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思い出が部屋に意思を持たせた〜異世界へ行って別れの覚悟が出来るまでの話。  作者: ネコロビン


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第12話 帰還

朝日が東の空をゆっくりと染め始めていた。


森を抜けた二人の前に、巨大な城壁が姿を現す。


『あれ……。』


悠斗は思わず立ち止まった。


『王都だ。』


美咲はほっとしたように微笑む。


『帰って来たね。』


二人はゆっくりと街道を歩き始める。


長い夜だった。


戦い。


潜入。


救出。


逃走。


張り詰めていた緊張が、ようやく解け始めていた。



『……あれは。』


王都の門を警備していた若い衛兵が目を細める。


遠くから歩いて来る二人の姿。


最初は旅人だと思った。


しかし、その白いマントを見た瞬間。


『ゆ……。』


衛兵の目が大きく見開かれる。


『勇者様……。』


震える声。


次の瞬間。


『勇者様だぁぁぁぁ!!』


叫び声が王都中へ響いた。


隣の衛兵も思わず門の外へ飛び出す。


『ご無事だったんですね……。』


目には涙が浮かんでいた。


『本当に……。』


『本当に良かった……。』


美咲は少し照れながら笑う。


『ただいま。』


衛兵は何度も頭を下げる。


『すぐ王宮へ!』


『勇者様がお戻りになられたと伝えろ!』


『急げ!!』


一人の兵士が全力で王宮へ駆け出していく。


その声を聞いた旅人たちが足を止めた。


『え?』


『あの勇者様?』


『本当だ!』


商人たちも荷車を止める。


老人は帽子を脱ぎ、若い母親は子どもを抱き上げる。


『勇者様!』


『お帰りなさい!』


『ありがとう!』


『ご無事で何よりです!』


誰からともなく拍手が起こる。


パチパチパチパチ……


その拍手は少しずつ大きくなり、やがて街道中へ広がっていく。


悠斗は思わず苦笑した。


『なんか照れるな。』


美咲も頬を赤くする。


『私も。』


二人は少し照れながら門をくぐった。



王都へ入ると、さらに人が集まってきた。


『勇者様!』


『本当に帰って来た!』


『神様、ありがとうございます!』


涙を流しながら祈る老人。


子どもたちは笑顔で駆け寄る。


パン屋のおばさんは両手を合わせて泣いていた。


『もう会えないかと思ったよ……。』


果物屋の主人も大きく笑う。


『今日は店じまいだ!』


『勇者様のお祝いだ!』


街中が一瞬でお祭りのような空気に包まれた。


悠斗は改めて思う。


(美咲は、本当にみんなから愛されてるんだな。)


その時。


カラカラカラ……


豪華な馬車が街道を走って来た。


王家の紋章が描かれた特別な馬車。


御者が馬を止め、深く頭を下げる。


『勇者様。』


『神崎様。』


『お迎えに参りました。』


『陛下がお待ちです。』



王宮。


巨大な正門の前には、近衛騎士たちが左右へ整列していた。


銀色の鎧が朝日に輝く。


その中央には、近衛師団長が立っている。


馬車が止まる。


美咲と悠斗が降りた瞬間。


近衛師団長はゆっくりと歩み寄った。


そして。


突然、悠斗の両手を強く握る。


『……ありがとう。』


震える声だった。


目には涙が浮かんでいる。


『本当に。』


『ありがとう。』


悠斗は驚いて言葉を失う。


師団長は深く頭を下げた。


『勇者様。』


『我々はあなたを守れませんでした。』


『申し訳ありません。』


美咲は首を横に振る。


『いいえ。』


『師団長。』


『謝らないでください。』


『私が前へ出過ぎました。』


『みんなは悪くありません。』


その言葉に、周囲の兵士たちも目を潤ませていた。


『勇者様……。』


『お帰りなさい。』


誰かが小さく呟く。


その言葉に、兵士たち全員が静かに頭を下げた。



玉座の間。


王は玉座から立ち上がっていた。


二人が入ると、大きく頷く。


『よく戻った。』


『勇者よ。』


『そして。』


王は悠斗を見る。


『神崎悠斗。』


『そなたのおかげで勇者は戻った。』


『王国を代表して礼を言う。』


悠斗は慌てて頭を下げる。


『いえ!』


『俺はただ……。』


王は優しく微笑んだ。


『何か望みはあるか?』



『陛下。』


美咲が一歩前へ出る。


『褒美よりも。』


『まず、お伝えしなければならないことがあります。』


玉座の間が静まり返る。


『話してみよ。』


美咲は真剣な表情で口を開いた。


『魔王軍幹部と話しました。』


『そこで。』


『魔王は、人間に強い興味を持っていると聞かされました。』


その一言で空気が変わる。


ざわ……


大臣たちが顔を見合わせる。


『興味?』


『どういう意味だ?』


『侵略ではないのか?』


『不気味だ……。』


誰も答えられない。


王も腕を組み、静かに考え込む。


『魔王が人間へ興味を示すなど。』


『歴史書にもほとんど記録がない。』


『和睦か。』


『あるいは別の目的か。』


重苦しい空気が流れる。


やがて王はゆっくりと顔を上げた。


『……今は。』


『情報が足りぬな。』


『それだけでは何一つ策は打てん。』


誰も反論できなかった。


美咲も静かに頷く。


王は再び笑顔を浮かべる。


『だが!』


その声が玉座の間へ響く。


『暗い顔ばかりでは民も不安になる!』


『勇者は帰って来た!』


『そして神崎悠斗という新たな英雄も現れた!』


王は大きく手を広げる。


『今宵は宴だ!』


『勇者と英雄の帰還を祝い!』


『王国中へ笑顔を取り戻そうではないか!』


『おおっ!!』


玉座の間に歓声が響く。


兵士も大臣も笑顔を取り戻していく。


悠斗はそんな光景を見ながら、隣に立つ美咲へ小さく笑いかけた。


美咲も同じように微笑み返す。


しかし二人の心には、あの幹部が残した一言が引っかかっていた。


魔王は、人間に興味を持っている。


その言葉の真意が明かされる日は、まだ少し先のことだった。

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