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思い出が部屋に意思を持たせた〜異世界へ行って別れの覚悟が出来るまでの話。  作者: ネコロビン


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第14話 魔物の森

『では、まず捜索隊を編成しよう』


師団長の一言で、話は決まった。


悠斗の部屋へと繋がる、不思議なドア。


それが現れるのは東の森。


だが、ドアがいつ現れるのか。


なぜ現れるのか。


悠斗自身にも分からない。


それでも探してみなければ何も始まらない。


師団長は隣に立つ美咲へ顔を向けた。


『勇者様』


『はい』


『申し訳ありませんが、今回の捜索にも同行をお願いできますか?』


美咲は迷うことなく頷いた。


『もちろんです』


『ありがとうございます』


師団長は深く頭を下げる。


『勇者様がいれば、万が一強力な魔物と遭遇した場合にも対応できます』


『魔物……』


悠斗が小さく呟く。


考えてみれば、最初に異世界へ来た時から魔物には遭遇している。


巨大なイノシシのような魔物。


あれも東の森にいた。


師団長は悠斗の表情に気付いたらしい。


『東の森は、我々の間では別の名で呼ばれている』


『別の名?』


『魔物の森だ』


悠斗は少し身構える。


『そのまんまだな……』


美咲が小さく笑った。


『私も最初に聞いた時、そう思った』


『この世界でもネーミングってそんな感じなんだな』


『分かりやすいでしょ?』


『まあ……分かりやすいけど』


そこで悠斗は、以前から少し気になっていたことを思い出した。


『師団長』


『何だ?』


『質問していいですか?』


『もちろんだ』


『魔族と魔物って違うんですか?』


師団長は一瞬きょとんとした。


だが、すぐに納得したように頷く。


『そうか。君はこちらの世界へ来たばかりだったな』


師団長は近くにあった椅子へ腰掛ける。


『大きく違う』


そして一本の指を立てた。


『魔族とは、我々人間に近い姿をした種族だ』


悠斗は先日の戦場を思い出す。


確かに魔王軍には、人間そっくりの姿をした者たちがいた。


違うところといえば。


『角があった』


『そうだ。個人差はあるが、多くの魔族には角がある。そして魔族社会の頂点に立つのが魔王だ』


『なるほど』


『対して魔物は、人間よりも動物に近い姿をしている』


巨大なイノシシ。


狼。


鳥。


蛇。


悠斗にも思い当たる。


『そして魔物の頂点にいるとされているのが、ドラゴンだ』


『ドラゴン……!』


その単語には、さすがの悠斗も反応した。


『いるんだ……』


『いる』


『本当に?』


『本当にいる』


師団長が真顔で答える。


美咲が横から付け加える。


『私もまだ遠くからしか見たことないけどね』


『見たことあるの!?』


『あるよ』


『……異世界だなあ』


今さらながら実感する。


魔法。


魔族。


魔物。


そしてドラゴン。


自分は本当に異世界へ来ているのだ。


『ただし』


師団長が話を続ける。


『魔物すべてが人間の敵というわけではない』


『え?』


これは少し意外だった。


『魔物は時として、人間と暮らしを共にすることもある』


『飼えるってことですか?』


『近いな』


師団長は頷く。


『例えば冒険者の中には、鳥型の魔物を移動手段として使っている者もいる』


『鳥?』


『人間を背中へ乗せられるほど巨大な鳥だ』


悠斗の頭の中に、大きな鳥へ跨がって空を飛ぶ冒険者の姿が浮かぶ。


『それ、馬より便利じゃないですか?』


『飛べるからな』


『欲しい』


即答だった。


美咲が笑う。


『そんな簡単じゃないよ』


『そうなの?』


師団長も苦笑する。


『飼い慣らすには相当な技術が必要だ。魔物を専門に扱う冒険者でも、懐かせるまで何年もかかる場合がある』


『そんなに……』


『下手に近付けば食われる』


『やっぱりいらないです』


『諦めるの早いね』


美咲が笑った。


少し和やかな空気になる。


だが師団長は、すぐに真剣な表情へ戻った。


『そして、東の森が魔物の森と呼ばれる最大の理由がある』


悠斗も表情を戻す。


『魔物が多いから?』


『それだけではない』


師団長は部屋に置かれていた大陸地図を広げた。


悠斗と美咲も近付く。


そこには一つの巨大な大陸が描かれていた。


『これが我々の暮らしている大陸だ』


『でか……』


大陸の周囲はすべて海。


小さな島はいくつか描かれているものの、その外側にはただ広大な海が続いている。


『現在確認されている大きな陸地は、ここだけだ』


師団長が大陸の東端を指差した。


『そして、ここが魔族領』


