王の表情が少しだけ変わった。


『我も久しく見ておらなんだ』


『何を?』


『あやつが、戦いを楽しむ姿をじゃ』


悠斗が魔王を見る。


『最初はそなたを試しておったのであろう』


『……やっぱり遊ばれてたのか』


『途中まではの』


魔王は口元を上げる。


『されど、己をあの奇妙な筒へ吸わせ、罠を仕掛けた辺りから随分楽しそうであったぞ』


『ハンディ掃除機な』


『はんでぃ……?』


『いや、いい』


『そなたは戦士でもないのであろう?』


『……まあな』


『勇者でもない』


『ああ』


『それでも、あやつを本気に近づけた』


魔王の目が悠斗を見つめる。


『やはり人間は面白い』


まただ。


悠斗は思った。


以前、魔王軍の幹部も言っていた。


今の魔王は人間に興味がある。


『……なあ』


『なんじゃ?』


『なんで、そんなに人間が気になるんだ?』


魔王の笑みが少し消えた。


静かになった。


先ほどまでの軽い空気が、ゆっくり変わっていく。


魔王が玉座から立ち上がった。


階段を一段。


また一段。


ゆっくり降りてくる。


『我にも分からぬからじゃ』


『分からない?』


『人の命は短い』


魔王は悠斗の前まで来ると、立ち止まった。


『我ら魔族に比べれば、あまりにも短い』


悠斗は黙って聞く。


『生まれ、育ち、老い、死ぬ』


魔王が自分の掌を見る。


『一人の人間が死ねば、その者の生はそこで終わる』


『……そうだな』


『ならば』


魔王が悠斗を見る。


『なぜ残る?』


『何が?』


『想いじゃ』


悠斗は答えなかった。


『死した者が抱いていた願い』


『怒り』


『悲しみ』


『愛』


『なぜ、それを別の人間が受け継ぐ?』


魔王は本当に分からないという顔をしていた。


『血の繋がりすらない者が、何百年も前の人間が抱いた願いのために命を懸けることすらある』


『……………』


『勇者もそうじゃ』


魔王が続ける。


『勇者は一人ではない』


『時代が変われば別の者が現れる』


『顔も違う』


『性格も違う』


『生まれた場所も違う』


『されど人を守ろうとする』


魔王は悠斗へ一歩近づいた。


『個は死ぬ』


『されど、人という総体が抱く何かは、まるで死なぬかのように次へ受け継がれてゆく』


『なぜじゃ?』


悠斗は答えられなかった。


『……難しいこと聞くなよ』


『我には千年考えても分からぬ』


『千年……』


悠斗は苦笑する。


『だったら俺に分かるわけないだろ』


『そうか?』


魔王が悠斗を見る。


『ならば、もっと簡単な問いにしよう』


『?』


『そなたは、なぜ勇者を助けた?』


悠斗の表情が止まった。


『そなたは勇者ではない』


『兵でもない』


『この世界の人間ですらない』


魔王は淡々と続ける。


『それなのに、一人で魔族領へ入り込んだ』


『死ぬ可能性もあった』


『なぜじゃ?』


『……………』


悠斗は少し考えた。


だが。


答えは最初から決まっていた。


『美咲だったからだよ』


魔王が瞬きをする。


『……それは理由になっておらぬ』


『俺にはなる』


『なぜ?』


『だから……』


悠斗は頭を掻く。


『美咲だからだって』


『分からぬ』


『俺だって上手く説明できねえよ』


悠斗は魔王を見る。


『助けなきゃって思ったんだ』


『なぜ?』


『大切だから』


『己の命より?』


『そんなの、あの時は考えてなかった』


魔王が黙った。


悠斗は続ける。


『美咲が捕まったって分かった』


『あいつを助けなきゃって思った』


『それだけだよ』


『……………』


長い沈黙。


魔王が小さく呟いた。


『それだけ……か』


『悪いか?』


『いや』


魔王は首を横に振る。


『だから分からぬのじゃ』


その顔には、笑みがなかった。


『理屈より先に、人は動く』


『己の命より他者を選ぶことすらある』


『されど、常にそうではない』


(裏切る者もおる』


『奪う者もおる』


『殺す者もおる』


魔王は目を細めた。


『だから面白い』


再び、わずかに笑った。


『我は人間というものを、まだ知らぬ』


悠斗は魔王を見つめる。


『……だから戦争してるのか?』


『それは少し違う』


