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思い出が部屋に意思を持たせた〜異世界へ行って別れの覚悟が出来るまでの話。  作者: ネコロビン


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13/21

第13話 まだ、部屋には家電がある

宴は、朝方まで続いた。


勇者・美咲の無事の帰還。


そして、たった一人で魔王領へ潜入し、美咲を連れ戻した悠斗。


二人を祝うために始まった宴は、王宮の大広間だけでは収まらなかった。


王都の酒場でも。


広場でも。


騎士団の詰所でも。


至るところで杯が掲げられた。


最初は、


『勇者様、ご無事で!』


『神崎殿、よくぞ勇者様を!』


そんな真面目な乾杯だった。


それが二時間もすると、


『飲め飲めー!』


『今日は陛下のおごりだー!』


『誰だ! 樽ごと持ってきた奴は!』


完全な無礼講になっていた。


美咲と悠斗も、この世界へ来て初めて酒を飲んだ。


『苦っ!』


最初の一口で悠斗は顔をしかめた。


美咲も同じような顔をする。


『大人って、なんでこんなの好きなの?』


『俺に聞くなよ。』


そう言っていたはずなのに。


数時間後には二人ともすっかり宴の空気に飲まれていた。


そして。


朝。


『……ん。』


悠斗はゆっくりと目を開けた。


最初に目に入ったのは、高い天井。


次に大きなシャンデリア。


そして。


『……なんで俺、床で寝てるんだ?』


絨毯の上だった。


周囲を見る。


騎士。


魔法使い。


大臣。


研究員。


昨日まで威厳たっぷりだった人々が、そこら中で眠っている。


椅子へ突っ伏している者。


壁にもたれている者。


テーブルの下で眠っている者。


中には空になった酒樽を抱き枕にしている騎士までいた。


『……ひどいな。』


悠斗が苦笑する。


『おはよう。』


すぐ隣から声がした。


『おはよう、美咲。』


美咲も絨毯の上で体を起こす。


『頭、大丈夫?』


『ちょっと重い。』


『俺も。』


窓から朝日が差し込んでいた。


眩しい。


でも、不思議と嫌ではない。


昨日まで命懸けで戦っていた。


魔王軍に襲われ。


美咲が連れ去られ。


悠斗が単独で砦へ侵入した。


それが今では二人並んで、朝日の差し込む王宮で寝起きしている。


心地よい気だるさだった。


『勇者様。』


声をかけられる。


振り向くと、執事と数人のメイドが立っていた。


どうやら彼らだけは宴に参加せず、最後まで仕事をしていたらしい。


『神崎様も、お目覚めですか。』


『はい……。』


悠斗は寝癖を直しながら答える。


執事は何事もなかったような顔で尋ねた。


『朝食はいかがなさいますか?』


悠斗と美咲は顔を見合わせる。


『……軽く?』


『私も。』


二人同時に答えた。



しばらくして。


王宮の小さな食堂。


昨日とは打って変わって静かな朝だった。


パン。


野菜のスープ。


果物。


それだけの簡単な朝食。


美咲はパンをちぎりながら窓の外を眺めている。


悠斗もスープを少しずつ口へ運ぶ。


『静かだな。』


『昨日がうるさすぎたのよ。』


美咲が笑う。


悠斗も昨夜を思い出す。


そして。


『……近衛師団長、すごかったな。』


『言わないであげて。』


美咲が吹き出した。


昨夜。


普段は誰よりも厳格で、騎士たちから恐れられている近衛師団長。


その男が酔っ払った結果。


突然、服を脱ぎ悠斗を肩車した。


そして大広間を走り回りながら、


『英雄だぁぁぁ!!』


と叫び続けたのである。


しかも最後には王の前で裸で片膝をつき、


『陛下! この者を近衛騎士団へください!』


と悠斗の入団を直訴。


王から、


『本人の意思を聞け。』


『それと服を着ろ。』


と冷静に返されていた。


『あんな人だったんだな。』


『私も初めて見た。』


二人は顔を見合わせる。


そして同時に笑った。


『ははは。』


『あはは。』


静かな朝食の時間。


久しぶりだった。


何も起きていない時間が、こんなにも心地よいとは思わなかった。


やがて悠斗がパンを置く。


『……これから。』


『どうなるんだろうな。』


美咲も少しだけ表情を真剣なものへ変えた。


『魔王の出方次第ね。』


『人間に興味がある、か。』


『うん。』


美咲は頷く。


『何を考えてるのか分からない。』


『だから今は待つしかないと思う。』


『そっか。』


それ以上、二人は話さなかった。


今だけは。


静かな朝を楽しみたかった。



それから数日。


王都は少しずつ普段の日常を取り戻していた。


そして悠斗の生活にも変化が訪れる。


王宮の訓練場。


そこには近衛師団長と、魔道具研究所のアルバート。


さらに騎士、魔法使い、魔道具使いたちが集められていた。


『神崎君。』


近衛師団長が悠斗へ向き直る。


もちろん、今日は完全に素面だった。


『今日は君に頼みがある。』


悠斗は一瞬だけ昨夜の肩車を思い出す。


しかし口には出さない。


『何ですか?』


『君と、君が扱う魔道具についてだ。』


