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思い出が部屋に意思を持たせた〜異世界へ行って別れの覚悟が出来るまでの話。  作者: ネコロビン


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17/21

第17話 ゲームの時間

魔道具研究所の一角。


持ち込んだ品々の解析もひと段落し、研究員たちがそれぞれ記録をまとめ始めた頃だった。


悠斗は床に置かれたゲーム機を見下ろした。


ハンディカメラは、記録した数秒間を現実ごと巻き戻す。


ハンディ掃除機は、物どころか人間まで収納できる。


パソコンは、戦場を予測する戦略シミュレーター。


電気コードですら、自在に動き、鍵開けや罠の解除、敵の拘束までできる。


それなのに。


ゲーム機だけは


『使用者をキャラクターとして反映し、対戦型ゲームを楽しむことができます』


遊ぶだけだった。


悠斗はしばらくゲーム機を眺めていたが、やがて隣にいる美咲を見る。


「美咲」


「ん?」


「ゲームやろうぜ」


一瞬。


美咲が目を丸くした。


そして、すぐに懐かしそうな笑顔になった。


「いいのかな〜?」


「何がだよ」


「対戦成績、私の圧勝だったのに」


「バカヤロー。格闘ゲームだけじゃねーか」


「レースゲームも私の方が勝ってたような」


「……他はイーブンだったはずだ」


「パズルも」


「イーブンだ!」


「まだ何も言ってないよ」


「顔で分かる!」


美咲が声を上げて笑った。


その笑い声を聞いて、悠斗も笑う。


こんな会話をしたのは、いつ以来だろう。


いや――。


考えるまでもなかった。


美咲が死んでから、一度もない。


悠斗が一瞬黙ったことに、美咲も気づいたらしい。


だが、何も言わなかった。


代わりにゲーム機を指さす。


「でも悠斗。テレビないけど、どうやるの?」


「あ」


二人が同時にゲーム機を見る。


「……そうなんだよなぁ」


悠斗は頭を掻いた。


部屋からゲーム機は持ってきた。


コントローラーもある。


だがテレビは持ってきていない。


「とりあえず始めてみよう」


「映らなかったら?」


「その時考える」


悠斗がゲーム機に魔力を流した。


次の瞬間だった。


ブゥン――。


「うわっ!」


二人の目の前に光が広がった。


何もなかった空中へ、巨大な半透明の板のようなものが出現する。


魔道具研究所の研究員たちも一斉に振り向いた。


「なんだ!?」


「新しい魔法陣か!?」


「違います! たぶん画面です!」


悠斗自身も驚いていた。


「おお……デカい画面だなぁ」


「テレビいらないじゃん」


「俺も今そう思った」


画面の中には、二人の姿を模した人物が立っていた。


悠斗。


そして美咲。


その上には、体力を示しているらしい横長の表示。


さらに二人の名前や能力まで並んでいる。


「なんかステータスウィンドウみたいだな」


美咲は自分のキャラクターを見て目を輝かせた。


「ちゃんと剣持ってる!」


「俺は……ドライヤー持ってるんだけど」


「悠斗らしくていいじゃん」


「格闘ゲームでドライヤー持ってる奴、初めて見たよ!」


研究員たちがぞろぞろ集まってくる。


だが悠斗は気にせず、コントローラーを握った。


「まず、どのボタンで技が出るのか練習だな」


「そうだね」


十字キーを動かす。


画面の悠斗が歩いた。


ボタンを押す。


パンチ。


別のボタン。


キック。


さらに別のボタンを押すと、ドライヤーから風が噴き出した。


「おお!」


美咲も操作を始める。


剣。


雷撃。


回避。


跳躍。


二人はしばらく夢中になって操作を確認した。


やがて悠斗が自信満々に言った。


「よし。俺はもう大丈夫だぞ」


「私も」


「じゃあ――対戦開始!」


数分後。


『K.O.!』


悠斗のキャラクターが倒れていた。


「…………」


美咲が笑顔でコントローラーを置く。


「私の勝ち」


「もう一度」


再戦。


『K.O.!』


「もう一度!」


再戦。


『K.O.!』


「…………」


「悠斗?」


「おかしい」


「何が?」


「昔より強くなってない?」


「そりゃ勇者だからね」


「ゲームに勇者関係あるのかよ!」


研究員たちから笑い声が上がった。


悠斗は悔しそうにコントローラーを握る。


そんな二人を、少し離れた場所から興味深そうに眺めている人物がいた。


近衛師団長だった。


「神崎君」


「はい?」


「私にも、それをやらせてもらえないだろうか」


「師団長が?」


「うむ」


妙に真剣な顔だった。


悠斗はコントローラーを差し出す。


「いいですよ〜」


「かたじけない」


美咲が場所を譲った。


師団長が悠斗の隣へ座る。


ゲーム機が新しい参加者を認識した。


画面が切り替わる。


師団長を模した人物が現れた。


腰には二本の斧。


そして――ステータスが表示される。


「…………え?」


悠斗が画面へ顔を近づけた。


筋力S


耐久力S


速度S


闘気S


並んでいる数値が、明らかにおかしい。


「何、この異常に高いステータス?」


美咲は当然のように答えた。


「だって師団長、強いからね〜」


「いや、強いってレベルかこれ?」


悠斗は師団長を見る。


師団長は自分のステータスを見ても、特に驚いていない。