魔王は窓の外へ目を向けた。


『戦は、我が生まれる遥か以前より続いておる』


『…………』


『我は魔王となった』


『ゆえに魔族を率いる』


『人間もまた、魔族を敵として戦う』


『長く続きすぎたものは、始めた理由など誰も知らぬまま続くことがある』


悠斗は何も言えなかった。


魔王はしばらく外を眺めていた。


やがて。


『ところで悠斗』


『ん?』


『そなたは、この世界の魔力がどこから来るか知っておるか?』


突然話が変わった。


『….…知らない』


『大地じゃ』


魔王が足元を指す。


『大地?』


『この世界の魔力は、すべて大地を巡っておる』


魔王がゆっくり歩き始める。


『人間も』


『魔族も』


『魔物も』


『己の中にある力と思うておるが』


床へ手を向ける。


淡い光が石の隙間から浮かび上がった。


『実際には、大地より借りておるにすぎぬ』


『借りてる……』


『使えば巡る』


『命が尽きれば、また大地へ還る』


悠斗はある場所を思い出した。


『……東の森』


魔王が笑った。


『気づいたか』


『あそこって、魔物が発生する場所なんだろ?』


『そうじゃ』


魔王が頷く。


『世界のどこかで魔物が死ぬ』


『その魔力は大地へ還る』


『大地を巡り――やがて東の森へ集まる』


悠斗の脳裏に、あの広大な森が浮かぶ。


『そして、また魔物として生まれる』


『….…輪廻みたいなものか』


『人間はそう呼ぶかもしれぬな』


魔王は静かに言った。


『我らは『還り』と呼んでおる』


悠斗は黙った。


死んで。


大地へ還って。


また生まれる。


『なら……』


悠斗は顔を上げる。


『俺がこの世界へ来たのも?』


魔王の目が細くなった。


『おそらくな』


『東の森には、この世界でも特に巨大な魔力の流れがある』


『異なる世界から来たそなたの部屋とやらが、それに触れたのであろう』


『部屋……』


『話には聞いておる』


魔王は少し面白そうに笑った。


『扉だけが現れ、そなたしか自由に出入りできぬ奇妙な部屋』


『……ああ』


『されど』


魔王の笑みが消えた。


『我にも分からぬ』


『何が?』


『なぜ、部屋が世界を越えようとした?』


悠斗は息を止めた。


『魔力は、力にすぎぬ』


魔王は言う。


『大地の魔力が、そなたの部屋をこちらへ運ぶ助けになった。それは考えられる』


『じゃが』


魔王が悠斗を見る。


『力だけでは、行き先を選べぬ』


『………….…』


『なぜ、そなたの部屋は勇者美咲のいる世界へ来た?』


悠斗の胸が小さく鳴った。


分からない。


でも。


あの部屋には。


美咲との思い出が、あまりにもたくさん残っていた。


『……まさか』


悠斗が呟く。


魔王は答えない。


魔王にも答えは分からない。


ただ。


『まあよい』


魔王が背を向ける。


『我にも分からぬことは多い』


数歩進んで。


止まった。


『じゃが、一つだけ分かることがある』


『?』


魔王が振り返る。


『悠斗』


その声が。


なぜか。


今までより静かに聞こえた。


『そなたは、この世界の者ではない』


『……ああ』


『この大地より生まれた者でもない』


悠斗の胸に、嫌な予感が生まれる。


魔王は続けた。


『東の森の魔力に触れ』


『部屋とやらの力によって、ここへ来た』


『何が言いたいんだよ』


魔王は、悠斗を真っ直ぐ見た。


そして。


静かに告げた。


『この世界のものは、いずれこの世界へ還る』


一拍。


『ならば』


悠斗の心臓が強く鳴った。


『異なる世界より来たそなたにも』


魔王が目を細める。


『還る時が来る』


『…………』


悠斗は何も言えなかった。


頭の中に。


あの扉が浮かんだ。


そして。


扉の前で。


美咲が入れなかった光景が浮かんだ。


二度。


美咲は、あの部屋へ入れなかった。


やっぱりな……


少し期待してたんだけどな……


あの時。


美咲は。


『……まさか』


悠斗の声が震える。


魔王は何も言わない。


悠斗が顔を上げた。


『美咲は?』


『ん?』


『俺が還るなら……美咲も一緒に還れるのか?』


魔王は。


不思議そうに悠斗を見た。