師団長は真剣だった。


『先日の勇者様救出。』


『君は複数の未知の魔道具を組み合わせた。』


『位置を探る道具。』


『身体を加速させる道具。』


『そして風魔法を放つドライヤー。』


『はい。』


『我々は、それらについてほとんど何も知らない。』


師団長は続ける。


『今後、君と王国軍が共に戦うことがあるならば、君が何をできるのか。』


『そして我々がどう連携すべきなのか。』


『事前に知っておく必要がある。』


アルバートも大きく頷く。


『私も賛成です。』


『特に!』


急に目を輝かせる。


『他にも同じような魔道具が存在するのか!』


『私はそれが知りたい!』


悠斗は少し考える。


これまで詳しく話していなかった。


自分がどこから来たのか。


部屋が何なのか。


そして。


家電とは何なのか。


『……分かりました。』


悠斗はゆっくりと話し始めた。


『まず。』


『俺は、この世界の人間じゃありません。』


その場にいた何人かが驚く。


『俺がいた世界には魔法がありません。』


『魔物もいない。』


『魔道具も……たぶんない。』


アルバートが首を傾げる。


『ではドライヤーは?』


『俺の世界では魔道具じゃないんです。』


『髪を乾かす家電です。』


『……髪?』


『はい。』


『乾かす?』


『はい。』


沈黙。


何度説明しても、やはりここで引っかかるらしい。


悠斗は苦笑する。


『俺の世界では電気っていう力を使って、いろんな道具を動かします。』


『ドライヤーもその一つ。』


『電気……。』


アルバートは即座にメモを始める。


『電撃魔法とは違う?』


『たぶん全然違います。』


『興味深い!』


悠斗は話を戻す。


『それで。』


『俺は自分の部屋から、この世界へ来ました。』


近衛師団長が眉をひそめる。


『部屋?』


『はい。』


悠斗は異世界に来てからの出来事を簡単に説明する。


自分の部屋のドアを開けたら森だったこと。


森の中にはドアだけが存在していたこと。


ドアを開けば部屋へ戻れる時があること。


しかし。


いつでも現れるわけではない。


いつでも開くわけでもない。


『つまり。』


師団長が腕を組む。


『その部屋そのものが、二つの世界を繋いでいる?』


『たぶん。』


悠斗は頷いた。


『俺にもよく分かりません。』


アルバートはすでに興奮していた。


『空間転移系魔道具……。』


『いや、世界そのものを接続しているなら次元接続……。』


『部屋そのものが魔道具なのか?』


『先生。』


助手が止める。


『話を最後まで聞きましょう。』


『……そうだった。』


悠斗は苦笑する。


『それで。』


『部屋には、まだいくつか家電があります。』


全員の視線が集まる。


『何がある?』


近衛師団長が尋ねた。


悠斗は指を折りながら思い出す。


『パソコン。』


『テレビ。』


『ハンディビデオカメラ。』


『ハンディ掃除機。』


『……。』


全員が首を傾げた。


聞いたことのない言葉ばかり。


アルバートだけは目を輝かせている。


『まだ四つも!』


『いや。』


悠斗は少し考える。


『細かい物まで探せば、もっとあるかもしれません。』


『そして。』


自分の腕時計を見る。


スマホを見る。


ドライヤーを見る。


『これまでのことを考えると。』


『他の家電も、魔力を流したら魔道具になる可能性があります。』


アルバートが立ち上がった。


『行きましょう。』


『え?』


『今すぐ!』


『全部調べましょう!』


近衛師団長がアルバートを制する。


『待て。』


そして悠斗を見る。


『その部屋はどこにある?』


『東の森です。』


一同が静かになる。


先日、魔王軍と戦った場所。


しかし現在は王国軍の警戒区域内だった。


『ただ。』


悠斗は付け加える。


『問題があります。』


『ドアが現れてくれるか分からない。』


『それに。』


『現れたとしても、ドアが開いてくれるかも分かりません。』


近衛師団長はしばらく考える。


そして。


『ならば。』


腰の剣へ手を置く。


『まずはドアを探そう。』


『え?』


『東の森を捜索する。』


『ドアが現れる条件も含めて調べる必要がある。』


アルバートも勢いよく手を挙げる。


『私も行く!』


『所長は留守番だ。』


『なぜだ!』


『森で走れないだろう。』


『走れる!』


『昨日、廊下で転んでいたではないか。』


『それは宴の酒が』


二人の言い争いを見ながら、美咲が悠斗の隣へやって来る。


『なんか。』


小さく笑う。


『大変なことになってきたね。』


悠斗も笑った。


『俺の部屋を探すだけなんだけどな。』


しかし。


悠斗はまだ知らなかった。


あの部屋は。


悠斗が望んだから現れるわけではない。


王国が必要としているから現れるわけでもない。


そして


魔道具を取り出すために、二つの世界を繋いでいるわけでもない。


部屋には部屋の、


別の目的があった。


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