その少し西側。


広大な緑色の領域。


『その手前にあるのが東の森、魔物の森だ』


悠斗は地図を見る。


『めちゃくちゃ広いですね』


『そうだ』


王国と魔族領を隔てるように、巨大な森林地帯が広がっている。


そしてその西端。


森から最も近い場所に、一つの王国が描かれていた。


『……ここが?』


『我が国だ』


『なるほど』


悠斗はようやく理解した。


だからこの国は魔王軍と頻繁に衝突する。


魔族領と人間領の間に存在する巨大な森。


そして、その森に最も近い人間の国。


地理的に最前線なのだ。


『しかし東の森には、もう一つ大きな謎がある』


『謎?』


師団長は頷く。


『魔物の発生源だと考えられている』


悠斗は眉をひそめる。


『発生源?』


『古い文献に奇妙な記録が残っている』


師団長は地図の大陸中央を指差した。


『例えば、ここで魔物が討伐されたとする』


そして指を東へ滑らせる。


東の森。


『しばらくすると、この森のどこかで新たな魔物が発生する』


『……生まれるってことですか?』


『分からん』


師団長は首を横に振る。


『卵から生まれる魔物もいる。親から子が生まれる魔物もいる。当然、普通に繁殖する種も多い』


『だが、それだけでは説明できないほど、東の森では新たな魔物が現れる』


美咲も地図を見つめる。


『だから昔から言われてるの』


『大陸のどこかで魔物が死ぬと、東の森が新しい魔物を生み出すって』


『森そのものが?』


『それすら分かってない』


悠斗は窓の外を見る。


自分が最初に降り立った場所。


ただの森だと思っていた。


だが実際には、この世界でも最大級の謎を抱えた場所らしい。


『そんなところに俺の部屋のドアが現れたのか……』


偶然なのだろうか。


それとも


何か意味があるのだろうか。


『さらに』


師団長が地図を指で軽く叩く。


『東の森には、現在も未踏破のダンジョンが複数存在する』


『ダンジョンまであるんですか?』


『ある』


悠斗は思わず美咲を見る。


『何でもあるな、この森』


『私もそう思う』


『魔物が湧いて、ダンジョンもあって、魔族領まで近い?』


『だいたい合ってる』


『危険すぎない?』


美咲は笑った。


『だから冒険者が集まるのよ』


『逆じゃない?』


『珍しい魔物の素材。未発見の魔道具。古代の遺物。ダンジョンの財宝』


師団長も続ける。


『危険だからこそ、一攫千金を狙う腕利きの冒険者が集まる』


『なるほど……』


悠斗にも少しずつこの世界の仕組みが分かってきた。


東の森。


魔物の発生源。


未踏破ダンジョン。


魔族領との境界。


そして


異世界と現代を繋ぐ、自分の部屋のドア。


『では』


師団長が地図を畳んだ。


『私は捜索隊を編成してくる』


そして二人へ向き直る。


『勇者様。神崎君』


『準備を整えて待っていてくれ』


『はい』


『分かりました』


師団長は部屋を出ていった。



それから数時間後。


王都正門。


十数名の騎士。


魔法使い。


探索を得意とする兵士。


そして美咲と悠斗。


小規模ではあるが、十分な戦力を持った捜索隊が編成されていた。


悠斗のポケットにはスマホ。


左腕には腕時計。


そして背中には


ドライヤー。


何度考えても、この世界には似合わない装備だった。


『準備は?』


馬上から美咲が尋ねる。


悠斗も馬へ跨がりながら頷いた。


『大丈夫』


『今回は魔王軍と戦うわけじゃないからね』


『そう願いたい』


師団長が先頭へ出る。


『目的はあくまでドアの捜索だ!』


『無用な戦闘は避ける!』


『魔物を発見しても、危険がなければ刺激するな!』


騎士たちが一斉に返事をする。


『出発!』


王都の巨大な門が開いた。


馬たちがゆっくりと歩き出す。


悠斗は振り返る。


王都が少しずつ遠ざかっていく。


そして前を見る。


遥か彼方。


地平線の先には、巨大な森が広がっていた。


初めて美咲と再会した場所。


初めてドライヤーが魔道具になった場所。


そして。


自分の部屋へ繋がる、不思議なドアが現れる場所。


悠斗は無意識にスマホへ手を触れた。


『……また出てきてくれるかな』


美咲が隣から答える。


『行ってみれば分かるよ』


『そうだな』


二人を乗せた馬は、東の森へ向かって進んでいく。


この時の悠斗はまだ思っていた。


自分たちがドアを探しに行くのだと。


けれど。


あのドアはいつだって、


悠斗が探したから現れたわけではなかった。


必要な時に、向こうから悠斗の前へ現れていたのだ。


そして今回もまた。


部屋は静かに、


二人を待っていた。

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