――まあいい。


所詮ゲームだ。


それに師団長は、今初めてコントローラーというものに触った。


いくら本人が強くても、操作できなければ意味がない。


――これは勝てる。


悠斗は心の中でニヤリと笑った。


「まず練習してください。初めて触るものですから」


「そうしてもらえると助かる」


「これが十字キーです。こっちへ押すとキャラクターが動きます」


「なるほど」


「それで、このボタンが攻撃」


「ふむ」


「こっちは回避です」


「なるほど……」


師団長は真剣だった。


何度もキャラクターを動かす。


攻撃。


回避。


跳躍。


二本の斧を使った連続攻撃。


最初こそぎこちなかったものの、見る見るうちに操作が滑らかになっていく。


「……師団長、覚えるの早くない?」


「そうか?」


嫌な予感がした。


だが悠斗は振り払った。


「まあ……そろそろやりますか」


「よろしく頼む」


対戦開始。


――数分後。


『K.O.!』


「…………」


悠斗は画面を見つめていた。


美咲が吹き出した。


「ふふっ」


「ちょっと待ってください」


「どうした?」


「その速さ、なんですか?」


師団長のキャラクターは、斧使いとは思えない速度で画面を駆け回っていた。


踏み込んだと思った瞬間には懐へ入り、二本の斧で連撃。


悠斗が距離を取ろうとすると、一瞬で追いついてくる。


「もう一度お願いします」


「いいだろう」


再戦。


今度こそ悠斗も本気だった。


腕時計を模した加速能力を使う。


高速移動。


背後へ回る。


――が。


師団長も消えた。


「え?」


次の瞬間。


画面の悠斗が吹き飛んだ。


『K.O.!』


「反則だろ、この強さ!」


悠斗が叫んだ。


美咲は腹を抱えて笑っている。


「だから言ったじゃん。師団長強いって」


「なんで斧二本持って、俺の加速について来られるんだよ!」


「師団長は闘気の使い方がすごく上手いの」


「闘気?」


美咲が師団長を指さす。


「踏み込む瞬間は脚に闘気を流す。斧を振る時は腕。斬る瞬間は斧の刃。攻撃を受ける時は鎧」


悠斗が師団長を見る。


「そんなことやってるんですか?」


「うむ」


「戦いながら?」


「当然だろう」


美咲が苦笑した。


「普通はそんな簡単にできないからね。師団長は切り替えが異常に速いの」


「異常とは心外だな」


「褒めてます」


その時、美咲が研究所の隅に置かれた大きな岩に気づいた。


「所長。あそこにある岩って使って大丈夫ですか?」


魔道具研究所所長が振り返った。


「ああ、構わんよ。どうせ魔石を取り出すために粉々にする予定だからな」


「じゃあ師団長」


美咲が笑う。


「見せてあげてください」


「……必要か?」


「悠斗、絶対信じてないですから」


「何を?」


美咲が悠斗を見る。


「師団長、本気で斬れば岩も切れるよ」


「…………は?」


師団長が立ち上がった。


腰から片方の斧を抜く。


ごく普通の大きさの斧。


少なくとも悠斗にはそう見える。


師団長が岩の正面へ立った。


静かに息を吐く。


そして――。


師団長の身体から、淡い光のようなものが立ち上った。


「これが……闘気?」


光が腕へ流れる。


さらに斧へ。


刃の周囲がわずかに揺らいだ。


師団長が踏み込む。


スッ――。


あまりにも軽い音だった。


斧が岩を通り抜ける。


もう一度。


スッ。


さらに一閃。


悠斗には何が起きたのか分からなかった。


師団長が斧を収める。


数秒後。


ズズ……。


「え?」


岩がずれた。


一つ。


二つ。


三つ。


綺麗な断面を残して、岩がいくつもの塊へ分かれていく。


悠斗は口を開けたまま固まった。


「……岩って、切れるんですね」


「鍛錬を積めば誰にでもできることだ」


美咲が即座に言った。


「できないから」


「そうなのか?」


「師団長の普通を普通だと思わないでください」


研究員たちが笑った。


悠斗もつられて笑う。


その日を境に――。


なぜか王宮で、ゲームが流行った。


研究員。


兵士。


魔法使い。


執事。


そして近衛兵まで。


仕事が終わると魔道具研究所へ顔を出し、


「次は私だ」


「いや、私が先に待っていた!」


「勇者様と対戦させてください!」


と騒ぐようになった。


師団長まで時折参加した。


そして相変わらず強かった。


美咲と悠斗も何度も対戦した。


勝って。


負けて。


笑った。


新しい魔道具の使い方も研究した。


パソコンを使って戦場を想定し、師団長たちと戦略を練った。


ドライヤーの新しい使い方を試した。


スマホの解析能力についても調べた。


そんな日々が続いた。


美咲にとっても。


悠斗にとっても。


まるで、失われたはずの日常が少しだけ戻ってきたような時間だった。


――こうして悠斗たちは、新しい魔道具を試し、戦略を考え、時にはゲームで笑いながら過ごした。


時間は、静かに流れていった。


王都を吹き抜ける風は、いつしか冷たさを増していた。


街を歩く人々は厚手の外套を羽織るようになり、朝には白い息が見える。


木々の葉も落ち始めていた。


季節は、確かに進んでいた。


そして――。


その穏やかな時間がいつまでも続くことはなかった。

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