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思い出が部屋に意思を持たせた〜異世界へ行って別れの覚悟が出来るまでの話。  作者: ネコロビン


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2/21

第2話 森で再開した君

……開かない。


『…え?』


もう一度。


ガチャ、ガチャ。


『なんでだよ?』


さっきまで普通に開いていたはずのドアがまるで鍵がかかったようにびくともしない。


思い切りチカラを込める。


両手で引く。


肩をぶつける。


それでも開かない。


『嘘だろ?』


嫌な汗が背中を流れる。


ここがどこなのかもわからない。


家にも帰れない。


スマホを取り出す。


『圏外…』


画面には無常にも通信圏外の文字。


GPSも現在地を表示しない。


『夢じゃないのか……?』


悠斗はドアにもたれかかる。


すると、不思議なことにドアの向こうからうっすら自分の部屋の景色は見えていた。


机。


ベッド。


本棚。


写真立て。


ほんの数歩先なのにどうしても帰れない。


『なんなんだよこのドア……?』


その時だった。


サァァ……


森の奥から風が吹いた。


優しく、どこか懐かしい風。


まるで


『こっち。』


と、そう呼ばれた気がした。


『……』


悠斗は森の奥を見つめる。


戻れないなら進むしかない。


『行くしかないか?』


小さく息を吐き、1歩踏み出した。


森は静かだった。


木漏れ日が揺れ、小鳥の鳴き声が聞こえる。


見たこともない花が咲き、不思議な色の蝶が飛んでいる。


ゲームでしか見た事のない景色。


まるで異世界。


いや、もうそう考えるしかなかった。


歩き続けて10分ほどして。


突然、茂みが揺れた。


ガサッ。


『……!』


悠斗は足を止める。


何かいる。


もう一度。


ガサッガサッ。


ゆっくりと姿を現したのは、1匹の生き物だった。


犬ほどの大きさ。


灰色の毛。


鋭い牙。


真っ赤な目。


『オオカミ?』


いや、違う。


額には黒い角が1本。


背中には黒い棘。


どう見ても地球の生き物ではない。


『な、なんだよ?』


魔物。


その言葉が頭をよぎる。


魔物は低く唸りながら、じりじりと距離を詰めて来る。


『来るな……』


後ずさる。


魔物も前へ。


さらに後ずさる。


そして


ゴンッ。


木の根につまずいた。


『うわっ』


尻もちをつく。


立ちあがろうするが、足がもつれる。


魔物が飛びかかって来た。


『っ…』


死ぬ。


そう思った。


その瞬間。


ビューーーン!!


激しい風が森を駆け抜けた。


『ギャァァァァ』


魔物の体が吹き飛ぶ。


木へ叩きつけられ、そのまま動かなくなった。


『……え?』


悠斗は唖然とする。


何が起きた?


風?


誰かが助けてくれた?


『大丈夫ですか?』


透き通るような声。


悠斗はゆっくり振り返る。


木漏れ日の中に、1人の少女が立っていた。


白銀に近い長い髪。


旅装束。


腰には細身の剣。


手には見たことがない杖。


そして何より。


その顔。


『……』


悠斗の時間が止まる。


少女も同じように固まっていた。


目を見開き、信じられないようなものを見るような表情。


やがて、震える声で名前を呼ぶ。


『………悠斗?』


その一言で、悠斗と心臓が大きく跳ねた。


聞き間違えるはずがない。


毎日聞いていた声。


『…………美咲。』


少女の瞳から大粒の涙があふれた。


『本当に悠斗なの?』


悠斗は立ち上がることも忘れて、少女を見つめる。


顔も。


声も。


泣き方も。


全部同じだった。


違うのは髪の色と服だけ。


『美咲………なのか?』


少女は涙を拭いながら、小さく笑った。


『うん。』


『私だよ。』


その瞬間。


悠斗は駆け出していた。


気がつけば少女を強く抱きしめていた。


『生きてたのか……』


『よかった……』


『本当によかった……』


声にならない。


涙が止まらない。


美咲も悠斗の服をギュッと掴む。


『ごめんね…』


『ごめん…』


『私も、もう会えないと思ってた。』


しばらく2人は泣き続けた。


森には風の音だけ流れていた。


やがて落ち着いた頃。


悠斗は震える声で尋ねる。


『……どういう事なんだ?』


『お前死んだはずじゃ……?』


美咲は静かに頷く。


『うん。』


『私はあの日死んだ。』


『でも、目を覚ましたらこの世界だった。』


悠斗は言葉を失う。


『ここは……?』


『異世界』


『私は勇者として転生したの。』


勇者。


その単語だけが現実離れしていた。


しかし、この景色を見れば否定など出来ない。


『転生してもう4ヶ月くらいかな』


『え?』


悠斗は思わず聞き返した。


『4ヶ月?』


『でも葬儀は今日だったぞ?』


美咲は少し困ったように笑う。


『世界によって流れる時間が違うみたい。』


『私が来たからもう4ヶ月経つ。』


『剣も魔法もその間に覚えたの。』


悠斗は信じられない思いで彼女を見つめる。


さっきの風。


あれは美咲の魔法だったのか。


『悠斗。』


美咲が真剣な表情になる。


『どうやってこの世界に来たの?』


『俺もわからない。』


悠斗は森の奥を振り返る。


『あのドアを開けたらここにいた。』


『ドア?』


『部屋のドア』


『今も森の中に立ってる。』


その言葉を聞いた瞬間、美咲の表情が変わった。


驚き。


そして、どこか懐かしむような優しい笑顔。


『……なるほど。』


『え?』


『きっとあの部屋が悠斗をここに連れて来てくれたんだね』


『私たちがずっと一緒に居た部屋だから。』


悠斗は息をのんだ。


部屋が自分をここへ……?


その時。


森のさらに奥から、不気味な咆哮が響いた。


ゴオオオオオォォォ!!


木々が大きく揺れる。


鳥たちが一斉に飛び立った。


美咲の表情が一瞬で戦士のものへと変わる。


『………まずい。』


『この声は……。』


彼女は杖を握りしめ悠斗の前に立った。


『悠斗。』


『再開を喜ぶのは、もう少しあと。』


『この世界は……思ってるよりずっと危険だから』


森の奥、闇の中で巨大な何かがゆっくりと目を開いた。


2話へ続く。































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