『何を申しておる?』


『え?』


『あの娘は』


魔王の声が静かに響いた。


『すでに一度、還った者であろう?』


悠斗の目が大きく開いた。


『…………』


現代で。


美咲は死んだ。


あまりにも突然に。


別れの言葉すら交わせず。


そして。


この世界で。


もう一度、生きている。


『美咲は……』


悠斗が呟く。


『もう……こっちの世界の人間……?』


魔王は答えなかった。


その必要もなかった。


悠斗はようやく理解した。


あの時。


扉の前で美咲が見せた寂しそうな顔。


少し期待してたんだけどな……


『……あいつ』


悠斗は俯いた。


拳を握る。


『あの時から……分かってたのかよ……』


魔王は、そんな悠斗を静かに見つめていた。


その時だった。


玉座の間に。


眩い光が走った。


魔王が振り返る。


『ほう』


魔法陣。


その中央へ、一人の少女が現れた。


焦げた鎧。


傷ついた身体。


乱れた髪。


それでも。


右手には剣が握られている。


『悠斗!!』


『美咲!』


美咲は悠斗を見つける。


無事。


それを確認した瞬間だけ、安堵した。


だが。


すぐに魔王を見る。


剣を構える。


『悠斗から離れて』


魔王は動かない。


『美咲、待て!』


悠斗が叫んだ。


『え?』


『大丈夫だ』


『何が大丈夫なのよ! 魔王よ!?』


『……話をしてただけだ』


『話?』


美咲が魔王を見る。


魔王は楽しそうに笑った。


『そうじゃ』


『我は』


少し間を置く。


『まだまだ、人間というものを知らぬのでな』


美咲は剣を下ろさない。


魔王が美咲を見つめる。


『ちょうどよい』


『何よ』


『勇者よ。一つ教えてくれぬか?』


『……何?』


『一度死したそなたと』


魔王が美咲を指す。


『今、ここに立つそなた』


『それは同じ者なのか?』


美咲の表情が止まった。


『…………』


悠斗も美咲を見る。


長い沈黙。


やがて美咲が、剣を少しだけ下ろした。


『知らない』


魔王の眉がわずかに動く。


『知らぬ?』


『そんな難しいこと、わたしに聞かれても分からない』


美咲は悠斗を見る。


『でも』


少し笑った。


『わたしは美咲よ』


『悠斗と遊んだことも』


『ゲームでボコボコにしたことも』


『喧嘩したことも』


『一緒に笑ったことも』


『全部覚えてる』


悠斗が苦笑する。


『ゲームは余計だろ』


『大事でしょ』


そして美咲は魔王へ向き直った。


『だから、わたしはわたし』


『それじゃダメなの?』


『…………』


今度は。


魔王が黙る番だった。


しばらく美咲を見る。


そして悠斗を見る。


やがて。


『……分からぬ』


美咲が眉をひそめる。


『え?』


『やはり、まだ分からぬ』


魔王は小さく笑った。


『我もまだまだ勉強が足りぬようじゃな』


悠斗と美咲は顔を見合わせた。


魔王は二人に背を向ける。


『知らぬものを、知らぬまま滅ぼしてしまっては』


歩きながら言う。


『我の疑問は、永遠に解けぬ』


玉座の前で振り返った。


『今回の戦は、ここまでじゃ』


美咲が目を見開く。


『……それだけ?』


『不満か?』


『いや……そうじゃないけど』


『安心するでないぞ、勇者』


魔王が妖艶に笑う。


『我は人間を理解したわけではない』


『まだまだ我にも、分からぬことだらけじゃ』


そして。


悠斗を見る。


『特にそなたはな』


『俺?』


『異なる世界より来て、勇者でも戦士でもないくせに、元魔王候補を相手にあれほど足掻いた』


『負けたけどな』


『負けたから何じゃ?』


悠斗が黙る。


『勝敗だけで人が分かるなら、我もこれほど悩んではおらぬ』


魔王は笑った。


『もっと見ておきたいものよ』


悠斗はその言葉を聞きながら。


先ほど告げられた言葉を思い出していた。


――そなたにも、還る時が来る。


隣には美咲がいる。


今は。


まだ。


ここにいる。


だが悠斗は、初めてはっきりと理解していた。


この時間が。


永遠には続かないことを。


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